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第6章 転生前の事件とこれからの未来

71(エピローグ(後))

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 そして、現在。

 以前とは比べ物にならない程に立派に生まれ変わった孤児院――その名も〝聖魔院〟――の前に並べられたテーブルと、その上に載った豪勢な料理の数々。

 立食パーティーの最中さなか――

「はい、プレゼント!」
「わぁ! みんな、ありがとう!」

 参加者たちから誕生日プレゼントを貰ったアンナは、自分の可愛さを分かっている様子で、子どもらしい、無邪気――に見える満面の笑みを浮かべた。

 ――が、アンの方を振り向いたアンナは――

「ママからのプレゼントは、〝お兄ちゃんとの離婚〟で良いわよ? それなら手間も労力もお金も掛からないから、お手軽でしょ?」
「〝離婚〟を手軽だと考える夫婦がどこの世界にいるのよ! そんな事する訳ないでしょうが!」

 ――五歳児には似付かわしくない大人びた表情で、冷たい言葉をぶつけ、アンは激しく突っ込んだ。

 と、その時――

「アン」
「分かってるわ」

 ――ティーパに促されたアンは、「本当に、もう……」と、溜息を一つすると、「そんなのよりも、もっと良いものをあげるわよ」と言って、アンナの後ろに立って、屈むと――

「アンナ、お誕生日おめでとう! あたしとティーパからのプレゼントよ」

 ――そう言ってアンナに何かをした後、「『物体創造クリエイト』」と、物体創造魔法を用いて、翳した手から姿見を生み出して地面に置くと、アンナは――

「わぁ~!」

 ――思わず、声を上げた、
 巨大な鏡の中の自分――その髪に、可愛らしい大きな黄色のリボンが結ばれていた。

 顔を右に向けて、左に向けて。
 手で触りつつ、様々な角度から、リボンとそれを身に付けた自分を熱心に見詰めていると――

「ハッ!」

 ――そんな自分を、背後からニコニコと笑顔で見守るアンに気付き――

「コホン。まぁ、中々良いんじゃないの? ママにしては」

 ――ちょっぴり気まずそうにそう言うと、アンナは――

「で、お兄ちゃんはアンナに何をくれるの?」
「今言ったでしょうが! それが〝あたしとティーパから〟のプレゼントだって!」

 ――転生前よりも更に幼い身体になった事が影響しているのか、一人称が変わった彼女の口から出た言葉に、アンが噛み付く。

 ――が、アンナは意にも介さない。

「ねぇ、お兄ちゃ~ん! アンナ、お兄ちゃんからのプレゼントが欲し~い! ねぇ、お願~い!」

 アンに対して、〝一度犠牲にしようとした〟事から後ろめたさを感じていたティーパだが、逆に、アンナに対しても、〝アンと共に生きることを選び、アンナを生き返らせる事は諦めた〟経緯から、負い目を感じていた。

 更に、アンナは実の妹であり、今となっては実の娘でもある。

 そんな彼女の〝おねだり〟に抵抗出来るはずも無く――

「……分かった」
「ちょっと、ティーパ!」

 ――ティーパは、呆気無く陥落した。

「わ~い!」

 ――飛び上がって喜ぶアンナに、いつもながら無表情のティーパが問い掛ける。

「だが、俺がアンと一緒に用意したプレゼントは、そのリボンだけだ。他には何も無い。どうする? また後日、一緒に買いに行くか?」
「お兄ちゃんと買い物デートも良いけど……っていうか、それはそれでするとして――」

