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第4章【感情と絆の芽生え】
第16話「弟子という名の闖入者」
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村が聖地になってから二週間。巡礼者は増え続けていた。
朝起きると、村の広場はすでに人で賑わっている。祈りを捧げる人、畑を見学する人、温泉に入る人。みんな、それぞれの目的で村を訪れている。賑やかだ。活気がある。それは良いことだ。でも、俺には少し疲れる。
「おはようございます、アキト様」
とセシルが小屋の前で待っていた。最近、彼女は毎朝ここに来る。
「おはよう、セシルさん」
「今日は何をなさいますか?」
「うーん……」
考える。畑仕事は昨日やった。温泉の掃除も済んでる。特にやることはない。なら、
「森に行こうかな」
「森、ですか」
「うん。久しぶりに、静かな場所で昼寝したい」
セシルは少し寂しそうな顔をした。
「そうですか……」
「セシルさんは、村の手伝いをお願いできますか?巡礼者が増えてて、村長も忙しそうだから」
「分かりました」
とセシルは頷いた。
「アキト様のご命令なら」
「命令じゃないよ。お願い」
「……はい」
セシルは微笑んだ。それから、村の方に向かって行った。俺は小屋に戻って、準備をした。水筒とタオルだけ。身軽が一番だ。
森に入ると、空気が変わった。木々が太陽を遮って、涼しい。鳥の声が聞こえる。風が吹くと、葉っぱがさらさらと揺れる。この音が好きだ。心が落ち着く。
獣道を進む。村から離れるにつれて、人の声が遠くなる。静かになる。ここなら、誰にも邪魔されない。昼寝場所まで、あと少しだ。
木々の隙間から、開けた場所が見えてきた。俺の昼寝場所だ。草がふかふかで、風が心地いい。完璧な場所だ。そう思って、足を進めた。
そこに、人が倒れていた。
「え?」
立ち止まる。若い女性だ。草の上に横たわっている。動かない。もしかして、死んでる?いや、胸が動いてる。生きてる。でも、意識がない。
近づいて、よく見る。赤茶色の短い髪。日焼けした肌。服は動きやすそうな革の服だ。冒険者みたいな格好だ。でも、服が破れてる。血が滲んでいる。怪我をしてる。
「おい、大丈夫か?」
肩を揺する。反応がない。額に手を当てる。熱い。熱がある。これは、まずい。このまま放置したら、死ぬかもしれない。
「仕方ない……」
俺は女性を抱え上げた。軽い。痩せてる。栄養が足りてないのかもしれない。急いで村に戻らないと。
小屋に運び込んで、ベッドに寝かせた。それから、村長に報告しに行った。
「森で倒れてたのか?」
と村長は驚いた顔をした。
「はい。怪我もしてます」
「分かった。すぐに医者を呼ぼう」
村長は村の医者、老人のマルクを呼んでくれた。マルクは小屋に来て、女性を診察した。俺とユイ、それにセシルが見守る。
「外傷と、栄養失調だな」
とマルクは言った。
「魔物にでも襲われたんだろう。でも、致命傷じゃない。休めば治る」
「よかった……」
「傷の手当てをしておく。薬草も置いていくから、煎じて飲ませてやれ」
「分かりました」
マルクは手当てをして、薬草を置いて帰っていった。女性はまだ眠っている。苦しそうな顔をしている。
「アキトさん、看病しますか?」とユイが聞いた。
「うん。俺が運んできたし」
「じゃあ、私も手伝います」
「俺もです」
とセシルが言った。
二人とも、心配そうな顔をしている。優しいな、と思った。
「ありがとう。じゃあ、交代で見よう」
夕方、女性が目を覚ました。
俺は椅子に座って、本を読んでいた。村長が貸してくれた、薬草の本だ。どの薬草が何に効くか、勉強しようと思って。そしたら、ベッドから音がした。
「……ん」
振り返ると、女性が目を開けていた。ぼんやりとした目。それから、俺を見て、固まった。
「誰だ、あんた」
警戒した声だ。体を起こそうとして、痛みに顔を歪める。
「動かない方がいい。怪我してるから」
「怪我……?」
女性は自分の体を見た。包帯が巻かれている。それから、周りを見回す。
「ここは……」
「リーヴ村だよ。森で倒れてたから、運んできた」
