一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

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第十五章 終焉

第十二話 対ユピテル-2

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「ま、不味い……」

 ブレイドは鼻と口から血を流しながら起き上がった。脳震盪も起こしている様で、周りが歪んで見える。
 こんなところで伸びていてはエレノアに大きな負担となってしまう。一対一で戦っているだろうエレノアの姿を想像しながらユピテルを見ると、そこで相手をしていたのはゼアルだった。

「……なっ!?」

 ブレイドの想定は大きく外れていた。先程まで影も形も無かった人物がラルフを守り、何故かそこにエレノアの姿はない。すぐさま母の姿を探し、地面に倒れ伏す彼女の姿を見つけた。

「母さん……!?」

 ふらつく足を奮い立たせ、即座にエレノアの元に駆ける。口元に手をかざし、息をしていることを確認するとホッとした。

(生きてる!けど下手には動かせないか……)

 見てくれでは大丈夫そうに見えても体内がどうなっているかは分からない。体を揺すったことがトドメになることだってある。

「くそっ!アルルさえいたら……!!」

 アルルは現在ラルフの異空間に隠れている。異空間を自由に行き来できるラルフが生きていれば、そこは完全無欠のシェルターとなる。
 でもそれは裏を返せばラルフを通さないと異空間から出せないということだ。どうにかユピテルを退けなければエレノアの回復は見込めない。

 そんなブレイドの思いを知る由もないゼアルは、ユピテルの抜き手を剣でなし、体勢を崩すと流れる様に胴払いを放った。剣を自身の手の様に器用に使いこなすゼアルの技の前に倒れた敵は数知れず。

 だがユピテルはその辺の雑魚とは比べ物にならない。重心を崩したまま無理やり跳躍し、剣の軌道を飛び越えることで回避した。
 空中で体を捻って難なく着地すると、ガバッと顔を上げた。すぐにも罵詈雑言を浴びせたかったが、そんなことより疑問の方がまさる。

『な、何故ラルフを助ける必要があったのだ!?ゼアル!!そなたの剣で殺したくば、私に気を取られているラルフを横からなり背後からなり……とにかく討ち取れば良いではないか!!』

「ふっ……神に人の機微は分からんだろうな」

『機微……?何が機微だっ!!このクソボケがぁ!!ぶっ殺してやるっ!!』

 苛烈に叫び散らし、これでもかと小物感が溢れる。これでも光の神だ。
 ゼアルは剣を構え、静かにユピテルを見据える。ここより先は行かせないとする不動の意思を見せた。ラルフはこの構図に既視感を覚える。

「なーんか懐かしいなぁこういうの。アルパザの時に見た景色だぜ」

「悠長な奴だ。相手は神なのだぞ?人狼ワーウルフなどとは次元が違う」

「おっとジュリアの悪口はそこまでにしといてくれよ?割と繊細なんだから」

 ここに居もしない人狼ワーウルフのことなどどうでも良いだろうと考えたその時。

「誰ガ繊細ダッテ?全然ソンナコト無イシ」

 ラルフが死を覚悟しながら開けた次元の穴からジュリアが顔を出した。
 いや、正確には八大地獄の面々が穴から一斉に飛び出し、白の騎士団のガノンやそれに追従する者たち、ベルフィアやデュラハン姉妹など戦闘特化の面々が顔を揃える。

「……何だ?これは私が出て来なくとも良かったのではないか?」

 ゼアルは戦闘体勢こそ維持しているが、拍子抜けといった顔で今の心境を表す。

「何言ってんだ。あんたが居なきゃ俺はとっくに死んでるってマジで」

 ラルフは肩を竦めて己を恥じる。神から力を授かっても、授かる者が違えば能力の振れ幅も大きく変わる。特にゼアル並の才能なら世界一を目指すのも夢ではない。反対に、ラルフは強くはなったが、身体能力だけを取ってみれば高が知れている。ラルフの言葉に気を良くしたのか、小さくフッと笑った。

「アルル!!母さんが……!!」

 そこにブレイドが慌ててやってきた。事情を聞いたアルルはアイナと共にエレノアの元に走る。

「ほう?エレノアがやられタか……面白い。かなり出来ル様じゃノぅ」

「ああ、そうだ。ちなみにお前じゃ勝てないぞ?速すぎて目で追えないから」

 オブラートに包むこともなく事実を伝える。ムッとするベルフィアだったが、異空間でのファーストコンタクトでラルフを守りに行くことはおろか、体が動く前に全てが終わっていた。それを思い出せば軽口は叩けない。

「で、出られるのか?」

 そんな折、そっと顔を出したのは一般エルフ。

「わぁっ!?まだダメだって!ちょっとデュラハン姉妹!彼らを押し返してくれ!」

「えぇ?せっかく出て来れましたのに……しょうがないですわね。リーシャ!イーファ!シャーク!アイリーン!」

「「「はい!お姉さま!!」」」

 五人のデュラハン姉妹はすぐに剣を鞘に仕舞い、エルフを押し戻す。デュラハン姉妹ごと次元の穴を閉じるとようやく一息つけた。

『そ、そなたら……誰を相手にしているのか分かっているのか?』

 色々飛び出してきて呆気に取られてしまったがために成り行きを見ていたが、あまりに空気にされたために、ユピテルは少々困惑気味にたずねた。

「あったりまえだろ!忘れちゃいないって!ようやく準備が整ったところだから!!」

 戦闘再開。まだ心まで追いついていないユピテルだったが、こんなところで躓いている場合ではない。頭を振って切り替えを行う。そんな姿にロングマンが口を出す。

為体ていたらくだなユピテル。そんなことで此奴らを仕留められるのか?」

『黙れロングマン!そなたがこの私に意見出来る立場か!?』

「何を言っている?我らはお前の味方だ。我ら八大地獄は神の側につく。異議ある者は手を挙げろ。その腕泣き別れになっても文句は言わせん!」

 ひるがえって物騒な言葉で脅しかける。突如として神との共闘を宣言したロングマンにラルフはサッと手を挙げた。

「ほら、異議ありだぜ?……切ってみろよ」

 いつもの挑発。ロングマンの顔中に浮く青筋は、ラルフに向けた殺意の数だ。

「……いや、やはり跡形もなく消し炭にしてやる」
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