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第5章 王国との激突
第42話「元婚約者との再会」
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城門の前に立つ女性を見た瞬間、レオンの心臓が跳ねた。金色の髪が朝日に輝き、青い瞳がこちらを見つめている。一年前と変わらない、美しい顔立ち。だが、その表情には、以前にはなかった翳りがあった。エリーゼ・ヴァレンタイン。レオンの元婚約者が、王国軍の使者として、そこに立っていた。
「レオン、罠かもしれないぞ」
カイルが、レオンの腕を掴んだ。その声には、警戒が滲んでいる。
「わかっている。だが、会わないわけにはいかない」
レオンは、城壁を降りる決断をした。カイルの手を振り払い、階段を降りていく。ルリアが、心配そうな顔でレオンを見送った。彼女の表情には、不安と、わずかな嫉妬が混じっている。
「レオン、気をつけて」
ルリアの声が、背中に届いた。レオンは、振り返らずに手を振った。城門が、ゆっくりと開いていく。
レオンが城門を出ると、エリーゼが数歩前に出た。二人の間には、十メートルほどの距離がある。周囲を、王国軍の兵士と防衛隊の兵士が取り囲んでいるが、誰も声を発しない。静寂が、二人を包んでいた。
「久しぶりね、レオン」
エリーゼが、最初に口を開いた。その声は、以前と変わらず優雅だった。だが、どこか疲れているように聞こえる。
「ああ、久しぶりだ、エリーゼ」
レオンは、冷静に答えた。だが、その心の奥底では、様々な感情が渦巻いている。懐かしさ、怒り、失望、そして哀れみ。
「あなたは、変わったわね」
エリーゼは、レオンを見つめた。
「以前より、強くなった。目の色が、違う」
「君も、変わった」
レオンは、正直に言った。
「以前より、疲れているように見える」
エリーゼは、わずかに笑った。だが、その笑みは悲しげだった。
「そうね。この一年、色々あったから」
「何のために、ここに来た」
レオンは、本題に入った。感傷に浸っている時間はない。
「王国の使者としてか?それとも、個人的な用件か?」
「両方よ」
エリーゼは、深く息を吸った。
「まず、王国からの伝言を伝えなければならない」
彼女は、懐から一通の書状を取り出した。だが、それをレオンに渡すことはせず、ただ手に持っている。
「王国は、最後の機会を与える。レオン・アーデルハイト、あなたが自首すれば、この町と住民の安全を保証する」
「自首、か」
レオンは、冷たく笑った。
「つまり、俺を殺すということだな」
「いいえ、殺しはしない。ただ、投獄するだけ」
「同じことだ」
レオンは、首を振った。
「そして、俺が自首を拒否すれば?」
「次の攻撃で、この町を焼き払う」
エリーゼの声が、わずかに震えた。
「容赦なく」
レオンは、しばらく黙っていた。やがて、はっきりと答えた。
「断る」
「レオン......」
「この町は、もう俺だけのものじゃない。みんなのものだ」
レオンは、城壁を見上げた。そこには、仲間たちが立っている。
「俺が自首しても、王国は約束を守らない。俺が死んだ後、この町を攻撃するだろう」
「そんなことは......」
「君も、そう思っているんじゃないか?」
レオンは、エリーゼをまっすぐに見た。エリーゼは、何も答えられなかった。その沈黙が、答えだった。
「私も、そう思う」
エリーゼは、ようやく口を開いた。
「だから、あなたに逃げてほしい」
「逃げる?」
「この町を捨てて、どこか遠くへ。東の大陸でも、南の連邦でも。王国の手が届かない場所へ」
エリーゼの声が、切実になった。
「私も......一緒に行く」
レオンは、驚いて目を見開いた。
「君は、何を言っているんだ」
「私、あなたのことを忘れられなかった」
エリーゼの目に、涙が浮かんだ。だが、彼女はそれを堪えている。
