追放された貴族は《再構築》の力で世界を直す

自ら

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第5章 王国との激突

第48話「アーデル家の崩壊」

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レオンが意識を取り戻したのは、王宮の一室だった。豪華な天蓋付きのベッド。かつて、自分が暮らしていた部屋に似ている。

「ここは」

レオンは、体を起こそうとした。だが、激痛が全身を襲う。

「動かないでください」

ルリアの声がした。彼女は、椅子に座ってレオンを見守っていた。目の下に隈ができている。ずっと、看病していたのだろう。

「また、倒れたのか」
「はい。装置を止めた後、三時間も意識がありませんでした」

ルリアは、レオンに水を飲ませた。

「体が、限界です。世界の断片を使いすぎています」

レオンは、窓の外を見た。王都の街並みが見える。建物は無事だ。装置の暴走は、止まったのだ。

「国王陛下は」
「亡くなりました」

ルリアは、静かに答えた。

「エリーゼ様が、看取られました」

レオンは、複雑な表情をした。敵だった男が、死んだ。だが、喜びは感じない。

「みんなは」
「無事です。カイルさんもセリアさんも、軽傷ですが動けます」

それを聞いて、レオンは少し安心した。だが、その時、扉が開いた。カイルが入ってくる。その表情は、深刻だった。

「レオン、起きたか」
「ああ。何かあったのか」
「アーデル家の当主が、ここに来ている」

カイルの言葉に、レオンの体が強張った。

「父上が」
「ああ。お前と、話したいと」

レオンは、ベッドから降りた。体が痛むが、立てないわけではない。

「わかった。会おう」



応接室に、一人の男が立っていた。灰色の髪、深い皺の刻まれた顔。アーデル家当主、エリック・アーデルハイト。レオンの父だ。

「レオン」

父は、レオンを見た。その目には、複雑な感情が宿っている。
「久しぶりだな」
「父上」

レオンは、簡潔に答えた。感情を表に出さない。父は、深く息をついた。

「まず、礼を言わせてくれ」
「礼?」
「王都を、救ってくれた。何十万の命を、救ってくれた」

父は、頭を下げた。アーデル家当主が、追放した息子に頭を下げる。異様な光景だった。

「当然のことをしただけです」

レオンは、冷たく答えた。

「そうか」

父は、顔を上げた。

「では、もう一つ。謝罪させてくれ」

父は、再び頭を下げた。今度は、深々と。

「お前を、追放したこと。守れなかったこと。すまなかった」

レオンは、何も答えなかった。ただ、父を見つめている。

「今更、何を言っても遅いだろう」

父は、続けた。

「だが、言わせてくれ。お前は、正しかった」
「正しかった?」
「ああ。お前の選んだ道は、正しかった」

父の声には、後悔が滲んでいた。

「俺は、家のために、お前を犠牲にした。王国のために、息子を捨てた」
「それが、間違いだった」

レオンは、拳を握りしめた。怒りが、込み上げてくる。

「今更、そんなことを言われても」
「わかっている」

父は、レオンの目を見た。

「だが、言わせてくれ。お前を、誇りに思っている」

その言葉に、レオンの怒りが揺らいだ。

「お前は、誰よりも強く、誰よりも優しい。本当の貴族だ」

父の目には、涙が浮かんでいる。

「俺が、お前の父親で良かった」

レオンは、何も言えなくなった。憎しみと愛情が、心の中で渦巻いている。

その時、扉が開いた。兄のエドワードが入ってきた。彼も、傷だらけだった。

「父上、何をしている」

エドワードは、レオンを睨んだ。

「こいつに、頭を下げるなど」
「エドワード」

父は、厳しい声で言った。

「お前も、レオンに謝れ」
「何を」
「お前が、レオンを陥れたこと。俺は、知っている」

その言葉に、エドワードの顔色が変わった。



「何のことだ」

エドワードは、しらを切ろうとした。

「とぼけるな」

父は、一枚の書類を取り出した。

「成人の儀の記録だ。お前が、ギフト鑑定士に賄賂を渡していた証拠がある」

レオンは、驚いて書類を見た。

「まさか」
「ああ。お前のギフトは、本当は『ゴミ』ではなかった」

父は、苦しそうに続けた。

「鑑定士が、わざと『再構築』を低く評価したんだ。エドワードの依頼で」
「兄上」

レオンは、エドワードを見た。エドワードは、唇を噛んでいた。否定できない。

