一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

文字の大きさ
325 / 718
第九章 頂上

第十五話 参陣

しおりを挟む
 ベルフィアは杖を振り上げた。
 その杖の効果は言うまでもなく転移。移動距離、障害物など関係なしに目的地に到着出来る。

 移動先はドワーフ管轄のビーチ。そこにズラッと並び立つ魔族の群れ。敵の背後を取る形で出現したつもりだったが、魔族たちは何故か全員こちらに向いていて、完全に奇襲が失敗した。

「ぬっ!何だ貴様らはっ!?」

「……あら?」

 ラルフたちは思っていたのと違う状況に即座に武器を構えた。

「ラルフよ、どうなっている?余らは完璧に有利な背後を取れるはずではなかったのか?」

「……いや、まぁ……そのはずだったけど、全員こっち向いてるね」

 ナタリアはアロンツォに呆れた風にため息を吐きながら返答する。

「ロン、そいつの言葉なんて元より信用出来ないでしょ。この状況は予測済みよ」

 ラルフが苦い顔でナタリアをチラッと見たが、睨み返されたのでサッと顔を逸らした。

「ラルフノ言う「上手くいく」など確率で言えば一割程度。それ以上を求めルノは酷と言う物じゃ。何にせヨ戦うことに変ワりないし、頭ごなしに責めルこともあルまい」

 ベルフィアは一応フォローしてくれたつもりだろうが、ラルフの信用の無さをアピールしただけだ。

「……ですね。予想とは事前に立てるものであって、本番となればどうしても状況は変わってしまうもの……」

「そうそう、気を落とさないでくださいね?ラルフさん」 

 ブレイドは言い方を変えてくれたし、アルルは直球で慰めてくれた。二人の言葉を一つずつ切り離して受け止めればありがたいと感じたが、ベルフィアの言葉の補強だと考えると落ち込む。
 背後で話を聞いていたはずのアンノウンやジュリア、デュラハン姉妹を含めた只の一人も擁護をしてはくれなかった。
 その全てが、ラルフの心と肩を落とすのに一役買っていた。
 そんなやり取りを尻目にオーガたちがいきり立つ。

「何をごちゃごちゃとっ!そこを退けっ!!」

「だぁーっ!もう!うるせぇなぁ!!」

 ラルフは虚空からウィー特製の投げナイフを取り出す。突如握られたナイフに驚きを隠せないオーガたちだったが、所詮はナイフ。鎧を着込んでいる兵士たちには石飛礫いしつぶてと何ら変わりない。
 オーガたちは仲間たちと顔を見合わせて、苦笑しながらラルフを見た。

「これでも食いやがれっ!!」

 ビュンッ

 ラルフは多少力がこもったが、いつものようにナイフを投げる。いつものように正確に、狙った箇所にまっすぐに飛んでいく。
 しかしいつもと違う所があった。それは速度。ラルフの手から放たれたナイフは空気を切り裂き、残像すら残さない。投げる瞬間を見ていたオーガは、叩き落とそうと武器を構えていたが、瞬きの間に目と鼻の先に刃先があった。

 スコンッ

 金属で石を叩いたような軽い音が鳴り響く。一体のオーガの額には、二つの角の真ん中に金属の刃物が深々と刺さっていた。何が起こったのか分からない顔をしていたが、それも束の間、武器を構え、仁王立ちをしていた体がストンと力無く膝から崩れた。

「なっ……!?」

 すぐ真横で絶命する同胞の姿に驚いた。
 ヒューマンから放たれた小さなナイフ。本来なら構えた武器で打ち落としたり、無理なら避けるだろう攻撃。
 万が一当たっても頭蓋骨で止まってしまいそうなヒューマンの一撃が、オーガの頭蓋を割り、絶命させた。
 その光景に驚いたのは何も敵だけではない。ベルフィアたちと後ろで見ていたアンノウンたち、そして当のラルフも驚いていた。

