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第九章 頂上
第二十五話 感性の違い
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「はぁ……はぁ……」
流石に疲れたドゴールが肩で息をしながら大槌を地面に下ろした。ズンッとめり込んだ槌は相当な重量であることが分かる。
疲れた腕を休めながら辺りを見渡すと、魔獣もオーガもドワーフも一切の区別なく地面のシミとなっていた。兵士として駆り出されたドワーフたちは魔族の四分の一にも満たなかったが、地形と白の騎士団に助けられ、生存している数はこちらの方が若干多い。事実上の勝利と言っても過言ではない。
後は水路側を守っていたアウルヴァングと合流すれば難なく片付けることが出来るだろう。間も無く呼びに行った部下が戻って来ても良い頃合いだ。
(魔王は……ガノン殿が滅ぼしたのか?)
一番の懸念であった魔王の姿は結局拝むことはなかった。戦いたいとはこれっぽっちも思わなかったが、万が一にも魔王を見逃し、故郷に侵入されていたら事である。出来る事なら息の根を止めておいて欲しいところだが、ガノンが気絶している今、その答えは闇の中だ。
万が一に備えてグレートロックにも部下を走らせたが、まだ帰ってこない。焦燥感が押し寄せる。アウルヴァングと合流出来れば多少余裕も出来るのだろうが……。
「……いや、鋼王の事だ。既に退避しているだろう……」
そう願う他ない。後少し休んだら行動を開始しようと考えたその時、
ビュルルル……ビシィッ
大凡聞いたこともない音がドゴールの耳を掠めた。音の方向に目を向けると、黒い縄が一箇所に集まった部下たちの体に纏わりついていた。何とも不思議な光景に訝しむと、次の瞬間一気に縄が縮小し、ベキッゴキッバキッと乾いた音が鳴り響いた。
オーガや魔獣にも勝利した部下たちは見るも無残な姿となり、その功労に見合わぬ非業の死を遂げた。背筋に流れる汗が冷たく感じたが、それ以上に頭に上った血はドゴールの顔を醜く歪ませた。全身の筋肉が隆起し、先ほどまで疲れていたはずの腕は瞬く間に回復して大槌を天高く振り上げた。
ミギッ
力いっぱい握った事で柄と皮膚が擦り合わさる音は、言葉以上に怒りを表していた。崩れ落ちる亡骸の壁の隙間から見えた女の笑顔はドゴールを捨て身にさせるのに一役買った。
「貴様らぁ!!」
ゴバァッ
地面を抉り掘るような踏み込みに、いつもは重い体も弾丸のように飛行した。滑空する砲弾のような男を、四人全員の目が捉えた。
「ほう……少しはやる奴が来た」
獅子の如く威圧感溢れる男が前に出た。腰に下げた曲剣がキラッと光を反射させる。
「ぬっ!?」
全身に感じる怖気。間合いに入れば真っ二つになる幻視がチラついた。持ち手を離し、大槌をその勢いのまま放り投げた。それを読んでいたように男は曲剣を抜き払った。
バッ
振るわれた剣の軌道が光となって飛んできた大槌を通った。何もかも粉砕し、押し潰してきた無骨な金属の塊は、バラバラと小さな塊となって散らばった。
「何という鋭き曲剣か!?」
「……曲剣?これは刀という代物で、名は”炎熱”。かの”童子切安綱”とも比肩し得る名刀だ。呪物ゆえ美しさには欠けるが……」
「刀……炎熱……」
その斬れ味に固唾を吞む。男は刀を腰に下げた鞘に仕舞い、あご髭を撫で上げた。
「危機察知能力は他の者とは頭一つ抜きん出ているな……小さき巨人よ、名を聞こう」
「……俺の名はドゴール。この国の将軍であり、白の騎士団の一翼を担う戦士だ」
「白の騎士団?えーっと……確か人族が誇る最強の戦士だ何だって言ってなかったっけ?あのおじさん」
女は伸ばした鞭を巻き取りながら何でもないように男に尋ねる。ビシャビシャと巻き取るたびに血が舞い散り、地面を汚す。それを見て奥歯を噛みしめる。
「うむ、マクマインの奴に聞いたな。なるほど、このような小さき種族にも等しく居るということか」
「マクマイン……だと?貴様ら……かの御仁と関わりがあるのか?」
イルレアンのマクマイン公爵といえば、武勇で知られる剣客。将軍として幾度も戦場に出陣し、その度に勝利をもぎ取る英傑。知名度で言えば人族でも一、二を争う御方が関わっているとは、一体どういうことなのか?