「追放の日、あなたを見送った時から、ずっと後悔してた。なぜ、あなたを庇わなかったのかって」
「君には、選択肢がなかった」
レオンは、静かに言った。
「君を責めるつもりはない。君も、被害者だった」
「でも、私は何もしなかった」
エリーゼの声が、震えた。
「あなたが追放される時、私は黙って見ていた。父に引きずられて、城を去った」
エリーゼは、涙を拭った。
「あなたを庇えば、私の家も取り潰される。父も、母も、弟も。みんな、路頭に迷う。だから、私は何も言えなかった」
「わかっている」
レオンは、エリーゼに近づいた。
「君は、家族を守ろうとした。それは、間違いじゃない」
「でも、あなたを失った」
エリーゼは、レオンを見上げた。
「貴族社会での生活が、どれだけ息苦しかったか。毎日、笑顔を作って、言いたいことも言えず、ただ家のために生きる」
「ここに来て、あなたの作った国を見て、羨ましいと思った」
エリーゼは、城壁を見た。
「自由に生きている人々。身分に縛られない社会。笑顔が、作り物じゃない」
「君も、そうなれる」
レオンは、エリーゼの肩に手を置いた。
「君も、選べるはずだ。自分の人生を」
「私には、あなたほどの勇気がない」
エリーゼは、首を振った。
「家族を捨てることができない。父の期待を裏切ることができない」
「それは、勇気じゃない」
レオンは、静かに言った。
「それは、恐れだ。新しい人生を始める恐れ」
「そうかもしれない」
エリーゼは、小さく笑った。
「でも、私はそれを乗り越えられない」
彼女は、レオンから一歩離れた。
「だから、私は王国の貴族。ヴァレンタイン家の娘として生きる」
「そして、俺と戦うのか」
「ええ」
エリーゼは、覚悟を決めた表情で頷いた。
「明日、私が指揮を執る。私は、炎の魔法使い。あの城壁を、内部から焼く」
「炎、か」
レオンは、城壁を見た。確かに、再構築の力では炎は消せない。石を直すことはできても、燃えている炎を止めることはできない。
「あなたの再構築では、私の炎は止められない」
エリーゼの声は、自信に満ちていた。
「私の炎は、特別よ。王国でも、五本の指に入る威力」
「なら、俺たちは戦うしかない」
レオンは、剣の柄に手を当てた。
「たとえ、君が相手でも」
「私も、本気で戦う」
エリーゼは、杖を取り出した。それは、美しい装飾が施された、高級な魔導杖だった。
「これが、私の選んだ道だから」
二人は、しばらく見つめ合った。かつて、婚約者だった二人。幸せな未来を夢見ていた二人。だが、今は敵同士だ。明日、戦場で剣と魔法を交える。
「レオン」
エリーゼが、背を向けながら言った。
「もし、私が負けたら......その時は、自由にしてくれる?」
「自由に?」
「ええ。この息苦しい貴族社会から、解放してほしい」
エリーゼは、振り返った。その目には、わずかな希望が宿っている。
「私が負けたら、それは私が貴族社会に負けたということ。その時は、あなたの国で、自由に生きてみたい」
レオンは、エリーゼの本心を理解した。彼女は、本当は自由になりたい。だが、自分からは踏み出せない。だから、戦いという形で、決着をつけようとしている。
「ああ。約束する」
レオンは、真剣な表情で答えた。
「君が負けたら、この国で自由に生きるといい」
「ありがとう」
エリーゼは、微笑んだ。それは、この一年で初めての、本当の笑顔だった。
「では、明日」
エリーゼは、王国軍の陣営へ向かって歩き出した。その背中は、まっすぐだが、どこか寂しげだった。レオンは、その姿が見えなくなるまで見送った。
レオンが城壁に戻ると、ルリアが待っていた。彼女の表情は、複雑だった。不安と、嫉妬と、理解が入り混じっている。
「あの方は......」
ルリアが、小さな声で聞いた。
「昔の、婚約者だった人だ」
レオンは、正直に答えた。隠すことはない。
