絶望の魔王

たじ

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ガーマインから出て半日ほどの地点にある大きな橋を渡った後、野宿をしながらもう二日ほどもひたすら野原の真ん中を歩き続けていた。

「この橋を渡ったら広大な野原を何日間かは歩き続けなきゃならない。この荷物だし、結構初心者にはキツいと思うから、休みたくなったら無理せず言ってね。」

……そう、橋の途中でラボスは言っていたけれど。

……キツい…。背中のリュックは多分10kg位はあるだろう。

「……あのすみません……。」

ガーマインを出発してから一体何回休ませてもらったことか。

「ああ、疲れたかい?わかった。そろそろ休もうか。」

俺はこんなにへばっているのに慣れているのだろう、ラボスの顔に疲労は微塵も浮かんでいない。

………チチチチチチチ。

どこか少し離れた場所から、小鳥の鳴き声が見渡す限りのの野原に響く。

「…まあ、初めてにしては上出来なんじゃない?ある程度慣れるまでは、最初は皆こんなもんだから。焦らず、徐々に慣れていってもらえればいいよ。」

相変わらずニコニコとこちらに微笑みかけるラボス。

……こんなに温厚な人がガーマインではちょび髭の男と激しくやりあっていた。よっぽどの確執があるんだろうな。

そんなことを考えていると、

「…ガウッッ!ガルルルル!!」

と、俺の後ろで犬のような鳴き声が聞こえる。

「危ないっ!!」
ラボスの声が聞こえたかと思うと、後ろから何かが俺に向かって襲いかかってきた。

「…………!!」

「ハルトッ!!」


    ◆  ◆  ◆  ◆


…………………………………………。
……………………………。
…………あれ?ここはどこだったっけ?

うっすらと目を開けると、辺りはもうすっかり夕暮れ時だった。

「気が付いたんだね?ああ、良かったぁっ~~!!君は凶暴なモンスターに後ろから噛みつかれたんだよ。正直、噛みつかれたときはダメかと思った。でも、不思議だなぁ。アイツに噛みつかれて血が出るどころか、傷一つついてない。実は君ってなにか魔法とか使えるのかい?」

「……えっ?」

……どういうことなんだろう?
ラノベとかじゃあるまいし、ひょっとしなくてもこちらに召喚されたときに、何らかの能力が開花したんだろうか。

………う~~ん。と、唸っていたら、

「ごめんごめん。そう言えば君は記憶喪失だったね。変なこと聞いちゃったな。前職で魔法に携わっていたから、ついつい。ごめんね。気にしないで。」

そう言ってラボスは笑いかけるけれど、俺の心には何かモヤモヤとしたものが残った。


     ◆  ◆  ◆  ◆


一方。
滅びの森でノカ率いるニードルリザードの群れとやり合って、満身創痍そういのサーシャ率いる魔導騎士達は、滅びの森から撤退して今まさに聖都ラーヌへと飛空挺ひくうていホワイトラグーンに乗って帰ってきた。

「……な、何が起こった?ルーナ様始めこれだけの騎士達が倒れるとは………。」

余りに凄惨せいさんな治療現場にしばしサーシャは言葉を無くした。

医師の一人がサーシャに近づき、
「……おいたわしいことですが、実は召喚の儀が失敗したようでして……。それで、この有り様に………。」と、報告する。

「……何だと?儀式が失敗したと?……それで、勇者は?」

「はい……。どうも、この地には出現しなかったらしく………。」

それを聞いてサーシャは微かに微笑みを浮かべる。

「……そうか。ならば、すぐにでも我が配下を差し向けねばな………。」

「はっ!?今なんと?」

「……良い良い。お前には関係のないことだ。」

……ノカとの戦闘に痛手を負った割にはサーシャの気分は悪くはなかった。
……これからの展開を思えば……。


    ◆  ◆  ◆  ◆


場面変わってこちらはコーダの街を目指してひたすらだだっ広い野原をモクモクと歩き続けるラボスとハルト。

「………もうすぐ着くから、それまでの我慢だよ。」

……正直俺の方は若干心が折れかかっていると言うのに、ラボスと来たらまるで疲れた様子はない。

………この人はどれだけキツイ仕事をやって来たのだろう?
………単純に凄いな。

そう思っていると、ラボスが声をあげた。

「ホラ!あっちに小さく街が見えるだろう?あれがコーダの街さ!」

ラボスの言葉に釣られ、前方を良くみると確かに小さく街のようなものが見えた。


    ◆  ◆  ◆  ◆


………それから俺達は大きな木の門をくぐり、コーダの街へとたどり着いた。

「うわぁ、これはまたガーマインとは違う凄さがあるな!」

感嘆の声を上げる俺にラボスが、

「ガーマインにあった飛空挺もここで造られたんだよ。……まぁ、いわばこの街はこの大陸随一の工業都市と言えるだろうね。」

……目の前にはあちらこちらで金属で出来たが煙を上げている。
……さながら産業革命を思わせる光景だ。

「……さ~~て、これからこの大荷物を業者のギルドに預けるとしよう。そうしたら、しばらくの間力仕事はしなくて済む。」

……ラボスの先導のもと、メインストリートの中程を右折してすぐの、3階立ての石と金属が入り交じった造りの建物へと入っていった。

………………………………。

「……じゃあ、ご依頼の物はこれで全てですね。ご苦労様でした。」

カウンターに立った貧相な顔の男がラボスと俺にねぎらいの言葉をかける。

「良し!これでひとまずしんどい仕事は終わった!ここからは、聖都ラーヌまで長い道のりを行くけど、ここまでみたいに重い荷物はなしだ!」

と、ラボスもいつも以上ににこやかに俺に笑いかける。

「……そうですか。それは良かったです……。」

……ここまで本当に辛かった。
何度も休ませてもらったものの、さすがに10kgの荷物を背負って何日も歩き続けるなんてコンビニのレジ打ちだった俺には荷が重すぎる。

「………はぁ~~~~………。」
俺が無意識にため息をつくと、ラボスが、

「ははっ!君にはよっぽどキツかったみたいだね。今日はゆっくり休むといいよ。」
と、労ってくれた。





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