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第5章 王国との激突
第47話「王都陥落」
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レオンの意識が戻ったのは、静かな朝だった。瞼を開けると、白い天井が見えた。医療所の匂いがする。消毒液と薬草の混ざった、独特の香りだ。
体が重い。全身が痛む。指を動かそうとすると、鋭い痛みが走った。
「レオン!」
隣から、ルリアの声がした。彼女は椅子で眠っていたようだが、レオンが動いたことに気づいて飛び起きた。
「目が覚めたんですね」
ルリアの目には、涙が浮かんでいる。だが、それは喜びの涙だった。
「どのくらい、寝ていた」
レオンは、かすれた声で聞いた。喉が渇いている。
「三日です。三日も、ずっと」
ルリアは、水差しから水をコップに注いだ。レオンの口元に運ぶ。
「ゆっくり飲んでください」
レオンは、水を飲んだ。冷たい水が、喉を潤す。少し、意識がはっきりしてきた。
「王国軍は?」
「撤退しました。グレイソン将軍も負傷して、北へ」
ルリアは、レオンの額に手を当てた。熱を確かめている。
「あなたが古代兵器を破壊したから、敵は戦えなくなったんです」
「ルークは?マルコは?」
「二人とも無事です。ルークは隣の部屋で療養中、マルコは家族と再会しました」
それを聞いて、レオンは少しだけ安心した。仲間が無事なら、まだ戦える。
だが、その時、扉が激しくノックされた。カイルが飛び込んできた。その表情は、深刻だった。
「レオン、目が覚めたか」
「ああ。何があった」
「エリーゼから連絡が来た」
カイルは、息を整えてから続けた。
「王都が、危ない」
執務室には、幹部たちが集まっていた。レオンは、ルリアに支えられながら何とか歩いてきた。体は重いが、動ける。それだけで十分だ。
エリーゼが、部屋の中央に立っていた。彼女の顔は青ざめ、疲労の色が濃い。
「レオン、無事で良かった」
エリーゼは、安堵の表情を見せた。だが、すぐに真剣な顔になる。
「父が、禁断の装置を起動させようとしています」
「禁断の装置?」
「王都の地下にも、古代再構築装置があるんです」
セリアが、古代文献を広げた。
「私も、文献で読んだことがあります。王都建設時に発見され、封印されたと」
「その封印を、父が解こうとしています」
エリーゼの声は、震えていた。
「理由は、復讐です。あなたに負けた屈辱を晴らすために、装置の力で王国全土を再構築しようと」
「狂っているのか」
カイルが、吐き捨てるように言った。
「古代兵器の危険性は、この前証明されたばかりだ」
「父は、もう正気ではありません」
エリーゼは、唇を噛んだ。
「側近たちも止められない。誰も、逆らえないんです」
レオンは、地図を見た。王都まで、ここから三日の距離だ。普通なら。
「いつ、起動する」
「今日の夕刻です」
エリーゼの言葉に、部屋が静まり返った。
「今日?あと数時間じゃないか」
「はい。だから、急いできました」
レオンは、立ち上がった。体が痛むが、構っていられない。
「行くぞ」
「レオン、お前の体は」
カイルが止めようとしたが、レオンは首を振った。
「王都には、何十万の民がいる。あれが暴走すれば、全員が死ぬ」
レオンは、全員を見渡した。
「俺は行く。誰か、ついてきてくれるか」
「当然だ」
カイルが、最初に答えた。
「俺も行きます」
ルリアが続いた。
「私も」
セリアも頷いた。
「私も同行します」
エリーゼが言った。
「これは、私の責任でもありますから」
やがて、二十名の精鋭が集まった。町を守るために、大半は残す。だが、この少数で、王都を救わなければならない。
町の門に、住民たちが集まっていた。レオンたちの出発を見送るためだ。
「レオン様、まだ傷が」
村長が、心配そうに言った。
「大丈夫です。必ず、戻ります」
レオンは、微笑んだ。子どもたちが、駆け寄ってきた。
「レオン様、頑張ってください」
