一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

文字の大きさ
570 / 718
第十四章 驚天動地

第二十一話 絶対的で圧倒的な力

しおりを挟む
 実力の開きとは嘆かわしいものである。
 よく例えられる一例として体格が挙げられるだろう。クジラとオキアミ、象と蟻といった物理的に到底埋められない差だ。距離を含めた月とスッポンなどは有名な文句だ。
 では八大地獄はどの立ち位置なのか。一般人と比べれば、強者を誇れるだろう。魔族でも中級までの魔族であればどうとでもなる。上級から魔族の強者になれば、ほぼ互角といったところだ。つまり上から数えたほうが早いくらいの強者なのだ。

 ならばミーシャはどうなのか。



 ティファルの鞭に絡め取られた刀がロングマンの手に渡る。ラルフが一人で出てきた段階から罠であることを察していたメンバーは、ロングマンの言動に注視しつつ、周りを見渡していた。
 既に包囲されていることは予想がついている。火の揺らめき、草や木の陰など、生き物の気配や怪しい部分が無いかをつぶさに探す。もし今、魔力砲が飛んできても対応出来る。

「掛かって来いよ……ぶっ殺してやるぜ?」

 テノスは舌舐めずりをしながら敵を待つ。いつでも掛かって来いとするのはブレイドとの因縁のせいだ。自身が殺された経緯のある最大の敵に警戒を示すのは当たり前だ。
 テノスに限らず、ティファル、ノーン、さらにはジョーカーとも関連があり、どれほどブレイドが八大地獄との戦いで活躍していたかを窺い知れる。ジニオンは断然ミーシャだ。トドットに至ってはジュリアに追い詰められている。
 白の騎士団は確かに脅威であったが、ラルフのメンバーを考えれば危険性は下がる。ここを突破、あるいは勝利出来れば、もう怖いものはない。ここを突破、あるいは勝利出来れば……。

「何か魔族もいるんだけど?全員”八大地獄”で良かったの?」

 背中を預けあい、誰もが警戒を怠らなかったはずのこの場において、背後を取られるなど考えてもみない。「いつの間に」と言う言葉すら出ない。突如何の前触れも無く姿を現したミーシャに、驚愕と脅威と恐怖が綯い交ぜになって頭が真っ白になった。

「えっと、殺しちゃっても良かったんだっけ?」

 ミーシャの首を傾げる行為にテノスはキレた。

「やってみろやオラァッ!!」

 フレイムデーモンであるテノスの体からは一気に炎が吹き出す。テノスに触発されたティファルも体から蒸気を発生させ、戦闘態勢に移行する。ジョーカーは短剣を抜き、ノーンは槍を構えた。

 ドンッ

 テノスの体が宙に浮く。何をしたのか、ティファルをして目が追いつかなかった。手が早すぎて残像すら追えない。「え?」と肺から空気が抜けるが、次は自分であることを知り、鞭を振ろうと手に力を入れた。それが間違いだ。敵意、殺意は闘争という獣の餌である。

 ゴッ

 ティファルの攻撃が成立するよりも先に、ミーシャの右拳が彼女の顔を殴る。5mふっ飛ぶのを横目に、ノーンとジョーカーは一斉に攻撃を仕掛けた……。

「なるほどね。俺はあいつにぶっ飛ばされたのか……」

 地面に埋まるノーンとジョーカー。すぐに交戦を仕掛けた四人は瞬時に倒された。ジニオンはその目に喜悦を湛える。強者との戦いは願ったり叶ったりだ。それも前回はよく分からない内にぶちのめされたが、今はそんなことはない。油断なく戦いを満喫出来る。

「……やめよう……ジニオン」

「あぁん?!」

 せっかくの戦いに水を差した声に全力で反応する。しかし、その声の主がパルスであったことがジニオンの興奮を大きく削ぐ結果となった。それはジニオンだけではない。

「パ、パルス……お主……!?」

 トドットも握っていた杖を取り落すほどに取り乱す。パルスが戦闘において、メンバーの誰かを制止したのはこれが初めてである。

 八大地獄に勝ち目などハナから存在しない。ミーシャという存在はこの世界の絶対的”力”の象徴。上から数えた方が強さの順位が速いだけの連中に、ヒエラルキーそのものを飲み込む怪物に勝つことなど出来はしない。

 ラルフはそんな様子をロングマンと観測する。背後で起こっている事態に、ラルフの存在などすっかり忘れ、二人仲良く呆けて見てしまっていた。これから格好良く戦いが始まろうしている時の出来事だっただけに、肩透かしどころか不意打ちを食らったかのように不甲斐ない。

「……って、おいおい……作戦の「さ」の字も出来てねぇじゃん。ブレイドたち困惑してんだろこれ……」

 土壇場でアドリブを入れられたせいで、ラルフも困惑を隠せない。

「そんなことはないですよ」

 ラルフの右斜め後ろからブレイドがガンブレイドを構えて現れる。照準はもちろんロングマンだ。他にもアルル、ベルフィア、エレノアが顔を見せ、油断なく警戒している。

「おお!ブレイド!首尾はどうだ?」

「問題ありません、回収完了です。彼らに敵対の意思は見られず、こちらを全面的に信用しているようなので、そう難しくなかったようですよ?」

「まぁサトリもいるしな。当然と言えば当然か」

 ラルフが報告に耳を傾けている時、武装を解いたトドット、ジニオン、パルスの三人を見てロングマンはため息をついた。

「……お仲間は武器を投げたぜ?あんたはどうする?戦うってんなら相手になってやっても良いが……これじゃ不毛かな?」

 戦意喪失といって過言ではないロングマンの落ち込みっぷりに追い討ちをかける。ロングマンは目を瞑って今の状況の整理に入った。

(ケルベロスの討伐は出来ていない。次元渡りの正確な情報も無く、あの化け物に我らの半数を戦闘不能にされた……足掻いても無駄、か)

 ロングマンも納刀する。戦いは始まる前に終わっていたのだ。
 ミーシャが自由に動き回れる環境は彼女の独壇場。遊撃を任された彼女の前に戦争はない。あるのは一方的な蹂躙劇。
 ただ、それだけだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

処理中です...