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第十三章 再生
第十八話 分断作戦
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急に行軍を止めたことでマクマインも馬車から降りてきた。ゼアルがすぐさまマクマインの下に跪く。
「ラルフが現れました。街から離れ、平野にて待機中。罠の可能性がありますが、あの様子だと対話を望んでいると思われます。如何いたしますか?」
「……ふっ、のこのこ出てくるとは片腹痛い。ガンブレイド部隊を出せ」
「でしたら私が斬り捨てて参ります。一瞬で片を……」
「ならん。一切手出しは無用だ」
マクマインの頭ごなしの拒絶に流石のゼアルも顔を上げる。
「奴はあの怪物との対話を求めているのだろう。健気なことにまだ取り返せると思っているようだ。今一度あの女が攻撃を仕掛ければ、奴が何故生きていたのかのトリックが分かる。……まぁ、恐らくホログラムの類だろう。本体が現れた時にガンブレイド部隊で一斉射撃を敢行しろ」
「……御意」
ゼアルはサッと立ち上がり、即座に退がる。前方を警戒している二番隊長のバクスに声をかけているのが視界に入った。黒曜騎士団のガンブレイド部隊は多くが弓兵から異動した射撃部隊。命中精度はかなりのもの。自然とマクマインの顔に笑みが浮かぶ。
「ふふふ……ようやく戦場で会ったな。……ラルフよ、今日が貴様の命日だ」
*
外に出たミーシャがまず向かったのは空。蒼玉の制止を振り切り、何にも目もくれず、一心不乱に上空に飛翔する。大軍勢での行軍という窮屈さがミーシャの心身を解放に導いた。遮るものがない空はミーシャの心に余裕を生む。固まった体を伸ばしてコリをほぐすと辺りを見渡す。
アルパザ。思ったより大きな街だ。
ふと、この景色に懐かしさを覚える。この街に来たのは今回が初めてなのだからそんなはずはない。グラジャラクの自国領がこんな感じだったか?いや、違う。どことも一致しない。この景色はここだけのものだ。
「おやっ?」
街からさらに下を見ると軍勢と街の丁度真ん中付近にドラゴンが見えた。何らかの不測の事態に備え、行軍を停止させたにしては、たかだかドラゴン一匹。倒す力がなくても追い払うことくらいは出来なかったのだろうか。
そんな詮無いことを考えていると、ドラゴンの隣に立つ人物に目が行った。そのシルエットを見た時、ミーシャの心臓がきつく締め付けられる。呼吸が乱れ、息が荒くなる。何も考えられず、ただそのシルエットに釘付けになった。
あまりの衝撃に目を見開きすぎて目が乾燥してきた。体は目を保護しようと涙を溜める。だが、見開いているせいで涙はこぼれ落ちる。動悸が激しくなって頭痛までしてきた。堪らず瞼を閉じたが、瞼の裏にまでハットの形が見える。
「……ラ……ルフ……」
そうだ、あの男。ハットを肌身離さず被り、自身のシンボルとしていた。
(他人の空似だ!あいつは確かに私が殺した!!)