「なぜだ」
「なぜ、だと?」

エドワードは、叫んだ。

「決まっている。お前が憎かったからだ」

エドワードの目には、憎しみが燃えている。

「お前は、すべてを持っていた。才能も、人望も、父上の愛情も」
「俺は、長男なのに、誰も認めてくれなかった」

エドワードの声が、震えた。

「『神童』はお前だ。『天才』もお前だ」
「俺は、いつもお前の影だった」
「兄上」
「黙れ」

エドワードは、剣を抜いた。

「お前さえいなければ、俺が認められたんだ」
「お前さえいなければ」

エドワードは、レオンに斬りかかった。

だが、その剣は、父に阻まれた。父が、エドワードの腕を掴んでいる。

「やめろ、エドワード」
「離せ、父上」
「お前は、間違っている」

父は、エドワードの剣を取り上げた。

「お前も、十分に優れている。ただ、それを認めようとしなかっただけだ」
「嘘だ」

エドワードは、床に膝をついた。

「俺は、何をやってもお前に勝てなかった」
「剣も、学問も、政治も。すべて、お前の方が上だった」

エドワードは、泣き始めた。

「俺は、何のために生まれてきたんだ」

その姿を見て、レオンは複雑な気持ちになった。兄も、苦しんでいたのだ。



レオンは、エドワードの前に膝をついた。

「兄上、俺は一度も、兄上を超えたいと思ったことはない」
「嘘を言うな」
「本当だ」

レオンは、真剣な目で兄を見た。

「俺は、兄上を尊敬していた。いつも、背中を追いかけていた」
「だが、俺は才能があったから、周囲が勝手に期待した」

レオンの声には、苦しみが滲んでいた。

「俺も、苦しかった。『神童』と呼ばれることが、重荷だった」
「期待に応えなければならない。完璧でなければならない」
「そのプレッシャーが、俺を追い詰めていた」

エドワードは、レオンを見た。初めて、弟の本心を聞いた気がした。

「お前も、苦しかったのか」
「ああ」

レオンは頷いた。

「だから、追放されたとき、少しだけ楽になった」
「期待から、解放されたから」

エドワードは、涙を拭った。

「俺は、お前を誤解していた」
「いや、俺も兄上を理解しようとしなかった」

レオンは、エドワードの肩に手を置いた。

「すまなかった、兄上」

エドワードは、しばらく黙っていた。そして、小さく頷いた。

「俺も、すまなかった」

二人は、初めて本当の意味で向き合った。父は、その光景を見て、涙を流していた。

「お前たち」

だが、その時、地面が揺れた。

「何だ」

カイルが、窓の外を見た。

「まずい。王宮が崩れ始めている」



装置の影響で、王宮の基礎が損傷していたのだ。今、それが限界に達した。

「逃げろ」

カイルが叫んだ。全員が、部屋から飛び出した。廊下も、激しく揺れている。天井が崩れ、柱が倒れる。

「こっちです」

エリーゼが、先導した。彼女も、駆けつけていた。

「中庭を抜けて、正門へ」

一行は、走った。だが、崩壊の速度が速い。後ろから、瓦礫が追いかけてくる。

「急げ」

中庭に出た時、さらに大きな揺れが襲った。王宮の中央塔が、倒壊し始めている。

「あれが倒れたら、全員巻き込まれる」

セリアが叫んだ。

「レオン、再構築で支えられますか」
「やってみる」

レオンは、手を塔に向けた。再構築の力を発動する。だが、魔力が足りない。体が、もう限界だ。

「くそっ」

その時、父が前に出た。

「俺が、時間を稼ぐ」
「父上、何を」

父は、王宮の柱に手を当てた。そして、体に残っていたわずかな魔力を使って、柱を支えた。

「早く行け」
「ですが」
「いいから、行け」

父は、振り返った。その顔には、穏やかな笑みがあった。

「レオン、エドワード。お前たちは、生きろ」
「自由に、生きろ」
「父上」

レオンが叫んだ。だが、その時、天井が崩れ落ちた。巨大な石の塊が、父の上に降り注ぐ。

「父上!」

エドワードが、走り出そうとした。だが、カイルが止めた。

「間に合わない」

父は、石の下敷きになった。

「父上」

エドワードは、叫んだ。だが、もう遅い。父は、最後まで柱を支えていた。その犠牲で、一行は中庭を抜けることができた。

「行くぞ」

カイルが、エドワードの腕を引いた。

「父上を、見捨てるのか」
「お前の父親は、お前たちを守ったんだ」

カイルは、真剣な目でエドワードを見た。

「その意志を、無駄にするな」

エドワードは、歯を食いしばった。そして、走り出した。



