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第十四章 驚天動地
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『あーあ、やっちゃった』
要塞が墜ちるのを傍観していたアシュタロトは、マクマインの側でため息をつきつつ呆れ返る。ちょっとしたやらかしを非難する程度の軽いノリで喋ってはいるが、実際には人類史始まって以来の最悪レベルで危機的事態に陥っていた。
”守護獣”。この世界に住まう知的生命体が古代種と呼ぶそれは、世界の調和を保つ唯一絶対の獣。異世界からの侵入を防ぐ目的で創造された力の権化。
最強であることを義務付けられてきた王者たちは、今世紀を以ってついに陥落する。長きに渡って守られてきた次元の壁は、いつでもぶち抜けるほどに薄く、そして脆くなった。
「……この後はどんな展開が予想される?」
マクマインは目を細めてアシュタロトを見る。その言葉にニヤッと口を歪めるだけで直接答えることはない。
『……解禁にゃ』
それは左斜め後ろで聞こえた。肩越しに確認すると、アルテミスがいつも以上に真剣な面持ちで口を開く。
『上限の撤廃。簡単に言えば手加減しなくても良くなったのにゃ』
「ん?それではまるで、貴様らはずっと手加減をしていたような口ぶりではないか?」
『そう言ってるにゃ』
話の見えない部下たちは背後で首を傾げている。そんなことなど御構い無しに続ける。
「古代種の存在が何故貴様らの枷となっているのだ?全てを任せられるようにあれだけ強力にしたのではなかったのか?」
『勿論そうにゃ。あれだけ大きくした理由も、畏怖の対象である面が強いにゃ。現に今までは平和を保ててたにゃ』
「平和?魔族に蹂躙される平和などあってはならない。単に滅びなかったことを平和と言われるのは心外だな」
『まぁ聞くにゃ。ウチらだって考えなかったわけじゃないにゃ。そこは信頼して世界を預けたと好意的に受け取って欲しいんにゃが、難しいことは承知の上で話すにゃ。最強の獣に持たせたのは鍵という力。それはウチらの力の一部で生成されているにゃ……いや、大部分といっても差し支えないにゃ』
「ほぅ?つまりこういうことか?全ての古代種の死が、異次元の門を叩くと同時に、貴様らの力が返還される。今まで見せてきた力などとは比べ物にならないと?」
アルテミスはコクリと頷く。
「なるほど、道理で鏖に勝てぬわけだ。古代種を殺せば異世界への扉を自ら開くことにつながり、殺さなければ奴には及ばない。神が人の手を借りるなど回りくどいとは思っていたが、鍵を獣に保持させたままで倒そうとしていたのか……分からんではない。私も同じだからな」
ゼアルを使用し、国に引きこもって朗報を待っていた自分を思い出す。結局は失敗したが……。
「では、本格的に介入するわけだな?貴様らが率先して 鏖を殺すと、そういうことだな?」
『そうさ。僕らを止めることはもう出来ないってこと。色々やらかしちゃって早千年、そろそろ本格的に動くべき時だと思うんだよね~』
アシュタロトは一歩前に出る。
『神様を怒らせたら怖いってとこ……見せてあげるよ』
*
ザザァ……ザザァ……
寄せては返す波が小さな飛沫をあげて存在を主張する。サラサラの砂浜にズラッと並んだ人の群れ。
「おいおい、どうすんだこれ?」
八大地獄とラルフ一行。老若男女、人族と魔族、双方揃い踏みの大所帯。寝る場所が沈んだために落ち着ける場所もない。後二時間もすれば夜が明けるというのに、一睡もしないのは体に堪える。いつもならすぐに眠たくなるウィーやミーシャが眠そうにしていないのは、それだけこの空間が緊迫している証拠だろう。
「どうもこうも無かろう?野宿が出来んわけでもあるまいに……」
ロングマンは波際から離れて仮眠を取ることを提案する。
「やだ。ベッドが良い」
ミーシャはその提案に真っ向から否定する。ベッドを使わなかった時もあったというのに要求するのは、寝具なしの生活に戻れないのだろう。習慣化した贅沢は当たり前となり、手放したくなくなるのは生き物の性だ。これには女性陣が軒並み賛同する。
ラルフやロングマンを筆頭に、男性陣は寝具がないならそれに合わせるつもりだが、猛反対を食らっては諦めざるを得ない。
「……つってもこの近くの町に騎士団の連中が居るだろうし、そんなリスクは負えないだろう?」
「しかし、この近辺であれば魔獣に遭遇する可能性は大いにあります。負けないにしろ、面倒であることは変わらないのでは?」
「それに関しちゃベルフィアもいるし、トウドウさんも協力してくれるだろうから警備は万全だ」
「あ?バカを申せ、何で妾が警備なんぞせねばならん?」
「お前は寝る必要がねぇからな」
「ねぇラルフ。ベッドが良い」
「私も」
話し合いは平行線を辿る。その上、わちゃわちゃし始めたため、収集もつかなくなってきた。そこら中で好き勝手話し始めた時、ラルフが声をあげた。
「分かった!安心安全でベッドで眠れる場所だな?俺に一つ心当たりがある。けど良いか?これは先に言っとくが、相手は気品があって外界との関係をほとんど絶ってる。行っても相手方にとってはあまりいい気はしないだろうから、そこんところは気をつけてくれよ?」
ラルフはおもむろに次元の扉を開ける。そこに待ち受ける者たちは森と深く関係のある方々。快く受け入れてくれることを望んでワープホールを跨いだ。
古代種全滅。それは世界の常識を覆す最悪のシナリオ。
怒りに塗れた神々の狂想曲が鳴り響く。
対するは、負け犬たちの円舞曲。
