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第十五章 終焉
第五十六話 実感
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今まさに飛び出しそうなオーラを放つマクマインと、だらりと肩の力を抜いて力なく立つラルフ。
見てくれは圧倒的にマクマインに軍配が上がる。全身鎧に身を包み、誰彼構わず傷つけそうな凶悪なフォルムは第十二魔王”鉄”のような強者感を醸し出す。表情すら見えず、声でしかマクマインだと判別不能であるため、何をしでかすか分からない恐怖感も湧いてくる。
対してラルフは服はボロボロ、攻撃を受けすぎてか体もガタガタ。口から血を流しているのに拭き取れず、立っている事しか出来ないといった印象。圧倒的強者を前にただ命を差し出す常人。可哀想なほどに歴然とした差のある構図は、今まさに斬首を行おうとする処刑人と首を差し出した罪人に近い。
風前の灯火と言える罪人はそれでもまだ諦めちゃいない。
──ドンッ
踏み込んだのはマクマイン。一瞬にして間合いを詰め、今まさにラルフを斬らんと斬馬刀を振りかぶる。振り下ろされれば間違いなくラルフはここで真っ二つとなる。誰の邪魔も入ることのないこの状況はまさにマクマインの独壇場。
「終わりだラルフ!!」
顔が見えないというのに表情が浮かんでくるような、兜の下が透けるほどの喜びに満ちた声。それもそのはず、マクマインの目にはラルフとミーシャの姿が重なって見えていた。これはハッタリでもなんでもなく、ラルフを殺す=ミーシャを殺せることに繋がる。根拠は今装備している魔道具、その効果に対応出来るのがラルフだけなのだ。ラルフという邪魔者がいなくなればミーシャは余裕で殺せる。「終わり」という言葉の中にはマクマインの万感の思いが込められていた。
草臥れたハットの鍔に隠れて顔が見えない。出来ることなら恐怖に歪んだ顔や、諦めきった最後の表情をこの目に焼き付けておきたかった。腹立たしいことだが、ラルフの絶望の顔をこの目で見たことがない。この一瞬も常に余裕ぶった顔かひょうきんな顔しか浮かんでこない。今尚その鍔の影でほくそ笑むラルフが見えるようで……。
「……終わり?そいつはどうかな?」
予想通りのニヤケ面。此の期に及んでまだ諦めていない。
マクマインは全てを断ち切るため、最大の力を振り絞って剣に全体重を掛けた。
グンッ
それは不思議な感触だった。正直な話、何が起こったのか皆目見当もつかない。力も重量も想いも全てを掛けて振り下ろそうとした剣がラルフに届くずっと前に止められた。どう表現すべきか、感触をそのまま言うと握り止められたというのが合っている。初めての感覚に戸惑ったが間違いない。
これだけの力を止められるのはきっとミーシャに違いない。いつやって来たのか定かではないが、あの魔王ならやりかねない。確認のためすぐに見上げた。
「?!……こ、これは……!!」
違った、ミーシャではない。剣の尖端は空間に飲まれ、空中で固定されていた。
「なんだこれは?!一体どうなっている!?貴様何をしたっ!!」
「何って……見ての通り攻撃の軌道を予測して切っ先が次元の穴に入るようにしたのさ。俺にとっては開け閉め自由な穴でも、他の奴からしたら摩訶不思議な何かだからな。あー怖っ!ちゃんと止めれるかは未知数だったから止まってて安心したぜ。ったく……」
「馬鹿な……上段からの斬撃を既に読んでいたと、そう言いたいのか?」
「ああ、うん。てかまぁ一回見てるし、多分決めにくる時は振り下ろすんだろうなぁとは思ったよ。こうまで上手くいくとは思わなかったけどな」
ラルフは心の底から安堵し、地面にへたり込む。
「まだ終わってはいないっ!!」
マクマインは斬馬刀から即座に手を離し、攻撃方法を打撃に変えた。ラルフを捕まえて直接どうこうしようと飛びかかる。
「それはちょっといただけないな」
ラルフは地面に次元の穴を開けてスルッと移動した。フラフラよろよろとした先程までの頼りなさから一転、体力が有り余っているかのような機敏な動きを見せた。ダメージを受けていたのは事実だが、それほどでもなかったと見える。
(有り得ん……私の蹴りは完璧に入っていた。吐血したことを思えば奴の内臓は傷ついているはず……いや、違う。私は奴が吐血したところは見ていない。まさかそれもブラフだというのか?)
地面を抉る勢いで手を付く。すぐに起き上がろうとした次の瞬間。
ゴォンッ
後頭部に鈍い一撃を食らう。グラつく視界。全身鎧に付与されているはずの打撃無効を貫通する攻撃。
(ぐっ……魔道具による攻撃か……空中に固定した剣だな……?)
一定以上の魔力が込められた武器ならこの全身鎧とて防ぐことはできない。ラルフのゴブリンダガーでは傷一つつかなかったかもしれないが、マクマインの持ち出した斬馬刀は凄まじい量の魔力が込められている。能力を使うことはラルフには出来ないが、棒のように振ることなら誰にでも出来る。
「それもういっちょっ!」
「調子に乗るなぁ!!」
ガバッと起き上がろうと腕に力を込めた。が、地面が突然消え、力の行き場を失った体はそのまま地面に落下する。
(ぬかったぁ……!!)