頭を抱えるミーシャ。そこに蒼玉がやってきた。
「ミーシャ様。馬車にお戻りください。勝手に動かれてはこれからの作戦に支障が……」
「……蒼玉。あれは誰だ?」
ミーシャは震える手で何とか指をさした。
「……ただの人間です。ミーシャ様が気にされることではございません」
「確かめてくる」
「おやめください」
「……やっぱりそうか……ラルフだな?あの男が生きていたんだな?」
「……」
ミーシャに対し、嘘がつけない蒼玉は口を噤んだ。
「心配してくれたのだな。私がまた操られるのではないかと危惧してくれたんだろう?」
蒼玉の顔に安堵の表情が見て取れた。
「え、ええ。全くその通りです。あの男は何らかの方法を用い、あなた様の魔力砲を掻い潜りました。その方法が分からぬ以上、手を拱いていましたがご安心を。すぐに片を付けますので……」
「必要ない。決着は私の手でつける」
蒼玉は少し考える素振りを見せてから頭を下げた。
「それでは共に参りましょう。今度こそ奴の首を打ち取るのです」
何かにつけて否定的だったさっきとは打って変わった態度。ミーシャは別に違和感を感じることなくコクリと頷くと、ラルフに向かって一直線に飛ぶ。後を追うように少し遅れて蒼玉も発進した。
「……来たか」
ラルフの呟きに合わせるようにミーシャがふわりと地面に降り立つ。遅れて蒼玉もやってきた。
「おおう、余計なのがついてきちゃったな……当然といえば当然か。もしもの時は巻き戻さなきゃダメだしな」
おちょくるような言い方で特異能力に言及された蒼玉は少々イラついた。
「余計なのはあなたの存在でしょう?図に乗るのも大概にすることですね」
蒼玉とラルフが睨み合う。ミーシャは手をかざして蒼玉を下がらせた。
「お前……何で死んでないの……?」
「簡単な話だよ。単純に避けただけさ」
「……どうやって?」
「それが知りたきゃ、少々手こずるぜ?」
ラルフは腰に下げたダガーナイフの柄を握る。
「ほう?私を相手に肉弾戦を仕掛けるつもりか?受けて立とう」
ミーシャも臨戦態勢を取る。
(バカな……ミーシャを相手に肉迫?自殺と何ら変わりない。しかし、こちらにとっては好都合。魔力砲では殺せなかったけど、ミーシャが殴れば死体が残る。これでようやく殺せる)
だいぶ余裕が戻ってきた蒼玉は涼しい顔で静観を決め込む。もはやラルフに生き残る術は無い。気がかりなのは自ら接近戦を申し込んだこと。罠か、死中に活を見出そうと言うのか?勝ち目がないと分かって、やぶれかぶれに攻撃をしようというのか?
「いずれにせよ、これが決着か……」
二人は会話を挟むことなくじっと睨み合う。集中力が切れる瞬間を狙っている。目の前をコバエが飛んだ時、風で砂が入って目を瞬かせたその時などの明らかな隙。そしてその瞬間は起こる。ラルフが一瞬目を伏せた。
ドバッ
踏み抜いた地面が盛り上がり弾ける。ミーシャの脚力に悲鳴を上げた地面を放っておいて、ラルフに駆け寄る。拳を振り上げ、今ラルフの頭を砕かんとする。頭を狙ったのはラルフのシンボルであるハットごと捻り潰そうと考えたからだ。今にも鉄拳を振り下ろしそうなミーシャを前に、ラルフは冷静だった。
「……掛かった」
ブォンッ
その時、ミーシャの腕は何も捉えることなく空を切った。
「え?あれ?」
確かにラルフの頭目掛けて仕掛けた。しかし空振り。その上、さっきまでいた平野の風景がガラッと変わっている。草原すらなくなり、白い繭みたいなものが部屋のように大きく取り囲んでいた。困惑と混乱で身動きが取れない。
「……やあ、ミーシャ……元気そうで何よりだよ……」
繭の中心部にそれは居た。第十魔王”白絶”。自由奔放で自己中心的。魔族一の嫌われ者で、海を支配する魔王。それがここで何をしているのか?
「は……白絶?何これ?い、一体何が起こっているの?」
*
「ミーシャ様を……ミーシャを何処へやった!!」
