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第6章 転生前の事件とこれからの未来
70(エピローグ(前))
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その後、直ぐに、ティーパとアンは結婚した。
世界一の大金持ちになったにも拘らず、孤児院にて、関係者だけを集めた、質素でこじんまりとした式を挙げた二人。
桃色の長髪をアップにして、純白のウェディングドレスに身を包んだアンは――
「あんたなんかと結婚してあげるんだから、幸せにしなさいよね……!」
――頬を朱に染めながら、そう呟く。
白タキシードを着用したティーパは、そんなアンを、真っ直ぐに見詰めて――
「ああ。世界中の誰よりも幸せにしてみせる」
「!」
――然も〝当然〟といった風情で言葉を紡ぎ――
(何よ、もう! ティーパの癖に!)
――アンが、思わず顔を真っ赤にした直後、ティーパは――
「〝下着喰らい〟の名に懸けて」
「いやもう台無しいいいいいい!」
「ぐぼはっ」
――余計な一言を付け加えて、アンの鉄拳制裁を受けて吹っ飛び、周囲から笑い声が起こった。
※―※―※
そして、六年後。
柔らかい陽光が降り注ぐ、そんなある日。
「「「「「お誕生日おめでとう!」」」」」
「みんな、ありがとう!」
友人知人を招いて、ティーパとアンの娘の、五歳の誕生日会が行われていた。
可愛くて仕方が無い盛りの、一人娘の誕生日である。
両親にとっては、至福の一時に違いない。
――本来であれば。
「お誕生日おめでとう!」
「ありがとう、ママ!」
どこからどう見ても、愛娘の誕生日会。
それは間違いなかったのだが――
――一つだけ、通常では考えられない事が起きており――
「で、ママ。いつお兄ちゃんと別れるの?」
可愛らしいピンク色のドレスに身を包んだ、アンの桃色髪を受け継いだセミロングヘアで可愛らしい容姿の娘は、小さな身体を精一杯大きく見せようとした仁王立ち姿も可愛らしく、可愛らしい唇を動かし、とても可愛らしい声で、しかし――全く可愛らしくない言葉をぶつけた。
「早く別れてくれないと、アンナがお兄ちゃんと結婚出来ないじゃない!」
「ああ、もう! 何で生まれて来た子が、ティーパの実の妹なのよ!」
※―※―※
そう。
ティーパとアンの娘は、アンナ――生前、現代日本にてティーパの実の妹であった杏奈だった。
自分たちの娘に、アンナという名前をつけようと提案したのは、アンだった。
アンを深く傷付けてしまったことを心から悔やみ、これからは彼女の事を大切にしようと心に誓っていたティーパには、そんな考えは浮かばなかった。
一方、アンは、ティーパが杏奈の復活を諦めて自分と共に生きる事を選んでくれた事に対して、言葉に出来ない程に嬉しかったが、同時に、間接的にではあるが、杏奈を見殺しにしてしまったかのような、罪悪感を覚えていた。
魂を共有する自分は、文字通り、彼女の犠牲の上に生きている。
その重みをしっかりと受け止めた上でこれからの人生を歩んでいきたいと思ったアンは、「ねぇ、もし良かったらなんだけど……」と、生まれて来た子どもが女の子だった場合、アンナと名付けてはどうかとティーパに聞いてみた。
「俺は別に良いが。お前はそれで良いのか? 無理してないか? アイツの事でお前が気に病む必要なんてないぞ、アン。お前はアイツじゃないんだから」
「!」
思わぬ言葉に、アンが目を見張る。
無論、自分に対するティーパの愛情が本物である事は、それまでの結婚生活で、十分に分かっていた。
相変わらず表情に乏しく、ぶっきらぼうではあるが、アンに対する気遣いは確かにあり、特に妊娠が判明してからは、不器用ながらも、どうにかしてアンの日々の生活の負担を軽減しようとしてくれていた。
