一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

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第九章 頂上

第四十話 神様はわがままっ

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『どうするんだい?マクマイン』

 いつものように突然現れる豊穣神アシュタロト。マクマインがお気に入りの応接間で一人で仕事をしている時に限って現れる女児は、ソファに腰掛けて足をプラプラさせながら質問する。
 最初の内は素っ裸で出現していた彼女も、マクマインが口酸っぱく言ったお陰か上着は羽織るようになった。

「……私の上着は着心地が良いかな?」

 チラッとだけアシュタロトを確認した後、皮肉交じりに口を開いた。

『うん、着心地良いよ。煌びやかで上質な布って感じ』

「だろうな。それは私の正装だ。つまりクローゼットにしまってあるどの服よりもそれに一番財力をかけている。着心地が良くなければ仕立て屋に文句を言わねばならんからな……」

 マクマインはサラサラと書類にサインを施すと筆を置いて立ち上がった。アシュタロトの向かい側に座ると、机に置いているポットに手を伸ばした。カップに注がれる紅茶は湯気が立つほど温もっていた。それを不思議そうな顔で覗くので、マクマインは鼻で笑いながら説明を始める。

「これは保温機能のある魔道具だ。ここのつまみを捻ると温め直すこともできる優れもの。仕事の向上にと妻にねだった物だが、思った以上に使い勝手が良くてな。私のお気に入りなのだ。飲むか?」

『うん、ちょうだい』

 手渡された温かい紅茶。何の気なしに口につけようとするので、マクマインが静止する。

「熱いぞ。少し息で冷ました方が良い」

 アシュタロトはそれを不思議そうに聞いたが、ニコリと笑って特に冷ます事もなく口をつけた。

『大丈夫だよ。僕は神様だよ?このくらい平気さ』

 実演されては信じる他ない。マクマインは息をかけて冷ましながら紅茶を啜った。ホッと一息ついた後、先の質問に答える。

「……今まで進展しなかったことが目まぐるしく進んでいく。魔王の討滅、古代種エンシェンツの撃破。我ら人族にとっては正に幸運そのものであり、この事態に全力で乗っかり、魔族討伐に向かうのが最適解であろうな。蒼玉との協力関係においてそういうわけにもいかんが……これは全て、かの魔王が自由意志を手に入れたせいに他ならない」

『そう仕向けたのは君だろう?』

「確かに……結果的に奴は身勝手に動き回っている。だがこれに関わっているラルフという男、これが一番の害悪であることは明白。……私の前に現れたのは奴らを消す算段を授けるためだろう?貴様こそ今の状況をどう見ているのだ?」

 アシュタロトは椅子にもたれかかる。

『あまり良い気分ではないね。面白いけど……良い気分ではない』

「抽象的だな。もっと具体的に話が聞きたいものだが、まぁ良い。それで貴様はどうする?」

『君のところに来るまで待ちたかったけど、どうもそういうわけにはいかなそうなんだよね。それにサイクロプスまで倒されたんだ。サトリに会って少し話してみようと思う』

「奴についているという死神か。大丈夫なのか?いきなり城に乗り込むような真似……貴様がいなくなっては困るのだが……」

『え~?なになに?君そんな趣味があったの~?』

 全力で茶化すアシュタロトの顔を冷ややかに眺めながら紅茶を啜る。

『も~冗談冗談。神の威光を全力で利用しようとする君の考え方は嫌いじゃないよ。それとサトリと僕は仲良しなんだ。だから消えちゃうような争いは起こらないよ』

「そうか。それを聞いて安心した」

 マクマインはスッと立ち上がって仕事机に向かう。

「それでは貴様に任せるとしよう……」

 そう言って顔を上げると、もうそこにアシュタロトの姿はなかった。いきなり来て、いきなり消える。神出鬼没とは彼女のためにある。ため息をつきながら席に着くと、コンコンとノックが鳴った。