「エリーゼ・ヴァレンタイン。俺が追放される前、婚約していた」
「そう、ですか」
ルリアの声は、平静を装っているが、わずかに震えている。
「彼女は、明日、敵の指揮官として戦う」
レオンは、ルリアの肩を抱いた。
「だが、俺の心に、彼女への未練はない」
「本当ですか?」
ルリアは、レオンを見上げた。
「本当だ」
レオンは、ルリアの目をまっすぐに見た。
「彼女は、過去の人だ。俺の未来には、君がいる」
ルリアの目に、涙が浮かんだ。だが、それは悲しみの涙ではなく、嬉しさの涙だった。
「レオン......」
「明日は、厳しい戦いになる」
レオンは、北の方角を見た。
「炎の魔法使いか。厄介だな」
「大丈夫です」
ルリアは、杖を握りしめた。
「私も、炎の魔法使いです。彼女の炎を、私の炎で相殺します」
「ルリア......」
「私は、あなたの味方です」
ルリアは、決意に満ちた表情で言った。
「誰が相手でも、あなたを守ります」
レオンは、ルリアを抱きしめた。彼女の体は、小さく温かい。この温もりが、自分を支えている。
「ありがとう、ルリア」
その夜、王国軍の陣営では、エリーゼがグレイソン将軍と会談していた。将軍の天幕の中で、二人は向かい合って座っている。
「どうだった」
グレイソンが聞いた。
「彼は、降伏しません」
エリーゼは、冷静に答えた。
「予想通りですか」
「ああ。だが、無駄ではなかった」
グレイソンは、地図を広げた。
「お前は、彼の表情を見た。動揺していたか?」
「......少し」
エリーゼは、正直に答えた。
「でも、彼の決意は揺らぎませんでした」
「そうか」
グレイソンは、地図に印をつけた。
「では、明日、お前の出番だ。城壁を内部から焼き払え」
「わかっています」
エリーゼは、立ち上がった。
「必ず、成功させます」
天幕を出たエリーゼは、夜空を見上げた。星が、無数に輝いている。あの星の下で、レオンも同じ空を見ているのだろうか。
「レオン、あなたは強いわね」
エリーゼは、呟いた。
「私には、あなたのような勇気がない。だから、戦いで決着をつける」
彼女は、自分の杖を握りしめた。
「もし、私が負けたら、それは運命。その時は、あなたの国で、本当の自由を見つける」
エリーゼの目に、決意の光が宿った。明日の戦いが、彼女の人生を変える。勝っても、負けても。
リコンストラクト自由国では、兵士たちが最終準備をしていた。明日は、炎との戦いだ。城壁だけでは守れない。魔法で、魔法を相殺しなければならない。
セリアは、防護壁の魔法陣を調整していた。炎に対する耐性を高めるために、氷の魔力を組み込む。複雑な作業だが、彼女の手は正確だ。
「炎の魔法使い、か」
セリアは、呟いた。
「ルリアさんだけで、対応できるだろうか」
彼女は、追加の魔法使いを城壁に配置することを決めた。総力戦になる。
ルークは、工房で武器の最終点検をしていた。炎に強い盾を追加で作る。鉄に特殊な処理を施して、熱に耐えられるようにする。
「明日は、燃える戦いになりそうだな」
ルークは、豪快に笑った。
「だが、負けねえ。俺たちの町を、燃やさせるか」
カイルは、連合軍の部隊と最終打ち合わせをしていた。明日、エリーゼの炎が城壁を攻撃する時が、挟み撃ちのチャンスだ。王国軍が城壁に集中している隙に、側面から攻める。
「タイミングが、すべてだ」
カイルは、部隊長たちに言った。
「早すぎても、遅すぎてもダメだ。俺の合図で、一斉に突撃する」
「了解しました」
部隊長たちが、敬礼した。
深夜、レオンは執務室で一人、地図を見ていた。明日の戦いをシミュレーションする。エリーゼの炎が、どこから来るか。どう防ぐか。どう反撃するか。
「炎、か」
レオンは、呟いた。
「再構築では、消せない。なら、別の方法を」
彼は、世界の断片のことを考えた。あの力を使えば、炎さえも構造を変えて消すことができるかもしれない。だが、リスクも大きい。前回の使用で、魔力を使いすぎた。次に使えば、命に関わるかもしれない。