 「するのね」と、アンが横から口を挟む中――
 ――アンナは、ティーパの脚にギュッと抱き着いて――
 ――見上げると――

「……今晩、抱いて?」
「五歳の娘に夫を寝取られてたまるかああああああああ!」

 ――五歳児とは思えぬ扇情的な表情でそう乞う彼女に、鬼のような形相でアンが迫った。

「きゃあああ! 鬼婆に襲われるうううう! お兄ちゃん、助けてえええええ!」
「誰が鬼婆よ! こちとらまだ二十二歳よ!」

 追い掛け回すアンから、アンナは楽しそうに逃げて行く。

 暫くすると――

「はぁ、はぁ、はぁ……五歳児の癖に、何て身体能力と体力なのよ……」

 ――敷地内を縦横無尽に駆け回り続ける娘に、途中で立ち止まったアンが、肩で息をしながら愚痴を零す。

 見ると、いつの間にか、アンナの鬼ごっこは、母以外の者たちと共に継続されており――

「サンねぇ、アクねぇ、アンナを捕まえてみて!」
「よ~し! あたしが捕まえちゃうからね、アンナ!」
「ううん、アンナちゃんはアクが捕まえる!」

 ――それぞれ十六歳と九歳になったサンとアクが、アンナを追い掛けており――

 「本当にもう……」と、苦笑しながらも、アンは穏やかな表情を浮かべた。

「でも、幸せって、案外こういう事を言うのかもしれないわね。思っていた形とはちょっと……いや、大分違うけど……」

 アンは、首を横に振ると、「でもやっぱり、幸せだわ」と、もう一度呟いた。

 そして、「あ、そう言えば」と、アンはティーパに目を向けた。

「結局、あんたの〝聖魔石〟探しの目的は、達成出来なかったわね。あたしは、裕福になれて、妹たちに楽もさせてあげられて、願いが叶っちゃったけど」

 「あと、あんたと結婚も出来て、子どもまで出来たし」と、アンが頬を赤らめながら、誰にも聞こえない程の小さな声で、ボソッと呟いた後――

「ん? 何を言ってるんだ? ?」

 ――ティーパは、然も当然と言った風情で答えた。

「は? 何言ってんの、あんた? 負け惜しみ?」

 呆れたとばかりにそう言うアンに、だがティーパは、「よく見てみろ、この光景を」と返した。

 仕方なく、ティーパに続いて、アンも参加者たちに視線を移す。

「ほら、他の人たちがいるんですから、走り回っちゃ駄目ですよ」

 すっかり大人になり、美しいドレスに身を包んだファイ。

「アク、挟み撃ちだ!」
「分かった、サンねぇ!」

 ファイの声が聞こえていないのか、構わずにアンナを追い掛け続けるサンとアク。

「二人掛かりでも無理だよ! 何なら、他にも助っ人呼んでも良いよ! 例えば、そこで間抜け面晒しながら料理にがっついてるポンコツ魔王とか!」

 二人のみならず、魔王に対しても挑発的な態度を取るアンナ。

「まおッ!? この魔王に喧嘩売ったまお! 目に物見せるやるまお!」

 幼女の握り方――〝上手持ち〟したフォークでじゅるじゅると食べていたスパゲッティを一気に飲み込むと、口の周りがトマトソース塗れのまま、飛行してアンナの追跡を始める魔王。

 そして、少し離れた場所――敷地の端、森の手前では――

、中々良い玩具を提供してくれましたわ!」

 孤児院にティーパが帰って来た事を嗅ぎ付けたものの、『殺されたパンツ男の双子の弟だ』というティーパの嘘にまんまと騙され、パンツ男本人が主催するパーティーにて、その手に持った木製の皿に載せられた、〝スライスした後オーブンで焼いたパンの上にチーズとハムを載せた料理〟を堪能するディクセア。

「ああッ! 我がッ! 嘗て世界を救った勇者であるこの美しい我がッ! このような惨たらしい仕打ちを受けるなどッ! 耐え難い屈辱ッ! 何たる辱めッ! ああッ! ああッ!! ああああああああああああッ!!!」

 そんな彼女によって、全身を何本もの雷槍で貫かれながら――恐ろしい事に、魔王の魔法とは違い、〝〟貫通している――嬌声を上げるシャウル。

「全く。騒々しい連中だねぇ」
「本当なの!」
「どわはははははははは! 流石ティーにぃの仲間たちだ!」

 苦笑しながら串焼きを食べるケミー、食べながらも、ティーパの事はまだ諦めていないらしく「子ども一人産んだくらいで何だって言うの!? リカなら、お兄ちゃんの子どもだったら百人以上楽勝で産めるの!」と、無茶を言うリカ、食べつつ腕立てと腹筋を繰り返す、二十一歳になった現在も幼女のような見た目のままのマーサ。

 更に――

「ティーパ兄ちゃん、遊ぼ!」
「にぃに!」
「ティーにぃ!」
「お兄ちゃん!」

 ――自分たちの手で運営する事となった孤児院に新たにやって来る子供たちは、何故か美幼女か美少女ばかりで――

 ――美幼女から美少女、更には美女まで揃い――

 ――属性も、〝聖〟から〝魔〟まで――

 ――種族も、〝人間〟から〝ドワーフの末裔〟、更には〝魔族の王〟まで――

 ――身分も、平民から王女まで――

 ――カテゴリーも、剣士に、僧侶、武闘家、魔法使い、果ては勇者まであり――

 ――善人から悪人、そして狂人さえおり――

 ――ドSからドMまでいる。

 正に〝世界中の美幼女・美少女・美女〟を集めたと言える、壮観な光景に――

「俺は、表向きの目的であった〝究極のハーレム〟を作る事と、ファイたちと交わした約束である〝大金を稼ぐ事〟、そして、裏の目的であった〝妹の復活〟を全て成し遂げた。何も言う事は無い」

 いつもながらの無表情で仁王立ちしながらそう豪語するティーパに、アンが噛み付く。

「後の二つはともかく、あんた、ちゃっかりハーレム達成してるじゃない! やられたわ! 浮気する気満々じゃないの!」

 もう二度とアンを傷付けるような真似はすまいと心に誓っているティーパは、「それは杞憂だ」と否定するが、アンは、「信じられないわ! 男なんてみんなけだものよ!」と、聞く耳を持たない。

 そこでティーパは、何とかアンに対する自分の愛情を信じて貰おうと――

 ――思考して――

 ――思考して――

 ――思考して――

「信じてくれ、アン。俺は、お前の事を愛している」
「なっ!?」

 ――初めて言われた〝愛している〟という台詞に、アンが顔を真っ赤にしていると――

 ――思考し過ぎたティーパが――

「その証拠に、お前のパンツが世界で一番食べやすい」
「………………は?」

 ――余計な一言と共に、胸ポケットからサッと取り出したハンカチーフ――に見せ掛けたパンツを流れるような動作で口許に運び、咀嚼すると――

「それ、あたしのパンツじゃない! 道理でちょくちょくパンツが無くなると思っていたわ! やっぱりあんたが犯人だったのね!」
「ぶごはっ」

 ――怒りの鉄拳でティーパを上空に吹っ飛ばしたアンは、落ちて来るティーパに対して――

「もう結婚して子どもまでいるって言うのに! 何やってくれてんのよ! この――」

 ――再びその拳を突き刺して、叫んだ。

「パンツイーター!」



―完―
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みんなの感想(1件)

錆田 瀕次
2024.02.25 錆田 瀕次

わかる、わかる。
パンツって美味しいよね(錯乱)。

お餅ミトコンドリア
2024.02.26 お餅ミトコンドリア

分かって頂けて嬉しいです!(錯乱)

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