「森で……」
女性は思い出そうとしている。でも、すぐに諦めた顔をした。
「……そうか。助けてくれたのか」
「うん」
「……ありがとう」
素直に礼を言う。でも、まだ警戒してる。目が、俺を値踏みしている。
「名前は?」
と俺は聞いた。
「リズだ」
「リズさんか。俺はアキト」
「アキト……」
リズは俺をじっと見た。
「あんた、なんでこんなところに」
「ここに住んでる」
「住んでる?森の中に?」
「いや、村に。森には昼寝しに行ってた」
「昼寝……」
リズは呆れた顔をした。「変人だな」
「よく言われる」
リズは小さく笑った。それから、また体を横にした。まだ辛そうだ。
「無理しないで。休んでて」
「……ああ」
リズは目を閉じた。でも、すぐには眠らない。何か考えている様子だ。
「なあ、アキト」
「なに?」
「ここ、聖地なんだって?」
「……らしいね」
「あんたが、その……奇跡を起こしてる人?」
「俺は何もしてないよ」
リズは目を開けて、俺を見た。「なんで、そんなこと言えるんだ」
「本当に何もしてないから」
「……変な奴だな」
リズはまた目を閉じた。今度は、すぐに寝息が聞こえてきた。疲れてるんだろう。ゆっくり休んでほしい。
翌朝、リズはベッドから起き上がっていた。
俺が小屋に入ると、窓の外を見ている。村の様子を眺めているみたいだ。
「起きて大丈夫?」
「ああ。だいぶ楽になった」
リズは振り返った。「あんたの村、賑やかだな」
「巡礼者が来るようになったから」
「聖地だもんな」
リズは複雑そうな顔をした。
「俺、そういうの苦手なんだ」
「俺も苦手」
「だろうな」
とリズは笑った。
「昼寝してるような奴だし」
「それは関係ないと思うけど」
二人で笑った。なんだか、リズとは話しやすい。警戒心は薄れてきたみたいだ。
ドアをノックする音がした。ユイとセシルだ。
「おはようございます、アキトさん」
「おはよう」
「あの方、起きてるんですか?」
とユイが心配そうに聞いた。
「うん。だいぶ良くなったみたい」
二人が入ってくると、リズは少し身構えた。でも、ユイが笑顔で挨拶した。
「初めまして。ユイです」
「セシルと申します」
「……リズだ」
リズは短く答えた。人見知りなのかもしれない。
「朝ごはん、持ってきました」
とユイが籠を置いた。
「食べられますか?」
「……ああ。ありがとう」
ユイがパンとスープを並べる。リズは少し躊躇してから、食べ始めた。ゆっくりと、一口ずつ。美味そうに食べてる。
「美味いな、これ」
「ありがとうございます」とユイは嬉しそうに笑った。
セシルはリズを観察している。不思議そうな顔だ。
「リズさんは、冒険者ですか?」
「……元、な」
「元?」
「もう、やめた」
リズは淡々と答える。それ以上は聞くなという雰囲気だ。セシルは察して、それ以上聞かなかった。
その日の午後、リズは小屋の外に出た。
まだ少しふらついてるけど、歩ける。俺は隣で様子を見ている。
「村、見て回りたい」
とリズが言った。
「大丈夫?」
「大丈夫。じっとしてるのは性に合わない」
「分かった。じゃあ、案内する」
村を歩く。リズは畑を見て、温泉を見て、花畑を見た。そのたびに、驚いた顔をする。
「本当に、豊かなんだな」
「そうだね」
「こんな村、見たことない」
リズは畑の野菜に触れた。
「これ、全部あんたが育てたのか?」
「うん」
「……信じられない」
リズは俺を見た。
「あんた、本当に何もしてないのか?」
「してない」
「嘘だろ」
「本当だよ」
リズは首を傾げた。
「分からない。でも、まあいいか」
それから、また歩き始めた。俺もついていく。
温泉に着くと、リズは湯気を見て目を細めた。
「温泉か。久しぶりに見た」
「入る?」
「……いいのか?」
「もちろん。ゆっくり浸かって、体を休めて」
リズは少し躊躇してから、頷いた。
「じゃあ、入らせてもらう」
夕方、リズは温泉から上がってきた。顔色が良くなっている。
「どうだった?」
「最高だった」
とリズは笑った。
「生き返った」
「よかった」
二人で小屋に戻る。夕焼けが綺麗だ。オレンジ色の空に、雲が浮かんでいる。
「なあ、アキト」
とリズが言った。
「なに?」