「だが、他に方法がないなら」
レオンは、決意を固めた。町を守るためなら、自分の命も惜しくない。
ノックの音がして、ルリアが入ってきた。
「まだ起きていたんですか」
「ああ。明日の作戦を考えていた」
「眠らないと、体が持ちませんよ」
ルリアは、温かいお茶を持ってきた。
「これを飲んで、少し休んでください」
「ありがとう」
レオンは、お茶を受け取った。一口飲むと、体が温まる。
「ルリア、明日、君は危険な役割を担うことになる」
「わかっています」
ルリアは、微笑んだ。
「でも、私にしかできないことです」
「無理はするな」
「あなたこそ」
ルリアは、レオンの手を取った。
「無理をしないでください。あなたが倒れたら、みんなが困ります」
「わかっている」
レオンは、ルリアの手を握り返した。
「でも、俺は町を守る。それが、俺の役割だから」
「では、一緒に守りましょう」
ルリアは、レオンに寄り添った。
「二人なら、どんな炎も乗り越えられます」
二人は、しばらく黙って寄り添っていた。明日、運命の戦いが待っている。炎との戦い。そして、過去との決別。
夜明け前、エリーゼは一人、天幕の外に立っていた。東の空が、わずかに明るくなり始めている。もうすぐ、朝が来る。そして、戦いが始まる。
「レオン、私はあなたと戦う」
エリーゼは、呟いた。
「これが、私の選んだ道。でも、もし私が負けたら」
彼女は、城壁を見た。
「その時は、あなたの隣で、本当の自由を知りたい」
太陽が、地平線から昇り始めた。新しい一日が、始まる。そして、炎と再構築の、壮絶な戦いが始まろうとしていた。
リコンストラクト自由国と王国軍。レオンとエリーゼ。過去と未来。すべてが、今日、決着する。
運命の炎が、燃え上がろうとしていた。
「レオン、罠かもしれないぞ」
カイルが、レオンの腕を掴んだ。その声には、警戒が滲んでいる。
「わかっている。だが、会わないわけにはいかない」
レオンは、城壁を降りる決断をした。カイルの手を振り払い、階段を降りていく。ルリアが、心配そうな顔でレオンを見送った。彼女の表情には、不安と、わずかな嫉妬が混じっている。
「レオン、気をつけて」
ルリアの声が、背中に届いた。レオンは、振り返らずに手を振った。城門が、ゆっくりと開いていく。
レオンが城門を出ると、エリーゼが数歩前に出た。二人の間には、十メートルほどの距離がある。周囲を、王国軍の兵士と防衛隊の兵士が取り囲んでいるが、誰も声を発しない。静寂が、二人を包んでいた。
「久しぶりね、レオン」
エリーゼが、最初に口を開いた。その声は、以前と変わらず優雅だった。だが、どこか疲れているように聞こえる。
「ああ、久しぶりだ、エリーゼ」
レオンは、冷静に答えた。だが、その心の奥底では、様々な感情が渦巻いている。懐かしさ、怒り、失望、そして哀れみ。
「あなたは、変わったわね」
エリーゼは、レオンを見つめた。
「以前より、強くなった。目の色が、違う」
「君も、変わった」
レオンは、正直に言った。
「以前より、疲れているように見える」
エリーゼは、わずかに笑った。だが、その笑みは悲しげだった。
「そうね。この一年、色々あったから」
「何のために、ここに来た」
レオンは、本題に入った。感傷に浸っている時間はない。
「王国の使者としてか?それとも、個人的な用件か?」
「両方よ」
エリーゼは、深く息を吸った。
「まず、王国からの伝言を伝えなければならない」
彼女は、懐から一通の書状を取り出した。だが、それをレオンに渡すことはせず、ただ手に持っている。
「王国は、最後の機会を与える。レオン・アーデルハイト、あなたが自首すれば、この町と住民の安全を保証する」
「自首、か」
レオンは、冷たく笑った。
「つまり、俺を殺すということだな」