「……ふむ、申し遅れた。我が名はロングマン。ドゴールよ、ここであったのも何かの縁。ちと死合おうではないか」
ロングマンは腰に下げた刀に右手を添える。今にも刃を抜きそうな殺気に後ずさりした。
「あのさ。水を差すようで悪いんだけど、これじゃ戦いにもならないんじゃない?」
先ほどドゴールの大槌を粉々に切り裂いておきながら、武器もない戦士と死合おうとなど弱い者いじめである。強者に出会った喜びからそのことを失念していたロングマンは刀から手を離した。
「ふむ……それもそうか……」
ガッカリした様子であご髭を撫でた。戦場をただの遊び程度にしか考えていない彼らの言動に怒りを覚えた。
「貴様ら……!」
何か言ってやろうと口を開きかけたが、その時信じられないものが目に飛び込んだ。
バギギギィンッガギンッギィンッ
巨大な男とヒューマンの目にも留まらぬ攻撃の応酬。連続して聞こえる音と、一瞬見える静止した姿。桁違いの攻防はドゴールを持ってして驚愕という他ない。
「全く羨ましいことだ。我も強者と死合いたいものだが……」
ポツリと漏らした願望に応えられるのはこの場ではドゴールだけだろう。しかしドゴールとて武器がなければどうしようも無い。部下の死の前で何も出来ない自分に歯噛みし、怒りや憎しみを奥歯で噛み潰す。
「おーいドゴールっ!」
聞いた声が響き渡る。その声の主を探すと、すぐに目に映った。ドワーフの誇る最高の鎧を着込み、斧を振りかざした男。白の騎士団が一人、嵐斧のアウルヴァング。
「アウルヴァング!!」
ドゴールの声に違和感を覚えた。長年共に戦ってきたからこそ分かる知己の必死な呼びかけに、何か不味い状態だと教えてくれた。訝しみながらすぐ側のヒューマンたちに目を向ける。
「こりゃぁ……また一杯奢ってもらうかのぅ」
その敵意にロングマンたちも気づいた。
「……念願叶ったり」
*
「そなたらすぐにここを出て行け!」
アスロンはスカイ・ウォーカーに侵入してきたテノス、トドット、ノーンの三人に向かって退出を命令した。突然現れたおじいさんに三人、特にトドットは興味津々に話しかける。
「まぁまぁ、平に平に……この船の乗組員とお見受けする。船長と話がしたいのだが、おぬしが船長かな?」
「船長?いや、違う。儂はこの要塞の制御を担うアスロンという者。話し合いを希望するというなら儂が受けよう。何用でこの要塞に侵入した?」
「あぁん?言い方が悪いなぁ爺さん。俺らは客だぜ?もてなしてくれても良くないかなぁ?」
テノスは脅すような気概で声を低く唸らせる。
「……それあんたがやっても全然怖くないよ」
ノーンは横からツッコむ。「は?怖ぇし!」と粋がっているが、まだまだ十代の小僧感が拭えない。ブレイドやアルルよりもいくつか年下だろう。
「実はこの要塞が気に入ってな。譲って欲しいと思っておるのじゃ。とは言え儂らは金を持ってなくてのぅ……言い値で払うとかそういうことは出来ん。平和的解決で行きたいところじゃが、そうなると長の善意に任せる他ない……これはちょっと考えにくいのぅ」
「……儂らは当然断るが、そうくると力尽くで奪うと?」
