絶望の魔王

たじ

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「……なるほど。そういうわけだったんですか…………。あの、祭壇の間のオーブが…………」

ハルト達は、森に落ちていた、枯れ葉や枯れ枝を集めて、火を起こした後、その周りに車座になって、ラボスから変身するに至った訳をようやく聞かされた。

「…………それじゃあ、あまり無理はしない方がいいんじゃあ、ありませんか?」

百合江の問いに、ラボスは首を振って、


「……いいや。どうせ、遅かれ早かれ、僕の体は、古代に、デル・バンバで信仰されていた闇の神に乗っ取られるんだ。それならば、その時まで、全力を尽くした方がいいってもんだよ」

どこか、遠くの方を眺めながら、言った。

「……それにしても、一体、闇の神は、ラボスさんの体を乗っ取って、何をするつもりなんだろう?……正直、俺には、嫌な予感しか……」

ハルトの呟きに、束の間、全員が黙りこくる。


…………チチチチチチチ。……ホウーホウーホウー。

森の奥で、小鳥の微かな囀ずりと、フクロウの鳴き声が木霊した。


「…………………………………………………………」

長い沈黙の後、ラボスが、辛そうに顔を歪ませながら、誰にともなく呟いた。

「……僕は、生き延びるのに必死で、ひょっとすると、とんでもないことをしてしまったのかもしれない…………」

ハルトと百合江も、辛そうな表情を浮かべて、そんなラボスを見る。

そうして、その日は、それ以上言葉を交わすことなく、3人は眠りについた。


      ◆  ◆  ◆  ◆


その頃、魔王城のパルスの私室では、パルスが、ふと頭に浮かんだ疑問を、一人、眼前の姿見に向かって呟いていた。

「…………それにしても、魔王様は、何故、勇者をご自分で始末されないのかしらぁぁ。
……あたしなんかがやるよりも、絶対、その方が早いし、確実だと思うんだけどなぁ~~。なぁ~んでかしらねぇぇ~~??

……まあ、我が主様のことだもの。きっと、あたしなんかには及びもつかない、ふかぁぁ~~~~い理由があるんでしょうけどねぇ……。
……我が主様はとかく、秘密主義でいらっしゃるから…………。……まぁったく、もう少しだけでいいから、あたしたちにも、何とか分かるように説明していただけないかしらぁ……。ハァ~ア~~」

最後に大きくため息をつくと、パルスは、魔導騎士団との戦いで消耗した体を、巨大なベッドに横たえ、うたた寝を始めた。



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