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第十章 虚空
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「……よぉトウドウ。手前ぇどこ行ってたよ?」
ガノンはソファでくつろぎながら、二日姿を消していた藤堂に話しかけた。
「ちょっとそこまでだよ。奪われたものを取り返しにな……」
握りしめた手を開くと、そこには装飾のないシンプルな指輪があった。
「誰かこいつをネックレスにしちゃくれないか?もう落とすわけにゃいかねぇからよ……」
それを聞いていたドゴールがスッと立ち上がる。
「なら私が拵えよう」
藤堂は感謝を述べて指輪を手渡した。
「……ところで手前ぇ着替えたのか?随分小綺麗になってるじゃねぇか」
「ああ、前のは燃えちまってな」
「トイウ事ハ、モウコッチニ集中出来ルッチュー事デ良カ?」
ルールーをチラッと見るとコクリと頷き、返答する。
「地獄にゃ飽きた。終わらせよう。全部な……」
*
茂は急いでイルレアン近郊から離れる。どれだけ攻撃されても再生する化物には勝ち目など存在しない。逃げるが勝ちだ。
しかし、このまま野盗の根城に戻るわけにもいかない。おめおめ戻れば、責任は全て自分が取らされる。それに、あそこは身を寄せていただけで、戻りたい場所でもない。次の寝ぐらを探すだけだ。
「全くツイてないっすよ……どうしたもんっすかねぇ……」
途方に暮れる茂。
とにかく街でも探してそこを拠点に動くのが良い。そこらの旅人を襲って食料にありつきながら、一週間ほど掛けてヴィルヘルム国に到着。
特異能力と身体能力で人に迷惑を掛けながら生活にありつく。
そんな生活は長く続くはずもなく、ヴィルヘルムの兵を総動員した山狩りに追い立てられて、またも茂は逃げ出した。
「俺が何したって言うんすか……」
次の拠点を探す茂が辿り着いたのはペルタルク丘陵。その美しさに目を奪われたが、ここは魔族の土地。魔族の攻撃に遭い、茂も必死に抵抗した。
その力を買われて、たちまち拘束。第五魔王”蒼玉”の前に連れてこられることとなる。
「……で、あなたは?」
「あ、あの……お、俺は敵でも何でもないんっす!この世界の人間ではないんっすよ!!勘弁してください!!」
必死の懇願。その中で聞いた確かな言葉。
「この世界の人間ではない?ふふ……これは面白くなってきましたね……」
蒼玉の家臣は「何言ってんだこいつ」と言う顔だが、蒼玉は違う。神という存在に遭遇したお陰だろう。蒼玉は第一魔王の秘書"黒影"と同様に茂を牢屋に入れた。
彼の存在意義、生まれ持った能力、そして別次元への興味、全てを満たす目的の為に……。
*
——獣人族の国「クリムゾンテール」にて。
ここ数日、街でヒューマンの集団を見かける。
旅人は珍しくないが、疑問点が一つ。周りを精鋭部隊が毎回警護していた。
一応これについての説明が獣王から「新たな友人」というお知らせで回っている。そういうことなら別段普通に街を歩けば良いものを、高待遇な様子に国民は首を傾げた。
もちろん血気盛んな若者や、酔っぱらい、ちょっとおかしい奴などのちょっかいからこの人間たちを遠ざけるためである。それに付随する争い事が彼らの癇癪を引き出し、ひいては国を滅ぼすことに繋がるのを恐れてのことだった。
だというのに、今日もラルフはミーシャたちを引き連れて街を歩く。
「……ヒューマンってのは優れた能力も無くてな。こういう場所じゃ迫害を受けるんだぜ?」
アニマンたちはそれぞれの手に入れた能力を軸に生活している。出来ること出来ないことをハッキリさせる主義なので、何の特徴もないヒューマンはそれだけで差別の対象となる。ラルフは昔この国で何度かそれを体験して来たからこそ、それをネタに何度も同じ話をしていた。
