一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

文字の大きさ
56 / 718
第二章 旅立ち

第十七話 限界

しおりを挟む
人間ヒューマンだ」

魔鳥人はラルフを見て、分析する。

「あの町の者か?」

魔鳥人に取り囲まれ危機に陥る。
ミーシャには煌々と焚かれている火の光に気付いてほしいが、高度が高すぎて、下が明るくなったのを気付かないだろう。

真下で焚いた事も致命的だった。火が見える位置まで、移動する時間が惜しくてのろしにより、気づいてもらおうと思ったが、ラルフが死ぬのと、気づくのが同時では意味がない。

「いや、実はさっきこの辺を通ってたんだけど、上で激しい戦いをしていたもんで…で、あんた達は?魔鳥人っぽいけど…何でこんな所に?」

知らぬ風を装って、話しかける。魔鳥人は一瞬ラルフから視線を外してミーシャを確認する。動きがない事を確認すると、視線を戻し一言。

「消せ」

ラルフが答えるよりも早く、魔鳥人の内二人くらいが魔力により、火を自身の槍に纏わせていく。それぞれの槍の先端に火を纏い切った頃、ラルフが起こした炎が消えて、完全に消火される。そのままガスの元栓を閉めていくように、槍に纏った火を消していった。

ラルフが火をおこすのにあれだけ苦労したのに…そして、出来れば物理的に消して欲しかったのに。

消火に水や風の属性《エレメント》を使用してくれれば、煙が上手いことミーシャまで立ち上ったかも
しれないのだが、それを危惧してか魔鳥人は自身の精密な魔法操作により消火したので、ろくに煙も上がらない。

