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……空は夜の青と夕暮れのオレンジが混じり合い複雑な色合いを見せている。西の方を見るとそろそろ太陽も地平線に沈み切ろうとしているようだ。
俺達は先程の路地から離れ無言のまま、しばらく通りを歩いていた。
……二人ともさっきの件ですっかり酔いが覚めてしまっていた。
「……………………………………。」
「…………それでさっき俺を止めたのは一体どういう理由で、ですか?」
沈黙に耐えきれなくなった俺は遂にラボスに問い質した。
「………………。……ハルトは記憶を失っているからピンと来てないみたいだけど、さっきの少女は貧しい農村からお金で買われてきた奴隷なんだ。
ほら、彼女の足には鉄の枷が嵌められていただろう?……それだけだったら、僕もお金で話をつけて自由にしてやることも出来たかもしれない。
……でも、アレは相手が悪すぎる。
奴の服に白く縫いとられた紋章を見たかい?
あれは聖都ラーヌの貴族連中御用達の人買いだ。
金満貴族達が己の汚い欲望を満たす、その為だけに大陸中からお金で貧しい人々を集めてくるんだ。
……彼らの弱味につけ込んで、ね。
もし、その邪魔をしたら最悪、僕ら二人は打ち首だ。
なぜならば、ラーヌの貴族には王族に次ぐ絶大な権力があるから。
……平民の僕達が下手に逆らったら、彼らは僕らを剣で切り捨てても何の罪にも問われない。」
話し終えると、ラボスは悔しそうにグッと歯を噛み締める。
……その顔には今まで見たことのない厳しい表情が浮かんでいた。
……つまり、江戸時代の侍みたいなもの、
だってことか……。確か無礼打ち、だったっけ……。
「……このまま腐った現状に甘んじているつもりはない!
必ず奴等の汚い謀略の尻尾をつかんでやる!!」
ラボスが鼻息荒くそう叫ぶ。
「……謀略、って?」
「……いや、すまない。今のは忘れてくれないか。」
目を伏せてラボスはそう言った。
……そして、二人の会話は途切れ、再び無言のまま俺達は近くの宿屋へと向かった。
◆ ◆ ◆ ◆
聖都ラーヌ、その外れに建造された黒い大理石造りのパッと見神殿のような建物。
そこに魔導騎士団所属でありながら、実体は王族と貴族の一部が握っている魔術研究所が存在していた。
今現在、そこの所長は先代魔導騎士団参謀のオゥル・エル・グリドラが務めている。
そしてオゥルはサーシャの義父でもあった。
サーシャはまだ幼い頃にラーヌ貴族御用達の人買いに買われて、奴隷として貧しい寒村からここ聖都ラーヌへと連れて来られたのだが、さる貴族の家で使用人としてこき使われている時に偶然その貴族の家に招かれていたオゥルにその魔力の素養を見い出されて引き取られ養子となっていた。
その関係で本来なら魔術研究所とは手を組むことのない魔導騎士団参謀・サーシャは、その研究の躍進に貢献すべく供物となる異世界人ーー勇者ーーを部下に捜索させていた。
魔術研究所、その地下部分には一部の研究員達しか入ることを許されない秘密のスペースが存在しており、そのだだっ広く薄暗い部屋の中には淡く緑色に発光しているカプセルが並んでいる。今オゥルはその内の一つの前に佇んでいた。
緑色に発光する液体が満たされたカプセルの中では全身に鱗を生やして両耳には魚のヒレのようなものをくっつけた若い女性が苦悶の表情を浮かべて呻き声を漏らしている。
その顔はハルトの亡くなった筈の恋人と瓜二つだった。
「……ハル、ト………。」
「……フン!!実験動物が一丁前に嘆き悲しむとはな。……まだコレは魔法実験に使えそうだな。フフフフフ……。」
オゥルの不気味な笑い声にカプセルの中の女性はビクンと背中を震わせて怯えた瞳を覗かせた。
◆ ◆ ◆ ◆
7年前の事だ。
当時ハルトの恋人だった河合百合江は海沿いの道を散歩している途中で脇見運転のトラックに跳ねられて海へと転落した。
警察の必死の捜索も空しく百合江は見つからずしばらくすると遺族も恋人のハルトももう百合江は亡くなってしまったものと諦めていた。
だがしかし百合江は事故の際偶然に偶然が重なってこの世界へと転移していたのだった。
この世界ではごくごく稀に召喚術を介さずに奇跡的に条件が整い異世界からやって来る者達が昔から存在した。
ハルト達のいた世界で言うところの「神隠し」
というものがそれに当たる。
そしてその後百合江はラーヌ貴族御用達の奴隷商人達に運悪く捕まりここ魔術研究所に連れてこられモンスターの体細胞を植え付けられたり新型魔法の実験台にされたりと散々な目に遭ってきた。
今異形の化物と化した百合江の心を過るのは恋人ハルトと過ごした甘い日々だけだった。
こんな過酷な境遇においても彼女が正気を失わずに済んでいるのはそれがいつまでも燦然と心の中に輝いているからだ。
「おい!!誰か!!」
オゥルが扉の向こうの騎士に声をかける。
すると扉の向こうからオゥルの側近が姿を現した。
「ハッ!!何のご用でしょうかオゥル様!!」
「このモルモットを実験場まで連れていけ!
