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第九章 頂上
第十七話 攻撃的で圧倒的
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攻略法。そんなものが本当に必要なのかは疑問が残る。
ミーシャにかかれば、円卓古参の群青を持ってして「相手にせんほうがええ……」と言わしめた怪物もこの通りのザマとなる。顔の至る所が傷つき、血を吹き出し、牙も折れている。
しかし、ミーシャも例外ではない。手足がジンジンと痺れるほどの痛みを覚えている。
相手の体力がどの程度あるのか疑問である以上、このまま単純に殴り続ければ、蓄積されたダメージがいずれ何かしらの体の異常を訴え出す可能性を秘めいている。動けなくなった時にあの質量の攻撃を受ければ、ミーシャとて無事に済まない。
このままノックアウトまで持っていければ良し、出来なければ……そういう考えがほんの一握りでも浮かぶということは、いつもと違って勝敗が分からないということ。
こんな風に考えるのも、魔力砲でダメージのほとんど通らない魔獣に出会ったのはこれが初めてである為だ。
脳筋のミーシャは初めて考えた。魔力が通じない相手に自分の拳や足を傷つけない方法を。
グゴゴォ……
サイクロプスはミーシャを叩き潰す為に体を起こそうと動き出す。自重と星の重力の関係でゆっくりと上体を起こしていく。これを放置すれば完全に立たれて仕切り直しとなってしまう。追撃を仕掛けるのは今ここだ。
シュンッ
ミーシャはグレートロックのすぐ側の山に向かう。岩山の頂上をバゴンッという音と共に切り取った。それをサイクロプスが起き上がろうとする顔の上に持っていく。
「これが私の答えだ!」
ガゴォンッ
ミーシャのサイクロプスに対する攻略法。それは自分以外の何かでぶん殴るということ。
ミーシャは脳筋だった。
岩で顔をぶん殴られたサイクロプスはあまりの威力に、後頭部を地面に打ち付けた。だがこの程度で倒せるはずも無く、巨人はまだまだ元気だ。尚も体を起き上がらせようとしている。
そしてミーシャもこの程度では終わらない。そこかしこに乱立している岩山の先っぽを片端から切り取る。それを一つずつ順番に取ってきてはサイクロプスの顔面にぶつけていく。上体を起こそうとする度に雪崩の如く岩をぶつける。
「……オオオオォ……!!」
その内、業を煮やしたサイクロプスが吠える。何も出来ずに無様に埋められていく最強の巨人。
ミーシャも顔ばかりでなく、上体を起こそうとする腕や、気張ろうとする足にも岩をぶつけ始めた。辺り一帯の尖った岩山が丸く変形した頃、サイクロプスは活動を停止した。
「……流石に疲れたかな?」
岩を運ぼうとしていたが、埋まったまま動かない巨人を見て岩を置いた。このまま攻撃を続けていればいずれ死にそうではあるが、絶対の確証が持てないミーシャは他の方法も考えることにした。
「……うーん……あっちは今どうなってるかな?」
*
「……やっと治ったか?」
地震、地鳴りが起こる度に中断させられていた戦争は、ようやく再開の目処が立つ。
「……たくよぉ……こちとら人間様だぜぇ?神様の戦いに巻き込むんじゃねぇよ」
ガノンは橙将との一騎打ちの為に大剣を肩に担いだ。それに呼応するように橙将は見下したような視線でガノンを見下ろす。
「……よぉ魔王さん、聞いても良いか?」
「何だ?」
「……一応よぉ、あれは同じ魔王なんだろ?随分と力の差があるみてぇだが、本当に同じ魔王だったのかよ?」
その挑発に苛立ちを覚える。ギロッと睨みつけ、口角と眉毛をひくつかせていた。すぐ側に立つ竜胆に目配せをすると、ガッと頭を持った。
「面倒な連中だ。竜胆よ。貴様の意識を一部覚醒させ、戦えるようにしてやる。存分に暴れろ」
ビクンッ
竜胆の体が跳ねる。「かっ……!」と口から溢れでる声が痛々しく見えた。虚ろだった目に光が戻り、橙将が手を離すとガクッと地面に手をついた。
「はぁ……はぁ……こ、ここは……?」
ずっと寝ていたような気怠さを感じながらようやく覚醒し、目を凝らして周りを見渡す。既に多くの戦死者を出している戦場の真っ只中、変わり果てた同胞たちの姿もあった。
「何が……起きたの?」
「ぼーっとするな。敵はすぐそこにいる。立って戦え」
橙将は竜胆の腕を掴むと、グイッと立たせた。その手を振り払うと橙将を睨みつける。
「橙将……私に何をした!」
憤慨し、今にも襲いかかってきそうな竜胆に手をかざす。
「説明は後だ。今は戦争に集中しろ」
「……そう……ね。今はあいつらを殺すのが先……」
バッと振り返って敵を探す。その瞳に映ったのは円卓の場に姿を現し、挑発しまくっていたラルフの姿だった。殺すべき相手を見つけた竜胆の動き出しは早い。足の筋肉が盛り上がると、伸ばすと同時に地面を抉り、飛ぶように移動を開始した。
その様子を端から見ていたガノンと正孝は不思議そうに質問する。
「おいおい、何だ今の?野郎、催眠術とか使えんのか?」
「……ああ、なんかすっげぇヤバい感じだったぜ。そうやって女を手篭めにして、手前ぇは楽しいのかよ?」
橙将としても色々言いたいことがあったが、敢えて何も言わずに薙刀をビュンビュン振り回した。刀身が見えなくなるほどの速度に正孝は息を飲む。そんな正孝の肩をポンポンっと叩いてガノンが前に出た。
「……こいつは俺がやる。手前ぇはドワーフどもを助けてやれ」
大剣を自分の腕のように振り回し、橙将の前に立つ。
「ふんっ、そんな体で吾に勝つつもりか?」
「……丁度良いハンデだ。手前ぇに万全で挑んだら簡単すぎて可哀想ってもんだ」
「度胸は買ってやる。その度胸に免じて確実に息の根を止めてやろう」
両者武器を構えて静止する。僅かな睨み合いの後、フッと姿が消えた。
ガキンッギギギギッガキガキンッ
金属同士が連続でぶつかり合う音が鳴り響き、音が鳴る度に衝撃波が発生する。誰も近寄ることの出来ない凄まじい剣戟。
ギィンッ
一際大きな金属音の後、両者に間合いが生まれる。橙将はガノンの実力に感心した。
「なるほど、強い男だ。竜魔人二体を倒したのは伊達ではない。こんな状況でもなければ欲しい戦士だ」
「……そりゃどうも……魔族に使われる気はサラサラねぇがな……」
両者互角の戦いを見せる中、竜胆がラルフに迫る。それぞれがそれぞれで忙しい戦いを繰り広げるその瞬間を狙って、目にも留まらぬ速さで接近する。ラルフは普通の人間。ミーシャが不在な今、ここで確実に捻り潰せる。
「……!?」
しかし、その竜胆の考えはラルフと目が合った瞬間に改める。
ラルフは近付いてくる敵に間髪入れずにナイフを投げる。竜胆は飛んできたナイフを当たる直前で難なく受け止めた。それと同時に足を止めさせられ、5mほどの間合いで睨み合うことになった。
「お、お前っ……私の動きが見えて……!?」
「あっお前は円卓の会場にいたな。名前は何だったっけ?」
受け止めたナイフをその辺に投げながらバッと構える。
「我が名は第四魔王”竜胆”よ!ラルフ!!お前の命、貰い受ける!!」
「ああ、そういえば……”紫炎”の代わりだったっけ?」
その問いに「キシャアッ!!」と威嚇が帰ってきた。ラルフは右手にダガーナイフ、左手に投げナイフを装備して腰を落とす。
「……俺の命が欲しい、か?答えはこうだ……死んでも嫌なこった」
ミーシャにかかれば、円卓古参の群青を持ってして「相手にせんほうがええ……」と言わしめた怪物もこの通りのザマとなる。顔の至る所が傷つき、血を吹き出し、牙も折れている。
しかし、ミーシャも例外ではない。手足がジンジンと痺れるほどの痛みを覚えている。
相手の体力がどの程度あるのか疑問である以上、このまま単純に殴り続ければ、蓄積されたダメージがいずれ何かしらの体の異常を訴え出す可能性を秘めいている。動けなくなった時にあの質量の攻撃を受ければ、ミーシャとて無事に済まない。
このままノックアウトまで持っていければ良し、出来なければ……そういう考えがほんの一握りでも浮かぶということは、いつもと違って勝敗が分からないということ。
こんな風に考えるのも、魔力砲でダメージのほとんど通らない魔獣に出会ったのはこれが初めてである為だ。
脳筋のミーシャは初めて考えた。魔力が通じない相手に自分の拳や足を傷つけない方法を。
グゴゴォ……
サイクロプスはミーシャを叩き潰す為に体を起こそうと動き出す。自重と星の重力の関係でゆっくりと上体を起こしていく。これを放置すれば完全に立たれて仕切り直しとなってしまう。追撃を仕掛けるのは今ここだ。
シュンッ
ミーシャはグレートロックのすぐ側の山に向かう。岩山の頂上をバゴンッという音と共に切り取った。それをサイクロプスが起き上がろうとする顔の上に持っていく。
「これが私の答えだ!」
ガゴォンッ
ミーシャのサイクロプスに対する攻略法。それは自分以外の何かでぶん殴るということ。
ミーシャは脳筋だった。
岩で顔をぶん殴られたサイクロプスはあまりの威力に、後頭部を地面に打ち付けた。だがこの程度で倒せるはずも無く、巨人はまだまだ元気だ。尚も体を起き上がらせようとしている。
そしてミーシャもこの程度では終わらない。そこかしこに乱立している岩山の先っぽを片端から切り取る。それを一つずつ順番に取ってきてはサイクロプスの顔面にぶつけていく。上体を起こそうとする度に雪崩の如く岩をぶつける。
「……オオオオォ……!!」
その内、業を煮やしたサイクロプスが吠える。何も出来ずに無様に埋められていく最強の巨人。
ミーシャも顔ばかりでなく、上体を起こそうとする腕や、気張ろうとする足にも岩をぶつけ始めた。辺り一帯の尖った岩山が丸く変形した頃、サイクロプスは活動を停止した。
「……流石に疲れたかな?」
岩を運ぼうとしていたが、埋まったまま動かない巨人を見て岩を置いた。このまま攻撃を続けていればいずれ死にそうではあるが、絶対の確証が持てないミーシャは他の方法も考えることにした。
「……うーん……あっちは今どうなってるかな?」
*
「……やっと治ったか?」
地震、地鳴りが起こる度に中断させられていた戦争は、ようやく再開の目処が立つ。
「……たくよぉ……こちとら人間様だぜぇ?神様の戦いに巻き込むんじゃねぇよ」
ガノンは橙将との一騎打ちの為に大剣を肩に担いだ。それに呼応するように橙将は見下したような視線でガノンを見下ろす。
「……よぉ魔王さん、聞いても良いか?」
「何だ?」
「……一応よぉ、あれは同じ魔王なんだろ?随分と力の差があるみてぇだが、本当に同じ魔王だったのかよ?」
その挑発に苛立ちを覚える。ギロッと睨みつけ、口角と眉毛をひくつかせていた。すぐ側に立つ竜胆に目配せをすると、ガッと頭を持った。
「面倒な連中だ。竜胆よ。貴様の意識を一部覚醒させ、戦えるようにしてやる。存分に暴れろ」