「あんた、俺を助けてくれて、看病してくれて、村まで案内してくれた」
「うん」
「なんで、そこまでしてくれるんだ?」
「え?」
「見ず知らずの俺に。普通、そこまでしないだろ」
リズは真剣な顔をしている。俺は少し考えてから、答えた。
「困ってたから」
「それだけ?」
「うん。困ってる人がいたら、助けるでしょ」
「……そんな簡単なことか?」
「簡単だよ」
リズは黙った。それから、小さく笑った。
「変な奴だな、本当に」
「またそれ?」
「でも、嫌いじゃない」
リズは空を見上げた。
「あんたみたいな奴、初めてだ」
「そう?」
「ああ。普通、見返りを求めるもんだ。でも、あんたは何も求めない」
リズは俺を見た。
「それに、強がらなくていいって雰囲気がある」
「強がる必要ないからね」
「……そうか」
リズは何か考え込んでいる。それから、急に立ち止まった。
「なあ、アキト」
「なに?」
「俺、ここに残ってもいいか?」
「え?」
「まだ体も完全じゃないし、行くあてもない。それに……」
リズは少し照れたように言った。
「あんたのこと、もっと知りたい」
「知りたい?」
「ああ。あんたがどうやって生きてるのか。何を考えてるのか」
リズは真剣な目をした。
「あんたみたいに、生きられたらって思うんだ」
「……いいよ。好きなだけいて」
「本当か?」
「うん。村長にも話しておく」
「ありがとう」
リズは嬉しそうに笑った。その笑顔が、夕焼けに照らされて綺麗だった。
その夜、小屋で一人になった。
リズは村長が用意してくれた部屋で休んでいる。俺はベッドに座って、今日一日のことを思い出していた。
森で倒れてたリズ。最初は警戒してた。でも、だんだん心を開いてくれた。そして、村に残ると言った。
「また、人が増えた……」
呟く。ユイ、セシル、そしてリズ。三人も、俺の周りに人がいる。前は一人が好きだった。でも、今は違う。みんながいてくれるのが、嬉しい。
窓の外を見る。星が出ている。いつもの星空。でも、今日は少し違って見える気がする。
「賑やかになるな」
そう呟いて、笑った。賑やかなのは苦手だけど、悪くない。みんながいてくれる。それが、幸せだ。
目を閉じる。明日から、リズも一緒だ。どんな日々になるんだろう。楽しみだ。
そう思いながら、眠りについた。
朝起きると、村の広場はすでに人で賑わっている。祈りを捧げる人、畑を見学する人、温泉に入る人。みんな、それぞれの目的で村を訪れている。賑やかだ。活気がある。それは良いことだ。でも、俺には少し疲れる。
「おはようございます、アキト様」
とセシルが小屋の前で待っていた。最近、彼女は毎朝ここに来る。
「おはよう、セシルさん」
「今日は何をなさいますか?」
「うーん……」
考える。畑仕事は昨日やった。温泉の掃除も済んでる。特にやることはない。なら、
「森に行こうかな」
「森、ですか」
「うん。久しぶりに、静かな場所で昼寝したい」
セシルは少し寂しそうな顔をした。
「そうですか……」
「セシルさんは、村の手伝いをお願いできますか?巡礼者が増えてて、村長も忙しそうだから」
「分かりました」
とセシルは頷いた。
「アキト様のご命令なら」
「命令じゃないよ。お願い」
「……はい」
セシルは微笑んだ。それから、村の方に向かって行った。俺は小屋に戻って、準備をした。水筒とタオルだけ。身軽が一番だ。
森に入ると、空気が変わった。木々が太陽を遮って、涼しい。鳥の声が聞こえる。風が吹くと、葉っぱがさらさらと揺れる。この音が好きだ。心が落ち着く。
獣道を進む。村から離れるにつれて、人の声が遠くなる。静かになる。ここなら、誰にも邪魔されない。昼寝場所まで、あと少しだ。
木々の隙間から、開けた場所が見えてきた。俺の昼寝場所だ。草がふかふかで、風が心地いい。完璧な場所だ。そう思って、足を進めた。
そこに、人が倒れていた。
「え?」
立ち止まる。若い女性だ。草の上に横たわっている。動かない。もしかして、死んでる?いや、胸が動いてる。生きてる。でも、意識がない。
近づいて、よく見る。赤茶色の短い髪。日焼けした肌。服は動きやすそうな革の服だ。冒険者みたいな格好だ。でも、服が破れてる。血が滲んでいる。怪我をしてる。