魔法とはかくも偉大である。

その上、この敵とは会話になってない。
これはラルフにとって非常に不味い。
過去こういうのに出会った場合、必ず痛い目を見る。

そもそも戦争から背を向けて来たのに、まさか魔族とこれほど相対することになるとは夢にも思わなかった。

ツケが回ってきたというか、皺寄せが来たというか、とにかくピンチだ。

ラルフは何とか潜り抜ける方法を模索する。
そこで良い案を思い付いた。
しかしこれは死ぬ可能性が高い上、ピンチを脱しても、大怪我は免れない。

万が一、成功しても、ミーシャに気付かれなければそこで身動きがとれず魔鳥人に殺される。

一か八か。
それは生死を別ける戦い。

「殺せ」

魔鳥人はそれが当たり前のように選択する。人類は敵だ。ミーシャが特別だっただけで普通はこうなる。

「待った待った待った!」

ラルフは手を出し、魔鳥人を一瞬停止させる。

「出したい物がある。死ぬ前にやっときたいんだ。
それだけやれれば、悔いはなくなる。後は煮るなり焼くなり好きにしてくれ」

戦士の好きな言葉だ。「死ぬ前にせめて一服」と言う喫煙家の一言みたいな奴。

そしてこの言葉は世界共通の言語でもある。
何せ今は人魔大戦真っ只中。
命の取り合いの中で一度は聞くであろう台詞の一つに数えられる。

それを勘違いさせるよう様に、手を口許に持っていき喫煙家のふりをする。

魔鳥人は槍を構えた状態で顎をしゃくる。
未練を無くさせてやるという戦士の配慮。
ラルフは急いで鞄をゴソゴソする。

「あれ?どこだ?」とか何とか言いながら中々出てこない。

「おい、妙なことは考えるなよ?」

「分かってるって、俺だって男だ。死に際はわきまえるって…」

ラルフはひたすら鞄をゴソゴソする。待つという選択肢を選んだ為、魔鳥人は律儀に待つ。とはいっても後一分が限界だろう。

上の戦いが気になったり、この不運で無様な、アホ人間ヒューマンから魔鳥人たちの目が一瞬外れる。それぞれが思い思いの方向に目が逸れた時、シュボッという音が聞こえる。

(ようやく一服するのか…)と魔鳥人が考えた直後。

「悪いな、待ってもらっちゃって」

ラルフの手には葉巻ではなく、歪な玉が握られていた。

チョロンと、尻尾のように紐が出てまるで古典的な爆弾といった風だった。その導火線には既に火が点き、中々の速度で火が紐を食っていく。

もうすぐ爆発というところでラルフは真上に投げる。魔鳥人の目がそちらに向いたときにラルフは身を縮め、丸くなり、耳を塞いだ。

パアァンッ

でかい破裂音がその場を支配する。その音と共に眩い閃光が照らし出す。そして同時に破裂した何かの殻が弾け飛ぶ。それは火を伴って周辺に降り注いだ。

「ぐああぁ!!」

「ぎゃあっ!」

取り囲んでいた魔鳥人の目を潰し、火をかける。
破片も相当な速度を伴って辺り一面に飛び散り、敵味方関係なく襲いかかる。破片や火はラルフにもかかり、背中が熱い。

だが、それ以上に困惑しダメージを受ける魔鳥人を尻目に、その囲いから離れられるだけの余裕がある。

体が重い。目と耳は大丈夫だが、即席爆弾のダメージは、少なく見積もっても、体力の半分以上を持っていかれた。

これこそがラルフの作戦。

もし、相手が教養を持ち、戦士としての矜持を持たなければ、台詞を発した時点で死ぬ。

これが通れば、即席で爆弾を作り、それを破裂させる。火薬と布と閃光弾、そして縄と油瓶(中身あり)というまさに鞄の中の、ありもので作った特製だ。

「この糞人間ヒューマンがぁぁ!!」

魔鳥人は槍を突いてくる。
その攻撃は、急所から外れていたが、ラルフの背中から腹にかけて意図も容易く貫いた。

「ぐおっ!」

まさかこのタイミングで攻撃を仕掛けられるとは思わなかった。想像以上にタフな奴等だ。

だが、ラルフに相手を称賛するだけの余裕など、もはやない。何度となく死にかけたが、奇策を労して嵌めた相手に攻撃されるなんて、初めての事だった。

槍の先端がちょこっと貫通する程度ですぐ刃先が抜けるが、逆に抜けたせいで出血が激しくなる。

その攻撃はラルフを地に伏すだけのダメージを与えた。体力もそこそこに背中が火傷しているので、スリップダメージが更に死へと誘う。

(簡単だなぁ…)

ラルフは自分の死に様についてを憂う。
人の耐久力なんて、たかが知れている。
魔鳥人があれだけのダメージを受けたのに攻撃を仕掛ける強さがあるのに対し、自分はこれだ…。

死にたくない。まだ回復材は鞄にある。
大丈夫だ。ここで死にはしない。
生きる術はまだあるのだから。

「…あの…状況を…ぐっ…生きて回避…出来たんなら、上出来だよ…な…」

左手で鞄の位置を探りながら、回復材を使用しようとする。カサカサしながら鞄を探すが、ゴキッという音と共に、左手があらぬ方向に曲がる。

耐える準備の出来てない時に突然の痛みは、ラルフの心を掻き乱した。

「あがぁぁぁっ…!!」

思ったより肺に空気が残っていた。
絞り出すように声が出る。

一羽の魔鳥人は閃光弾の光を直接見なかったようで、目は無事のようだった。

「ただの人間ヒューマンごときが…俺たちを謀りやがって…」

魔鳥人はラルフの首根っこを掴んで持ち上げる。
すさまじい力だ。軽々と持ち上がり、ラルフは首に全体重が乗る形になる。

「おい、コラ…何しやがる…この前…治ったばかりだぞ…?」

左手をチラリと見て、魔鳥人に抗議する。

「この顔を見ろ。貴様のせいでこのザマだ!」

魔鳥人がラルフに見えるように息がかかる距離まで寄る。その顔は左半分が焼け爛れている。そして頭に瓶の破片が刺さっている。爆発の速度にその頑強な皮膚も耐えられ無かったようだ。

「…おおぅ…男前だな…」

「そうか?同じ顔にしてやるよ」

右の掌に火を纏い、その手を顔に向ける。

「い…いやいや、遠慮して…」

ジュッという肉を焼く音が響く。

「ぎゃああああああ!!」

ラルフの顔の左半分が焼ける。
(死ぬ!死ぬ!死ぬ!死ぬ!死ぬ!死ぬ!)
一秒が一分に感じる。
いつまで燃やすのか、分からないほど焼かれて、魔鳥人の手が離れた頃ラルフは虫の息になっていた。

「お?どうだ?…不細工だな」

「……ぉ…ぁ…」

ラルフは顔を半分焼かれ意識も朦朧としていた時、それでもまだ喋りたがっていた。

「ん?何だ?」

魔鳥人はラルフの口許に耳を近づける。

「…馬鹿が…不用意に…近づくな」

「はぁ?」と意味不明という顔をしているとその左目に滑り込むようにダガーの刃先が入り込んだ。
顔を焼かれている時にダガーを抜いたのだ。

ここぞというタイミングでダガーを刺し、柄を顎で押して突き入れ、完全に左目が潰れた。

「うわあぁぁぁっ!!」

魔鳥人はあまりの痛さに手を離し、ラルフはそのまま、また地面に落ちる。

骨が固く、幅のあるダガーの刃先では脳にまで達することはなかったが、魔鳥人に生涯消えることのない傷を残す。ダガーが業物だったなら、先に死んでいたのは魔鳥人だったろう。

悔いは残るが、魔鳥人は優秀な種族。
ラルフがここまで出来たのは快挙だ。

だが、これが限界だ。

それでもラルフは少し誇らしかった。

(どうだ?見たか?俺だってこれだけ出来たんだ)

望む結末ではないが、もう手は動かない。
回復材を使いたいが、鞄に手が届かない。
体が捻られない。

血が出過ぎて、体が冷たくなってきた。
火傷して背中が熱いはずなのにもう感じない。
目を閉じれば暗いはずなのに周りに光が見える。

(これが死ぬって事なんだな…)

ラルフは感じる。さっきまで冷たかったのに、突然の温もりを。体の芯から沸き上がる温もりを。

もう痛みはない。

ラルフはそのまま意識が途切れた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

処理中です...