一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

文字の大きさ
473 / 718
第十二章 協議

第三十三話 無間の彼方

しおりを挟む
(俺はこの空間を知っている)

 目の前は真っ暗だった。何も見えず何も無い。足場はあるが、温もりもなく冷たさもない。ただ広い空間がそこにあることだけは確かだ。
 ここは生死の境。はざまとサトリは言ってた。
 パルスと呼ばれる女の子が放った黒渦に飲まれた後の記憶がない。パッタリ途切れたような、ただそのまま影に包まれたような変な気分だ。
 あれは結局何だったのか全く分からない。けどこれだけは分かる。

(またか……)

 死にかけた時に現れるこの空間は今年に入って三度目。ミーシャと出会ってからというもの、自ら死地へと向かってひた走っているような気がして気が気でない。

「おーい!居るんだろサトリ!出てこい!今すぐに状況を説明してくれ!!」

 しーんと静まり返っている。暗がりという恐怖。しかしラルフの体は自らが発光しているかのように明るい。このお陰か、二回も来たことによる慣れかは計りかねるが、不思議と恐怖はない。
 どうせ勿体振っているだけだと座ろうとする。

「ワンっ!」

 ビクッとして振り返る。小型化したケルベロスの内二匹がラルフを囲んだ。足元に体を擦り付けてくる。目立つ黄色と赤の首輪からノズルとマウスだと分かった。

「あれ?お前らどうしてここに……まさか一緒に死にかけてるのか?」

「生きてるよ?」

 そこには緑の首輪のアイを抱いたミーシャが立っていた。そのことに愕然とする。

「馬鹿な……あの攻撃はミーシャでも防ぎきれなかったっていうのか?」

 触れただけで一撃死とかいう冗談みたいな攻撃だったのかもしれない。ラルフはヘナヘナとへたり込んだ。
 もう助からない。助かるわけがない。

「もう駄目だ……お終いだぁ……」

 ミーシャは命のものさしとしてはデカ過ぎる。

「落ち着いてラルフ。私たちは取り込まれただけだよ」

「……は?」

 マウスとノズルに顔をペロペロ舐められながらミーシャを見る。そしてそのまま辺りを見渡した。

「……そんなはずはないだろう?ここはだって……」

 サトリと出会った”間”で間違いない。そうじゃないならここは何だと言うのか。

「どこでも良いでしょ?とにかくここを出ないとね」

 ミーシャは光の玉を出す。暗いところを明るく照らそうと必ず三つ出現させる。しかしどれほどの光量で照らしても足元すら照らせない。

「出口になり得そうなものとかないかな?」

 ラルフは内心無駄だと思いながらも立ち上がる。

「んー、そうだな……ケルベロスにでも頼んで出口を見つけてもらおうか。帰巣本能って奴が元の世界への出口を見つけてくれるかも?」

「帰巣本能か……」

 あまり賢そうに見えない犬三匹の顔を見ながらも、特に良い案も思いつかないミーシャは抱きかかえたアイを下ろして「おすわり」と三匹並べて座らせた。

「何か役立ちそうなものを探してきて」

 ケルベロスは賢い。三匹に分裂しようが、ただの犬並みに小さくなろうがその賢さに微塵も変わりはない。揃って一声「ワンっ」と鳴いて走り去った。

「役立ちそうなものねぇ……あ、俺のポケットに何かないかな?とりあえず食いもんとかあったら良いけど……」

 ラルフが胸ポケットから順に探っていると、遠くから「ワンワンっ!」とこちらを呼ぶような鳴き声が聞こえてきた。何か見つけたらしい。

「え?早くね?」

「優秀な奴らだ。何を見つけたか見に行こう」

 こんなところで何か見つかると思っても見なかったラルフは小走り気味に声のした方に向かった。そこにあったのは物ではなく人。ジャラジャラと鎖を鳴らしながらケルベロスを可愛がっていた。

