34 / 718
第一章 出会い
第三十三話 足掻き
しおりを挟む
”綿雲の上”に到着するや否や入り口でミーシャに出迎えられた。
「遅いぞ!」
もう寝てるかと思っていたのに、しぶとく起きていた。
「魔王様。申し訳ございません」
ベルフィアは頭を深々下げ陳謝する。
ラルフはその後ろから気さくに声をかける。
「ようミーシャ!なんだ待っててくれてたのか?」
その気安さからベルフィアは流し目でラルフを睨む。
「そうだ、早く報告を聞かせろ。私は早く寝たいんだ」
「はっ!すぐに…」
宿に入り、三階にあるスイートに行く。広い部屋を三つくらいぶち抜いて作った様な一人には広すぎる部屋である。
ふかふかのソファに、大の字で寝ても手足がはみ出さないダブルベッド。大浴場に行かなくても個人浴室が完備。別料金ではあるが、室内保存用のお酒があり、店員を読んで冷えた飲み物を頼むこともできる。その他、室内で食事やマッサージなども用意可能だ。
水差しが用意され、無くなったら呼んで補充させる。水差しの補充は無料である。スイートには魔道具である”呼び出しベル”があるので声を張り上げる必要もない。
こういった設備やサービスにも魔道具の普及は表れていた。
全てが清潔に管理され、埃もない。
「スイートを借りる”お客様”に満足いただけるよう誠心誠意尽くすというのが方針」らしい。
追加料金を払ったために、簡易ベッドが二台用意されていた。
ミーシャはソファに腰かけてふんぞり返り、上位者であるように振舞う。ベルフィアは着席せず、腰に手を当てて警備員のように立つ。ラルフは気にせず向かいのソファに座る。
「ちょっとラルフ、まだ着席を言明してないんだけど…」
「そうじゃラルフ。立て」
化け物二体は突然ロールプレイをし始めた。
「ええー?早く終わらせたいんだろ?面倒だしこのままやろうぜ」
「ダメ!やり直し!!」
ラルフはめんどくさがったが結局ロールプレイに従って立つ。
「…魔王様。報告してもよろしいですか」
「うむ!座るがいい!」
とこんな具合に始まり、報告をした。
口調は訂正されなかったので、いつもの様に報告する。
「じゃ、明日の朝に行動するのね?今すぐに何かあるわけでもないと…」
「それについては否定も肯定もできないと思ワれます。アルパザ ノ町民が何かしでかさぬとも限りませんし」
ベルフィアは気を緩めない。脅したとはいえ、店主が騎士団を逃がさないとは言えないからだ。
保守派の店主が、秩序を正そうと動くことは大いにあり得る。しかしだからこそ自分の利にならないことをしないと信用すらしている。
「あの性格から考えると、お前が脅した時に勝負はついた。負けることが濃厚な戦いは、避けるのがおっさんだ」
大きな混乱や、自分の権威が失墜する事態に陥っていない現在。大胆な行動は避けて、事態の鎮静化を図る。要するに”見て見ぬふり”をする事で、秩序を守るという事だ。
「そういうもノかえ?」
「なんにせよ警戒を厳として朝を迎えることが寛容と言う事ね?となると、警備を…」
「妾にお任せください。100年寝ていタノで、睡眠は不要でございます」
ベルフィアは自ら寝ずの番を買って出る。
「それはいいけどよ…部屋の中で立ってられると気になって寝られないんだが…」
「我慢せい。これは魔王様ノ為に行うノじゃ。そちノ我儘は聞かぬ」
ベルフィアは入り口の前に移動し、扉が開けられるようすぐ横に立つ。先ほどと同じように手は腰の位置だ。ラルフはどうしても嫌そうな顔になる。この状態で一晩過ごせたならこれ以降、信用できるだろうが、寝ている隙に血を吸われたらたまったものではない。
「…どうしても嫌なのか?ラルフ…」
ミーシャが上目遣いでラルフを見ている。
その様子は魔王などという絶対者ではなく、大人の癇癪をうかがう可憐な少女である。
「いや…いやいや、そういうわけじゃないけどな」
庇護欲を助長する行動に、すっと近寄りラルフは思わずミーシャの頭を撫でてしまう。
ベルフィアはその行動に身構える。”敵は内にこそあり”といった風でジャッという足を踏ん張る音が聞こえるほどだ。
ビクッとなって手が止まる。
「ベルフィア!お座り!」
ミーシャはベルフィアに命令する。
「はっ!」という小気味いい返事の後、その場に正座する。
「…ラルフは…もっと撫でて…」
「お…おう」
子供をあやす父親のように、あるいは飼い主である者がペットを撫でるように愛情ある撫で方、なんてできないがそれっぽく優しく撫でる。ギリッという歯ぎしりが聞こえるが。ミーシャは気持ちよさそうにしているので
続けることにした。