「おい、大丈夫か?」
肩を揺する。反応がない。額に手を当てる。熱い。熱がある。これは、まずい。このまま放置したら、死ぬかもしれない。
「仕方ない……」
俺は女性を抱え上げた。軽い。痩せてる。栄養が足りてないのかもしれない。急いで村に戻らないと。
小屋に運び込んで、ベッドに寝かせた。それから、村長に報告しに行った。
「森で倒れてたのか?」
と村長は驚いた顔をした。
「はい。怪我もしてます」
「分かった。すぐに医者を呼ぼう」
村長は村の医者、老人のマルクを呼んでくれた。マルクは小屋に来て、女性を診察した。俺とユイ、それにセシルが見守る。
「外傷と、栄養失調だな」
とマルクは言った。
「魔物にでも襲われたんだろう。でも、致命傷じゃない。休めば治る」
「よかった……」
「傷の手当てをしておく。薬草も置いていくから、煎じて飲ませてやれ」
「分かりました」
マルクは手当てをして、薬草を置いて帰っていった。女性はまだ眠っている。苦しそうな顔をしている。
「アキトさん、看病しますか?」とユイが聞いた。
「うん。俺が運んできたし」
「じゃあ、私も手伝います」
「俺もです」
とセシルが言った。
二人とも、心配そうな顔をしている。優しいな、と思った。
「ありがとう。じゃあ、交代で見よう」
夕方、女性が目を覚ました。
俺は椅子に座って、本を読んでいた。村長が貸してくれた、薬草の本だ。どの薬草が何に効くか、勉強しようと思って。そしたら、ベッドから音がした。
「……ん」
振り返ると、女性が目を開けていた。ぼんやりとした目。それから、俺を見て、固まった。
「誰だ、あんた」
警戒した声だ。体を起こそうとして、痛みに顔を歪める。
「動かない方がいい。怪我してるから」
「怪我……?」
女性は自分の体を見た。包帯が巻かれている。それから、周りを見回す。
「ここは……」
「リーヴ村だよ。森で倒れてたから、運んできた」
「森で……」
女性は思い出そうとしている。でも、すぐに諦めた顔をした。
「……そうか。助けてくれたのか」
「うん」
「……ありがとう」
素直に礼を言う。でも、まだ警戒してる。目が、俺を値踏みしている。
「名前は?」
と俺は聞いた。
「リズだ」
「リズさんか。俺はアキト」
「アキト……」
リズは俺をじっと見た。
「あんた、なんでこんなところに」
「ここに住んでる」
「住んでる?森の中に?」
「いや、村に。森には昼寝しに行ってた」
「昼寝……」
リズは呆れた顔をした。「変人だな」
「よく言われる」
リズは小さく笑った。それから、また体を横にした。まだ辛そうだ。
「無理しないで。休んでて」
「……ああ」
リズは目を閉じた。でも、すぐには眠らない。何か考えている様子だ。
「なあ、アキト」
「なに?」
「ここ、聖地なんだって?」
「……らしいね」
「あんたが、その……奇跡を起こしてる人?」
「俺は何もしてないよ」
リズは目を開けて、俺を見た。「なんで、そんなこと言えるんだ」
「本当に何もしてないから」
「……変な奴だな」
リズはまた目を閉じた。今度は、すぐに寝息が聞こえてきた。疲れてるんだろう。ゆっくり休んでほしい。
翌朝、リズはベッドから起き上がっていた。
俺が小屋に入ると、窓の外を見ている。村の様子を眺めているみたいだ。
「起きて大丈夫?」
「ああ。だいぶ楽になった」
リズは振り返った。「あんたの村、賑やかだな」
「巡礼者が来るようになったから」
「聖地だもんな」
リズは複雑そうな顔をした。
「俺、そういうの苦手なんだ」
「俺も苦手」
「だろうな」
とリズは笑った。
「昼寝してるような奴だし」
「それは関係ないと思うけど」
二人で笑った。なんだか、リズとは話しやすい。警戒心は薄れてきたみたいだ。
ドアをノックする音がした。ユイとセシルだ。
「おはようございます、アキトさん」
「おはよう」
「あの方、起きてるんですか?」
とユイが心配そうに聞いた。
「うん。だいぶ良くなったみたい」
二人が入ってくると、リズは少し身構えた。でも、ユイが笑顔で挨拶した。
「初めまして。ユイです」
「セシルと申します」
「……リズだ」
リズは短く答えた。人見知りなのかもしれない。
「朝ごはん、持ってきました」
