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第五章 戦争
第十話 時を同じくして……
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南の大陸、”クリムゾンテール”。
一年中気候の安定した熱帯地域で、この島でしか確認されていない植物や生き物が数多く生息している。
この地を統治するのは魔族側では南西に位置するカサブリア王国の”銀爪”、人類側では獣人族の”獣王”が支配し、幾度も争いを続けている。
少し前に人間の国が加勢し、初代銀爪を討ち取った。功を焦ったアニマンの軍は無駄に戦争を起こし、二代目銀爪によって返り討ちに遭う。そのせいで白の騎士団に加入していたアニマン最強の一人が深手を負い、現在療養中である。
このままカサブリアに攻め落とされるかと不安に思っていた頃、魔族間の同士討ちが発生。最も警戒すべき魔鳥人の部隊が全滅した。目まぐるしく変わっていく情勢に振り回されながら、アニマン達は手をこまねいていた。
「コノママ攻メルベキカ……否カ……」
獣王は家臣たちと机の上の簡易的な地図と睨めっこしていた。正面突破は銀爪の力の前に叩き潰される。獣王の側近が声を上げる。
「未ダ”グランツ”ガ目ヲ覚マサヌ現状、手出シスレバマタ返リ討チデスゾ」
白の騎士団の一人”剛撃”のグランツ=ベア。熊型のアニマンで格闘士として名高い怪力の男。対一の素手なら勝てる者はいないとまで言われたアニマンを代表する男だが、銀爪の攻撃に成す術もなく深手を負ってしまった。このままでは剛撃は除名されるかもしれない。
アニマンは人類側からするとかなり短絡的な考え方をしている。本能がそうさせるのかもしれないが魔族側と同じく力を重視する傾向にあり、それが武力にとどまらず権力や名声にも及んでいるので力を削がれる事を極端に恐れる。”王の集い”では今の所その話は出ていないが、除名などという悪い考えは杞憂に終わってほしい所。
ヒューマン同様アニマンは白の騎士団には二人在籍しているが、増やす事を望んでも減らす事は望んでいない。グランツの完全回復を願うその声に我も我もと声を上げる。
「彼ノ部隊ガ勝手ニ死ンダ事ヲ思エバ、勝手ニ瓦解シテイク可能性ノ方ガ高イ」
「何度モコノ話ニナリマシタガ、ヤハリ見ニ回ルベキデショウ」
「賛成ダ」「防戦コソ正シイ」
獣王は家臣の声を静かに聞く。家臣たちの日和った……いや、この冷静な判断があの時にもあれば無駄な犠牲を出さずに済んだ。あの時は戦争の勝利に酔いしれてすぐにも攻め落とそうという流れだった。気が高ぶっていたとはいえ、マクマイン公爵の助言を無視したのは大きな痛手だった。
ヒューマン如きに戦いの何が分かると嘲笑ったが、完全に勇み足であったと言わざるを得ない。
「ナラ軍ヲコノ位置ニ配置シ、防衛網ヲ敷クノハドウダ?」
獣王は枝を細く削っただけの無骨な差し棒を使って布陣の展開を提案する。一同が長考に入ったところで大声が部屋の外から聴こえた。
「獣王様ァ!獣王様ァ!」
どたどたと走りながらかなり焦った声で呼び続ける。
「何事ダ!?騒々シイゾ!」
国を左右する会議を邪魔するような声に流石の獣王も苛立ちから声を張り上げる。慌ててやって来た男は息を切らせながら今にも倒れそうな程の姿勢で頭を下げる。
「申シ訳ゴザイマセン!一刻ヲ争ウ火急ノ事態故ゴ容赦ヲ!ドド火山カラ”古代獣”ガ離レタトノ報告ガ入リマシタ!!」
息をつかない様に一気にまくしたてる。それを聞いた者たちの反応は顕著だった。
「!?……ナ、何ダト!!」
ガタンッと椅子を倒す勢いで立ち上がる。この世界の歴史上、”古代種”と呼ばれる異次元の生物たちは自分の巣を離れた試しがない。襲ってくるものには容赦がないが、彼らの領域に入らなければ攻撃をされる事も何らかの被害を出す事も無い。
ただそこにいるだけだが、力を信奉するアニマン達はその絶対的な力に魅了され、守護神的な存在として信仰している。アニマンの街の教会では”古代獣”のレリーフが作られるほどだ。そんな存在が全世界の歴史に類を見ない行動をとり始めたら会議どころではない。
「一体ドコニ向カッテイル!」
「ソ、ソレガ……早スギテ追エズ、方角クライシカ……」
当然だろう。相手が相手だ。歩いているならまだしも走られたらどうしようもない。当然の事と理解しつつも心が追い付かない。
「エェイ!ジャア方角ヲ言エ!スグニ部隊ヲ編成シテ追ウンダ!!」
「ホ、北東ノ方角デス!!」
それを聞いて背筋に冷たいものが走る。
「……北東ダト?……間違イナイノカ?」
「ハッ!北東ノ方角デ間違イゴザイマセン!!」
方角に覚えのある家臣が困惑の眼差しを獣王に向ける。
「イヤ、マサカ……イクラ”古代獣”ト言エド知ルハズアリマセン」
「ダト良イガ……。部隊ノ編成ハ任セル。編成次第、命令ヲ待タズニ出発サセロ」
獣王はそれだけ言って足早に自分の部屋に戻った。部屋に戻ると真っ先に通信用魔道具を取り出して連絡入れる。長い事呼び出すも出る気配がない。焦りと苛立ちから歯ぎしりをしつつ呟く。