その後、ダブルベッドにはミーシャとラルフが寄り添って寝ていた。
簡易ベッドで寝ようとするラルフをミーシャが誘ったのだ。最初こそベルフィアの苦言が入り、ラルフも賛同したがラルフとベルフィアの抵抗むなしくこの形になる。
腕枕にすり寄るミーシャ。体のいい抱き枕を手に入れたミーシャはすぐに寝てしまう。
そういえば初日はずっと起きていた風だった。
ミーシャも今のラルフ同様、警戒していたのだろう。今は甘えん坊の女の子だ。
久方ぶりの女の感触に性欲も沸いてくるが、その思いなど吹っ飛ぶ。入り口付近で正座していたベルフィアがベッドの横に立ち、ラルフを見下ろしていた。
いつ近づいたのか、気配すら感じなかった。
まるで”暗殺者”である。
気が休まらぬまま、寝られぬまま朝を迎えた。
ベルフィアに対し文句の一つも言いたかったが、熟睡してしまって遅刻することを思えば良かったと自分を騙す事で気持ちの整理をつける。
早朝の行動は早かった。
すぐさま身支度を済ませ、三つの影が宿を出る。
ここで一旦ベルフィアと分かれてラルフとミーシャは店に直行。ベルフィアは店主が出発したのかどうかを確認に行く。
店主も家から丁度出る所だった。
バッタリ会ったので、連行して店までやってきた。
「ようおっさん!おはよう!」
「ちっ…そのお嬢さんは?昨日はいなかったが…」
「悪いなおっさん、自己紹介は後だ。先に店を開けてくれ」
鍵を開け中に入ると団長はぐったりしていた。
「…ん?ようやく朝か…待ちかねたぞ」
それもそのはず、折れた腕の痛みで寝ようとしてもうまく眠ることができず、その上、柱につながれて転ぶこともできない。半ば気絶するように意識を飛ばしては覚醒するを繰り返していたのだ。
店主によって縄を解かれる。
「良いザマじゃノぅ。剣がなければ何も出来ぬ」
ベルフィアは傷ついた相手にも容赦はない。
ケラケラ笑いながら団長を罵る。
団長は手を使うことなく体幹だけですくっと立ち上がる。疲れているはずだが、人前に見せる姿は堂々としていた。
「ふんっ!言っているがいいさ化け物…だが…そうだな、逆説的に剣さえあればおおよそ何でもできるってことを言っておくぞ」
無事な左手を自分の喉に当て、横に切る。
「お前を殺す」というジェスチャーだ。
ベルフィアは喉奥を鳴らし、猛獣のように唸る。
両者睨み合いが続く中、ラルフが声をかける。
「もうすぐ日の出だ。準備しろ」
手を差し出し何かを寄こせという感じだ。
店主他、ベルフィアもミーシャでさえ何をしているのか分からなかったが、団長はその手を見て通信機を取り出す。
阿吽の呼吸に近いが、これは団長の先読みを理解しての行動であり、部下を除けばラルフにしかできない。
そのラルフも見たことの無い通信機に目を丸くする。ネックレス型の通信機で、団長は首から下げていた。
「これは新型の通信機だ。最近導入されたから、見たことはないだろうが…」
ラルフの驚きに対して、すぐさま答える。団長と会話すると、先読みでセリフを取られそうだ。表情で読むから一方的会話になるだろうなとふと思った。
「そんなことをわざわざ言うってことは、もしかして旧型とは機能も違うのか?」
旧型の通信機は、その国とだけ通話ができる、”双子”と呼ばれるもので、魔力を動力としている。”双子”は音波を感知する鉱石を用い、ある特別な術式を組んで反響を伝えることに成功した革新的な魔道具だ。
その国限定ではあるものの通信範囲の広さは抜群である。
この技術を用い、軍部でも通信範囲は狭い”小型版”が採用され、昨日もベルフィア、ラルフ戦にて使用されていた。
録音などができないため、時間を合わせないと対話ができないのが難点ではあるが、遠くにいても話ができると言う事も在って上層部では通信機の使用は書状の交換以上に当たり前になっている。
「そうだ、その場の映像を映し出す。声だけで判別していた時と違い、現在の姿かたちを認識できる。相手はマクマイン公爵だ。この腕に関してもそうだが、剣がなければ怪しまれるぞ?」
さっきからちょっと余裕そうにしてたのは、マクマイン公に怪しまれるのを見越してだったようだ。だが腕を治し、剣を渡しては本末転倒である。一瞬でも可能性を見出せば、何をしでかすかわからない。
国の重鎮やそれに類する上層部は技術の進歩を隠したがるものだが、技術がここまで進んでいるとは思いも寄らなかった。
これは確認を怠ったラルフのミスだが、このタイミングでネタ晴らしをした団長の采配も光る。
これが人間同士ならの話だ。
「面倒な話ね。もう殺そうか」
ミーシャは考えるのも億劫になっていた。
