一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

文字の大きさ
292 / 718
第八章 地獄

第二十二話 戦力分析

しおりを挟む
 赤い魔力砲が放たれたのを確認し、ミーシャは急いで要塞に戻った。

「状況は?」

 長い通路を一人で歩きながら虚空に問いかける。それに対して返答があった。

「何ともない。イービルシードなんぞ一万匹来ようと対処は容易じゃ」

 いつ現れたのか、アスロンがミーシャの隣で歩いていた。それに対して当然のように頷く。

「ただ、あの蔓は不味い。あれはイービルシードはもちろん、他の植物系魔獣を生み出す。放っておくと永遠に決着が着かん」

「この要塞が無限のエネルギーなら”ジャックあっち”は無限増殖ってところね」

「ふむ、その通りじゃ。ところでラルフさんはどこに居る?一緒に戻ったのではなかったのか?」

 ミーシャは一瞬止まりかけたが、また何事もなく歩き始めた。アスロンが再度聞くより早く口を開く。

「……ラルフなら今バードの城に居る。ここよりは安全じゃないかもだけど、今は連れて帰れないんだ。理由は後で説明する」

 そのままズンズン歩いてエレノア達と合流した。真っ先にブレイドが駆け寄る。

「ミーシャさん!丁度良かった!母さんが話があるって……ラルフさんは?」

「後で話す。エレノア!」

 ブレイドの脇を抜けてエレノアの元に向かう。

「帰ってきたぁ?あれを見てよぅ。そういえばぁここって撫子の管轄だったんだねぇ」

「うん。あいつが動くなんて珍しいこともあるものね。私たちを狙ってきたか、或いは島を狙ってか……お前はどう思う?」

「それぇ私も聞こうとしてたのぉ。”ジャックあれ”を持ち出したってことはぁ十中八九島の制圧だと踏んだんだけどねぇ?」

「島の?それも十中八九って……どうして?」

「元々の拠点を捨てたってことになるのよぅ?せっかくの有利を捨てて不利な場所で戦おうなんてぇ戦争やったことない馬鹿でも思いつかないわぁ。つまりはホルス島を次の拠点にするべくやって来たと思うのがぁ妥当かなってぇ」

 ミーシャは空飛ぶ蔓草をまじまじと見た。言われて見ればそうである。撫子は自分から戦場に絶対に赴かない極度の面倒臭がり。腕力も魔力も強いし、特異能力が植物を操るという使い勝手の良い能力だ。少し足を伸ばせば滅ぼせた国はいくつもあっただろう。にも関わらず、その重すぎる腰を上げようとはしなかった。
 要塞を墜とそうとして持って来るにしろ、せめて大陸などの陸続きの場所で持ってくるのが理にかなっている。空を飛びながら、落ちれば植物が枯れそうな海の上で、正面から戦いを挑むなど正気ではない。
 つまりこのホルス島を次の拠点にしようと画策し、根をはる下準備として蔓草を浮かばせたなら納得がいく。

「……偶然に居合わせた説ね。そこまで納得のいく考えじゃないけど、私もどちらかと言うと偶然かなって思ってた。勘で」

「勘ねぇ。なるほどぉ、流石ミーシャらしいと言うか何と言うかぁ」

 二人肩を並べて敵を分析し合う。それを側から見ていたアルルが口を挟んだ。

「で?どうします?やっちゃいます?」

 槍をぎゅっと握って応戦を仄めかす。

「その必要があるかな?」

 応戦で場が固まりそうなところにアンノウンが声をかけた。

「二人の話を整理すると、島を侵略に来た矢先私たちが居た。一応雑魚を放ってはみたものの、瞬時に返り討ち。この要塞はとんでもなく強い。となれば、勝ち目は薄いと感じて逃げ去るのが常識ってもんでしょ?違う?」

 これも的を射ている。撫子の性格上、不利と見るや尻尾を巻くのが目に見える。

「つまり戦う必要がないと?」

 ブレイドも眉を顰めて尋ねる。ミーシャもエレノアも完璧な答えは出せずに「うーん」と唸った。そうなれば面倒はないかな?くらいのノリで蔓草に目をやった。
 イービルシードは相変わらず生成され続けて、空に広がる胡麻のようにその数は増え続けている。そこだけを見ると攻撃を仕掛ける為の下準備に見えなくもない。要塞同士、互いに睨み合って膠着状態に入った。じっとしていても帰ってくれなさそうだったので、ミーシャは一歩前に出る。

「行く気なのぉ?」

「ここで推察ばかりしていても埒が明かない。直接文句言いに行こうかと思って」

 肩越しにエレノアを見ながら前に進む。飛ぶ為に魔力を込めた次の瞬間。バード達が一斉に蔓草に飛んでいくのが見えた。要塞の間を器用にすり抜け、ぶつかることも停止することもなくスイスイと戦士達が先を急ぐ。突然のことに驚いたミーシャは足を止めてその様子に釘付けになった。

「……まさか撫子ディアンサと遣り合おうって言うの?バードが?」

 本拠地の真ん前だからだとはいえ、図に乗りすぎている。相手は腐っても魔王。勝ちの目など考えることが烏滸おこがましい。もしこれで撫子の怒りを買えば、島上陸までの過程に邪魔な建造物を蹴散らしにする可能性も考えられる。ここはこの要塞に任せて後ろで見ていれば良いのに、それほどまでに手柄が欲しかったのだろうか?
 そんなことを考えていると、突如アスロンに通信が入った。

「おお、ラルフさん。無事でしたか」

 アスロンは嬉々として通話に出る。そこで思いがけないことを言われたアスロンは驚きの表情を見せた。

「……は?いやぁ……しかしじゃな……」

「なんだ?ラルフは何を言っている?全員が聞こえるように開示しろ」

 ミーシャはアスロンに指示し、アスロンも逆らうことなく音声を開示する。

『……これしかないんだって。悪いんだけどミーシャに代わってくれる?』

 アスロンとの会話そのままにラルフの声が響き渡る。

「ラルフ私だ。何があった?」

『おお、ミーシャ。実はさっき空王から焦り気味に沙汰が降りてよ。攻めて来た魔族達を殲滅してほしいってよ。そいつが出来れば水竜の罪は免除ってことなんだが、やってくれるか?ミーシャ』

 あの罪がチャラになると言うなら殲滅を選ぶべきだ。ミーシャは自分の為、ラルフの為に力強く頷いた。

「いいよ。早く帰って来てほしいし、私に出来ることはこれくらいだしね」

『え?!……えっと、早く帰るのってのは……ちょっと……』

「ん?あれ?よく聞こえないよ?」

『と、とにかく!敵を細切れにしてやれ!お前に託したぞミーシャ!』

「ん、了解。任せて」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

処理中です...