絶望の魔王

たじ

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「……何?ラボスが勇者と一緒にいる、だと?」

クリミナが目の前に浮かんだサーシャの映像に答える。

「ええ。ヤツに邪魔されて異世界人の確保はなりませんでした。……正直ヤツが側にいては我々の手には負えないでしょう。」

「……フン!魔導騎士団をとっくに辞めたというのに煩わしい奴だ!…………分かった。応援を送ろう。それまで奴らを監視しろ!良いな?」

「……ハッ!!」

プツンと音をたてて魔法で造り出した映像は途絶える。

「……フーッ!……ということだ。引き続き監視を続けるぞ!」

クリミナが残りの騎士達の目を見てそう言った。


     ◆  ◆  ◆  ◆ 

奴らとやりあった後俺はそれまで秘密にしていた自分がどうやってこの世界にやって来たのかについてラボスに話していた。

……しかしとうとう肝心の自分が自殺した下りについては言えなかった。

「フーッッ……。成る程。そういう訳だったのか……。ある日突然ハルトの住む世界とは異なるこの世界にねぇ……。……俄には信じがたいが昔からごくごく稀に自然にこの世界に異世界の人がやって来ることがあると言うけれど……。……まさか魔導騎士団が召喚の儀を行ったんじゃあるまいな?そうだとすればサーシャの小飼のクリミナ達が君を襲った理由も説明がつくな……。だとすれば奴らは君を奪取することを諦めないだろうね。何か対策を考えないと……。」

そう言うとラボスはウウ~~ンと唸りながら考えを巡らせているようだった。

「……すみません。ご迷惑をお掛けして……。」

俺がすまなさそうに言うと

「……いやいや、良いんだ。よく話してくれた。」

とラボスは大きく右手を振って答える。

……それから俺達はクリーの街の観光を止めて宿屋へと向かった。

    ◆  ◆  ◆  ◆

一方その頃魔王に命令された旋風のパルスは魔王城を離れコーダの街までやって来ていた。

「……全くぅ~ん。魔王様ったら無茶言ってくれるわぁ……。」

ホゥッ、と一息パルスが漏らすと赤い体毛のカラスのような胴体に蛾のような羽の生えたモンスターが一匹報告に来る。

「パルス様。どうやらこの街には異世界からやって来た者はいないようです。住人の話によると何日か前にこの街を離れケニーへ向かったとか……。」

「……わかったわぁ。それじゃあ次のケニーへと進軍するわよ。皆にそう伝えなさいな。」

「ハッ!!かしこまりました!」

そう答えて羽の生えた手下のモンスターは去っていった。

「……ううう……。どうか命だけは……。」

パルスの足元には子供を抱えた母親がボロボロになってパルスに命乞いをしている。

「……あらぁ?まだ生きてたの?しぶといわねぇ。烈風斬撃ウインドミキサー!」

パルスが呪文を唱えると見えない風の刃が母子を切り裂く。

「ああーーーーーっっ!!」 

「イヤァッッーーーー!!」

断末魔だけを残し母子はピクリとも動かなくなった。

それを確かめるとパルスは背中のハエのような大きな羽をはためかせてケニーに向かって飛んでいった。












    
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