次の新型魔法をコイツで試してやろう。
フフフフフ……。」
そして百合江は今日も非人道的な実験の犠牲にされようとしていた。
俺達は先程の路地から離れ無言のまま、しばらく通りを歩いていた。
……二人ともさっきの件ですっかり酔いが覚めてしまっていた。
「……………………………………。」
「…………それでさっき俺を止めたのは一体どういう理由で、ですか?」
沈黙に耐えきれなくなった俺は遂にラボスに問い質した。
「………………。……ハルトは記憶を失っているからピンと来てないみたいだけど、さっきの少女は貧しい農村からお金で買われてきた奴隷なんだ。
ほら、彼女の足には鉄の枷が嵌められていただろう?……それだけだったら、僕もお金で話をつけて自由にしてやることも出来たかもしれない。
……でも、アレは相手が悪すぎる。
奴の服に白く縫いとられた紋章を見たかい?
あれは聖都ラーヌの貴族連中御用達の人買いだ。
金満貴族達が己の汚い欲望を満たす、その為だけに大陸中からお金で貧しい人々を集めてくるんだ。
……彼らの弱味につけ込んで、ね。
もし、その邪魔をしたら最悪、僕ら二人は打ち首だ。
なぜならば、ラーヌの貴族には王族に次ぐ絶大な権力があるから。
……平民の僕達が下手に逆らったら、彼らは僕らを剣で切り捨てても何の罪にも問われない。」
話し終えると、ラボスは悔しそうにグッと歯を噛み締める。
……その顔には今まで見たことのない厳しい表情が浮かんでいた。
……つまり、江戸時代の侍みたいなもの、
だってことか……。確か無礼打ち、だったっけ……。
「……このまま腐った現状に甘んじているつもりはない!
必ず奴等の汚い謀略の尻尾をつかんでやる!!」
ラボスが鼻息荒くそう叫ぶ。
「……謀略、って?」
「……いや、すまない。今のは忘れてくれないか。」
目を伏せてラボスはそう言った。
……そして、二人の会話は途切れ、再び無言のまま俺達は近くの宿屋へと向かった。
◆ ◆ ◆ ◆
聖都ラーヌ、その外れに建造された黒い大理石造りのパッと見神殿のような建物。
そこに魔導騎士団所属でありながら、実体は王族と貴族の一部が握っている魔術研究所が存在していた。
今現在、そこの所長は先代魔導騎士団参謀のオゥル・エル・グリドラが務めている。
そしてオゥルはサーシャの義父でもあった。
サーシャはまだ幼い頃にラーヌ貴族御用達の人買いに買われて、奴隷として貧しい寒村からここ聖都ラーヌへと連れて来られたのだが、さる貴族の家で使用人としてこき使われている時に偶然その貴族の家に招かれていたオゥルにその魔力の素養を見い出されて引き取られ養子となっていた。
その関係で本来なら魔術研究所とは手を組むことのない魔導騎士団参謀・サーシャは、その研究の躍進に貢献すべく供物となる異世界人ーー勇者ーーを部下に捜索させていた。
魔術研究所、その地下部分には一部の研究員達しか入ることを許されない秘密のスペースが存在しており、そのだだっ広く薄暗い部屋の中には淡く緑色に発光しているカプセルが並んでいる。今オゥルはその内の一つの前に佇んでいた。
緑色に発光する液体が満たされたカプセルの中では全身に鱗を生やして両耳には魚のヒレのようなものをくっつけた若い女性が苦悶の表情を浮かべて呻き声を漏らしている。
その顔はハルトの亡くなった筈の恋人と瓜二つだった。
「……ハル、ト………。」
「……フン!!実験動物が一丁前に嘆き悲しむとはな。……まだコレは魔法実験に使えそうだな。フフフフフ……。」
オゥルの不気味な笑い声にカプセルの中の女性はビクンと背中を震わせて怯えた瞳を覗かせた。
◆ ◆ ◆ ◆
7年前の事だ。
当時ハルトの恋人だった河合百合江は海沿いの道を散歩している途中で脇見運転のトラックに跳ねられて海へと転落した。
警察の必死の捜索も空しく百合江は見つからずしばらくすると遺族も恋人のハルトももう百合江は亡くなってしまったものと諦めていた。
だがしかし百合江は事故の際偶然に偶然が重なってこの世界へと転移していたのだった。
この世界ではごくごく稀に召喚術を介さずに奇跡的に条件が整い異世界からやって来る者達が昔から存在した。
ハルト達のいた世界で言うところの「神隠し」
というものがそれに当たる。
そしてその後百合江はラーヌ貴族御用達の奴隷商人達に運悪く捕まりここ魔術研究所に連れてこられモンスターの体細胞を植え付けられたり新型魔法の実験台にされたりと散々な目に遭ってきた。
今異形の化物と化した百合江の心を過るのは恋人ハルトと過ごした甘い日々だけだった。
こんな過酷な境遇においても彼女が正気を失わずに済んでいるのはそれがいつまでも燦然と心の中に輝いているからだ。
「おい!!誰か!!」
オゥルが扉の向こうの騎士に声をかける。
すると扉の向こうからオゥルの側近が姿を現した。
「ハッ!!何のご用でしょうかオゥル様!!」
「このモルモットを実験場まで連れていけ!
次の新型魔法をコイツで試してやろう。
フフフフフ……。」
そして百合江は今日も非人道的な実験の犠牲にされようとしていた。
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