蒼玉の本気の怒りがラルフを襲う。殺意や憤怒がオーラとなって吹き出した。ラルフはダガーナイフの柄から手を離す。
「小さな異次元。それが俺の特異能力だ。それじゃ失礼して……」
ラルフはポケットに入っていた小さな玉を取り出した。ポイッと上空に玉を投げると、ちょうど一番高くなった位置で破裂した。
カッ
閃光弾の破裂。強力な光は見たものの視界を一瞬奪う。蒼玉は玉の行方を目で追ってしまったために閃光弾の餌食となった。
「ぐっ……!!」
目が眩んで無防備となった蒼玉だったが、ラルフはそんな蒼玉に見向きもしない。
「戦争開始だ。頼んだぜみんな……じゃ、俺はこれで」
そういうとラルフは自分が通れるサイズの大きな穴を作り、そそくさと潜っていった。
「ラルフ!……くそぉっ……!!」
見立てが甘かった。まさか特異能力を持ち合わせていたなど夢にも思わない。マクマインも知らせを受けた途端に怒り狂う。全ては「ラルフ程度に何が出来る?」という慢心から起きたことだ。敵を知っている気になって足元を掬われるのは良くあることだ。
二人の統治者の怒りがピークに達した頃、閃光弾というラルフの合図を受けたベルフィアたちもようやく動き出す。
「ふふっ……では、始めヨうかノぅ。血と狂乱ノ宴を」
「ラルフが現れました。街から離れ、平野にて待機中。罠の可能性がありますが、あの様子だと対話を望んでいると思われます。如何いたしますか?」
「……ふっ、のこのこ出てくるとは片腹痛い。ガンブレイド部隊を出せ」
「でしたら私が斬り捨てて参ります。一瞬で片を……」
「ならん。一切手出しは無用だ」
マクマインの頭ごなしの拒絶に流石のゼアルも顔を上げる。
「奴はあの怪物との対話を求めているのだろう。健気なことにまだ取り返せると思っているようだ。今一度あの女が攻撃を仕掛ければ、奴が何故生きていたのかのトリックが分かる。……まぁ、恐らくホログラムの類だろう。本体が現れた時にガンブレイド部隊で一斉射撃を敢行しろ」
「……御意」
ゼアルはサッと立ち上がり、即座に退がる。前方を警戒している二番隊長のバクスに声をかけているのが視界に入った。黒曜騎士団のガンブレイド部隊は多くが弓兵から異動した射撃部隊。命中精度はかなりのもの。自然とマクマインの顔に笑みが浮かぶ。
「ふふふ……ようやく戦場で会ったな。……ラルフよ、今日が貴様の命日だ」
*
外に出たミーシャがまず向かったのは空。蒼玉の制止を振り切り、何にも目もくれず、一心不乱に上空に飛翔する。大軍勢での行軍という窮屈さがミーシャの心身を解放に導いた。遮るものがない空はミーシャの心に余裕を生む。固まった体を伸ばしてコリをほぐすと辺りを見渡す。
アルパザ。思ったより大きな街だ。
ふと、この景色に懐かしさを覚える。この街に来たのは今回が初めてなのだからそんなはずはない。グラジャラクの自国領がこんな感じだったか?いや、違う。どことも一致しない。この景色はここだけのものだ。
「おやっ?」
街からさらに下を見ると軍勢と街の丁度真ん中付近にドラゴンが見えた。何らかの不測の事態に備え、行軍を停止させたにしては、たかだかドラゴン一匹。倒す力がなくても追い払うことくらいは出来なかったのだろうか。
そんな詮無いことを考えていると、ドラゴンの隣に立つ人物に目が行った。そのシルエットを見た時、ミーシャの心臓がきつく締め付けられる。呼吸が乱れ、息が荒くなる。何も考えられず、ただそのシルエットに釘付けになった。
あまりの衝撃に目を見開きすぎて目が乾燥してきた。体は目を保護しようと涙を溜める。だが、見開いているせいで涙はこぼれ落ちる。動悸が激しくなって頭痛までしてきた。堪らず瞼を閉じたが、瞼の裏にまでハットの形が見える。
「……ラ……ルフ……」
そうだ、あの男。ハットを肌身離さず被り、自身のシンボルとしていた。
(他人の空似だ!あいつは確かに私が殺した!!)
