一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

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第一章 出会い

第二十六話 開戦

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団長の命令で動き出した前衛は徐々に確実に間合いを詰めていく。

移動を草の踏みしめる音で気づいたラルフは一歩後ろに下がる。後ろにいたベルフィアと背中合わせになり、双方警戒しあう状況になった。

「ラルフ、そちは戦えルノか?」

ベルフィアはほとんど非武装になってしまったラルフに、今の戦力を確認する。苛立ったとはいえダガーを破壊したのはベルフィアだ。

「いや…人狼ワーウルフに武装を取られて今なにもない。悪いが戦力にはならねぇぞ…」

素手はからっきしと手を振って伝える。

「使えぬ…」

ベルフィアは思ったことをそのままぶつける。
グサッと来る言い方だが、その通りだと黙認する。

わらわは助けられルほど気配りは出来んぞ?」

いくら強いといっても一個人での強さであり、その再生力も強化に関しても自分に関するものだ。他者に与えることができないので、弱い味方は無視して無双する方が勝利は確実だ。

「…何とかする。俺はほっといてお前は暴れまわれ」

こうなった以上、自分は足手まといとなる。
とにかくベルフィアの強さを見せつけて戦々恐々とする戦場を駆けるのが、生き残る道と考えた。

ガサガサという音が間近に迫り、ついに木の陰に騎士の姿をとらえる。

その影は等間隔で配置され、逃げ道がないことを
知らせている。鞘から剣が抜かれ、切っ先が光を反射しその鋭さを感じさせる。

「なんじゃあれは…あれではどこにいルかバレバレではないか」

騎士団の行動の意味が分からないベルフィアは呆れ顔で騎士団の行動を侮辱する。

「あれは俺たちに対する最後の警告だよ。すでに囲まれているから、戦うのは圧倒的に不利だと言う事をその行動で教えているのさ」

「じゃから?どうじゃというんじゃ?」

「言ったろ?戦うのは無駄だから降伏を要求してんのさ」

「はん」と鼻で笑うような返事をして、騎士団を見まわすベルフィア。

「だがそれこそ意味ない行動だぜ。降伏したところで待っているのは処刑だからな。犠牲なく済めばラッキーくらいに考えてんじゃねぇの?」

睨み合いと威嚇の中、ラルフは徐々に姿を現しつつある騎士団を視認し、投げナイフに手を伸ばす。

と、その時、ガサッというでかい音を立ててベルフィアの視界に三人の騎士が飛び出した。

剣を大ぶりに構える騎士、下から切り上げるため地面すれすれに構える騎士。真横に構える騎士の三人が勢いよく突っ込んでくる。

ラルフに比べ、洗練された騎士たちはその隙の無さからどれほど鍛え上げられたのか走りながらもブレない姿勢に良く表れている。

だが正直ベルフィアにとっては人間の実力など五十歩百歩。その動体視力にとらえた動きは遅すぎてハエが止まる。

飛び出してきた勇気ある騎士たちをどう料理するか考えていた時、ラルフ側からも騎士が飛び出す。

その数は二人。二人とも突きの構えをしていた。ラルフの投げナイフを警戒して手を奥に隠したのだ。

前に出したり上段に構えたりすれば、握り手を狙われて万が一の場合取り落とし、穴ができる可能性がある。

ラルフは思う。

(俺の的当ての精度を知られているのか?どれだけ情報がいってるんだ!?)

ラルフの射撃は自他ともに認めるかなりのものだが、針の穴を通すようなと言われたら途端に精度は落ちる。一か八かを強いられる。

しかもかなりの確率で取り落とせなかったとなるから、武器がなくなり、防御もまともにできなくなり串刺しで死ぬ可能性が高くなる。

(これは…ダメだ!投げられない!)

投げナイフを引き抜き、前に構える。投げてこそ真価を発揮するこの武器はその手軽さから本来防御には向かないが四の五の言えない。

前方からやってくる鉄の塊はラルフを刺し殺すために前のめりに駆けてくる。停止するつもりは微塵もないように。

ラルフが敵の一人に狙いを定め、どうすれば崩せるか思案を巡らせたその時、襟首をベルフィアに掴まれた。

「はっ?」

ラルフはその行動に何の意図があるのかわからないままベルフィアは次なる行動に移る。

「飛べ」

ブンッ

ラルフは視界がブレて一瞬方向感覚を失い視界が戻ったころには、その体は宙に浮いていた。

その剛腕は中肉中背とはいえ、成人男性を軽々と宙に浮かせた。その高度は目分量でも5mはくだらない。

すでに止まれぬ位置まで発進していた騎士たちはベルフィアの行動に戸惑いながらも、各々の攻撃を敢行するほか道はなく、ベルフィア側からは三連続の斬撃。ラルフ側からは二人の突きが襲い掛かった。