「王都の人たち、助けてあげてください」
その純粋な言葉に、レオンは頷いた。
「ああ。約束する」
馬が、二十頭用意されていた。通常三日の道のりを、半日で駆け抜ける。馬も、人も、限界まで走る。
「出発だ」
レオンの合図で、一行は町を出た。北へ。王都へ。
馬は、休むことなく走り続けた。途中、何度か馬を替えた。街道沿いの村で、新しい馬を手配する。
街道を全速力で駆けながら、エリーゼがレオンに並んだ。
「レオン、ありがとう」
「何が」
「私を、許してくれて」
エリーゼは、前を見ながら言った。
「私は、あなたを追放したあの日、何も言えなかった」
「過去のことだ」
レオンは、簡潔に答えた。
「でも、許せない。自分が」
エリーゼの声には、後悔が滲んでいた。
「これから先、私にできることがあれば、何でもする」
「なら、一緒に父上を止めよう」
レオンは、エリーゼを見た。
「君の力が、必要だ」
エリーゼは、涙を堪えながら頷いた。
「はい」
「王都まで、あとどのくらいだ」
カイルが聞いた。
「あと二時間」
エリーゼが答えた。
「日没まで、三時間」
「間に合うか」
「間に合わせる」
レオンは、馬に拍車をかけた。
やがて、地平線に王都の姿が見えてきた。巨大な城壁に囲まれた、威厳ある都だ。人口は五十万を超える。王国最大の都市。
だが、その上空が、異様だった。青白い光が、空を覆っている。まるで、オーロラのようだ。
「あれは」
セリアが、顔色を変えた。
「装置が、既に起動している」
地面が、わずかに震えている。王都の建物が、揺れているのが遠くからでもわかった。
「急げ」
一行は、さらに速度を上げた。
王都の門に到着すると、衛兵たちが慌てふためいていた。避難する市民で、門は大混乱だった。
「道を開けろ」
カイルが叫んだが、混乱は収まらない。
「レオン・アーデルハイトだ」
レオンが名乗ると、衛兵たちが驚いた顔をした。
「追放された」
「ああ。だが、今は王都を救いに来た」
レオンは、馬を降りた。
「装置は、どこだ」
「王宮の地下です」
一人の衛兵が答えた。
「ですが、国王陛下が誰も近づけるなと」
「構わない。行くぞ」
レオンたちは、混乱する市民をかき分けて、王宮へ向かった。
王都の通りは、パニックに陥っていた。建物が揺れ、石畳が割れている。市民たちが、叫びながら逃げ惑っている。
「ここは、まるで地獄だ」
カイルが、呟いた。
地下から、不気味な音が響いている。まるで、何かが目覚めようとしているような、唸り声だ。
「装置が、暴走し始めています」
セリアが叫んだ。
「このままでは、王都全体が崩壊します」
王宮に到着すると、門は固く閉ざされていた。衛兵たちが、槍を構えている。
「止まれ。ここから先は、国王陛下の命により立ち入り禁止だ」
「どけ」
レオンは、再構築の力を使った。門が、内側から開いていく。衛兵たちが、驚いて後ずさる。
「あれが、再構築の力か」
「リコンストラクト自由国の」
レオンたちは、王宮の中へ入った。廊下も、激しく揺れている。装飾品が落ち、絵画が傾いている。
「地下への階段は、あちらです」
エリーゼが先導した。彼女は、この王宮で育った。道は知っている。
階段を降りると、地下通路が続いていた。だが、その先で、人影が立ちはだかった。
貴族たちだ。約十名。剣を抜いている。
「レオン・アーデルハイト。ここから先には、行かせない」
先頭に立つのは、見覚えのある顔だった。
「兄上」
レオンは、呟いた。
そこに立っていたのは、レオンの兄。アーデル家の長男、エドワード・アーデルハイト。冷たい目で、レオンを見下ろしている。
「久しぶりだな、弟よ」
エドワードの声は、氷のように冷たかった。
「まさか、お前が王都に戻ってくるとはな」
「どいてください、兄上」
レオンは、真剣な表情で言った。
「装置を止めなければ、王都が滅びます」
「滅びる?」
エドワードは、冷笑した。
「滅びるのは、お前たち反逆者だけだ」
「装置の力で、王国は再び栄える。そして、お前たちを滅ぼす」