一行は、王宮の正門から飛び出した。その直後、王宮の中央塔が完全に倒壊した。轟音と共に、瓦礫が舞い上がる。

全員が、地面に倒れ込んだ。息が上がっている。

「助かった、のか」

カイルが、呟いた。レオンは、崩れた王宮を見た。父が、あの中にいる。

「父上」

エドワードも、王宮を見つめていた。涙が、頬を伝う。

「父上、すまなかった」
「父上」

二人の兄弟は、初めて同じ思いを共有した。ルリアが、レオンの隣に座った。

「レオン、大丈夫ですか」
「ああ」

レオンは、空を見上げた。青い空が、広がっている。

「父上は、最後に俺たちを守ってくれた」
「はい」
「それで、いいのかもしれない」

レオンは、立ち上がった。体は痛むが、まだ動ける。

「アーデル家は、終わった」

エドワードも、立ち上がった。

「ああ。もう、家はない」

エドワードは、レオンを見た。

「これから、どうする」
「それは、兄上が決めることです」

レオンは、エドワードに手を差し伸べた。

「でも、もし望むなら、俺の町に来てください」
「お前の町に?」
「ああ。リコンストラクト自由国。そこでは、身分は関係ない」

レオンは、微笑んだ。

「兄上も、自由に生きられます」

エドワードは、その手を見つめた。そして、ゆっくりと握った。

「考えておく」
「いつでも、待っています」

二人は、初めて本当の意味で兄弟になった。



王宮の崩壊を見て、王都は混乱に陥っていた。国王も死に、王宮も崩れた。王国は、今、指導者を失っている。

貴族たちが、あちこちで集まって議論している。

「誰が、王国を治めるのだ」
「王位継承者は」
「国王には、跡継ぎがいない」

混乱は、収まらない。エリーゼが、レオンの元へ来た。

「レオン、王都は混乱しています」
「わかっている」
「私は、ここに残ります」

エリーゼは、決意を込めて言った。

「父の後始末をしなければなりません」
「そして、王都を立て直さなければ」

レオンは、エリーゼを見た。

「一人で、大丈夫か」
「大丈夫です」

エリーゼは、微笑んだ。

「あなたが、私を強くしてくれました」
「自由に生きる勇気を、くれました」

エリーゼは、レオンの手を取った。

「ありがとう、レオン」
「礼を言うのは、俺の方だ」

レオンも、エリーゼの手を握った。

「君がいなければ、王都を救えなかった」

二人は、しばらく手を握り合っていた。そして、離れた。

「では、行きます」

エリーゼは、王都の中心へ向かった。貴族たちを説得するために。レオンは、その背中を見送った。

「あの人なら、大丈夫だ」

カイルが言った。

「ああ」



夕暮れ時、レオンたちは王都を出発する準備をしていた。町へ、帰る時間だ。

仲間たちが、馬の準備をしている。

「レオン」

セリアが、報告に来た。

「王都に、古代兵器の残骸がまだあります」
「処理は?」
「エリーゼ様が、責任を持って封印すると」
「わかった」

レオンは頷いた。

「信じよう」

ルリアが、レオンの隣に来た。

「レオン、体は大丈夫ですか」
「まだ、痛むが、動ける」

レオンは、世界の断片を取り出した。今、二つの断片を持っている。

「これを、どうするか」
「まだ、使うつもりですか」

ルリアは、心配そうに聞いた。

「わからない」

レオンは、断片を見つめた。

「だが、これがある限り、まだ戦いは終わらない」
「では、壊せば」
「壊せない」

セリアが言った。

「世界の断片は、破壊不可能です。封印するしかありません」

レオンは、断片を懐にしまった。

「なら、俺が管理する」

その時、エドワードが近づいてきた。

「レオン」
「兄上」
「俺は、ここに残る」

エドワードは、王都を見た。

「アーデル家の後始末をしなければならない」
「そうですか」
「だが、いつか、お前の町へ行く」

エドワードは、レオンを見た。

「その時は、歓迎してくれ」
「もちろんです」

レオンは、微笑んだ。二人は、握手した。

「では、また」
「ああ、また」

エドワードは、去っていった。レオンは、仲間たちを見た。

「帰るぞ。町へ」

全員が、馬に乗った。そして、王都を後にした。

西の空が、赤く染まっている。新しい夜が、始まろうとしている。だが、レオンは知っていた。この戦いは、まだ終わっていない。

最後の戦いが、待っている。王国全体を、どうするか。その決断が、迫っていた。
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