「そういうことだよ。つーことで出てってもらえるかな、この世から」
テノスはいうが早いか、腕に付けた魔道具から魔力弾を発射する。狙い通りにアスロンに直撃した、はずだった。魔力弾はアスロンの体を通り過ぎて壁に当たった。
「……は?」
何の冗談か攻撃が当たらなかったことに不満を覚え、とにかく魔力弾を撃ちまくる。
ドドドドド……
連射に次ぐ連射はせっかくの要塞を壊す勢いだった。現に壁に大きな風穴が開く。
「おいテノス!!やめろ!調子に乗りすぎじゃ!!」
トドットの静止にようやく撃つのをやめる。さっきまで立っていたアスロンはいなくなっていた。
「何やったか知らないけどおちょくりやがって!お陰で大穴が開いちまったじゃないか!」
苛立ちながら舌打ちを打つ。
「ま、良いんじゃない?後で修繕すればさ」
「……それには労働力と資材が必要じゃぞ?そなたたち金が無いんじゃなかったか?」
三人の背後からアスロンの声が聞こえる。ハッとして振り向くと、無傷のアスロンが立っているではないか。
「じ、爺ぃ……どうやって……」
こめかみの辺りに血管をピクピクと浮かせながら怒りを抑える。トリックのタネは分からないが、おちょくられているのだけは分かる。
それを見かねたノーンが目にも留まらぬ速さでアスロンの間合いに入り、瞬時に槍で腹を突いた。
「……?」
感触が全く無い。どころか実体がない。
「ホログラム?」
「速いのぅ……」
この要塞に無傷で侵入したので強者であることは分かっていたが、アスロンの想定以上だった。もう少しバレずにおちょくれると考えていただけにこれは痛手だ。
「んだよそれ!本体は別に居んのかよ!騙されたぜ!!」
地団駄を踏むテノス。
「実体がなければ攻撃は出来まいて。そうと分かれば本体を探すとしよう」
トドットの意見に賛成だった。三人はアスロンを無視して先に進もうとする。
「ふむ、確かに実体が無ければ攻撃は出来ん……」
「ん?ああ、当然だよな」
テノスは反射的にその言葉に返答した。その時、アスロンの体が一瞬光った気がした。
バチィンッ
何が起こったのか分からなかった。突然テノスの顔面に電撃が走った。顔から煙を出しながら背後に倒れる少年。
「何っ!?」
バッと翻って構える。アスロンの背後から女性が姿を現した。エレノアは電撃を放った指に息を吹き掛けてニヤリと笑った。
「でもぉ私は攻撃出来る。呼んでもないのにぃ土足で侵入する悪い子はぁ”昇天の刑”に処しちゃうぞぉ」
流石に疲れたドゴールが肩で息をしながら大槌を地面に下ろした。ズンッとめり込んだ槌は相当な重量であることが分かる。
疲れた腕を休めながら辺りを見渡すと、魔獣もオーガもドワーフも一切の区別なく地面のシミとなっていた。兵士として駆り出されたドワーフたちは魔族の四分の一にも満たなかったが、地形と白の騎士団に助けられ、生存している数はこちらの方が若干多い。事実上の勝利と言っても過言ではない。
後は水路側を守っていたアウルヴァングと合流すれば難なく片付けることが出来るだろう。間も無く呼びに行った部下が戻って来ても良い頃合いだ。
(魔王は……ガノン殿が滅ぼしたのか?)