レオンは、拳を握りしめた。兄は、狂っている。いや、最初から、こういう人間だったのかもしれない。
「兄上、装置は危険です。制御できません」
「黙れ」
エドワードは、剣を構えた。
「お前に、何がわかる。家を捨て、王国を裏切った男に」
「俺は、王国を裏切ってなどいない」
レオンも、剣を抜いた。
「ただ、自由を求めただけだ」
「自由?」
エドワードは、嘲笑した。
「お前の自由が、どれだけの人間を苦しめたと思っている」
「アーデル家は、お前のせいで笑い者になった。父上は、貴族たちから嘲られた」
エドワードの目には、憎しみが燃えている。
「すべて、お前のせいだ」
「なら、力ずくで通る」
レオンは、決意した。話し合いは、無駄だ。
「待て、レオン」
カイルが、レオンの肩を掴んだ。
「お前は、先に行け。ここは、俺たちが食い止める」
「だが」
「時間がない。お前にしかできないことをしろ」
カイルは、レオンを押した。
「行け」
ルリアも頷いた。
「私たちを信じてください」
レオンは、一瞬迷った。だが、カイルの言う通りだ。時間がない。
「頼む」
レオンは、エリーゼとセリアを連れて、兄たちを迂回しようとした。
「逃がすか」
エドワードが叫んだが、カイルの剣が、それを阻んだ。
「お前の相手は、俺だ」
レオン、エリーゼ、セリアの三人は、さらに奥へと走った。背後で、剣がぶつかり合う音が響く。
「すまない、みんな」
レオンは、呟いた。だが、立ち止まることはできない。
地下の最深部に、巨大な空間があった。天井は高く、まるで地下神殿のようだ。そして、その中央に、古代再構築装置があった。
それは、巨大な石の柱だった。無数の魔法陣が刻まれ、青白く発光している。その光は、脈動し、まるで生き物のようだった。
装置の前に、一人の男が立っていた。豪華な王服をまとい、王冠を被っている。
国王だ。
「父上」
エリーゼが、叫んだ。国王は、ゆっくりと振り返った。その目は、虚ろだった。
「エリーゼか。お前も、反逆者の仲間になったのか」
「父上、お願いです。装置を止めてください」
エリーゼは、必死に懇願した。
「このままでは、王都が崩壊します」
「崩壊?」
国王は、笑った。狂気の笑みだ。
「崩壊するのは、お前たちの方だ」
国王は、装置に手を当てた。
「この力があれば、王国は永遠に栄える。反逆者も、辺境の愚民も、すべて滅ぼせる」
「父上、正気ですか」
「正気だとも」
国王の声は、冷たかった。
「王国に逆らう者は、すべて消す。それが、王の務めだ」
レオンは、前に出た。
「陛下、その装置は危険です」
「レオン・アーデルハイト」
国王は、レオンを見た。
「お前が、すべての元凶だ」
「お前が現れてから、王国は乱れた。反逆者が生まれ、秩序が崩れた」
「すべて、お前のせいだ」
レオンは、何も答えられなかった。確かに、自分が自由を求めたことで、多くのことが変わった。
「ですが、それは間違っていません」
レオンは、真っ直ぐに国王を見た。
「人々は、自由を求める権利があります」
「黙れ」
国王は、装置に魔力を注ぎ込んだ。装置の光が、さらに強くなる。
地面が、激しく揺れ始めた。壁に、亀裂が走る。天井から、石が落ちてきた。
「まずい」
レオンは、装置を見た。暴走が始まっている。
その時、装置から無数の石の触手が出現した。それらは、レオンとエリーゼに向かって襲いかかる。
「エリーゼ、下がれ」
レオンは、再構築の力を発動した。青白い光が、石の触手を包む。触手が、動きを止めた。
だが、国王も装置を操作している。再構築対再構築。二つの力が、激しくぶつかり合った。
空間が、歪み始めた。現実そのものが、揺らいでいる。
「陛下、もう止めてください」
レオンは、叫んだ。
「このままでは、全員が死にます」
「死ぬのは、お前だけだ」
国王は、さらに魔力を注ぎ込んだ。
だが、その時、国王の体から血が噴き出した。魔力の過剰使用だ。体が、耐えられなくなっている。
「父上!」
エリーゼが駆け寄ろうとしたが、装置の力が彼女を吹き飛ばした。