「入れ」

「失礼いたします」

 タイミングよく人が来た。彼女はこれを見越して消えたのだろう。入ってきたのは息子のファウストだった。

「おお、ファウストか。今日は予定に入っていなかったと思うが……何か急ぎか?」

「申し訳ございません父上。急ぎというほどではないのですが……」

 モジモジして中々切り出せない。メイドが小さく「ぼっちゃま」と背中を押す声が聞こえる。

「ほ、本日はツヴァイもトロワも集まります。よければ晩餐をご一緒いただけませんか?」

 勇気を出してやってきたのは夕食の誘いだった。

「ほう?はっはっ、皆が揃うのであれば参加せざるを得まい。実は今日屋敷に戻るつもりだったのだ。久々に家族団欒と洒落込もう」

 パァッとファウストの顔が花開く。剣の才覚もあり、勉学もよくこなす長男だが、兄弟の中で一番子供っぽい。
 無邪気で純粋なのは長所であり、また短所でもある。そう考えていると、メイドが声をかけてきた。

「公爵様。供回りがいらっしゃらないようですが、何かご無礼を……?」

 いつでもアシュタロトが出現できるように最近では供回りをつけていない。そのことをそのまま言えるはずもなく「仕事に集中するため」と銘打って侍女を遠ざけていた。それを何でもないように伝えるとメイドは納得した。

「そんなことより、料理長に晩餐の件を伝えよ。うんっと豪勢に頼むとな」



「ふぁ~あ……」

 疲れ果てたラルフは部屋に入るなり欠伸を見せた。
 本日ミーシャはベルフィアと共にティアマトの見張りにつくことになった。まだ毒は抜けきっていないが、万が一に備えて見張ると進んで引き受けたからだ。
 今日は完全に一人で寝られる。ベッドに寝転びながら股間に手が伸びる。

(……いつ振りの自慰だ?)

 気分が高まる。纏わりつく服が鬱陶しく感じ、次の瞬間にはパンツを残してほぼ裸に変わっていた。
 我慢に我慢を重ねて幾星霜。きっと三擦り半で果てることは必至だが、我慢した期間ずっと溜め込んだのだ。二回や三回ではきっと満足しまい。
 ご満悦といった顔つきでパンツを下ろそうとした時、誰かの気配を感じた。

 バッ

 体を起こして急いで周りを見渡す。ここまで一切油断せず、隠れて下の処理すらしてこなかったのに、ここにきて見られては意味がない。

「……気のせいか?」

 誰もいないことにホッとしてまたパンツに手をかけた時、真横にちょこんと座る女児の姿があった。ラルフの下着の中身を見ようと覗き込んでいる。

「おぉわっ!!」

 驚いて飛び上がると壁際に背を預ける。ニコニコ笑う女児が、ラルフのシャツを一枚羽織っていた。肌が透けているところからシャツ以外何も着ていないのが分かる。

 コンコンッ

「……ラルフさん……どうかしましたか……?」

「た……!!」

 助けを求めようとして言葉に詰まる。今ここで入ってきた仲間は何て思うだろうか?
 得体の知れない女児が侵入していることより、ラルフが裸で女児の前にいることの方が気になるのではないだろうか?
 客観的に見ればこの状況は誤解される要素が満載だ。となれば……。

「……な、何でもないよ!ちょっとけただけだ!心配かけて悪い!」

「……そうですか……おやすみなさい……」

「おう!おやすみ!」

 偶々たまたま廊下を歩いていたのだろうブレイドは、ラルフの無事を確認すると部屋の前から離れていった。それを確認したラルフは深いため息をつくと、女児に目を向けた。

「……それで?お前は誰だ?」

『初めましてラルフ。僕の名は豊穣神アシュタロト。下界が気になって降りて来た神様ってとこ。君には馴染み深い存在じゃないかな?』

「豊穣神?つーことは創造神と死神の親戚か?何だって神様がこんな辺鄙なとこに……」

『僕はその死神に用があってきたのさ』

「そうか。サトリに……じゃ勝手に用事を済ませてくれ。あ、もちろんこの部屋以外で頼むぞ」

『それがそうもいかなくてさ。サトリが君から離れてくれないんだ。てな訳で神々の話し合いの場に君も同席してもらうよ。ラルフ』

 ポンポンとベッドを叩く。ここに座れと指し示しているのだ。ラルフは頷いてアシュタロト見据える。

「そら光栄なことで……サトリィ!!今すぐこいつ連れてどっか行ってくれ!!頼むっ!俺に一人の時間をくれぇ!!」
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