その攻撃を一身に受けたベルフィアは重心が揺らいだもののすぐさまベルフィア側の切りつけた騎士の一人の鎧を捕まえて動けなくした。

ラルフ側からやってきた騎士の二人はベルフィアの筋収縮の力で剣を封じ込まれ、騎士たちは剣を体から抜こうと必死になり、動きを止められる。

ラルフは星の引力に引っ張られ、地面に向かって真っ逆さまに落ちる。その力を利用して、剣を引き抜こうと頑張る騎士の一人にナイフを体重をかけて鎧の隙間に突き入れた。

突き入れられた騎士はラルフの落ちてきた体重に逆らえず、そのまま下に倒れこむ。ベルフィアの筋力もその重力に耐えられず、剣が体を裂くが相変わらずすぐに再生していく。

ラルフに刺された騎士は痙攣の後、血を流して倒れ伏す。頸動脈を切ったのか、血が鎧から地面に零れ出す。

「ああ…もっタいないノぅ…」

ベルフィアは先の攻撃など全く意に介さず、騎士を二人抱えながら何事もないようにつぶやく。

「あぁ!クソ!慣れねぇな!!人を刺すのは!!」

ラルフはナイフを引き抜いた後、騎士がベルフィアに刺した剣を取り上げ、装備する。

「ベルフィア…あんま無茶すんなよな…助かったけどよ」

ベルフィアは掴んだ騎士をその剛腕で振り回し、斬りつけてきた三人のうち二人をその騎士で吹き飛ばす。

「無茶?何ノことじゃ?」

自分以外の騎士がやられたのを目の前で見た騎士は剣を諦め、一時離れることを選択する。

しかし行動が遅すぎた。

ベルフィアは空いた左手で逃げようとする騎士の頭を兜越しに掴み、その握力で兜ごとひき潰した。

ベコッともグチャッともバキっともとれるというよりはその全部が合わさった音がそこら一体に響く。右手で掴まれた騎士はその異様な光景を目の当たりにして現実を受け入れられなかった。

それもそのはず、目の前で起こったのはあまりに荒唐無稽で現実味の感じられないことだ。兜は素手で破壊できない。

どころか今起こっている、片手で人を投げ、斬っても刺しても死なず、どころか一瞬で再生し、攻撃などなかったような振る舞いから、鎧を装着し、成人男性の倍はあろう自分を片手で振り回す。

この事象すべてに答えが出ない。

ひき潰した頭をそのままベルフィアの頭上に掲げ、天を仰いだベルフィアが口を開けて、流れ出る血を飲み始めた時に、現実に返ってきた。

「ひぃぃぃぃ!!離せぇ!!離せぇぇぇぇ!!!」

彼の普段を知る騎士たちはその冷静さを欠いた行動に心底震え上がった。これはのちの自分の姿だと思わされたからだ。

騎士はその恐怖からとにかく離れたい一心で剣を振るう。剣はベルフィアの体を切りつけるが、傷口が見えたと同時に再生する。

「なんだよあれは…桁違いじゃねぇか…」

守衛のリーダーは騎士たち同様、恐怖に慄き、震え上がって動けなくなっている。それは部下たちも同様で、今すぐにでも逃げたいところだが、動いた矢先、殺されるかもという恐怖が足を止めていた。

「…なるほど…あれが吸血鬼か…」

団長は遠目でその様子を観察し、あの怪物に相対する愚かさを知る。しかしそれでも尚、自らが装備するこの魔剣の力を信じ、引くことはない。

団長はマントを翻し、歩き出す。

「あ、おい!団長さん!」

突然動き出した団長を止めようと声を上げるが、体は動かない。声をかける程度で見送ってしまう。

「その場で待機せよ。敵を逃がさないよう陣形を組みなおせ」

団長はその命令を最後に通信の魔道具をその場に捨て、ベルフィアとラルフのいる開けた場所にズカズカ歩く。

「ほほう…きおっタワ」

その言葉の先を見ると、マントを付けたいかにもな騎士がやってくる。その顔を確認した捕らえられた騎士は藁にもすがる思いで、叫び散らす。

「だんちょおぉぉぉ!!助けてください!だんちょおぉぉ!!」

耳元で叫ばれたベルフィアは複雑な表情から苛立ちの表情に変わり、手刀で捕らえた騎士の喉を突く。

「ゴボォ!?」

喉を突かれた騎士はその喉と、口からあり得ない量の血を噴き出す。ベルフィアはまたもその血を経口摂取し、力に変える。

騎士から血を適量摂取したベルフィアは、すでに動かなくなった鉄の塊をずんずん向かってくる団長に向かって投げつける。

ゴオォッという空気を切り裂く鉄の塊はあり得ない速度で団長に迫る。

その鉄の塊を団長は受け止めて、自身が後ずさりながらも停止させる。一般人であればあれで死んだであろう一撃を止めて見せた。

「ほう?」

団長はその辺の雑魚と違い、実力は確かなようだ。
ベルフィアはその実力に一段警戒を強める。

受け止めた騎士をそっと地面に降ろし、胸に手を当て騎士の死を弔う。一瞬ではあるがその姿勢は騎士の気高さを感じさせた。恐怖の中にあって部下の士気が上がるのを感じる。

「黒曜騎士団団長は伊達じゃないな…」

ラルフもその精神に感心する。

団長は剣を引き抜きながら、ベルフィアに相対する。

「気をつけろベルフィア、あの剣は魔剣だ。厄介だぞ」

ラルフは団長の噂を思い出しながらベルフィアに耳打ちする。ベルフィアはその剣をまじまじと見ながらラルフを横目で見る。

「そちは心配せんで良い。とっとと終いにしてしまうからノ」
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