国王は、床に倒れ込んだ。だが、装置は止まらない。もう、制御を失っている。
「くそっ」
レオンは、装置に向かって走った。これを止めるには、世界の断片を使うしかない。
レオンは、懐から世界の断片を取り出した。それは、青白く輝き、脈動している。
「もう一度、やるしかない」
レオンは、断片を握りしめた。体は、まだ完全に回復していない。これを使えば、命を落とすかもしれない。
だが、やるしかない。
その時、背後から声が聞こえた。
「レオン、一人でやるな」
カイルだ。彼は、傷だらけだったが、走ってきた。
「みんな、どうした」
「片付けた」
カイルは、レオンの隣に立った。
「兄上たちは、セリアの魔法で眠らせた。殺しはしていない」
ルリアも、駆けつけてきた。
「レオン、一緒にやりましょう」
「でも、危険だ」
「構いません」
ルリアは、レオンの手を握った。
「あなたを、一人にはしません」
セリアも到着した。他の仲間たちも、次々と集まってくる。全員、傷だらけだ。だが、まだ戦える。
「みんな」
レオンは、仲間たちを見た。
「ありがとう」
「礼はいらない」
カイルは、世界の断片に手を当てた。
「俺たちは、仲間だ」
全員が、断片の周りに集まった。そして、それぞれが手を当てる。
「行くぞ」
レオンが叫んだ。
「再構築、発動」
強烈な光が、地下空間を包んだ。
暴走する装置と、世界の断片の力が、激突する。
レオンの意識は、急速に拡張していった。装置の構造が、見える。複雑で、精密で、そして危険だ。
これを止めるには、核心部の世界の断片を取り出すしかない。
だが、それは装置の中心部にある。魔力の渦の中だ。
「セリア、核はどこだ」
「中央の柱の内部です」
セリアが叫んだ。
「ですが、近づけば、魔力に飲み込まれます」
「なら、道を作る」
カイルが、地面を再構築した。石の壁が隆起し、魔力の流れを遮る。
「今だ、レオン」
レオンは、壁の陰を進んだ。装置の中心部へ。ルリアが、防護魔法を展開する。炎の障壁が、レオンを守った。
「レオン、急いで」
「わかっている」
レオンは、装置の柱に手を当てた。再構築の力で、柱の内部構造を読み取る。そこに、世界の断片があった。青白く輝き、膨大な魔力を放出している。
「これを、取り出す」
レオンは、柱に亀裂を走らせた。石が崩れ、内部が露出する。そして、世界の断片を掴んだ。
瞬間、装置が悲鳴を上げた。まるで、生き物のように。光が暴走し、地下空間全体が揺れた。
「みんな、伏せろ」
カイルが叫んだ。だが、爆発は起きなかった。装置の光が、徐々に弱まっていく。そして、完全に消えた。
静寂が、訪れた。装置は、停止した。
「やった、のか」
カイルが、呟いた。レオンは、その場に膝をついた。世界の断片を、二つ握りしめている。自分のものと、装置のもの。
「ああ、止めた」
レオンの視界が、霞んでいく。意識が、遠のいていく。
「レオン」
ルリアが、駆け寄った。レオンを抱きしめる。
「大丈夫です。もう、終わりました」
レオンは、かすかに微笑んだ。そして、意識を失った。
装置が停止すると、王都の揺れも収まった。市民たちは、恐怖から解放され、泣き崩れた。
「助かった」
「終わったんだ」
王宮の地下では、国王が倒れたままだった。エリーゼが、父に駆け寄る。
「父上」
国王は、かすかに目を開けた。
「エリーゼ、か」
「はい、父上」
「すまなかった」
国王の声は、弱々しかった。
「私は、間違っていた」
エリーゼは、涙を流しながら父の手を握った。
「父上」
だが、国王はもう答えなかった。静かに、息を引き取った。
エリーゼは、声を上げて泣いた。
カイルが、レオンを背負った。
「戻るぞ。町へ」
全員が、地下から脱出した。階段を上り、王宮の外へ。
王都の空は、晴れ渡っていた。青白い光は消え、普通の空が戻っていた。
市民たちが、レオンたちを見て歓声を上げた。
「王都を救ってくれた」
「ありがとう」
だが、レオンは意識がない。カイルに背負われたまま、動かない。
「レオン様」
