一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

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第十章 虚空

第二十七話 ガン逃げ

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「おいおい、どうなってんだこりゃ?」

 建物の屋根に登って下を確認しているラルフ。その目に映るのは殺気立った騎士たち。彼らが探しているのは考えるまでもない。

「店主の奴……また俺たちを売りやがったか?」

「そんな……!?あの人は良い人です。そんなことをするはずがありません」

 歩は焦りながら必死に否定する。

「信じてあげたいけど状況が状況だし……"また"ってことは少なくとも一回は裏切られてるよね。あり得なくは無いかな」

 アンノウンも下を見ながら騎士を睨み付ける。命の恩人を疑いたくない歩だが、反論の言葉が出ずに「うう……」と唸った。

「まぁ店主の詮議せんぎは後回しだ。とにかくここを離れるのが先だぜ」

 ラルフが動き出そうと立上がった時、ブレイドに服を引っ張られた。ぐんっと力強く下に引き降ろされ、バランスを崩して膝から落ちる。ゴツッと鈍い音の後、ラルフが悶絶していると「静かに」と囁かれた。

「……あれは何?」

 アルルは空を飛ぶ船を見つけた。

「飛行艇?いかにもファンタジーな乗り物が出て来ましたね……」

 歩は少々興奮気味で呟く。それに対してアンノウンはふっと笑った。

「君が浮遊要塞を見た時の顔が気になるね」

「え?」

 言っている意味が分からずポカンとしていると、小型飛行艇からチョロチョロと顔を覗かせているのが見えた。

「騎士って感じじゃないよ。魔法使いって風貌だよ」

 ミーシャはこの距離を難なく見通す。その金色の目に暗視と望遠魔法を使用したのだ。どちらも……いや、魔法を使用できないラルフは打った膝をさすりながら上空を確認する。

「……あんなもん前に来た時は無かったぜ?まぁ、非常時にしか使わねぇって可能性もあるが……」

『うむ、昔儂が設計図を書いてついぞ実現出来なかった監視船で間違い無いじゃろう』

 突如喋り始めたネックレス。歩は目を丸くする。

「アスロンさんが考えたものなのか。次代がちゃんと意志を受け継いだらしいな」

『……うむ。あれが世に出たということは、十中八九アイナが関わっておることは間違いないのぅ。儂の秘蔵の開発ノートを見たに違いない。……いや、あんな物が無くともアイナなら作りそうじゃが……』

 その言葉にアルルの目が変わる。

「私のお母さんがアレを……?」

 まだ会ったことも見たことすらない母の、目に見える成果。構造も術式もよく分からないのに、まじまじと見てしまう。アスロンは言い澱むように『う、うむ……』と肯定した。

「もっと近くで見てみよっか」

 ミーシャが立ち上がる。それに対してブレイドが慌てて声をかけた。

「ミーシャさん!屈まないと見つかりますって!」

「ここでいつまでも屈んでるわけにはいかないでしょ?それに上から見られているのに屈んでもダメじゃない?」

 その言葉にハッとする。そりゃそうだ。相手は上空から暗視魔法を用い、目を皿にして見ているに違いない。ここで固まって縮こまっている怪しい集団を見れば、たとえ違う探し物をしていたとしても気になるのが道理。
 今も痛そうに膝を摩るラルフを見て「すいませんでした」とブレイドは謝った。

「ああ、いいよいいよ。それより俺もミーシャに賛同するぜ。ぶっちゃけアレを奪って上空からいろいろ観察すんのが危険が無いんじゃないか?」

「じゃ私がさっと奪ってくるよ」

 ミーシャは何でも無いようにふわっと浮き始めた。

「待て待て、俺も一緒に行く」

 いつものようにミーシャがラルフを抱えあげようとすると、アンノウンが反応した。

「というか、みんなで行かない?全員で行ったら一気に手間が省けると思うけど?」

「全員で行くのは目立ち過ぎる。少人数で制圧するのが……いや、ちょっと待てよ……」

 ラルフは空間に穴を開けた。その開け方はバッグの口を開くようだった。歩は何が起こっているか分からずに首を傾げた。空間に穴を開ける?もしかしたらこの世界では普通のことなのかもしれないと自分も手をかざすが、開くことはない。

「ふっふっふ……こいつは俺が最近手に入れた特異能力さ。まぁ、言ってもさっき歩の索敵能力のお陰で助かったのと変わらないけど」

 そんな返答をしつつ、ごそごそと中を探っている。

「えぇ……?僕の能力なんて霞むレベルのやばい力じゃないですか……良いなぁ……」

「そうかい?俺はその能力欲しいけどな……」

「というか何してるの?もう行っても良い?」

「ダメダメ。まだダメ」

 中を確認し終わって「うん」っと頷いた。

「お前らこの中に入れ」

 何を言っているのか分からず、言われた全員首を傾げた。穴を覗き込むとラルフが持っていたアイテムがフヨフヨと浮いている変な空間へとつながっている。

「……マジで言ってます?」



 上空で飛行艇を操縦していた魔法省の魔法使いの面々は上からラルフたちを探していた。

「……いませんね」

 メガネをかけた男性はそんなに探してもいないのに即座に結論づけた。というのも、もう仕事も終わって寮に戻ろうという時に突然の召集。すぐさま犯罪者の捜索に駆り出された。今日はもう休みたかった男は欠伸をしながら下をぼんやり眺めている。

「おい、ちゃんと探せ。あとで局長になんて言われるか……」

 その時、操縦桿の近くにある通信機が光った。すぐに反応し、魔鉱石に触れた。

「はい」

『——どうだ、見つかったか?』

「いえ、地上の様子は屋根が邪魔で見えません。屋根の上にでも登っていてくれれば良いんですが……」

『無駄口を叩くな。引き続き捜索をしろ』

 そう言うと一方的に通信を切られた。

「簡単に言ってくれるよな。俺たちが見つけることなんてまず出来ないだろ……ったく」

 ぶつくさ言いながら操縦している。欠伸をしていたメガネの男の声が聞こえなくなり、いよいよ居眠りでもこいているのかと呆れ気味に振り向いた。

「意外にシンプルな構造だぜ。これくらいコンパクトに仕上げるのが良いのかもな」

 そこには探すべき相手の草臥れたハットがあった。すぐ隣にはもう夜だと言うのにサングラスをかけたダークエルフが立っている。メガネの男は殴り倒されて伸びていた。

「貴様!?ラルフ!!」

 バッと手をかざし、魔法を放とうと牽制する。そしてラルフも対抗して手をかざし返す。

「待った!悪いけど取り出すものがあるから待ってくれ」

 ラルフはまた空間に手を突っ込む。操縦桿を握る男から見ればラルフの手が突然消失したようにしか見えない。唐突すぎて固まってしまった。
 ぐいっと大きく開くように手を広げると、穴はかなり大きくなった。その中から出てきたのは人、人、人、人。

「生臭~……」

 アルルは苦い顔で空間に入れられたみんなが思っていたことを口にする。リヴァイアサンの肉片と骨が未だしっかり残っていたせいで空間は生臭くなっている。出てきたみんなげんなりしているのが見て取れた。
 多勢に無勢。操縦桿の男はかざしていた手を下ろした。どころか卑屈な笑いを見せて、完全に諦めたような清々しい声で言い放った。

「……みなさんどちらまで?」

 すぐさま気持ちを切り替えて、自らタクシーを買って出た。ラルフは遠慮もなく答える。

「魔法省までお願いしまーす」

 飛行艇はすぐさま引き返した。
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