一番の懸念であった魔王の姿は結局拝むことはなかった。戦いたいとはこれっぽっちも思わなかったが、万が一にも魔王を見逃し、故郷に侵入されていたら事である。出来る事なら息の根を止めておいて欲しいところだが、ガノンが気絶している今、その答えは闇の中だ。
万が一に備えてグレートロックにも部下を走らせたが、まだ帰ってこない。焦燥感が押し寄せる。アウルヴァングと合流出来れば多少余裕も出来るのだろうが……。
「……いや、鋼王の事だ。既に退避しているだろう……」
そう願う他ない。後少し休んだら行動を開始しようと考えたその時、
ビュルルル……ビシィッ
大凡聞いたこともない音がドゴールの耳を掠めた。音の方向に目を向けると、黒い縄が一箇所に集まった部下たちの体に纏わりついていた。何とも不思議な光景に訝しむと、次の瞬間一気に縄が縮小し、ベキッゴキッバキッと乾いた音が鳴り響いた。
オーガや魔獣にも勝利した部下たちは見るも無残な姿となり、その功労に見合わぬ非業の死を遂げた。背筋に流れる汗が冷たく感じたが、それ以上に頭に上った血はドゴールの顔を醜く歪ませた。全身の筋肉が隆起し、先ほどまで疲れていたはずの腕は瞬く間に回復して大槌を天高く振り上げた。
ミギッ
力いっぱい握った事で柄と皮膚が擦り合わさる音は、言葉以上に怒りを表していた。崩れ落ちる亡骸の壁の隙間から見えた女の笑顔はドゴールを捨て身にさせるのに一役買った。
「貴様らぁ!!」
ゴバァッ
地面を抉り掘るような踏み込みに、いつもは重い体も弾丸のように飛行した。滑空する砲弾のような男を、四人全員の目が捉えた。
「ほう……少しはやる奴が来た」
獅子の如く威圧感溢れる男が前に出た。腰に下げた曲剣がキラッと光を反射させる。
「ぬっ!?」
全身に感じる怖気。間合いに入れば真っ二つになる幻視がチラついた。持ち手を離し、大槌をその勢いのまま放り投げた。それを読んでいたように男は曲剣を抜き払った。
バッ
振るわれた剣の軌道が光となって飛んできた大槌を通った。何もかも粉砕し、押し潰してきた無骨な金属の塊は、バラバラと小さな塊となって散らばった。
「何という鋭き曲剣か!?」
「……曲剣?これは刀という代物で、名は”炎熱”。かの”童子切安綱”とも比肩し得る名刀だ。呪物ゆえ美しさには欠けるが……」
「刀……炎熱……」
その斬れ味に固唾を吞む。男は刀を腰に下げた鞘に仕舞い、あご髭を撫で上げた。
「危機察知能力は他の者とは頭一つ抜きん出ているな……小さき巨人よ、名を聞こう」
「……俺の名はドゴール。この国の将軍であり、白の騎士団の一翼を担う戦士だ」
「白の騎士団?えーっと……確か人族が誇る最強の戦士だ何だって言ってなかったっけ?あのおじさん」
女は伸ばした鞭を巻き取りながら何でもないように男に尋ねる。ビシャビシャと巻き取るたびに血が舞い散り、地面を汚す。それを見て奥歯を噛みしめる。
「うむ、マクマインの奴に聞いたな。なるほど、このような小さき種族にも等しく居るということか」
「マクマイン……だと?貴様ら……かの御仁と関わりがあるのか?」
イルレアンのマクマイン公爵といえば、武勇で知られる剣客。将軍として幾度も戦場に出陣し、その度に勝利をもぎ取る英傑。知名度で言えば人族でも一、二を争う御方が関わっているとは、一体どういうことなのか?
「……ふむ、申し遅れた。我が名はロングマン。ドゴールよ、ここであったのも何かの縁。ちと死合おうではないか」
ロングマンは腰に下げた刀に右手を添える。今にも刃を抜きそうな殺気に後ずさりした。
「あのさ。水を差すようで悪いんだけど、これじゃ戦いにもならないんじゃない?」
先ほどドゴールの大槌を粉々に切り裂いておきながら、武器もない戦士と死合おうとなど弱い者いじめである。強者に出会った喜びからそのことを失念していたロングマンは刀から手を離した。
「ふむ……それもそうか……」
ガッカリした様子であご髭を撫でた。戦場をただの遊び程度にしか考えていない彼らの言動に怒りを覚えた。
「貴様ら……!」
何か言ってやろうと口を開きかけたが、その時信じられないものが目に飛び込んだ。
バギギギィンッガギンッギィンッ
巨大な男とヒューマンの目にも留まらぬ攻撃の応酬。連続して聞こえる音と、一瞬見える静止した姿。桁違いの攻防はドゴールを持ってして驚愕という他ない。
「全く羨ましいことだ。我も強者と死合いたいものだが……」
