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第十一章 復讐
第十七話 前へ
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「ちょっと何?あんたがワタシの相手なの?」
ティファルはジロジロとアロンツォの体を遠慮なく見る。アロンツォはその視線に抵抗することなく、仁王立ちで身を晒す。
「ふふ……お眼鏡に叶ったかな?」
アロンツォは薄ら笑いを浮かべてティファルに問う。自信たっぷりといった空気に彼女もニヤリと笑った。
「ちょーっと線が細いけど、いい具合に高慢で調教のしがいがありそうだこと……。その高い鼻をへし折って服従させてやるわ」
ピシィッ
手が消えるほど速く振った鞭はアロンツォの足元を叩いた。
「ほぅ……速いな。その上、余の足元をギリギリ当てないように鞭を打つとは……かなり繊細で正確な技術。噂通りの強者であるな」
ビビりもしないアロンツォ。攻撃が見えなかったとしても、足元が抉れた時点で後退りくらいしそうなものだが、涼しい顔で分析している。これがやせ我慢なのか、はたまた鈍感なのか。何れにしても片眉くらい上げても良さそうなものだが、これでは当たらないと既に気づいていたような雰囲気だ。
「……ちょっと、ワタシが当てないってどうして分かったわけ?」
「ふっ……そなたの言い分を聞けば、余の無様な姿を見て楽しもうとしてくることは分かる。とはいえ、打たれぬかどうかは賭けであった……」
アロンツォは一拍置いてティファルを見下ろす。
「しかし、こういう時の賭けには負けたことがないでな」
ティファルの顔に血管が浮き出る。ギリッと奥歯を噛みしめる音が聞こえ、その顔は怒りにまみれている。
「それで?勝ったつもり?」
手元に巻き取った鞭を両手で引き延ばし、悔しさを滲ませる。アロンツォは彼女から殺気を感じ取り、槍を構えた。
(来る)
そう思った瞬間、アロンツォは無詠唱で風の精霊の加護を借り、軽いつむじ風を纏わせた。ティファルは彼が何をしているのか考えもせずに鞭を振るう。
身体能力が極振りしている彼女の攻撃は常人には見切ることは不可能。まして常人とはかけ離れている人類最強の一人、アロンツォでも鞭の先端を目で追うことは不可能。つまり回避不能であることに他ならない。初見なら。
ヒュ……パァンッ
音速などとうに超えた先端の破裂音。衝撃波が発生し、周りにいたルカの人形たちが吹き飛ぶ。しかし、そこにアロンツォの姿はない。あまりの衝撃波に吹き飛んだわけでも、消滅したわけでもない。振るわれた鞭の軌道を読み、アロンツォは前に出た。胸部から上を狙って振るわれた鞭を寸でで潜って鞭が伸び切るより先に距離を詰めるべく行動したのだ。
それを可能にしたのは風の魔法。これはティファルに対する攻撃ではなく、砂を巻き上げるための行動。鞭の軌道を読むため、僅かばかりの砂を指標にし、迫り来る脅威を躱したのだ。
「!?」
ティファルは仲間以外に見切られたことに驚き戸惑い、急いで鞭を引き戻そうと手繰り寄せる。
「遅いっ!!」
アロンツォの弾丸の如き動きに合わせた槍の突きは彼女の心臓に向けられた。岩盤でも穿ち抜く突きは、完璧なまでに彼女を死に至らしめる。本来なら。
ブォンッ
槍は空を切った。槍の穂先はティファルの衣装すら傷つけることなくそこにあった。ティファルはそのすぐ下にいた。海老反りという無理な体勢でギリギリで避けたのだ。通常であれば避けられない攻撃は、ティファルの極限まで高まった身体能力で回避を可能にした。アロンツォの小手先の指標など必要ないことを示した。
ジッ
その時、手繰り寄せた鞭がアロンツォの翼を掠った。羽根が舞い、血もそれに少し混じる。
「遅いのはどっちよ?」
「チッ……!」
思った以上の切れ味にアロンツォの焦りが見える。彼女の攻撃は何も鞭だけではない。その身体能力は即ち攻撃力に直結する。ティファルは鞭という武器に頼っているが、いざ拳を使えば、いざ爪を使えば、いざ足を使えばアロンツォは一溜まりもない。
そして既にティファルはそれに気づいている。鞭に頼るのは、彼女なりの手加減に過ぎない。アロンツォに逃げ場はない。彼女の間合いに入ってしまっているのだから。
ティファルはニヤリと笑って余裕を見せる。ここで逃げようものなら鞭の餌食。近場で止まるのなら接近戦でも鞭でもどんな手でもある。
ボッ
「!?」
槍が振り下ろされ、地面を叩いた。ティファルは体を捻って槍を躱し、バックステップで下がろうとする。その動きに合わせてアロンツォも前に出る。
彼は選んだ。接近戦を。
「正気?!」
ティファルの攻撃は相当なものだ。本職の格闘家など目ではないほどの攻撃能力を、ただ手を振るだけで再現出来てしまう。現に、アロンツォの攻撃に合わせてカウンターを入れようと手を出したり、足で蹴り上げたりして、持ち込まれた接近戦に対応している。それをギリギリで躱したり、掠って切り傷やアザを作りながらアロンツォは攻撃を仕掛ける。
間合いを開けることは出来ない。出来よう筈もない。それは彼女の鞭の間合いを見た段階から分かっていたことだ。
自分が攻撃し、殺傷能力がある範囲は精々が3m以内。一度間合いを開ければ、もう二度と間合いには入れないだろう。
一方的な死を取るくらいなら、1%でも生きて勝つ可能性を取る。