市民たちの声が、遠くに聞こえる。だが、レオンの耳には届かなかった。
深い眠りの中で、レオンは夢を見ていた。新しい世界の夢を。そして、その夢は、もうすぐ現実になろうとしていた。
体が重い。全身が痛む。指を動かそうとすると、鋭い痛みが走った。
「レオン!」
隣から、ルリアの声がした。彼女は椅子で眠っていたようだが、レオンが動いたことに気づいて飛び起きた。
「目が覚めたんですね」
ルリアの目には、涙が浮かんでいる。だが、それは喜びの涙だった。
「どのくらい、寝ていた」
レオンは、かすれた声で聞いた。喉が渇いている。
「三日です。三日も、ずっと」
ルリアは、水差しから水をコップに注いだ。レオンの口元に運ぶ。
「ゆっくり飲んでください」
レオンは、水を飲んだ。冷たい水が、喉を潤す。少し、意識がはっきりしてきた。
「王国軍は?」
「撤退しました。グレイソン将軍も負傷して、北へ」
ルリアは、レオンの額に手を当てた。熱を確かめている。
「あなたが古代兵器を破壊したから、敵は戦えなくなったんです」
「ルークは?マルコは?」
「二人とも無事です。ルークは隣の部屋で療養中、マルコは家族と再会しました」
それを聞いて、レオンは少しだけ安心した。仲間が無事なら、まだ戦える。
だが、その時、扉が激しくノックされた。カイルが飛び込んできた。その表情は、深刻だった。
「レオン、目が覚めたか」
「ああ。何があった」
「エリーゼから連絡が来た」
カイルは、息を整えてから続けた。
「王都が、危ない」
執務室には、幹部たちが集まっていた。レオンは、ルリアに支えられながら何とか歩いてきた。体は重いが、動ける。それだけで十分だ。
エリーゼが、部屋の中央に立っていた。彼女の顔は青ざめ、疲労の色が濃い。
「レオン、無事で良かった」
エリーゼは、安堵の表情を見せた。だが、すぐに真剣な顔になる。
「父が、禁断の装置を起動させようとしています」
「禁断の装置?」
「王都の地下にも、古代再構築装置があるんです」
セリアが、古代文献を広げた。
「私も、文献で読んだことがあります。王都建設時に発見され、封印されたと」
「その封印を、父が解こうとしています」
エリーゼの声は、震えていた。
「理由は、復讐です。あなたに負けた屈辱を晴らすために、装置の力で王国全土を再構築しようと」
「狂っているのか」
カイルが、吐き捨てるように言った。
「古代兵器の危険性は、この前証明されたばかりだ」
「父は、もう正気ではありません」
エリーゼは、唇を噛んだ。
「側近たちも止められない。誰も、逆らえないんです」
レオンは、地図を見た。王都まで、ここから三日の距離だ。普通なら。
「いつ、起動する」
「今日の夕刻です」
エリーゼの言葉に、部屋が静まり返った。
「今日?あと数時間じゃないか」
「はい。だから、急いできました」
レオンは、立ち上がった。体が痛むが、構っていられない。
「行くぞ」
「レオン、お前の体は」
カイルが止めようとしたが、レオンは首を振った。
「王都には、何十万の民がいる。あれが暴走すれば、全員が死ぬ」
レオンは、全員を見渡した。
「俺は行く。誰か、ついてきてくれるか」
「当然だ」
カイルが、最初に答えた。
「俺も行きます」
ルリアが続いた。
「私も」
セリアも頷いた。
「私も同行します」
エリーゼが言った。
「これは、私の責任でもありますから」
やがて、二十名の精鋭が集まった。町を守るために、大半は残す。だが、この少数で、王都を救わなければならない。
町の門に、住民たちが集まっていた。レオンたちの出発を見送るためだ。
「レオン様、まだ傷が」
村長が、心配そうに言った。
「大丈夫です。必ず、戻ります」
レオンは、微笑んだ。子どもたちが、駆け寄ってきた。
「レオン様、頑張ってください」
「王都の人たち、助けてあげてください」
その純粋な言葉に、レオンは頷いた。
「ああ。約束する」
馬が、二十頭用意されていた。通常三日の道のりを、半日で駆け抜ける。馬も、人も、限界まで走る。
「出発だ」
レオンの合図で、一行は町を出た。北へ。王都へ。