「え?え?どうしちゃったのラルフってば……」

「今ノ投ゲナイフ……相当ナ速度ダッタワ。練習デモシテイタ?ケド、ソレニシテハ成長ガ早過ギル気モ……」

 アンノウンとジュリアが困惑気味に言葉を発する。

「考察なんて後にして。来るわよ」

 ナタリアの言葉に呼応する様に魔族がワッと走り出した。アロンツォはそんな中にあっても余裕の表情でラルフに質問する。

「そなたは下がっていなくて良いのか?」

「……下がってたら戦えないだろ?」

 ラルフはまた虚空からナイフを手の指に挟めるだけ取り出した。タネも仕掛けも分からなかったが、あの威力を見ればそれは些細なことのように思えた。

「……足引っ張んないでよ?」

 ナタリアも多少認めたのか、この危険な中で声をかけてきた。悪い気はしない。そんな時、背後からデュラハン姉妹が飛び出した。

「危ないラルフ!!」

 ガギンッ

 そのうちの二人が前方でラルフに迫る刃物を未然に防いだ。弱いラルフではこのような壁役が居なければ、あっという間に殺されてしまうだろうと思っての行動だ。そしてこの時、一気に乱戦と化した戦場で壁役だったメラとイーファを脇をすり抜けてラルフに魔の手が迫る。
 彼の普段の経験則だと一、二回の攻撃なら何とか避けただろうが、三撃目からは体力の問題や、相手がラルフの動きに慣れるといった問題が浮上する。つまり壁となる味方をすり抜けられた時点で彼の死は免れない。

「しまったっ!ラルフ!!」

 メラは焦る。自分という壁がありながらこの乱戦では巧いこと機能していない。このままではラルフの命は……。
 だが、彼女の心配を他所に、ラルフは迫り来る脅威に対して難なく対応していた。
 オーガの斬撃を避けて、また避けて、時にはダガーナイフで弾いて……まるで戦い自体を探り探りやっているような奇妙な行動に、流石のオーガも気にならざるを得ない。

「チッ!何の真似か知らんが、いつまでも続けられると思ったら大間違いだぞ!!」

 オーガはザッと踏み込む。ラルフに致命の一撃を入れようと振り下ろした長剣は空を切った。

(!?……空振り!?)

 目と鼻の先で調子に乗っていたラルフを完全に見失った。驚愕の眼差しで周りをキョロキョロしていると、何だか自分の首が生暖かいことに気づく。不安に思いながら首に手を触れると、手には真っ赤な血が……その瞬間に首と胴体が泣き別れた。
 ポロっという擬音が聞こえてきそうなほど完璧に切り取られた首は、地面に落ちて物言わぬ肉塊になった。

「あ、あのさ、やっぱ俺……強くなってる!!」

 ラルフは歓喜した。ブレイドとの練習試合で自信を付けたはずだったが、内心不安でいっぱいだった。「試合と本番」は全然違う。練習試合でブレイドと互角に戦ったのだが、ブレイドが無意識に加減をしているものだと思っていた。
 これをもって確信する。自分は「強くなっている」と。

 ラルフたちがその実力を遺憾なく発揮しているのに対し、橙将は苦虫を噛み潰したような顔で前方を睨みつける。

(くそっ!忌々しい奴らめ……大人しく吾らを撤退させれば良いのに……)

 これでは態勢を立て直すどころでは無い。

 橙将は薙刀を構える。そろそろ身の程をわきまえさせる時が来たようだ。とりあえずラルフを殺そうと動き始めるが、背後の部下が鉄板のように分厚い大剣に真っ二つにされた。
 ズドンッという音が聞こえ、振り返ると、竜魔人との戦いでかなりダメージを受けたガノンが目をギラつかせながら立っていた。

「き……貴様っ……!」

「へへ……逃がさねぇよ?……せっかくだからこっちからも攻撃することにしたぜ。要は挟み撃ちだな。一匹残らず狩り尽くしてやるよぉ……」

 正孝とガノンはここぞとばかりに攻撃を開始した。
 ラルフたちの猛攻で数の優位が強い個体に押され、着々と劣勢に立たされていく魔族サイド。業を煮やした橙将は竜胆に手を出した。

「……もう良い。吾らの出番だ。打って出るぞティアマト」

「分かっ……た」

 傍観を決め込んでいた魔王がとうとう参戦する。

 終戦の要、魔王戦開幕。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

処理中です...