次元の穴が手の先に現れた。その上、脳震盪を起こした頭では冷静になりきれなかったために為す術がない。
処刑人は自分だと信じて止まなかった。その実、首を晒した罪人はマクマインだったのだと理解した。
打つ手なし。
ゴォンッ
ラルフとマクマインの決闘はこうして幕を閉じた。
見てくれは圧倒的にマクマインに軍配が上がる。全身鎧に身を包み、誰彼構わず傷つけそうな凶悪なフォルムは第十二魔王”鉄”のような強者感を醸し出す。表情すら見えず、声でしかマクマインだと判別不能であるため、何をしでかすか分からない恐怖感も湧いてくる。
対してラルフは服はボロボロ、攻撃を受けすぎてか体もガタガタ。口から血を流しているのに拭き取れず、立っている事しか出来ないといった印象。圧倒的強者を前にただ命を差し出す常人。可哀想なほどに歴然とした差のある構図は、今まさに斬首を行おうとする処刑人と首を差し出した罪人に近い。
風前の灯火と言える罪人はそれでもまだ諦めちゃいない。
──ドンッ
踏み込んだのはマクマイン。一瞬にして間合いを詰め、今まさにラルフを斬らんと斬馬刀を振りかぶる。振り下ろされれば間違いなくラルフはここで真っ二つとなる。誰の邪魔も入ることのないこの状況はまさにマクマインの独壇場。
「終わりだラルフ!!」
顔が見えないというのに表情が浮かんでくるような、兜の下が透けるほどの喜びに満ちた声。それもそのはず、マクマインの目にはラルフとミーシャの姿が重なって見えていた。これはハッタリでもなんでもなく、ラルフを殺す=ミーシャを殺せることに繋がる。根拠は今装備している魔道具、その効果に対応出来るのがラルフだけなのだ。ラルフという邪魔者がいなくなればミーシャは余裕で殺せる。「終わり」という言葉の中にはマクマインの万感の思いが込められていた。
草臥れたハットの鍔に隠れて顔が見えない。出来ることなら恐怖に歪んだ顔や、諦めきった最後の表情をこの目に焼き付けておきたかった。腹立たしいことだが、ラルフの絶望の顔をこの目で見たことがない。この一瞬も常に余裕ぶった顔かひょうきんな顔しか浮かんでこない。今尚その鍔の影でほくそ笑むラルフが見えるようで……。
「……終わり?そいつはどうかな?」
予想通りのニヤケ面。此の期に及んでまだ諦めていない。
マクマインは全てを断ち切るため、最大の力を振り絞って剣に全体重を掛けた。
グンッ
それは不思議な感触だった。正直な話、何が起こったのか皆目見当もつかない。力も重量も想いも全てを掛けて振り下ろそうとした剣がラルフに届くずっと前に止められた。どう表現すべきか、感触をそのまま言うと握り止められたというのが合っている。初めての感覚に戸惑ったが間違いない。
これだけの力を止められるのはきっとミーシャに違いない。いつやって来たのか定かではないが、あの魔王ならやりかねない。確認のためすぐに見上げた。
「?!……こ、これは……!!」
違った、ミーシャではない。剣の尖端は空間に飲まれ、空中で固定されていた。
「なんだこれは?!一体どうなっている!?貴様何をしたっ!!」
「何って……見ての通り攻撃の軌道を予測して切っ先が次元の穴に入るようにしたのさ。俺にとっては開け閉め自由な穴でも、他の奴からしたら摩訶不思議な何かだからな。あー怖っ!ちゃんと止めれるかは未知数だったから止まってて安心したぜ。ったく……」
「馬鹿な……上段からの斬撃を既に読んでいたと、そう言いたいのか?」
「ああ、うん。てかまぁ一回見てるし、多分決めにくる時は振り下ろすんだろうなぁとは思ったよ。こうまで上手くいくとは思わなかったけどな」
ラルフは心の底から安堵し、地面にへたり込む。
「まだ終わってはいないっ!!」
マクマインは斬馬刀から即座に手を離し、攻撃方法を打撃に変えた。ラルフを捕まえて直接どうこうしようと飛びかかる。
「それはちょっといただけないな」
ラルフは地面に次元の穴を開けてスルッと移動した。フラフラよろよろとした先程までの頼りなさから一転、体力が有り余っているかのような機敏な動きを見せた。ダメージを受けていたのは事実だが、それほどでもなかったと見える。
(有り得ん……私の蹴りは完璧に入っていた。吐血したことを思えば奴の内臓は傷ついているはず……いや、違う。私は奴が吐血したところは見ていない。まさかそれもブラフだというのか?)
地面を抉る勢いで手を付く。すぐに起き上がろうとした次の瞬間。
ゴォンッ
後頭部に鈍い一撃を食らう。グラつく視界。全身鎧に付与されているはずの打撃無効を貫通する攻撃。
(ぐっ……魔道具による攻撃か……空中に固定した剣だな……?)
一定以上の魔力が込められた武器ならこの全身鎧とて防ぐことはできない。ラルフのゴブリンダガーでは傷一つつかなかったかもしれないが、マクマインの持ち出した斬馬刀は凄まじい量の魔力が込められている。能力を使うことはラルフには出来ないが、棒のように振ることなら誰にでも出来る。
「それもういっちょっ!」
「調子に乗るなぁ!!」
ガバッと起き上がろうと腕に力を込めた。が、地面が突然消え、力の行き場を失った体はそのまま地面に落下する。
(ぬかったぁ……!!)
次元の穴が手の先に現れた。その上、脳震盪を起こした頭では冷静になりきれなかったために為す術がない。
処刑人は自分だと信じて止まなかった。その実、首を晒した罪人はマクマインだったのだと理解した。
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