「応とも!これが……いや、これこそが”正気”というものだ!」
ティファルはジロジロとアロンツォの体を遠慮なく見る。アロンツォはその視線に抵抗することなく、仁王立ちで身を晒す。
「ふふ……お眼鏡に叶ったかな?」
アロンツォは薄ら笑いを浮かべてティファルに問う。自信たっぷりといった空気に彼女もニヤリと笑った。
「ちょーっと線が細いけど、いい具合に高慢で調教のしがいがありそうだこと……。その高い鼻をへし折って服従させてやるわ」
ピシィッ
手が消えるほど速く振った鞭はアロンツォの足元を叩いた。
「ほぅ……速いな。その上、余の足元をギリギリ当てないように鞭を打つとは……かなり繊細で正確な技術。噂通りの強者であるな」
ビビりもしないアロンツォ。攻撃が見えなかったとしても、足元が抉れた時点で後退りくらいしそうなものだが、涼しい顔で分析している。これがやせ我慢なのか、はたまた鈍感なのか。何れにしても片眉くらい上げても良さそうなものだが、これでは当たらないと既に気づいていたような雰囲気だ。
「……ちょっと、ワタシが当てないってどうして分かったわけ?」
「ふっ……そなたの言い分を聞けば、余の無様な姿を見て楽しもうとしてくることは分かる。とはいえ、打たれぬかどうかは賭けであった……」
アロンツォは一拍置いてティファルを見下ろす。
「しかし、こういう時の賭けには負けたことがないでな」
ティファルの顔に血管が浮き出る。ギリッと奥歯を噛みしめる音が聞こえ、その顔は怒りにまみれている。
「それで?勝ったつもり?」
手元に巻き取った鞭を両手で引き延ばし、悔しさを滲ませる。アロンツォは彼女から殺気を感じ取り、槍を構えた。
(来る)
そう思った瞬間、アロンツォは無詠唱で風の精霊の加護を借り、軽いつむじ風を纏わせた。ティファルは彼が何をしているのか考えもせずに鞭を振るう。
身体能力が極振りしている彼女の攻撃は常人には見切ることは不可能。まして常人とはかけ離れている人類最強の一人、アロンツォでも鞭の先端を目で追うことは不可能。つまり回避不能であることに他ならない。初見なら。
ヒュ……パァンッ
音速などとうに超えた先端の破裂音。衝撃波が発生し、周りにいたルカの人形たちが吹き飛ぶ。しかし、そこにアロンツォの姿はない。あまりの衝撃波に吹き飛んだわけでも、消滅したわけでもない。振るわれた鞭の軌道を読み、アロンツォは前に出た。胸部から上を狙って振るわれた鞭を寸でで潜って鞭が伸び切るより先に距離を詰めるべく行動したのだ。
それを可能にしたのは風の魔法。これはティファルに対する攻撃ではなく、砂を巻き上げるための行動。鞭の軌道を読むため、僅かばかりの砂を指標にし、迫り来る脅威を躱したのだ。
「!?」
ティファルは仲間以外に見切られたことに驚き戸惑い、急いで鞭を引き戻そうと手繰り寄せる。
「遅いっ!!」
アロンツォの弾丸の如き動きに合わせた槍の突きは彼女の心臓に向けられた。岩盤でも穿ち抜く突きは、完璧なまでに彼女を死に至らしめる。本来なら。
ブォンッ
槍は空を切った。槍の穂先はティファルの衣装すら傷つけることなくそこにあった。ティファルはそのすぐ下にいた。海老反りという無理な体勢でギリギリで避けたのだ。通常であれば避けられない攻撃は、ティファルの極限まで高まった身体能力で回避を可能にした。アロンツォの小手先の指標など必要ないことを示した。
ジッ
その時、手繰り寄せた鞭がアロンツォの翼を掠った。羽根が舞い、血もそれに少し混じる。
「遅いのはどっちよ?」
「チッ……!」
思った以上の切れ味にアロンツォの焦りが見える。彼女の攻撃は何も鞭だけではない。その身体能力は即ち攻撃力に直結する。ティファルは鞭という武器に頼っているが、いざ拳を使えば、いざ爪を使えば、いざ足を使えばアロンツォは一溜まりもない。
そして既にティファルはそれに気づいている。鞭に頼るのは、彼女なりの手加減に過ぎない。アロンツォに逃げ場はない。彼女の間合いに入ってしまっているのだから。
ティファルはニヤリと笑って余裕を見せる。ここで逃げようものなら鞭の餌食。近場で止まるのなら接近戦でも鞭でもどんな手でもある。
ボッ
「!?」
槍が振り下ろされ、地面を叩いた。ティファルは体を捻って槍を躱し、バックステップで下がろうとする。その動きに合わせてアロンツォも前に出る。
彼は選んだ。接近戦を。
「正気?!」
ティファルの攻撃は相当なものだ。本職の格闘家など目ではないほどの攻撃能力を、ただ手を振るだけで再現出来てしまう。現に、アロンツォの攻撃に合わせてカウンターを入れようと手を出したり、足で蹴り上げたりして、持ち込まれた接近戦に対応している。それをギリギリで躱したり、掠って切り傷やアザを作りながらアロンツォは攻撃を仕掛ける。
間合いを開けることは出来ない。出来よう筈もない。それは彼女の鞭の間合いを見た段階から分かっていたことだ。
自分が攻撃し、殺傷能力がある範囲は精々が3m以内。一度間合いを開ければ、もう二度と間合いには入れないだろう。
一方的な死を取るくらいなら、1%でも生きて勝つ可能性を取る。
「応とも!これが……いや、これこそが”正気”というものだ!」
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