「いいえ、殺しはしない。ただ、投獄するだけ」
「同じことだ」
レオンは、首を振った。
「そして、俺が自首を拒否すれば?」
「次の攻撃で、この町を焼き払う」
エリーゼの声が、わずかに震えた。
「容赦なく」
レオンは、しばらく黙っていた。やがて、はっきりと答えた。
「断る」
「レオン......」
「この町は、もう俺だけのものじゃない。みんなのものだ」
レオンは、城壁を見上げた。そこには、仲間たちが立っている。
「俺が自首しても、王国は約束を守らない。俺が死んだ後、この町を攻撃するだろう」
「そんなことは......」
「君も、そう思っているんじゃないか?」
レオンは、エリーゼをまっすぐに見た。エリーゼは、何も答えられなかった。その沈黙が、答えだった。
「私も、そう思う」
エリーゼは、ようやく口を開いた。
「だから、あなたに逃げてほしい」
「逃げる?」
「この町を捨てて、どこか遠くへ。東の大陸でも、南の連邦でも。王国の手が届かない場所へ」
エリーゼの声が、切実になった。
「私も......一緒に行く」
レオンは、驚いて目を見開いた。
「君は、何を言っているんだ」
「私、あなたのことを忘れられなかった」
エリーゼの目に、涙が浮かんだ。だが、彼女はそれを堪えている。
「追放の日、あなたを見送った時から、ずっと後悔してた。なぜ、あなたを庇わなかったのかって」
「君には、選択肢がなかった」
レオンは、静かに言った。
「君を責めるつもりはない。君も、被害者だった」
「でも、私は何もしなかった」
エリーゼの声が、震えた。
「あなたが追放される時、私は黙って見ていた。父に引きずられて、城を去った」
エリーゼは、涙を拭った。
「あなたを庇えば、私の家も取り潰される。父も、母も、弟も。みんな、路頭に迷う。だから、私は何も言えなかった」
「わかっている」
レオンは、エリーゼに近づいた。
「君は、家族を守ろうとした。それは、間違いじゃない」
「でも、あなたを失った」
エリーゼは、レオンを見上げた。
「貴族社会での生活が、どれだけ息苦しかったか。毎日、笑顔を作って、言いたいことも言えず、ただ家のために生きる」
「ここに来て、あなたの作った国を見て、羨ましいと思った」
エリーゼは、城壁を見た。
「自由に生きている人々。身分に縛られない社会。笑顔が、作り物じゃない」
「君も、そうなれる」
レオンは、エリーゼの肩に手を置いた。
「君も、選べるはずだ。自分の人生を」
「私には、あなたほどの勇気がない」
エリーゼは、首を振った。
「家族を捨てることができない。父の期待を裏切ることができない」
「それは、勇気じゃない」
レオンは、静かに言った。
「それは、恐れだ。新しい人生を始める恐れ」
「そうかもしれない」
エリーゼは、小さく笑った。
「でも、私はそれを乗り越えられない」
彼女は、レオンから一歩離れた。
「だから、私は王国の貴族。ヴァレンタイン家の娘として生きる」
「そして、俺と戦うのか」
「ええ」
エリーゼは、覚悟を決めた表情で頷いた。
「明日、私が指揮を執る。私は、炎の魔法使い。あの城壁を、内部から焼く」
「炎、か」
レオンは、城壁を見た。確かに、再構築の力では炎は消せない。石を直すことはできても、燃えている炎を止めることはできない。
「あなたの再構築では、私の炎は止められない」
エリーゼの声は、自信に満ちていた。
「私の炎は、特別よ。王国でも、五本の指に入る威力」
「なら、俺たちは戦うしかない」
レオンは、剣の柄に手を当てた。
「たとえ、君が相手でも」
「私も、本気で戦う」
エリーゼは、杖を取り出した。それは、美しい装飾が施された、高級な魔導杖だった。
「これが、私の選んだ道だから」
二人は、しばらく見つめ合った。かつて、婚約者だった二人。幸せな未来を夢見ていた二人。だが、今は敵同士だ。明日、戦場で剣と魔法を交える。
「レオン」
エリーゼが、背を向けながら言った。