「それでだ。そんな時に役立つのがこいつさ」
といって取り出したのはお金だ。八百屋でムスッとする毛深い店主に、指で弾いてお金を渡す。ゴリラと思われる獣人の店主は大きな手の中にそのコインを収めると、ニッコリ笑ってバスケットを取り出した。その中に果物を次々入れると、ベルフィアに手渡す。ラルフはそれに合わせて三枚の銀貨を渡した。
「今後トモ ゴ贔屓ニ~」
店主はひらひらと手を振って送り出す。ベルフィアは果物入りバスケットをチラリと見た。
「ふんっ、もう何度も聞いタワ。ところで、いつまでここにいルつもりなんじゃ?」
「もちろんウィーが古代種の骨の加工方法を学ぶまでさ」
「この国は平和だね。カサブリアを堕としたからかな?」
自分たちを滅ぼそうとする敵が近くにいないという一先ずの平和を手に入れたアニマンたちは、一昔前のピリピリした空気を払拭し、日常を謳歌していた。
「ああ、それが一番の理由だろうな」
ラルフがそれを肯定する。アンノウンは共に行動しながらキョロキョロと周りを見渡す。
「……にしても窮屈なもんだよ。もう少し普通に歩けないかなぁ……」
「そいつは無理ってもんだ。普段でも歓迎されることはないのに、こうして護衛を連れて歩いているんだからな」
ラルフは周りを囲むベリア直属の精鋭部隊を見る。
「我慢シテ頂キタイ。獣王様ノ指示デアリマスカラ……」
精鋭部隊のまとめ役である猫の獣人、キッドはラルフたちの度重なる外出に辟易しながらも、必ず護衛に参加した。きっと使命であると認識してこの任務を重く受け止めているに違いない。それかただの真面目か。
「……後者だな」
「何カ?」
「いや、何でも。まぁ安心しろ、俺たちは近く出て行くことになるさ。ウィーはもの作りに関しては超一流だからな。割とすぐに覚えてくれるだろう」
希望的観測でしかないが、それを信じる他ない。そろそろ新鮮味も失せて、みんな退屈し始めて来た頃だ。
「だといいけどね。……ウィーが覚えたら次はどこに行く?」
「どこ?そうだなぁ、どこ行きたい?」
「戦いが待っていル場所に行きタいノぅ。平和は飽きタ」
「戦闘狂め……ここを見ろよ。誰しもがお前みたいに戦いたいわけじゃないんだぜ?」
ラルフは手を大きく広げて街を指し示す。
「妾たちノ脅威は未だ去ってはおらん。それにこことて戦って勝ち取っタ平和ヨ。妾たちノ今後の為にも、脅威を除くノじゃ」
「もっともらしいことを……」
手を下ろして呆れ返る。
「でもさ、その脅威の大半を作ったのは他ならぬラルフじゃなかった?」
アンノウンの言葉に目を見開く。「そんなわけ……」と言いかけて思い返せば、様々なことがフラッシュバックして蘇る。
「まぁ……そんなこともあるな……」
「じゃあ、そろそろいいかな?」
ミーシャは意味深に呟く。その言葉に注目が集まると、ミーシャが一拍置いて口を開いた。
「グラジャラク大陸に行くよ」
その言葉に精鋭部隊からどよめきが起こる。
「あの大陸に……ミーシャの故郷にか?」
「ミーシャ様ノ故郷じゃと?」
アンノウンは二人の反応を見て目を細める。
「イミーナと決着をつける」
「?……イミーナって?」
「ミーシャを裏切った家臣だ。いずれは行動を起こさなきゃとは思っていたが……」
その時が来た。グラジャラクは魔族最強の軍事国家。人族界隈で言うところのイルレアンに当たる。
「総力戦になるな……」
「私がいるもん。絶対に勝つよ」
ミーシャの自信の背景にはラルフたちという心の支えがあった。
「あ、ラルフさーん」
前方に、同じく精鋭部隊に護衛されるブレイドたちの姿が見えた。暇しているのはラルフたちだけではない。