踊り狂う舞台上の演者たちは最終局面に向けて、一心不乱に突き進む。
かくあるべき正解を探して──。
要塞が墜ちるのを傍観していたアシュタロトは、マクマインの側でため息をつきつつ呆れ返る。ちょっとしたやらかしを非難する程度の軽いノリで喋ってはいるが、実際には人類史始まって以来の最悪レベルで危機的事態に陥っていた。
”守護獣”。この世界に住まう知的生命体が古代種と呼ぶそれは、世界の調和を保つ唯一絶対の獣。異世界からの侵入を防ぐ目的で創造された力の権化。
最強であることを義務付けられてきた王者たちは、今世紀を以ってついに陥落する。長きに渡って守られてきた次元の壁は、いつでもぶち抜けるほどに薄く、そして脆くなった。
「……この後はどんな展開が予想される?」
マクマインは目を細めてアシュタロトを見る。その言葉にニヤッと口を歪めるだけで直接答えることはない。
『……解禁にゃ』
それは左斜め後ろで聞こえた。肩越しに確認すると、アルテミスがいつも以上に真剣な面持ちで口を開く。
『上限の撤廃。簡単に言えば手加減しなくても良くなったのにゃ』
「ん?それではまるで、貴様らはずっと手加減をしていたような口ぶりではないか?」
『そう言ってるにゃ』
話の見えない部下たちは背後で首を傾げている。そんなことなど御構い無しに続ける。
「古代種の存在が何故貴様らの枷となっているのだ?全てを任せられるようにあれだけ強力にしたのではなかったのか?」
『勿論そうにゃ。あれだけ大きくした理由も、畏怖の対象である面が強いにゃ。現に今までは平和を保ててたにゃ』
「平和?魔族に蹂躙される平和などあってはならない。単に滅びなかったことを平和と言われるのは心外だな」
『まぁ聞くにゃ。ウチらだって考えなかったわけじゃないにゃ。そこは信頼して世界を預けたと好意的に受け取って欲しいんにゃが、難しいことは承知の上で話すにゃ。最強の獣に持たせたのは鍵という力。それはウチらの力の一部で生成されているにゃ……いや、大部分といっても差し支えないにゃ』
「ほぅ?つまりこういうことか?全ての古代種の死が、異次元の門を叩くと同時に、貴様らの力が返還される。今まで見せてきた力などとは比べ物にならないと?」
アルテミスはコクリと頷く。
「なるほど、道理で鏖に勝てぬわけだ。古代種を殺せば異世界への扉を自ら開くことにつながり、殺さなければ奴には及ばない。神が人の手を借りるなど回りくどいとは思っていたが、鍵を獣に保持させたままで倒そうとしていたのか……分からんではない。私も同じだからな」
ゼアルを使用し、国に引きこもって朗報を待っていた自分を思い出す。結局は失敗したが……。
「では、本格的に介入するわけだな?貴様らが率先して 鏖を殺すと、そういうことだな?」
『そうさ。僕らを止めることはもう出来ないってこと。色々やらかしちゃって早千年、そろそろ本格的に動くべき時だと思うんだよね~』
アシュタロトは一歩前に出る。
『神様を怒らせたら怖いってとこ……見せてあげるよ』
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ザザァ……ザザァ……
寄せては返す波が小さな飛沫をあげて存在を主張する。サラサラの砂浜にズラッと並んだ人の群れ。
「おいおい、どうすんだこれ?」
八大地獄とラルフ一行。老若男女、人族と魔族、双方揃い踏みの大所帯。寝る場所が沈んだために落ち着ける場所もない。後二時間もすれば夜が明けるというのに、一睡もしないのは体に堪える。いつもならすぐに眠たくなるウィーやミーシャが眠そうにしていないのは、それだけこの空間が緊迫している証拠だろう。
「どうもこうも無かろう?野宿が出来んわけでもあるまいに……」
ロングマンは波際から離れて仮眠を取ることを提案する。
「やだ。ベッドが良い」
ミーシャはその提案に真っ向から否定する。ベッドを使わなかった時もあったというのに要求するのは、寝具なしの生活に戻れないのだろう。習慣化した贅沢は当たり前となり、手放したくなくなるのは生き物の性だ。これには女性陣が軒並み賛同する。
ラルフやロングマンを筆頭に、男性陣は寝具がないならそれに合わせるつもりだが、猛反対を食らっては諦めざるを得ない。
「……つってもこの近くの町に騎士団の連中が居るだろうし、そんなリスクは負えないだろう?」
「しかし、この近辺であれば魔獣に遭遇する可能性は大いにあります。負けないにしろ、面倒であることは変わらないのでは?」
「それに関しちゃベルフィアもいるし、トウドウさんも協力してくれるだろうから警備は万全だ」
「あ?バカを申せ、何で妾が警備なんぞせねばならん?」
「お前は寝る必要がねぇからな」
「ねぇラルフ。ベッドが良い」
「私も」
話し合いは平行線を辿る。その上、わちゃわちゃし始めたため、収集もつかなくなってきた。そこら中で好き勝手話し始めた時、ラルフが声をあげた。
「分かった!安心安全でベッドで眠れる場所だな?俺に一つ心当たりがある。けど良いか?これは先に言っとくが、相手は気品があって外界との関係をほとんど絶ってる。行っても相手方にとってはあまりいい気はしないだろうから、そこんところは気をつけてくれよ?」
ラルフはおもむろに次元の扉を開ける。そこに待ち受ける者たちは森と深く関係のある方々。快く受け入れてくれることを望んでワープホールを跨いだ。
古代種全滅。それは世界の常識を覆す最悪のシナリオ。
怒りに塗れた神々の狂想曲が鳴り響く。
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