どうしてもバレたくないならいざ知らず、吹っ切れてしまえばこんなことをしなくてもいいのだ。
「妾にお任せください。魔王様ノお手を汚すことなく掃除いタします」
ベルフィアはウキウキしている。
「慌てるなよ。こいつに何ができる?人質は20人いるんだ。こちらの意に沿わないことをするなら目の前で…」
「やめろ!!…分かったから…」
当然ラルフも人間同士ならではの考えで動く。
団長の使った手は、その身一つなら効いただろうし、赤の他人なら最悪切れるが、部下ともなればそうはいかない。団長もしてやったりの顔がすぐに焦りの顔に変わる。
「面倒ごとで俺らを困らすなよ…なぁ…このグダグダを終わらせようぜ。団・長・さん」
ラルフは団長の肩に手を置き、目いっぱい煽る。
ラルフの手に握られた回復材を見て団長は、何も出来ぬ悔しさに身を焦がすのだった。
「遅いぞ!」
もう寝てるかと思っていたのに、しぶとく起きていた。
「魔王様。申し訳ございません」
ベルフィアは頭を深々下げ陳謝する。
ラルフはその後ろから気さくに声をかける。
「ようミーシャ!なんだ待っててくれてたのか?」
その気安さからベルフィアは流し目でラルフを睨む。
「そうだ、早く報告を聞かせろ。私は早く寝たいんだ」
「はっ!すぐに…」
宿に入り、三階にあるスイートに行く。広い部屋を三つくらいぶち抜いて作った様な一人には広すぎる部屋である。
ふかふかのソファに、大の字で寝ても手足がはみ出さないダブルベッド。大浴場に行かなくても個人浴室が完備。別料金ではあるが、室内保存用のお酒があり、店員を読んで冷えた飲み物を頼むこともできる。その他、室内で食事やマッサージなども用意可能だ。
水差しが用意され、無くなったら呼んで補充させる。水差しの補充は無料である。スイートには魔道具である”呼び出しベル”があるので声を張り上げる必要もない。
こういった設備やサービスにも魔道具の普及は表れていた。
全てが清潔に管理され、埃もない。
「スイートを借りる”お客様”に満足いただけるよう誠心誠意尽くすというのが方針」らしい。
追加料金を払ったために、簡易ベッドが二台用意されていた。
ミーシャはソファに腰かけてふんぞり返り、上位者であるように振舞う。ベルフィアは着席せず、腰に手を当てて警備員のように立つ。ラルフは気にせず向かいのソファに座る。
「ちょっとラルフ、まだ着席を言明してないんだけど…」
「そうじゃラルフ。立て」
化け物二体は突然ロールプレイをし始めた。
「ええー?早く終わらせたいんだろ?面倒だしこのままやろうぜ」
「ダメ!やり直し!!」
ラルフはめんどくさがったが結局ロールプレイに従って立つ。
「…魔王様。報告してもよろしいですか」
「うむ!座るがいい!」
とこんな具合に始まり、報告をした。
口調は訂正されなかったので、いつもの様に報告する。
「じゃ、明日の朝に行動するのね?今すぐに何かあるわけでもないと…」
「それについては否定も肯定もできないと思ワれます。アルパザ ノ町民が何かしでかさぬとも限りませんし」
ベルフィアは気を緩めない。脅したとはいえ、店主が騎士団を逃がさないとは言えないからだ。
保守派の店主が、秩序を正そうと動くことは大いにあり得る。しかしだからこそ自分の利にならないことをしないと信用すらしている。
「あの性格から考えると、お前が脅した時に勝負はついた。負けることが濃厚な戦いは、避けるのがおっさんだ」
大きな混乱や、自分の権威が失墜する事態に陥っていない現在。大胆な行動は避けて、事態の鎮静化を図る。要するに”見て見ぬふり”をする事で、秩序を守るという事だ。
「そういうもノかえ?」
「なんにせよ警戒を厳として朝を迎えることが寛容と言う事ね?となると、警備を…」
「妾にお任せください。100年寝ていタノで、睡眠は不要でございます」
ベルフィアは自ら寝ずの番を買って出る。
「それはいいけどよ…部屋の中で立ってられると気になって寝られないんだが…」
「我慢せい。これは魔王様ノ為に行うノじゃ。そちノ我儘は聞かぬ」
ベルフィアは入り口の前に移動し、扉が開けられるようすぐ横に立つ。先ほどと同じように手は腰の位置だ。ラルフはどうしても嫌そうな顔になる。この状態で一晩過ごせたならこれ以降、信用できるだろうが、寝ている隙に血を吸われたらたまったものではない。
「…どうしても嫌なのか?ラルフ…」
ミーシャが上目遣いでラルフを見ている。
その様子は魔王などという絶対者ではなく、大人の癇癪をうかがう可憐な少女である。
「いや…いやいや、そういうわけじゃないけどな」
庇護欲を助長する行動に、すっと近寄りラルフは思わずミーシャの頭を撫でてしまう。