「もし、私が負けたら......その時は、自由にしてくれる?」
「自由に?」
「ええ。この息苦しい貴族社会から、解放してほしい」
エリーゼは、振り返った。その目には、わずかな希望が宿っている。
「私が負けたら、それは私が貴族社会に負けたということ。その時は、あなたの国で、自由に生きてみたい」
レオンは、エリーゼの本心を理解した。彼女は、本当は自由になりたい。だが、自分からは踏み出せない。だから、戦いという形で、決着をつけようとしている。
「ああ。約束する」
レオンは、真剣な表情で答えた。
「君が負けたら、この国で自由に生きるといい」
「ありがとう」
エリーゼは、微笑んだ。それは、この一年で初めての、本当の笑顔だった。
「では、明日」
エリーゼは、王国軍の陣営へ向かって歩き出した。その背中は、まっすぐだが、どこか寂しげだった。レオンは、その姿が見えなくなるまで見送った。
レオンが城壁に戻ると、ルリアが待っていた。彼女の表情は、複雑だった。不安と、嫉妬と、理解が入り混じっている。
「あの方は......」
ルリアが、小さな声で聞いた。
「昔の、婚約者だった人だ」
レオンは、正直に答えた。隠すことはない。
「エリーゼ・ヴァレンタイン。俺が追放される前、婚約していた」
「そう、ですか」
ルリアの声は、平静を装っているが、わずかに震えている。
「彼女は、明日、敵の指揮官として戦う」
レオンは、ルリアの肩を抱いた。
「だが、俺の心に、彼女への未練はない」
「本当ですか?」
ルリアは、レオンを見上げた。
「本当だ」
レオンは、ルリアの目をまっすぐに見た。
「彼女は、過去の人だ。俺の未来には、君がいる」
ルリアの目に、涙が浮かんだ。だが、それは悲しみの涙ではなく、嬉しさの涙だった。
「レオン......」
「明日は、厳しい戦いになる」
レオンは、北の方角を見た。
「炎の魔法使いか。厄介だな」
「大丈夫です」
ルリアは、杖を握りしめた。
「私も、炎の魔法使いです。彼女の炎を、私の炎で相殺します」
「ルリア......」
「私は、あなたの味方です」
ルリアは、決意に満ちた表情で言った。
「誰が相手でも、あなたを守ります」
レオンは、ルリアを抱きしめた。彼女の体は、小さく温かい。この温もりが、自分を支えている。
「ありがとう、ルリア」
その夜、王国軍の陣営では、エリーゼがグレイソン将軍と会談していた。将軍の天幕の中で、二人は向かい合って座っている。
「どうだった」
グレイソンが聞いた。
「彼は、降伏しません」
エリーゼは、冷静に答えた。
「予想通りですか」
「ああ。だが、無駄ではなかった」
グレイソンは、地図を広げた。
「お前は、彼の表情を見た。動揺していたか?」
「......少し」
エリーゼは、正直に答えた。
「でも、彼の決意は揺らぎませんでした」
「そうか」
グレイソンは、地図に印をつけた。
「では、明日、お前の出番だ。城壁を内部から焼き払え」
「わかっています」
エリーゼは、立ち上がった。
「必ず、成功させます」
天幕を出たエリーゼは、夜空を見上げた。星が、無数に輝いている。あの星の下で、レオンも同じ空を見ているのだろうか。
「レオン、あなたは強いわね」
エリーゼは、呟いた。
「私には、あなたのような勇気がない。だから、戦いで決着をつける」
彼女は、自分の杖を握りしめた。
「もし、私が負けたら、それは運命。その時は、あなたの国で、本当の自由を見つける」
エリーゼの目に、決意の光が宿った。明日の戦いが、彼女の人生を変える。勝っても、負けても。
リコンストラクト自由国では、兵士たちが最終準備をしていた。明日は、炎との戦いだ。城壁だけでは守れない。魔法で、魔法を相殺しなければならない。
セリアは、防護壁の魔法陣を調整していた。炎に対する耐性を高めるために、氷の魔力を組み込む。複雑な作業だが、彼女の手は正確だ。
