絶望の魔王

たじ

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「…………そうか。勇者の魔力は、やはり遮断されている、か…………」

魔術研究所の所長室には、オゥルとサーシャ、それに、報告に訪れた研究員が一人、これからの勇者の追跡について話をしている。

「…………トレースもそうだが、ドレインを失ったのは手痛かったな」

「父上…………」

「かくなるうえは…………。しょうがあるまい。ヤツを連れてこい。13号をな……」

「しかし…………。あいつを連れ出すのは、余りにも無謀では…………」

口答えする研究員の顔をジロリとねめつけてオゥルが、もう一度命令する。

「13号をここへ」

「わ、わかりました!」

オゥルの気迫に恐れおののきながら、研究員は答えると、慌てた様子で所長室を出て、地下の実験施設へと足を向けた。

「……さて。ヤツは制御不能な化け物ではあるが、しかしそれでも、目付役として同行する人間を何人かこちらに寄越してもらいたい」

オゥルが、サーシャの顔をジッと見つめながら言う。

サーシャは、不安そうな表情を一瞬浮かべた後、

「ハッ!!かしこまりました、父上!何人か選りすぐって、すぐにこちらに……」

と答えると、オゥルに一礼して、所長室を出てゆく。

部屋に一人残されたオゥルは呟く。

「なんとしてでも、勇者をここへ連れてくるのだ……」


     ◆  ◆  ◆  ◆


ハルトと百合江は、夜が明けてすぐに、ラボスに抱えられ、大空に羽ばたくと、コーダの街を後にして、ヘルム山脈へと向かっていた。


「あと、どれくらいでヘルム山脈に着くんですか?」

ハルトが、ラボスにそう問いかけると、ラボスが、答える。

「そうだね。ここから、一日飛んで、もう一回野宿してから、もう半日ばかりって所かな。……結構、人里からは離れた場所だからね。
……それに、あの辺には、魔王軍には属していない、野生の凶暴なモンスター達が、ちょくちょく出没するから、相当な手練れでないと、なかなか頂上までは行けないんだよな……。まあ、僕がついてるから、心配は要らないとは思うけど、一応、二人とも覚悟はしておいて」

「そんなに大変な所なんですか……」

思わず、ハルトは、隣の百合江と顔を見合わせて表情を強ばらせる。

そんな二人の様子を見てラボスが言った。

「……大丈夫!君達には、決して手出しはさせないさ!」

ラボスの力強い言葉にも関わらず、ハルトの隣で百合江は相変わらず、不安そうな顔をしている。

百合江は、心の中で自問していた。

……本当に、大丈夫なのかしら。嫌な予感がしているのに、そんな危ない場所に向かっても……。
……それに、このラボスという人は、邪神に甦らせられた、と言っていたじゃない!はたしてどんなことが、これから待ち受けているんだろう……。

そんな百合江に、ハルトが、

「百合江!……きっと、大丈夫だよ!」

と、優しく笑いかけながら言った。


……それでも、百合江の中の嫌な予感は、ドンドンと膨らむばかりだった。

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