馬は、休むことなく走り続けた。途中、何度か馬を替えた。街道沿いの村で、新しい馬を手配する。
街道を全速力で駆けながら、エリーゼがレオンに並んだ。
「レオン、ありがとう」
「何が」
「私を、許してくれて」
エリーゼは、前を見ながら言った。
「私は、あなたを追放したあの日、何も言えなかった」
「過去のことだ」
レオンは、簡潔に答えた。
「でも、許せない。自分が」
エリーゼの声には、後悔が滲んでいた。
「これから先、私にできることがあれば、何でもする」
「なら、一緒に父上を止めよう」
レオンは、エリーゼを見た。
「君の力が、必要だ」
エリーゼは、涙を堪えながら頷いた。
「はい」
「王都まで、あとどのくらいだ」
カイルが聞いた。
「あと二時間」
エリーゼが答えた。
「日没まで、三時間」
「間に合うか」
「間に合わせる」
レオンは、馬に拍車をかけた。
やがて、地平線に王都の姿が見えてきた。巨大な城壁に囲まれた、威厳ある都だ。人口は五十万を超える。王国最大の都市。
だが、その上空が、異様だった。青白い光が、空を覆っている。まるで、オーロラのようだ。
「あれは」
セリアが、顔色を変えた。
「装置が、既に起動している」
地面が、わずかに震えている。王都の建物が、揺れているのが遠くからでもわかった。
「急げ」
一行は、さらに速度を上げた。
王都の門に到着すると、衛兵たちが慌てふためいていた。避難する市民で、門は大混乱だった。
「道を開けろ」
カイルが叫んだが、混乱は収まらない。
「レオン・アーデルハイトだ」
レオンが名乗ると、衛兵たちが驚いた顔をした。
「追放された」
「ああ。だが、今は王都を救いに来た」
レオンは、馬を降りた。
「装置は、どこだ」
「王宮の地下です」
一人の衛兵が答えた。
「ですが、国王陛下が誰も近づけるなと」
「構わない。行くぞ」
レオンたちは、混乱する市民をかき分けて、王宮へ向かった。
王都の通りは、パニックに陥っていた。建物が揺れ、石畳が割れている。市民たちが、叫びながら逃げ惑っている。
「ここは、まるで地獄だ」
カイルが、呟いた。
地下から、不気味な音が響いている。まるで、何かが目覚めようとしているような、唸り声だ。
「装置が、暴走し始めています」
セリアが叫んだ。
「このままでは、王都全体が崩壊します」
王宮に到着すると、門は固く閉ざされていた。衛兵たちが、槍を構えている。
「止まれ。ここから先は、国王陛下の命により立ち入り禁止だ」
「どけ」
レオンは、再構築の力を使った。門が、内側から開いていく。衛兵たちが、驚いて後ずさる。
「あれが、再構築の力か」
「リコンストラクト自由国の」
レオンたちは、王宮の中へ入った。廊下も、激しく揺れている。装飾品が落ち、絵画が傾いている。
「地下への階段は、あちらです」
エリーゼが先導した。彼女は、この王宮で育った。道は知っている。
階段を降りると、地下通路が続いていた。だが、その先で、人影が立ちはだかった。
貴族たちだ。約十名。剣を抜いている。
「レオン・アーデルハイト。ここから先には、行かせない」
先頭に立つのは、見覚えのある顔だった。
「兄上」
レオンは、呟いた。
そこに立っていたのは、レオンの兄。アーデル家の長男、エドワード・アーデルハイト。冷たい目で、レオンを見下ろしている。
「久しぶりだな、弟よ」
エドワードの声は、氷のように冷たかった。
「まさか、お前が王都に戻ってくるとはな」
「どいてください、兄上」
レオンは、真剣な表情で言った。
「装置を止めなければ、王都が滅びます」
「滅びる?」
エドワードは、冷笑した。
「滅びるのは、お前たち反逆者だけだ」
「装置の力で、王国は再び栄える。そして、お前たちを滅ぼす」
レオンは、拳を握りしめた。兄は、狂っている。いや、最初から、こういう人間だったのかもしれない。
「兄上、装置は危険です。制御できません」
「黙れ」
エドワードは、剣を構えた。
「お前に、何がわかる。家を捨て、王国を裏切った男に」
「俺は、王国を裏切ってなどいない」