「炎の魔法使い、か」
セリアは、呟いた。
「ルリアさんだけで、対応できるだろうか」
彼女は、追加の魔法使いを城壁に配置することを決めた。総力戦になる。
ルークは、工房で武器の最終点検をしていた。炎に強い盾を追加で作る。鉄に特殊な処理を施して、熱に耐えられるようにする。
「明日は、燃える戦いになりそうだな」
ルークは、豪快に笑った。
「だが、負けねえ。俺たちの町を、燃やさせるか」
カイルは、連合軍の部隊と最終打ち合わせをしていた。明日、エリーゼの炎が城壁を攻撃する時が、挟み撃ちのチャンスだ。王国軍が城壁に集中している隙に、側面から攻める。
「タイミングが、すべてだ」
カイルは、部隊長たちに言った。
「早すぎても、遅すぎてもダメだ。俺の合図で、一斉に突撃する」
「了解しました」
部隊長たちが、敬礼した。
深夜、レオンは執務室で一人、地図を見ていた。明日の戦いをシミュレーションする。エリーゼの炎が、どこから来るか。どう防ぐか。どう反撃するか。
「炎、か」
レオンは、呟いた。
「再構築では、消せない。なら、別の方法を」
彼は、世界の断片のことを考えた。あの力を使えば、炎さえも構造を変えて消すことができるかもしれない。だが、リスクも大きい。前回の使用で、魔力を使いすぎた。次に使えば、命に関わるかもしれない。
「だが、他に方法がないなら」
レオンは、決意を固めた。町を守るためなら、自分の命も惜しくない。
ノックの音がして、ルリアが入ってきた。
「まだ起きていたんですか」
「ああ。明日の作戦を考えていた」
「眠らないと、体が持ちませんよ」
ルリアは、温かいお茶を持ってきた。
「これを飲んで、少し休んでください」
「ありがとう」
レオンは、お茶を受け取った。一口飲むと、体が温まる。
「ルリア、明日、君は危険な役割を担うことになる」
「わかっています」
ルリアは、微笑んだ。
「でも、私にしかできないことです」
「無理はするな」
「あなたこそ」
ルリアは、レオンの手を取った。
「無理をしないでください。あなたが倒れたら、みんなが困ります」
「わかっている」
レオンは、ルリアの手を握り返した。
「でも、俺は町を守る。それが、俺の役割だから」
「では、一緒に守りましょう」
ルリアは、レオンに寄り添った。
「二人なら、どんな炎も乗り越えられます」
二人は、しばらく黙って寄り添っていた。明日、運命の戦いが待っている。炎との戦い。そして、過去との決別。
夜明け前、エリーゼは一人、天幕の外に立っていた。東の空が、わずかに明るくなり始めている。もうすぐ、朝が来る。そして、戦いが始まる。
「レオン、私はあなたと戦う」
エリーゼは、呟いた。
「これが、私の選んだ道。でも、もし私が負けたら」
彼女は、城壁を見た。
「その時は、あなたの隣で、本当の自由を知りたい」
太陽が、地平線から昇り始めた。新しい一日が、始まる。そして、炎と再構築の、壮絶な戦いが始まろうとしていた。
リコンストラクト自由国と王国軍。レオンとエリーゼ。過去と未来。すべてが、今日、決着する。
運命の炎が、燃え上がろうとしていた。
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これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
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私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。
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火・金・日、投稿予定
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