だが、嘗て実の妹の復活を目論んでいた際のティーパは、まるでアンと杏奈を同一視しているかのような節があった。
そんな彼が、はっきりと、『お前はアイツじゃない』と言ってくれたのだ。
それが、アンには堪らなく嬉しく、胸が幸福感で一杯になった。
アンは、温かい想いに目を閉じて、開けると、穏やかな顔でティーパを見詰めた。
「大丈夫。無理してる訳じゃないから。あたしがそうしたいってだけだから」
「それにね」とアンは、更に言葉を継ぐと――
「アンナって、素敵な名前だと思うのよね! あたしの名前に似てるし!」
茶目っ気たっぷりにウインクすると、ティーパは――
「そうだな。確かに、〝アン〟というのは、可愛くて綺麗で素敵な名前だ」
「!」
――無表情のまま、ぽつりと自然にそう告げて――
「もう! 恥ずかしいこと言わないでよね!」
「ぼぐはっ」
――頬を紅潮させたアンは、照れ隠しで振るった拳で、ティーパを吹っ飛ばした。
※―※―※
その後。
生まれて来た子どもは、女の子で――
「わぁ! あたしたちの赤ちゃん!」
――天使かと見紛う程に可愛らしく愛くるしい彼女は――
「何て可愛いのかしら! 天使みたい! ううん、天使そのものよ!」
――この世に誕生した直後――
――アンの胸に抱かれながら、こう言った。
「会いたかったわ! この泥棒猫!」
「………………………………え?」
※―※―※
どうやら、出産を機に、〝魂が二つに分離した〟らしく、その結果、別人として存在する事が可能となったアンナは、それからというもの、常にティーパをアンから奪おうとし続けて――
「何で四六時中、実の娘から〝略奪愛〟されないかとビクビク怯えながら生活しなきゃなんないのよ!?」
尤もな抗議の声を上げるアンだったが、アンナは自分がお腹を痛めて生んだ子どもであり、可愛い事には変わりなく、彼女に対する育児自体は全く苦ではなかったため、相反する二つの感情に、悶々とした日々を過ごす事となった。
世界一の大金持ちになったにも拘らず、孤児院にて、関係者だけを集めた、質素でこじんまりとした式を挙げた二人。
桃色の長髪をアップにして、純白のウェディングドレスに身を包んだアンは――
「あんたなんかと結婚してあげるんだから、幸せにしなさいよね……!」
――頬を朱に染めながら、そう呟く。
白タキシードを着用したティーパは、そんなアンを、真っ直ぐに見詰めて――
「ああ。世界中の誰よりも幸せにしてみせる」
「!」
――然も〝当然〟といった風情で言葉を紡ぎ――
(何よ、もう! ティーパの癖に!)
――アンが、思わず顔を真っ赤にした直後、ティーパは――
「〝下着喰らい〟の名に懸けて」
「いやもう台無しいいいいいい!」
「ぐぼはっ」
――余計な一言を付け加えて、アンの鉄拳制裁を受けて吹っ飛び、周囲から笑い声が起こった。
※―※―※
そして、六年後。
柔らかい陽光が降り注ぐ、そんなある日。
「「「「「お誕生日おめでとう!」」」」」
「みんな、ありがとう!」
友人知人を招いて、ティーパとアンの娘の、五歳の誕生日会が行われていた。
可愛くて仕方が無い盛りの、一人娘の誕生日である。
両親にとっては、至福の一時に違いない。
――本来であれば。
「お誕生日おめでとう!」
「ありがとう、ママ!」
どこからどう見ても、愛娘の誕生日会。
それは間違いなかったのだが――
――一つだけ、通常では考えられない事が起きており――
「で、ママ。いつお兄ちゃんと別れるの?」
可愛らしいピンク色のドレスに身を包んだ、アンの桃色髪を受け継いだセミロングヘアで可愛らしい容姿の娘は、小さな身体を精一杯大きく見せようとした仁王立ち姿も可愛らしく、可愛らしい唇を動かし、とても可愛らしい声で、しかし――全く可愛らしくない言葉をぶつけた。