ベルフィアはその行動に身構える。”敵は内にこそあり”といった風でジャッという足を踏ん張る音が聞こえるほどだ。
ビクッとなって手が止まる。
「ベルフィア!お座り!」
ミーシャはベルフィアに命令する。
「はっ!」という小気味いい返事の後、その場に正座する。
「…ラルフは…もっと撫でて…」
「お…おう」
子供をあやす父親のように、あるいは飼い主である者がペットを撫でるように愛情ある撫で方、なんてできないがそれっぽく優しく撫でる。ギリッという歯ぎしりが聞こえるが。ミーシャは気持ちよさそうにしているので
続けることにした。
その後、ダブルベッドにはミーシャとラルフが寄り添って寝ていた。
簡易ベッドで寝ようとするラルフをミーシャが誘ったのだ。最初こそベルフィアの苦言が入り、ラルフも賛同したがラルフとベルフィアの抵抗むなしくこの形になる。
腕枕にすり寄るミーシャ。体のいい抱き枕を手に入れたミーシャはすぐに寝てしまう。
そういえば初日はずっと起きていた風だった。
ミーシャも今のラルフ同様、警戒していたのだろう。今は甘えん坊の女の子だ。
久方ぶりの女の感触に性欲も沸いてくるが、その思いなど吹っ飛ぶ。入り口付近で正座していたベルフィアがベッドの横に立ち、ラルフを見下ろしていた。
いつ近づいたのか、気配すら感じなかった。
まるで”暗殺者”である。
気が休まらぬまま、寝られぬまま朝を迎えた。
ベルフィアに対し文句の一つも言いたかったが、熟睡してしまって遅刻することを思えば良かったと自分を騙す事で気持ちの整理をつける。
早朝の行動は早かった。
すぐさま身支度を済ませ、三つの影が宿を出る。
ここで一旦ベルフィアと分かれてラルフとミーシャは店に直行。ベルフィアは店主が出発したのかどうかを確認に行く。
店主も家から丁度出る所だった。
バッタリ会ったので、連行して店までやってきた。
「ようおっさん!おはよう!」
「ちっ…そのお嬢さんは?昨日はいなかったが…」
「悪いなおっさん、自己紹介は後だ。先に店を開けてくれ」
鍵を開け中に入ると団長はぐったりしていた。
「…ん?ようやく朝か…待ちかねたぞ」
それもそのはず、折れた腕の痛みで寝ようとしてもうまく眠ることができず、その上、柱につながれて転ぶこともできない。半ば気絶するように意識を飛ばしては覚醒するを繰り返していたのだ。
店主によって縄を解かれる。
「良いザマじゃノぅ。剣がなければ何も出来ぬ」
ベルフィアは傷ついた相手にも容赦はない。
ケラケラ笑いながら団長を罵る。
団長は手を使うことなく体幹だけですくっと立ち上がる。疲れているはずだが、人前に見せる姿は堂々としていた。
「ふんっ!言っているがいいさ化け物…だが…そうだな、逆説的に剣さえあればおおよそ何でもできるってことを言っておくぞ」
無事な左手を自分の喉に当て、横に切る。
「お前を殺す」というジェスチャーだ。
ベルフィアは喉奥を鳴らし、猛獣のように唸る。
両者睨み合いが続く中、ラルフが声をかける。
「もうすぐ日の出だ。準備しろ」
手を差し出し何かを寄こせという感じだ。
店主他、ベルフィアもミーシャでさえ何をしているのか分からなかったが、団長はその手を見て通信機を取り出す。
阿吽の呼吸に近いが、これは団長の先読みを理解しての行動であり、部下を除けばラルフにしかできない。
そのラルフも見たことの無い通信機に目を丸くする。ネックレス型の通信機で、団長は首から下げていた。
「これは新型の通信機だ。最近導入されたから、見たことはないだろうが…」
ラルフの驚きに対して、すぐさま答える。団長と会話すると、先読みでセリフを取られそうだ。表情で読むから一方的会話になるだろうなとふと思った。
「そんなことをわざわざ言うってことは、もしかして旧型とは機能も違うのか?」
旧型の通信機は、その国とだけ通話ができる、”双子”と呼ばれるもので、魔力を動力としている。”双子”は音波を感知する鉱石を用い、ある特別な術式を組んで反響を伝えることに成功した革新的な魔道具だ。
その国限定ではあるものの通信範囲の広さは抜群である。
この技術を用い、軍部でも通信範囲は狭い”小型版”が採用され、昨日もベルフィア、ラルフ戦にて使用されていた。
録音などができないため、時間を合わせないと対話ができないのが難点ではあるが、遠くにいても話ができると言う事も在って上層部では通信機の使用は書状の交換以上に当たり前になっている。
「そうだ、その場の映像を映し出す。声だけで判別していた時と違い、現在の姿かたちを認識できる。相手はマクマイン公爵だ。この腕に関してもそうだが、剣がなければ怪しまれるぞ?」