ポツリと漏らした願望に応えられるのはこの場ではドゴールだけだろう。しかしドゴールとて武器がなければどうしようも無い。部下の死の前で何も出来ない自分に歯噛みし、怒りや憎しみを奥歯で噛み潰す。
「おーいドゴールっ!」
聞いた声が響き渡る。その声の主を探すと、すぐに目に映った。ドワーフの誇る最高の鎧を着込み、斧を振りかざした男。白の騎士団が一人、嵐斧のアウルヴァング。
「アウルヴァング!!」
ドゴールの声に違和感を覚えた。長年共に戦ってきたからこそ分かる知己の必死な呼びかけに、何か不味い状態だと教えてくれた。訝しみながらすぐ側のヒューマンたちに目を向ける。
「こりゃぁ……また一杯奢ってもらうかのぅ」
その敵意にロングマンたちも気づいた。
「……念願叶ったり」
*
「そなたらすぐにここを出て行け!」
アスロンはスカイ・ウォーカーに侵入してきたテノス、トドット、ノーンの三人に向かって退出を命令した。突然現れたおじいさんに三人、特にトドットは興味津々に話しかける。
「まぁまぁ、平に平に……この船の乗組員とお見受けする。船長と話がしたいのだが、おぬしが船長かな?」
「船長?いや、違う。儂はこの要塞の制御を担うアスロンという者。話し合いを希望するというなら儂が受けよう。何用でこの要塞に侵入した?」
「あぁん?言い方が悪いなぁ爺さん。俺らは客だぜ?もてなしてくれても良くないかなぁ?」
テノスは脅すような気概で声を低く唸らせる。
「……それあんたがやっても全然怖くないよ」
ノーンは横からツッコむ。「は?怖ぇし!」と粋がっているが、まだまだ十代の小僧感が拭えない。ブレイドやアルルよりもいくつか年下だろう。
「実はこの要塞が気に入ってな。譲って欲しいと思っておるのじゃ。とは言え儂らは金を持ってなくてのぅ……言い値で払うとかそういうことは出来ん。平和的解決で行きたいところじゃが、そうなると長の善意に任せる他ない……これはちょっと考えにくいのぅ」
「……儂らは当然断るが、そうくると力尽くで奪うと?」
「そういうことだよ。つーことで出てってもらえるかな、この世から」
テノスはいうが早いか、腕に付けた魔道具から魔力弾を発射する。狙い通りにアスロンに直撃した、はずだった。魔力弾はアスロンの体を通り過ぎて壁に当たった。
「……は?」
何の冗談か攻撃が当たらなかったことに不満を覚え、とにかく魔力弾を撃ちまくる。
ドドドドド……
連射に次ぐ連射はせっかくの要塞を壊す勢いだった。現に壁に大きな風穴が開く。
「おいテノス!!やめろ!調子に乗りすぎじゃ!!」
トドットの静止にようやく撃つのをやめる。さっきまで立っていたアスロンはいなくなっていた。
「何やったか知らないけどおちょくりやがって!お陰で大穴が開いちまったじゃないか!」
苛立ちながら舌打ちを打つ。
「ま、良いんじゃない?後で修繕すればさ」
「……それには労働力と資材が必要じゃぞ?そなたたち金が無いんじゃなかったか?」
三人の背後からアスロンの声が聞こえる。ハッとして振り向くと、無傷のアスロンが立っているではないか。
「じ、爺ぃ……どうやって……」
こめかみの辺りに血管をピクピクと浮かせながら怒りを抑える。トリックのタネは分からないが、おちょくられているのだけは分かる。
それを見かねたノーンが目にも留まらぬ速さでアスロンの間合いに入り、瞬時に槍で腹を突いた。
「……?」
感触が全く無い。どころか実体がない。
「ホログラム?」
「速いのぅ……」
この要塞に無傷で侵入したので強者であることは分かっていたが、アスロンの想定以上だった。もう少しバレずにおちょくれると考えていただけにこれは痛手だ。
「んだよそれ!本体は別に居んのかよ!騙されたぜ!!」
地団駄を踏むテノス。
「実体がなければ攻撃は出来まいて。そうと分かれば本体を探すとしよう」
トドットの意見に賛成だった。三人はアスロンを無視して先に進もうとする。
「ふむ、確かに実体が無ければ攻撃は出来ん……」
「ん?ああ、当然だよな」
テノスは反射的にその言葉に返答した。その時、アスロンの体が一瞬光った気がした。
バチィンッ
何が起こったのか分からなかった。突然テノスの顔面に電撃が走った。顔から煙を出しながら背後に倒れる少年。
「何っ!?」
バッと翻って構える。アスロンの背後から女性が姿を現した。エレノアは電撃を放った指に息を吹き掛けてニヤリと笑った。
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