頭を抱えるミーシャ。そこに蒼玉がやってきた。
「ミーシャ様。馬車にお戻りください。勝手に動かれてはこれからの作戦に支障が……」
「……蒼玉。あれは誰だ?」
ミーシャは震える手で何とか指をさした。
「……ただの人間です。ミーシャ様が気にされることではございません」
「確かめてくる」
「おやめください」
「……やっぱりそうか……ラルフだな?あの男が生きていたんだな?」
「……」
ミーシャに対し、嘘がつけない蒼玉は口を噤んだ。
「心配してくれたのだな。私がまた操られるのではないかと危惧してくれたんだろう?」
蒼玉の顔に安堵の表情が見て取れた。
「え、ええ。全くその通りです。あの男は何らかの方法を用い、あなた様の魔力砲を掻い潜りました。その方法が分からぬ以上、手を拱いていましたがご安心を。すぐに片を付けますので……」
「必要ない。決着は私の手でつける」
蒼玉は少し考える素振りを見せてから頭を下げた。
「それでは共に参りましょう。今度こそ奴の首を打ち取るのです」
何かにつけて否定的だったさっきとは打って変わった態度。ミーシャは別に違和感を感じることなくコクリと頷くと、ラルフに向かって一直線に飛ぶ。後を追うように少し遅れて蒼玉も発進した。
「……来たか」
ラルフの呟きに合わせるようにミーシャがふわりと地面に降り立つ。遅れて蒼玉もやってきた。
「おおう、余計なのがついてきちゃったな……当然といえば当然か。もしもの時は巻き戻さなきゃダメだしな」
おちょくるような言い方で特異能力に言及された蒼玉は少々イラついた。
「余計なのはあなたの存在でしょう?図に乗るのも大概にすることですね」
蒼玉とラルフが睨み合う。ミーシャは手をかざして蒼玉を下がらせた。
「お前……何で死んでないの……?」
「簡単な話だよ。単純に避けただけさ」
「……どうやって?」
「それが知りたきゃ、少々手こずるぜ?」
ラルフは腰に下げたダガーナイフの柄を握る。
「ほう?私を相手に肉弾戦を仕掛けるつもりか?受けて立とう」
ミーシャも臨戦態勢を取る。
(バカな……ミーシャを相手に肉迫?自殺と何ら変わりない。しかし、こちらにとっては好都合。魔力砲では殺せなかったけど、ミーシャが殴れば死体が残る。これでようやく殺せる)
だいぶ余裕が戻ってきた蒼玉は涼しい顔で静観を決め込む。もはやラルフに生き残る術は無い。気がかりなのは自ら接近戦を申し込んだこと。罠か、死中に活を見出そうと言うのか?勝ち目がないと分かって、やぶれかぶれに攻撃をしようというのか?
「いずれにせよ、これが決着か……」
二人は会話を挟むことなくじっと睨み合う。集中力が切れる瞬間を狙っている。目の前をコバエが飛んだ時、風で砂が入って目を瞬かせたその時などの明らかな隙。そしてその瞬間は起こる。ラルフが一瞬目を伏せた。
ドバッ
踏み抜いた地面が盛り上がり弾ける。ミーシャの脚力に悲鳴を上げた地面を放っておいて、ラルフに駆け寄る。拳を振り上げ、今ラルフの頭を砕かんとする。頭を狙ったのはラルフのシンボルであるハットごと捻り潰そうと考えたからだ。今にも鉄拳を振り下ろしそうなミーシャを前に、ラルフは冷静だった。
「……掛かった」
ブォンッ
その時、ミーシャの腕は何も捉えることなく空を切った。
「え?あれ?」
確かにラルフの頭目掛けて仕掛けた。しかし空振り。その上、さっきまでいた平野の風景がガラッと変わっている。草原すらなくなり、白い繭みたいなものが部屋のように大きく取り囲んでいた。困惑と混乱で身動きが取れない。
「……やあ、ミーシャ……元気そうで何よりだよ……」
繭の中心部にそれは居た。第十魔王”白絶”。自由奔放で自己中心的。魔族一の嫌われ者で、海を支配する魔王。それがここで何をしているのか?
「は……白絶?何これ?い、一体何が起こっているの?」
*
「ミーシャ様を……ミーシャを何処へやった!!」
蒼玉の本気の怒りがラルフを襲う。殺意や憤怒がオーラとなって吹き出した。ラルフはダガーナイフの柄から手を離す。
「小さな異次元。それが俺の特異能力だ。それじゃ失礼して……」
ラルフはポケットに入っていた小さな玉を取り出した。ポイッと上空に玉を投げると、ちょうど一番高くなった位置で破裂した。
カッ
閃光弾の破裂。強力な光は見たものの視界を一瞬奪う。蒼玉は玉の行方を目で追ってしまったために閃光弾の餌食となった。
「ぐっ……!!」
目が眩んで無防備となった蒼玉だったが、ラルフはそんな蒼玉に見向きもしない。
「戦争開始だ。頼んだぜみんな……じゃ、俺はこれで」
そういうとラルフは自分が通れるサイズの大きな穴を作り、そそくさと潜っていった。
「ラルフ!……くそぉっ……!!」
見立てが甘かった。まさか特異能力を持ち合わせていたなど夢にも思わない。マクマインも知らせを受けた途端に怒り狂う。全ては「ラルフ程度に何が出来る?」という慢心から起きたことだ。敵を知っている気になって足元を掬われるのは良くあることだ。
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