とユイが籠を置いた。
「食べられますか?」
「……ああ。ありがとう」
ユイがパンとスープを並べる。リズは少し躊躇してから、食べ始めた。ゆっくりと、一口ずつ。美味そうに食べてる。
「美味いな、これ」
「ありがとうございます」とユイは嬉しそうに笑った。
セシルはリズを観察している。不思議そうな顔だ。
「リズさんは、冒険者ですか?」
「……元、な」
「元?」
「もう、やめた」
リズは淡々と答える。それ以上は聞くなという雰囲気だ。セシルは察して、それ以上聞かなかった。
その日の午後、リズは小屋の外に出た。
まだ少しふらついてるけど、歩ける。俺は隣で様子を見ている。
「村、見て回りたい」
とリズが言った。
「大丈夫?」
「大丈夫。じっとしてるのは性に合わない」
「分かった。じゃあ、案内する」
村を歩く。リズは畑を見て、温泉を見て、花畑を見た。そのたびに、驚いた顔をする。
「本当に、豊かなんだな」
「そうだね」
「こんな村、見たことない」
リズは畑の野菜に触れた。
「これ、全部あんたが育てたのか?」
「うん」
「……信じられない」
リズは俺を見た。
「あんた、本当に何もしてないのか?」
「してない」
「嘘だろ」
「本当だよ」
リズは首を傾げた。
「分からない。でも、まあいいか」
それから、また歩き始めた。俺もついていく。
温泉に着くと、リズは湯気を見て目を細めた。
「温泉か。久しぶりに見た」
「入る?」
「……いいのか?」
「もちろん。ゆっくり浸かって、体を休めて」
リズは少し躊躇してから、頷いた。
「じゃあ、入らせてもらう」
夕方、リズは温泉から上がってきた。顔色が良くなっている。
「どうだった?」
「最高だった」
とリズは笑った。
「生き返った」
「よかった」
二人で小屋に戻る。夕焼けが綺麗だ。オレンジ色の空に、雲が浮かんでいる。
「なあ、アキト」
とリズが言った。
「なに?」
「あんた、俺を助けてくれて、看病してくれて、村まで案内してくれた」
「うん」
「なんで、そこまでしてくれるんだ?」
「え?」
「見ず知らずの俺に。普通、そこまでしないだろ」
リズは真剣な顔をしている。俺は少し考えてから、答えた。
「困ってたから」
「それだけ?」
「うん。困ってる人がいたら、助けるでしょ」
「……そんな簡単なことか?」
「簡単だよ」
リズは黙った。それから、小さく笑った。
「変な奴だな、本当に」
「またそれ?」
「でも、嫌いじゃない」
リズは空を見上げた。
「あんたみたいな奴、初めてだ」
「そう?」
「ああ。普通、見返りを求めるもんだ。でも、あんたは何も求めない」
リズは俺を見た。
「それに、強がらなくていいって雰囲気がある」
「強がる必要ないからね」
「……そうか」
リズは何か考え込んでいる。それから、急に立ち止まった。
「なあ、アキト」
「なに?」
「俺、ここに残ってもいいか?」
「え?」
「まだ体も完全じゃないし、行くあてもない。それに……」
リズは少し照れたように言った。
「あんたのこと、もっと知りたい」
「知りたい?」
「ああ。あんたがどうやって生きてるのか。何を考えてるのか」
リズは真剣な目をした。
「あんたみたいに、生きられたらって思うんだ」
「……いいよ。好きなだけいて」
「本当か?」
「うん。村長にも話しておく」
「ありがとう」
リズは嬉しそうに笑った。その笑顔が、夕焼けに照らされて綺麗だった。
その夜、小屋で一人になった。
リズは村長が用意してくれた部屋で休んでいる。俺はベッドに座って、今日一日のことを思い出していた。
森で倒れてたリズ。最初は警戒してた。でも、だんだん心を開いてくれた。そして、村に残ると言った。
「また、人が増えた……」
呟く。ユイ、セシル、そしてリズ。三人も、俺の周りに人がいる。前は一人が好きだった。でも、今は違う。みんながいてくれるのが、嬉しい。
窓の外を見る。星が出ている。いつもの星空。でも、今日は少し違って見える気がする。
「賑やかになるな」
そう呟いて、笑った。賑やかなのは苦手だけど、悪くない。みんながいてくれる。それが、幸せだ。
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