「……グラジャラクか……悪くないな。ケリをつけるか、ミーシャ」
「うん」
ミーシャの提案で訪れたイミーナとの決着。グラジャラクの地に戦火が舞い降りる。
ガノンはソファでくつろぎながら、二日姿を消していた藤堂に話しかけた。
「ちょっとそこまでだよ。奪われたものを取り返しにな……」
握りしめた手を開くと、そこには装飾のないシンプルな指輪があった。
「誰かこいつをネックレスにしちゃくれないか?もう落とすわけにゃいかねぇからよ……」
それを聞いていたドゴールがスッと立ち上がる。
「なら私が拵えよう」
藤堂は感謝を述べて指輪を手渡した。
「……ところで手前ぇ着替えたのか?随分小綺麗になってるじゃねぇか」
「ああ、前のは燃えちまってな」
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「地獄にゃ飽きた。終わらせよう。全部な……」
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茂は急いでイルレアン近郊から離れる。どれだけ攻撃されても再生する化物には勝ち目など存在しない。逃げるが勝ちだ。
しかし、このまま野盗の根城に戻るわけにもいかない。おめおめ戻れば、責任は全て自分が取らされる。それに、あそこは身を寄せていただけで、戻りたい場所でもない。次の寝ぐらを探すだけだ。
「全くツイてないっすよ……どうしたもんっすかねぇ……」
途方に暮れる茂。
とにかく街でも探してそこを拠点に動くのが良い。そこらの旅人を襲って食料にありつきながら、一週間ほど掛けてヴィルヘルム国に到着。
特異能力と身体能力で人に迷惑を掛けながら生活にありつく。
そんな生活は長く続くはずもなく、ヴィルヘルムの兵を総動員した山狩りに追い立てられて、またも茂は逃げ出した。
「俺が何したって言うんすか……」
次の拠点を探す茂が辿り着いたのはペルタルク丘陵。その美しさに目を奪われたが、ここは魔族の土地。魔族の攻撃に遭い、茂も必死に抵抗した。
その力を買われて、たちまち拘束。第五魔王”蒼玉”の前に連れてこられることとなる。
「……で、あなたは?」
「あ、あの……お、俺は敵でも何でもないんっす!この世界の人間ではないんっすよ!!勘弁してください!!」
必死の懇願。その中で聞いた確かな言葉。
「この世界の人間ではない?ふふ……これは面白くなってきましたね……」
蒼玉の家臣は「何言ってんだこいつ」と言う顔だが、蒼玉は違う。神という存在に遭遇したお陰だろう。蒼玉は第一魔王の秘書"黒影"と同様に茂を牢屋に入れた。
彼の存在意義、生まれ持った能力、そして別次元への興味、全てを満たす目的の為に……。
*
——獣人族の国「クリムゾンテール」にて。
ここ数日、街でヒューマンの集団を見かける。
旅人は珍しくないが、疑問点が一つ。周りを精鋭部隊が毎回警護していた。
一応これについての説明が獣王から「新たな友人」というお知らせで回っている。そういうことなら別段普通に街を歩けば良いものを、高待遇な様子に国民は首を傾げた。
もちろん血気盛んな若者や、酔っぱらい、ちょっとおかしい奴などのちょっかいからこの人間たちを遠ざけるためである。それに付随する争い事が彼らの癇癪を引き出し、ひいては国を滅ぼすことに繋がるのを恐れてのことだった。
だというのに、今日もラルフはミーシャたちを引き連れて街を歩く。
「……ヒューマンってのは優れた能力も無くてな。こういう場所じゃ迫害を受けるんだぜ?」
アニマンたちはそれぞれの手に入れた能力を軸に生活している。出来ること出来ないことをハッキリさせる主義なので、何の特徴もないヒューマンはそれだけで差別の対象となる。ラルフは昔この国で何度かそれを体験して来たからこそ、それをネタに何度も同じ話をしていた。
