絶望の魔王

たじ

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魔導騎士団の本拠地内のサーシャの部屋には高そうな壺や絵画が飾られており、豪奢な雰囲気を漂わせている。
…今そこにはサーシャと数人の騎士達がいた。

「……何人か見繕ってすぐに探せ!この世界の何処かには必ず出現している筈だ!勇者という名の異世界人が、な……。そして、それ・・を使って我らの魔術研究は更なるステージへと向かうのだ!」

不敵な笑いを浮かべながら、サーシャが目の前の配下の騎士達に命令する。

「…ハッ!!仰せのままに……。」

そう答えて騎士達はすぐに部屋から出て勇者の捜索へと向かった。

「……フン。……ノカには手痛い反撃を受けたが、人生山あり谷あり、だな……。」

……そう呟くサーシャの瞳は妖しく輝いた。


    ◆  ◆  ◆  ◆ 


あの後宿屋に一晩泊まってから、俺は工業都市コーダをザッとラボス案内のもと、歩き回っていた。

街には大小様々な歯車が、まるで水車のようにボルトやらで据え付けられてグルグルと回転している。

………一体これらの機械はどうやって動かしているんだろう。パッと見には蒸気機関か何かで動かしているように見えるけど。

ボーッとその様子を眺めていると、横からラボスが、

「……ああ、この歯車の動力が気になるのかな?これはね、この世界には5人の女神様がいらっしゃるんだけど、そのうちのお一人、地母神ゲルテ様の加護を受けたマジックアイテムが使われてるんだ。そのアイテムの採れる洞窟がこのコーダの近くにはあってね。それで、この街は工業都市としての歴史を紡いできたって訳さ。」

「…そうなんですか。」

「……まあ、やっぱり記憶喪失だから思い出せないよな。こうして色んな街を案内していけば、その内に記憶が戻ってハルトの故郷も必ず見つかるはずだよ。」

………ラボスの気持ちはありがたいけれど、残念ながら俺はこの世界の住人ではない。

今のところは何とか誤魔化せているが、この調子ではその内にボロが出そうだな。

…そう考えながら、ボーッとしたまま人で賑わう通りを歩いていると、

「いっただきーーっ!!」

、という声がして周りが何やら騒がしくなる。

「どろぼっっーーーーーー!!!」

頭がツルンツルンの中年の男が一人、路地裏へと消えた人影を怒鳴りながら走って追いかけていく。

「……一体何が起きたんですか?」

ラボスが手近にいた女性に問いかけた。

「何かどうやらあの男の人が財布を掏られてしまったみたいで………。」

そう聞くや否や、ラボスもハゲの男に続いて路地裏へと走っていった。

「……えーっと、俺はどうすれば?」

ラボスに置いてけぼりを食らった俺はしばし呆然と佇んだ……。


    ◆  ◆  ◆  ◆


「くぉらっっーーー!!この泥棒っっーーー!!ま~ち~や~が~れ~~~っっ!!」

顔をゆでダコのように染めながら財布を掏られた中年男が50m程先の人影を走りながらも怒鳴り付ける。

「へへ~~ん!!やぁなこった!!」

………どうやら、スリはまだ少年のようだ。
走って逃げながらも後ろから追いかけて来る男にアッカンベーする。

「…こんのヤローっっーー!!!」

と、ますますタコっぽくなった男の脇からスッと人影が現れてみるみるうちにスリの少年へと追い付いた。

「……離せーーー!!は~な~せ~よ~~~!!」

手を後ろにねじ上げるラボスからどうにか身を捩って逃げ出そうとする少年。

「君、ダメだろうっ!!人の物勝手に取っちゃっ!!」

ラボスが叱ると、

「…しょうがねーだろ!!俺達には家も親もいねーんだからよー!!」

と少年が喚き立てる。

それを聞いて一瞬、ラボスの動きが止まった。
……その隙を少年は見逃さなかった。

すかさず、ラボスの手を振りほどき少年は、

「…くっそーー!!覚えてろよーー!!」

という言葉を残して一目散に走り去ってゆく。

「……ああ、俺の全財産がぁ…………。」

ようやくラボスに追い付いた中年男が哀れな呻きをあげた……。

















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