「……何ヲシテイル森王……早ク出ロ……!エルフェニア ノ最後カモシレンゾ……!」
一年中気候の安定した熱帯地域で、この島でしか確認されていない植物や生き物が数多く生息している。
この地を統治するのは魔族側では南西に位置するカサブリア王国の”銀爪”、人類側では獣人族の”獣王”が支配し、幾度も争いを続けている。
少し前に人間の国が加勢し、初代銀爪を討ち取った。功を焦ったアニマンの軍は無駄に戦争を起こし、二代目銀爪によって返り討ちに遭う。そのせいで白の騎士団に加入していたアニマン最強の一人が深手を負い、現在療養中である。
このままカサブリアに攻め落とされるかと不安に思っていた頃、魔族間の同士討ちが発生。最も警戒すべき魔鳥人の部隊が全滅した。目まぐるしく変わっていく情勢に振り回されながら、アニマン達は手をこまねいていた。
「コノママ攻メルベキカ……否カ……」
獣王は家臣たちと机の上の簡易的な地図と睨めっこしていた。正面突破は銀爪の力の前に叩き潰される。獣王の側近が声を上げる。
「未ダ”グランツ”ガ目ヲ覚マサヌ現状、手出シスレバマタ返リ討チデスゾ」
白の騎士団の一人”剛撃”のグランツ=ベア。熊型のアニマンで格闘士として名高い怪力の男。対一の素手なら勝てる者はいないとまで言われたアニマンを代表する男だが、銀爪の攻撃に成す術もなく深手を負ってしまった。このままでは剛撃は除名されるかもしれない。
アニマンは人類側からするとかなり短絡的な考え方をしている。本能がそうさせるのかもしれないが魔族側と同じく力を重視する傾向にあり、それが武力にとどまらず権力や名声にも及んでいるので力を削がれる事を極端に恐れる。”王の集い”では今の所その話は出ていないが、除名などという悪い考えは杞憂に終わってほしい所。
ヒューマン同様アニマンは白の騎士団には二人在籍しているが、増やす事を望んでも減らす事は望んでいない。グランツの完全回復を願うその声に我も我もと声を上げる。
「彼ノ部隊ガ勝手ニ死ンダ事ヲ思エバ、勝手ニ瓦解シテイク可能性ノ方ガ高イ」
「何度モコノ話ニナリマシタガ、ヤハリ見ニ回ルベキデショウ」
「賛成ダ」「防戦コソ正シイ」
獣王は家臣の声を静かに聞く。家臣たちの日和った……いや、この冷静な判断があの時にもあれば無駄な犠牲を出さずに済んだ。あの時は戦争の勝利に酔いしれてすぐにも攻め落とそうという流れだった。気が高ぶっていたとはいえ、マクマイン公爵の助言を無視したのは大きな痛手だった。
ヒューマン如きに戦いの何が分かると嘲笑ったが、完全に勇み足であったと言わざるを得ない。
「ナラ軍ヲコノ位置ニ配置シ、防衛網ヲ敷クノハドウダ?」
獣王は枝を細く削っただけの無骨な差し棒を使って布陣の展開を提案する。一同が長考に入ったところで大声が部屋の外から聴こえた。
「獣王様ァ!獣王様ァ!」
どたどたと走りながらかなり焦った声で呼び続ける。
「何事ダ!?騒々シイゾ!」
国を左右する会議を邪魔するような声に流石の獣王も苛立ちから声を張り上げる。慌ててやって来た男は息を切らせながら今にも倒れそうな程の姿勢で頭を下げる。
「申シ訳ゴザイマセン!一刻ヲ争ウ火急ノ事態故ゴ容赦ヲ!ドド火山カラ”古代獣”ガ離レタトノ報告ガ入リマシタ!!」
息をつかない様に一気にまくしたてる。それを聞いた者たちの反応は顕著だった。
「!?……ナ、何ダト!!」
ガタンッと椅子を倒す勢いで立ち上がる。この世界の歴史上、”古代種”と呼ばれる異次元の生物たちは自分の巣を離れた試しがない。襲ってくるものには容赦がないが、彼らの領域に入らなければ攻撃をされる事も何らかの被害を出す事も無い。
ただそこにいるだけだが、力を信奉するアニマン達はその絶対的な力に魅了され、守護神的な存在として信仰している。アニマンの街の教会では”古代獣”のレリーフが作られるほどだ。そんな存在が全世界の歴史に類を見ない行動をとり始めたら会議どころではない。
「一体ドコニ向カッテイル!」
「ソ、ソレガ……早スギテ追エズ、方角クライシカ……」
当然だろう。相手が相手だ。歩いているならまだしも走られたらどうしようもない。当然の事と理解しつつも心が追い付かない。
「エェイ!ジャア方角ヲ言エ!スグニ部隊ヲ編成シテ追ウンダ!!」
「ホ、北東ノ方角デス!!」
それを聞いて背筋に冷たいものが走る。
「……北東ダト?……間違イナイノカ?」
「ハッ!北東ノ方角デ間違イゴザイマセン!!」
方角に覚えのある家臣が困惑の眼差しを獣王に向ける。
「イヤ、マサカ……イクラ”古代獣”ト言エド知ルハズアリマセン」
「ダト良イガ……。部隊ノ編成ハ任セル。編成次第、命令ヲ待タズニ出発サセロ」
獣王はそれだけ言って足早に自分の部屋に戻った。部屋に戻ると真っ先に通信用魔道具を取り出して連絡入れる。長い事呼び出すも出る気配がない。焦りと苛立ちから歯ぎしりをしつつ呟く。
「……何ヲシテイル森王……早ク出ロ……!エルフェニア ノ最後カモシレンゾ……!」
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