「それでだ。そんな時に役立つのがこいつさ」
といって取り出したのはお金だ。八百屋でムスッとする毛深い店主に、指で弾いてお金を渡す。ゴリラと思われる獣人の店主は大きな手の中にそのコインを収めると、ニッコリ笑ってバスケットを取り出した。その中に果物を次々入れると、ベルフィアに手渡す。ラルフはそれに合わせて三枚の銀貨を渡した。
「今後トモ ゴ贔屓ニ~」
店主はひらひらと手を振って送り出す。ベルフィアは果物入りバスケットをチラリと見た。
「ふんっ、もう何度も聞いタワ。ところで、いつまでここにいルつもりなんじゃ?」
「もちろんウィーが古代種の骨の加工方法を学ぶまでさ」
「この国は平和だね。カサブリアを堕としたからかな?」
自分たちを滅ぼそうとする敵が近くにいないという一先ずの平和を手に入れたアニマンたちは、一昔前のピリピリした空気を払拭し、日常を謳歌していた。
「ああ、それが一番の理由だろうな」
ラルフがそれを肯定する。アンノウンは共に行動しながらキョロキョロと周りを見渡す。
「……にしても窮屈なもんだよ。もう少し普通に歩けないかなぁ……」
「そいつは無理ってもんだ。普段でも歓迎されることはないのに、こうして護衛を連れて歩いているんだからな」
ラルフは周りを囲むベリア直属の精鋭部隊を見る。
「我慢シテ頂キタイ。獣王様ノ指示デアリマスカラ……」
精鋭部隊のまとめ役である猫の獣人、キッドはラルフたちの度重なる外出に辟易しながらも、必ず護衛に参加した。きっと使命であると認識してこの任務を重く受け止めているに違いない。それかただの真面目か。
「……後者だな」
「何カ?」
「いや、何でも。まぁ安心しろ、俺たちは近く出て行くことになるさ。ウィーはもの作りに関しては超一流だからな。割とすぐに覚えてくれるだろう」
希望的観測でしかないが、それを信じる他ない。そろそろ新鮮味も失せて、みんな退屈し始めて来た頃だ。
「だといいけどね。……ウィーが覚えたら次はどこに行く?」
「どこ?そうだなぁ、どこ行きたい?」
「戦いが待っていル場所に行きタいノぅ。平和は飽きタ」
「戦闘狂め……ここを見ろよ。誰しもがお前みたいに戦いたいわけじゃないんだぜ?」
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「もっともらしいことを……」
手を下ろして呆れ返る。
「でもさ、その脅威の大半を作ったのは他ならぬラルフじゃなかった?」
アンノウンの言葉に目を見開く。「そんなわけ……」と言いかけて思い返せば、様々なことがフラッシュバックして蘇る。
「まぁ……そんなこともあるな……」
「じゃあ、そろそろいいかな?」
ミーシャは意味深に呟く。その言葉に注目が集まると、ミーシャが一拍置いて口を開いた。
「グラジャラク大陸に行くよ」
その言葉に精鋭部隊からどよめきが起こる。
「あの大陸に……ミーシャの故郷にか?」
「ミーシャ様ノ故郷じゃと?」
アンノウンは二人の反応を見て目を細める。
「イミーナと決着をつける」
「?……イミーナって?」
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その時が来た。グラジャラクは魔族最強の軍事国家。人族界隈で言うところのイルレアンに当たる。
「総力戦になるな……」
「私がいるもん。絶対に勝つよ」
ミーシャの自信の背景にはラルフたちという心の支えがあった。
「あ、ラルフさーん」
前方に、同じく精鋭部隊に護衛されるブレイドたちの姿が見えた。暇しているのはラルフたちだけではない。
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