レオンも、剣を抜いた。
「ただ、自由を求めただけだ」
「自由?」
エドワードは、嘲笑した。
「お前の自由が、どれだけの人間を苦しめたと思っている」
「アーデル家は、お前のせいで笑い者になった。父上は、貴族たちから嘲られた」
エドワードの目には、憎しみが燃えている。
「すべて、お前のせいだ」
「なら、力ずくで通る」
レオンは、決意した。話し合いは、無駄だ。
「待て、レオン」
カイルが、レオンの肩を掴んだ。
「お前は、先に行け。ここは、俺たちが食い止める」
「だが」
「時間がない。お前にしかできないことをしろ」
カイルは、レオンを押した。
「行け」
ルリアも頷いた。
「私たちを信じてください」
レオンは、一瞬迷った。だが、カイルの言う通りだ。時間がない。
「頼む」
レオンは、エリーゼとセリアを連れて、兄たちを迂回しようとした。
「逃がすか」
エドワードが叫んだが、カイルの剣が、それを阻んだ。
「お前の相手は、俺だ」
レオン、エリーゼ、セリアの三人は、さらに奥へと走った。背後で、剣がぶつかり合う音が響く。
「すまない、みんな」
レオンは、呟いた。だが、立ち止まることはできない。
地下の最深部に、巨大な空間があった。天井は高く、まるで地下神殿のようだ。そして、その中央に、古代再構築装置があった。
それは、巨大な石の柱だった。無数の魔法陣が刻まれ、青白く発光している。その光は、脈動し、まるで生き物のようだった。
装置の前に、一人の男が立っていた。豪華な王服をまとい、王冠を被っている。
国王だ。
「父上」
エリーゼが、叫んだ。国王は、ゆっくりと振り返った。その目は、虚ろだった。
「エリーゼか。お前も、反逆者の仲間になったのか」
「父上、お願いです。装置を止めてください」
エリーゼは、必死に懇願した。
「このままでは、王都が崩壊します」
「崩壊?」
国王は、笑った。狂気の笑みだ。
「崩壊するのは、お前たちの方だ」
国王は、装置に手を当てた。
「この力があれば、王国は永遠に栄える。反逆者も、辺境の愚民も、すべて滅ぼせる」
「父上、正気ですか」
「正気だとも」
国王の声は、冷たかった。
「王国に逆らう者は、すべて消す。それが、王の務めだ」
レオンは、前に出た。
「陛下、その装置は危険です」
「レオン・アーデルハイト」
国王は、レオンを見た。
「お前が、すべての元凶だ」
「お前が現れてから、王国は乱れた。反逆者が生まれ、秩序が崩れた」
「すべて、お前のせいだ」
レオンは、何も答えられなかった。確かに、自分が自由を求めたことで、多くのことが変わった。
「ですが、それは間違っていません」
レオンは、真っ直ぐに国王を見た。
「人々は、自由を求める権利があります」
「黙れ」
国王は、装置に魔力を注ぎ込んだ。装置の光が、さらに強くなる。
地面が、激しく揺れ始めた。壁に、亀裂が走る。天井から、石が落ちてきた。
「まずい」
レオンは、装置を見た。暴走が始まっている。
その時、装置から無数の石の触手が出現した。それらは、レオンとエリーゼに向かって襲いかかる。
「エリーゼ、下がれ」
レオンは、再構築の力を発動した。青白い光が、石の触手を包む。触手が、動きを止めた。
だが、国王も装置を操作している。再構築対再構築。二つの力が、激しくぶつかり合った。
空間が、歪み始めた。現実そのものが、揺らいでいる。
「陛下、もう止めてください」
レオンは、叫んだ。
「このままでは、全員が死にます」
「死ぬのは、お前だけだ」
国王は、さらに魔力を注ぎ込んだ。
だが、その時、国王の体から血が噴き出した。魔力の過剰使用だ。体が、耐えられなくなっている。
「父上!」
エリーゼが駆け寄ろうとしたが、装置の力が彼女を吹き飛ばした。
国王は、床に倒れ込んだ。だが、装置は止まらない。もう、制御を失っている。
「くそっ」
レオンは、装置に向かって走った。これを止めるには、世界の断片を使うしかない。
レオンは、懐から世界の断片を取り出した。それは、青白く輝き、脈動している。
「もう一度、やるしかない」