さっきからちょっと余裕そうにしてたのは、マクマイン公に怪しまれるのを見越してだったようだ。だが腕を治し、剣を渡しては本末転倒である。一瞬でも可能性を見出せば、何をしでかすかわからない。
国の重鎮やそれに類する上層部は技術の進歩を隠したがるものだが、技術がここまで進んでいるとは思いも寄らなかった。
これは確認を怠ったラルフのミスだが、このタイミングでネタ晴らしをした団長の采配も光る。
これが人間同士ならの話だ。
「面倒な話ね。もう殺そうか」
ミーシャは考えるのも億劫になっていた。
どうしてもバレたくないならいざ知らず、吹っ切れてしまえばこんなことをしなくてもいいのだ。
「妾にお任せください。魔王様ノお手を汚すことなく掃除いタします」
ベルフィアはウキウキしている。
「慌てるなよ。こいつに何ができる?人質は20人いるんだ。こちらの意に沿わないことをするなら目の前で…」
「やめろ!!…分かったから…」
当然ラルフも人間同士ならではの考えで動く。
団長の使った手は、その身一つなら効いただろうし、赤の他人なら最悪切れるが、部下ともなればそうはいかない。団長もしてやったりの顔がすぐに焦りの顔に変わる。
「面倒ごとで俺らを困らすなよ…なぁ…このグダグダを終わらせようぜ。団・長・さん」
ラルフは団長の肩に手を置き、目いっぱい煽る。
ラルフの手に握られた回復材を見て団長は、何も出来ぬ悔しさに身を焦がすのだった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!
ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!?
夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。
しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。
うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。
次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。
そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。
遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。
別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。
Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって!
すごいよね。
―――――――――
以前公開していた小説のセルフリメイクです。
アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。
基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。
1話2000~3000文字で毎日更新してます。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~
テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。
しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。
ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。
「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」
彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ――
目が覚めると未知の洞窟にいた。
貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。
その中から現れたモノは……
「えっ? 女の子???」
これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?
くまの香
ファンタジー
いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる