一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

文字の大きさ
330 / 718
第九章 頂上

第二十話 抗えぬ差

しおりを挟む
(どういう体だ?)

 橙将は薙刀を高速で扱いながらガノンと相対する。金属同士が連続でかち合う耳をつんざくような音が延々と鳴り続ける。
 生まれながらにあらゆる面で格が違うはずのオーガ族。その攻撃をほとんど完璧に防ぎきる、ヒューマンであるはずの彼の身体能力に瞠目せざるを得ない。疲れていなければ本当に魔王である自分を倒していたかもしれない。

 シュピッシュピッ

 攻撃の合間合間にガノンの防御をすり抜けて切り傷を与える。深くはない。薄皮一枚程度のかすり傷だ。
 だが、橙将の薙刀には毒が仕込んである。体を動けなくするような麻痺毒だ。かなり強力な毒なのだが、ガノンはなんとも無いように動き続ける。最初のかち合いから数えて四撃目には既に斬りつけて毒を注入しているというのに、六十数回に渡る剣戟の嵐に難なく付いてくる。
 ただそれでもガノンが攻撃に転じる回数は徐々に減ってきている。毒が効いている証拠なのだろうが、それにしては動きすぎだろう。

 ギンッ

 薙刀を大ぶりに振り抜き、それに合わせてガノンも大剣を振る。かち合った衝撃波は、周りにかまいたちを発生させ、橙将とガノン以上に周りに被害が及んだ。近くで戦っていたドワーフや魔族に切り傷を与えて地面がめくれ上がる。
 両者後ろに後退しながら間合いを開けた。
 橙将は表情こそ変わっていないが、肩で息をしている。久々に動いたのが無駄な体力消費に響いたようだ。細く長い息を吐いて少し落ち着きを取り戻す。
 対するガノンは大剣を杖代わりに傷だらけの体を支える。ゼーゼー言いながら呼吸を整えるのに必死といった様子である。橙将から離れたのは体力回復の為だった。

「貴様のような戦士がこの世に生を受けていたとは……全く驚かされる。長生きはしてみるものだな」

 ガノンはいつもの減らず口を閉じて、じっと橙将を睨みつける。

(……こいつ……銀爪に比べりゃ弱ぇ……弱ぇけど堅実だ。技術の面では確実にこいつの方が上……)

 目だけで辺りを見渡す。竜魔人に叩き潰されるドワーフの姿が見えた。正孝が何とか抑えようと必死だが、完璧には抑え込めていない。
 後からやってきたラルフ一行が竜魔人の王と戦っているが、決着はまだ付いてないようだ。出来れば周りの雑魚どもの相手を任せたいところだが、そういう訳にもいかないだろう。ガノンは自嘲気味に笑う。

「……へっ……情けねぇな……ちょっと疲れたからってこんな雑魚一匹の首を取れねぇなんてよぉ……」

 くぐもった声で呟いたが、耳の良い橙将には問題なく届いた。

「くくっ言うではないか。貴様の実力……認めぬ訳ではないが、吾を雑魚呼ばわり出来るほどの腕はない。そろそろ限界が近いのではないかな?」

「……ぬかせ」

 ガノンは大剣を持ち上げようと腕に力を込めた。

 ガクンッ

 足に力が入らず、剣にもたれる。

「……何だ……?」

「遅かったな。その体躯で良くぞここまで耐え切った。普通なら臓器の活動を停止していてもおかしくないと言うのに……」

 死んでない方が可笑しいとするほどの強力な毒物にガノンは着実に蝕まれていた。特異体質レベルの彼の体だったが、橙将の言うようにここが限界だった。

「……毒か……刃先に毒を仕込んで……切りつける度に……」

「その通りだ」

 つまりこの会話も橙将に仕組まれていた可能性が高い。止まらず動いていれば、あの勢いのまま戦えていたかもしれない。逆にじっと立ち止まることでジワジワと浸透し、この結果を招いたのだと直感する。

「……へへっ……色んな戦い方があるけどよぉ……手前ぇ本当に魔王かぁ?姑息にもほどがあんだろ……」

「褒め言葉と受け取ろう。……どうする?このまま続けるか、それとも黙って息絶えるか」

「……決まってらぁ……手前ぇを……」

 そこまで言って限界がきた。ガノンは白目を剥いて剣に体を預けたまま気絶した。

「本当に惜しいな。これほどの武人を吾が手で葬らねばならんとは……」

 剣戟を奏でる戦場。大振りの薙刀を振り回し、ガノンの首を取る為に悠々と歩く。
 ガノンが生を享受する最後の数秒。橙将としては誰かに邪魔して欲しいと思うほどに彼の能力を気に入っていた。久しく会えなかった好敵手。この場で散らすには惜しいと本気で思っていたが、この場の士気向上と今後の戦争の為、生かして良い人材では決してない。
 橙将の葛藤虚しく、ガノンの目の前までやってきた。ここで一太刀浴びせれば間違いなく首が落ちる。誰も邪魔しなかった不幸を呪い、彼は薙刀を振りかぶった。

 ザッパァンッ

 瞬間、津波のような水量が戦場に流れ込んだ。

「……なっ!?」

 誰かがガノンの為に声を上げることを望んだ。誰かがこの薙刀を受け止めることを望んだ。誰かが彼の身代わりになることを望んだ。何でも良いからガノンが死ぬ結末を回避して欲しいと願った。それは確かだ。

 しかし、突然の津波がこの戦いを洗い流すなど夢にも思わない。

 思っても見なかった状況に困惑したが、波に攫われそうになった足を地面に突き刺し、何とか耐えることに成功する。ガノンはといえば、あまりの波の勢いに押されて、軽々と流されてしまった。本人が気絶していることも大きな要因だったろう。
 波が引くと、いきなりのこと過ぎて水を飲んでしまった者たちがせて地面に伏している。一体何が起こったのかをその目で確認する。

「……何だ……あの魔獣は?」

 橙将が生きてきた長い歴史の中で、全く見たこともない生き物をその目に宿した。
 この世界には海の人間に魚人族マーマン人魚マーメイドが存在する。目の前の生物を一見すればただのマーメイドだが、全てが真っ青で、広大な海を連想させる神秘的な存在感を放っている。見た瞬間に人ではないと看破したが、ならば魔獣かと言われれば首を捻る。とにかく思いも寄らない何かが、人族に加勢しているのは間違いない。

 その存在に相対しているのは竜胆。体から煙のような蒸気が上がっている。まるで火を消し止められたような姿に、何故か不安を覚える。竜魔人の火に対する耐性は灼赤大陸でも一、二を争うレベル。消化後のような姿を鑑みるに、火を纏っての攻撃を仕掛けていたが、良く分からない怪物に特殊な水を大量にかけられて攻撃手段の一つを失ったとみるのが早い。

 チラッとガノンを確認する。ぶっ倒れて伸びている様は滑稽だったが、それ以上の感情はもはや湧かなかった。

「……殺すまでもない」

 念願叶った橙将は踵を返してウンディーネに向かう。背後ではガノンを心配し、声を掛ける正孝の声が響いていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

処理中です...