レオンは、断片を握りしめた。体は、まだ完全に回復していない。これを使えば、命を落とすかもしれない。
だが、やるしかない。
その時、背後から声が聞こえた。
「レオン、一人でやるな」
カイルだ。彼は、傷だらけだったが、走ってきた。
「みんな、どうした」
「片付けた」
カイルは、レオンの隣に立った。
「兄上たちは、セリアの魔法で眠らせた。殺しはしていない」
ルリアも、駆けつけてきた。
「レオン、一緒にやりましょう」
「でも、危険だ」
「構いません」
ルリアは、レオンの手を握った。
「あなたを、一人にはしません」
セリアも到着した。他の仲間たちも、次々と集まってくる。全員、傷だらけだ。だが、まだ戦える。
「みんな」
レオンは、仲間たちを見た。
「ありがとう」
「礼はいらない」
カイルは、世界の断片に手を当てた。
「俺たちは、仲間だ」
全員が、断片の周りに集まった。そして、それぞれが手を当てる。
「行くぞ」
レオンが叫んだ。
「再構築、発動」
強烈な光が、地下空間を包んだ。
暴走する装置と、世界の断片の力が、激突する。
レオンの意識は、急速に拡張していった。装置の構造が、見える。複雑で、精密で、そして危険だ。
これを止めるには、核心部の世界の断片を取り出すしかない。
だが、それは装置の中心部にある。魔力の渦の中だ。
「セリア、核はどこだ」
「中央の柱の内部です」
セリアが叫んだ。
「ですが、近づけば、魔力に飲み込まれます」
「なら、道を作る」
カイルが、地面を再構築した。石の壁が隆起し、魔力の流れを遮る。
「今だ、レオン」
レオンは、壁の陰を進んだ。装置の中心部へ。ルリアが、防護魔法を展開する。炎の障壁が、レオンを守った。
「レオン、急いで」
「わかっている」
レオンは、装置の柱に手を当てた。再構築の力で、柱の内部構造を読み取る。そこに、世界の断片があった。青白く輝き、膨大な魔力を放出している。
「これを、取り出す」
レオンは、柱に亀裂を走らせた。石が崩れ、内部が露出する。そして、世界の断片を掴んだ。
瞬間、装置が悲鳴を上げた。まるで、生き物のように。光が暴走し、地下空間全体が揺れた。
「みんな、伏せろ」
カイルが叫んだ。だが、爆発は起きなかった。装置の光が、徐々に弱まっていく。そして、完全に消えた。
静寂が、訪れた。装置は、停止した。
「やった、のか」
カイルが、呟いた。レオンは、その場に膝をついた。世界の断片を、二つ握りしめている。自分のものと、装置のもの。
「ああ、止めた」
レオンの視界が、霞んでいく。意識が、遠のいていく。
「レオン」
ルリアが、駆け寄った。レオンを抱きしめる。
「大丈夫です。もう、終わりました」
レオンは、かすかに微笑んだ。そして、意識を失った。
装置が停止すると、王都の揺れも収まった。市民たちは、恐怖から解放され、泣き崩れた。
「助かった」
「終わったんだ」
王宮の地下では、国王が倒れたままだった。エリーゼが、父に駆け寄る。
「父上」
国王は、かすかに目を開けた。
「エリーゼ、か」
「はい、父上」
「すまなかった」
国王の声は、弱々しかった。
「私は、間違っていた」
エリーゼは、涙を流しながら父の手を握った。
「父上」
だが、国王はもう答えなかった。静かに、息を引き取った。
エリーゼは、声を上げて泣いた。
カイルが、レオンを背負った。
「戻るぞ。町へ」
全員が、地下から脱出した。階段を上り、王宮の外へ。
王都の空は、晴れ渡っていた。青白い光は消え、普通の空が戻っていた。
市民たちが、レオンたちを見て歓声を上げた。
「王都を救ってくれた」
「ありがとう」
だが、レオンは意識がない。カイルに背負われたまま、動かない。
「レオン様」
市民たちの声が、遠くに聞こえる。だが、レオンの耳には届かなかった。
深い眠りの中で、レオンは夢を見ていた。新しい世界の夢を。そして、その夢は、もうすぐ現実になろうとしていた。
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