「早く別れてくれないと、アンナがお兄ちゃんと結婚出来ないじゃない!」
「ああ、もう! 何で生まれて来た子が、ティーパの実の妹なのよ!」
※―※―※
そう。
ティーパとアンの娘は、アンナ――生前、現代日本にてティーパの実の妹であった杏奈だった。
自分たちの娘に、アンナという名前をつけようと提案したのは、アンだった。
アンを深く傷付けてしまったことを心から悔やみ、これからは彼女の事を大切にしようと心に誓っていたティーパには、そんな考えは浮かばなかった。
一方、アンは、ティーパが杏奈の復活を諦めて自分と共に生きる事を選んでくれた事に対して、言葉に出来ない程に嬉しかったが、同時に、間接的にではあるが、杏奈を見殺しにしてしまったかのような、罪悪感を覚えていた。
魂を共有する自分は、文字通り、彼女の犠牲の上に生きている。
その重みをしっかりと受け止めた上でこれからの人生を歩んでいきたいと思ったアンは、「ねぇ、もし良かったらなんだけど……」と、生まれて来た子どもが女の子だった場合、アンナと名付けてはどうかとティーパに聞いてみた。
「俺は別に良いが。お前はそれで良いのか? 無理してないか? アイツの事でお前が気に病む必要なんてないぞ、アン。お前はアイツじゃないんだから」
「!」
思わぬ言葉に、アンが目を見張る。
無論、自分に対するティーパの愛情が本物である事は、それまでの結婚生活で、十分に分かっていた。
相変わらず表情に乏しく、ぶっきらぼうではあるが、アンに対する気遣いは確かにあり、特に妊娠が判明してからは、不器用ながらも、どうにかしてアンの日々の生活の負担を軽減しようとしてくれていた。
だが、嘗て実の妹の復活を目論んでいた際のティーパは、まるでアンと杏奈を同一視しているかのような節があった。
そんな彼が、はっきりと、『お前はアイツじゃない』と言ってくれたのだ。
それが、アンには堪らなく嬉しく、胸が幸福感で一杯になった。
アンは、温かい想いに目を閉じて、開けると、穏やかな顔でティーパを見詰めた。
「大丈夫。無理してる訳じゃないから。あたしがそうしたいってだけだから」
「それにね」とアンは、更に言葉を継ぐと――
「アンナって、素敵な名前だと思うのよね! あたしの名前に似てるし!」
茶目っ気たっぷりにウインクすると、ティーパは――
「そうだな。確かに、〝アン〟というのは、可愛くて綺麗で素敵な名前だ」
「!」
――無表情のまま、ぽつりと自然にそう告げて――
「もう! 恥ずかしいこと言わないでよね!」
「ぼぐはっ」
――頬を紅潮させたアンは、照れ隠しで振るった拳で、ティーパを吹っ飛ばした。
※―※―※
その後。
生まれて来た子どもは、女の子で――
「わぁ! あたしたちの赤ちゃん!」
――天使かと見紛う程に可愛らしく愛くるしい彼女は――
「何て可愛いのかしら! 天使みたい! ううん、天使そのものよ!」
――この世に誕生した直後――
――アンの胸に抱かれながら、こう言った。
「会いたかったわ! この泥棒猫!」
「………………………………え?」
※―※―※
どうやら、出産を機に、〝魂が二つに分離した〟らしく、その結果、別人として存在する事が可能となったアンナは、それからというもの、常にティーパをアンから奪おうとし続けて――
「何で四六時中、実の娘から〝略奪愛〟されないかとビクビク怯えながら生活しなきゃなんないのよ!?」
尤もな抗議の声を上げるアンだったが、アンナは自分がお腹を痛めて生んだ子どもであり、可愛い事には変わりなく、彼女に対する育児自体は全く苦ではなかったため、相反する二つの感情に、悶々とした日々を過ごす事となった。
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