ビクンッ
竜胆の体が跳ねる。「かっ……!」と口から溢れでる声が痛々しく見えた。虚ろだった目に光が戻り、橙将が手を離すとガクッと地面に手をついた。
「はぁ……はぁ……こ、ここは……?」
ずっと寝ていたような気怠さを感じながらようやく覚醒し、目を凝らして周りを見渡す。既に多くの戦死者を出している戦場の真っ只中、変わり果てた同胞たちの姿もあった。
「何が……起きたの?」
「ぼーっとするな。敵はすぐそこにいる。立って戦え」
橙将は竜胆の腕を掴むと、グイッと立たせた。その手を振り払うと橙将を睨みつける。
「橙将……私に何をした!」
憤慨し、今にも襲いかかってきそうな竜胆に手をかざす。
「説明は後だ。今は戦争に集中しろ」
「……そう……ね。今はあいつらを殺すのが先……」
バッと振り返って敵を探す。その瞳に映ったのは円卓の場に姿を現し、挑発しまくっていたラルフの姿だった。殺すべき相手を見つけた竜胆の動き出しは早い。足の筋肉が盛り上がると、伸ばすと同時に地面を抉り、飛ぶように移動を開始した。
その様子を端から見ていたガノンと正孝は不思議そうに質問する。
「おいおい、何だ今の?野郎、催眠術とか使えんのか?」
「……ああ、なんかすっげぇヤバい感じだったぜ。そうやって女を手篭めにして、手前ぇは楽しいのかよ?」
橙将としても色々言いたいことがあったが、敢えて何も言わずに薙刀をビュンビュン振り回した。刀身が見えなくなるほどの速度に正孝は息を飲む。そんな正孝の肩をポンポンっと叩いてガノンが前に出た。
「……こいつは俺がやる。手前ぇはドワーフどもを助けてやれ」
大剣を自分の腕のように振り回し、橙将の前に立つ。
「ふんっ、そんな体で吾に勝つつもりか?」
「……丁度良いハンデだ。手前ぇに万全で挑んだら簡単すぎて可哀想ってもんだ」
「度胸は買ってやる。その度胸に免じて確実に息の根を止めてやろう」
両者武器を構えて静止する。僅かな睨み合いの後、フッと姿が消えた。
ガキンッギギギギッガキガキンッ
金属同士が連続でぶつかり合う音が鳴り響き、音が鳴る度に衝撃波が発生する。誰も近寄ることの出来ない凄まじい剣戟。
ギィンッ
一際大きな金属音の後、両者に間合いが生まれる。橙将はガノンの実力に感心した。
「なるほど、強い男だ。竜魔人二体を倒したのは伊達ではない。こんな状況でもなければ欲しい戦士だ」
「……そりゃどうも……魔族に使われる気はサラサラねぇがな……」
両者互角の戦いを見せる中、竜胆がラルフに迫る。それぞれがそれぞれで忙しい戦いを繰り広げるその瞬間を狙って、目にも留まらぬ速さで接近する。ラルフは普通の人間。ミーシャが不在な今、ここで確実に捻り潰せる。
「……!?」
しかし、その竜胆の考えはラルフと目が合った瞬間に改める。
ラルフは近付いてくる敵に間髪入れずにナイフを投げる。竜胆は飛んできたナイフを当たる直前で難なく受け止めた。それと同時に足を止めさせられ、5mほどの間合いで睨み合うことになった。
「お、お前っ……私の動きが見えて……!?」
「あっお前は円卓の会場にいたな。名前は何だったっけ?」
受け止めたナイフをその辺に投げながらバッと構える。
「我が名は第四魔王”竜胆”よ!ラルフ!!お前の命、貰い受ける!!」
「ああ、そういえば……”紫炎”の代わりだったっけ?」
その問いに「キシャアッ!!」と威嚇が帰ってきた。ラルフは右手にダガーナイフ、左手に投げナイフを装備して腰を落とす。
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