「お~よしよしよし。なぁんでこんなとこにいるんだお前はぁ?」

 小柄で小汚いその男を二人は知っている。

「トウドウさん?あんたなんでここに?」

「ほ?はぁ~。ラルフさんにミーシャさん。こんなところで会えるなんて思っても見なかったなぁ」

 藤堂は「よっこいしょ」とゆっくり立ち上がる。

「もしかして二人もあの子にやられた口かい?」

「ああそうだ。ここがどこか分かるか?トウドウ」

 ミーシャは腕を組んで威張るように質問する。支配者ムーブを久々に表に出した。

「それが知らねぇんだよなぁ……あの子の特異能力なんかじゃねぇ、多分あの大剣の力だろうと思うんだが……何せ初めてのことだったんでなぁ」

「その言い草。あんたと八大地獄の連中は知り合いってことか」

「ああ。そんな仰々しい名前をつけちゃいなかったがね」

 藤堂は肩を竦めて当時を振り返っているようだ。あまり良い思い出はないのか、疲れたような雰囲気を感じた。

「長話は後だ。先ずはここから出たい。前の炭鉱の時みたいに何とかならないのか?」

「無理だな。あっちは長年住んできて良いところも悪いところも知り尽くした仲だったが、こっちは初めてだし、広いだけの空間だしで面白みもない。出口があれば真っ先に出ただろうよ」

「となるとただ先客がいただけか。古代種エンシェンツを潰したとはいえ、まだイミーナと蒼玉が残っている。急がないと面倒だ」

 ミーシャははやる気持ちを隠すことなく口に出す。

「あれはどうだい?前の炭鉱みたいに魔力でバァーっと」

「それも考えなかったわけじゃないが、古代種エンシェンツとの戦いで魔力量が心許ない。ここを出ることに魔力を枯渇させたら、それこそイミーナに裏切られた時の再来だ。あの時は一人だったから今と状況は違うけど、不安が残る」

「つまり今はどうあっても正規の出口を所望してるってわけだな?ミーシャの魔力が不足気味なのは知らなかったけど、これだけはよく分かる。仲間に危機が迫ってるっていうね」

 ラルフは別のアプローチのために藤堂から離れようとする。挨拶だけはしとこうと帽子のつばをちょんっと指で摘んだ。

「あ……ちょっと待ってくれ」

 藤堂はその行動が亡きコンラッドと被った。ドゴールに作ってもらった指輪をチェーンで潜らせたネックレスを服越しに握る。踵を返して歩き去ろうとするラルフを呼び止める。

「何だ?あ、すまない。こんな暗がりで一人でいたんじゃ心細いよな?トウドウさんも一緒に来るかい?」

 藤堂は首から下げていたネックレスを外す。指輪を握りしめてラルフの元に無言で手を突き出した。
 ラルフはこの行動に訝しんだが、握りしめたそれを渡そうとしているのだけは理解出来たので、手を出して受け取る。その指輪を見た瞬間、ラルフの目は大きく開かれた。

「何それ。シンプルな指輪だね」

 そう、飾りっ気なしの指輪。宝石が一つもついていないので、その表現以外でこの指輪を示すと、安物だの何だのと悪口が飛びそうだ。

「……親父がいつも持ってた母さんとの結婚指輪さ。母さんが誰にも分かんないようにここにって印をつけて、盗られないように用心してた。親父はいつもこの印を見つめてたんだ」

 懐かしむラルフにバツの悪そうな藤堂。これから伝えないといけないことに珍しく緊張が走る。

「へぇ~、でも何でそんな大事なものをトウドウが持ってるの?」

 良いパスだ。言い難いことだが、会話の流れで伝えられるのは願ったり叶ったり。

「死んだんだ。親父は……ここにこれがあるってことはそう言うことだろ?」

 藤堂は口を噤んだ。しかし、しっかりと頭を下げて申し訳なさそうに奥歯を噛み締めた。ミーシャも藤堂の行動に俯く。言葉は何も発していないが、行動が示していた。

「さしずめ親父と知り合って託されたんだろ?全く親父もバカだよな。キャラバンなんて早死にするからやめろって言ってきてたのによ……」

 言えない。自分が離れたばかりに野盗に襲われ、壮絶な最期を遂げたなど。この空気では重すぎる。
 ミーシャはラルフの顔をじっと見て口を開く。

「……我慢しないでラルフ。ここには私たちしかいない。いっぱい泣いて良いんだよ?」

 ラルフの口元はニヤリと笑みを湛えた。

「我慢なんてしてねぇよ、親父はやりきって死んだんだ。そんな親父に送るのは涙じゃねぇ。だから言ったのにって皮肉さ」

 何と薄情な言い方か。
 しかしミーシャも藤堂も気づいた。ラルフの頬に流れ落ちる一筋の涙に。
 争うことも側にいてあげることも出来なかった一人息子の悲哀。
 そんなラルフをミーシャはそっと抱きしめる。

「泣くのは恥ずかしいことじゃないよ。ね?ラルフ。お父さんのために泣いてあげて」

 もう抑えられなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

処理中です...