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第一章 本編

18 テストの結果は……

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 勉強会の合間には、メーデルとの交流という名目でグループごとに茶会が開かれた。そこには接待の手伝いで貴族令息たちや騎士団員から数十名呼ばれていた。さながらお見合いパーティーのようであった。

 こうして一月はあっという間に過ぎていった。

 一ヶ月目のテストはもちろん実地だ。
 マナー、ダンス、護身術体術の三科目をそれぞれ100点満点で80点が合格ラインだ。

 その結果、一科目の平均点は95点であった。初級なのでそのくらいは当たり前だと王妃陛下は考えている。
 ラビオナはオール満点で300点だった。

 だが、…………一人だけ脱落した。シエラだ。シエラはダンスこそ80点であったが、護身術は20点で、マナーは5点だった。

 シエラはダンスもギリギリだ。『私はいつもメーデと踊っているから完璧だもん』と言ってレッスンをサボった。そして試験では、パートナーを務めた相手にもっと近寄れと何度も催促していた。試験官に『相手に密着しようとしすぎだ』と注意されても直らず、減点された。
 『だって! メーデはそうしろって言うもの!』メーデルにも火の粉が飛んだ。

 護身術の授業では、剣が重い、足が痛い、ご令嬢の手が当たった、髪が乱れた、化粧が落ちた……とにかく言い訳のオンパレードでろくに習わなかった。
 テスト当日も『護衛がいるのにこの項目は意味がない』と大騒ぎしていた。確かに護衛は付く。だが、少人数の時や移動時に狙われたら、自分で防御して時間稼ぎすることで生き延びることも充分にありえる。そのための護身術体術であることをシエラは理解しなかった。

 マナーについては、ひどい有様だ。授業は十分で何かしらの注意をされるので、すぐに逃げ出していた。
 だからテストでは、食事マナーでは水さえも飲めず、廊下は静かに歩けず、廊下ですれ違う者たちへのマナーも知らず、お茶会は暗黙のルールを知らず、最後には癇癪を起こしていた。

 グループごとにテストをしていったのだが、王妃陛下はわざとメーデルをシエラがいるグループの監督官にした。メーデルは自分が選んだシエラの凄まじさを目の当たりにして、試験が終わる頃には廃人のような顔になっていた。

〰️ 

 試験結果発表の翌日、シエラは学園を退学となった。シエラは貴族ではなくなっていたのだ。

 説明会の後、シエラの様子がブルゾリド男爵家にも伝わった。
 シエラの両親は、元々教育に興味のない夫婦だった。父親は商売のフリをしてふらふらとしていたし、母親は怠惰な生活を好んでいた。
 シエラの話を耳にして、父親は夜逃げした。元々領地経営が上手くいっておらず、借金ばかりだった。母親は父親と離縁して実家の商家へ帰った。

 シエラの兄は、学園を卒業してから自領の隣の東方辺境伯軍に所属している。急に負債だらけの家督を継がなければならなくなった兄は領地経営に興味はないし、辺境伯領で奥さんと子供と暮らしている。奥さんは平民である。
 兄は家督を継がないと決断し、国に爵位と領地を返還したのだ。
 王妃陛下の温情で領地返還を領地売却として王妃陛下が購入した。おかげで実質『借金なし』となった。こうして、ブルゾリド男爵領は王妃陛下の資産の一部となる。

 いくら教育に興味のない両親だったとしても、後継者に領地経営などの教育をしていないわけはないし、兄は学園も卒業している。にも関わらず家督を継がなかったのは、借金問題だけではなく、シエラの面倒を見てまで家督を継ぎたくはなかったのかもしれない。それほどシエラの醜聞は男爵家ではフォローできないものだと判断されたのだろう。

 平民になったシエラは貴族学園を卒業できるわけがない。シエラにはとっくに資格がなくなっていたのだ。

 すでに半月も前に平民になっていたシエラだ。だが、王妃陛下はメーデルにもシエラにもそれを知らせず、メーデルに現実を見せることを決めた。そして思惑通り、メーデルはシエラの様子に打ちのめされた。

 シエラには監視が必要と感じた王妃陛下は西方辺境伯に下女として雇ってもらうことにした。西方辺境伯は王宮メイド長の遠縁の親類であった。
 今後、シエラが心を入れ替え仕事を覚えていけばメイドに格上げされることもあるという。


〰️ 〰️ 〰️

 半年が過ぎて初級が終わった。シエラ以外の全員が残っていた。
 しかし、中級になると格段に難しくなり、さらに三ヶ月が過ぎると半数以下になっていた。

 勉強会が始まってから十ヶ月が過ぎ、十一科目が終了した。十一科目目は語学他国語中級である。ここまで進めたのは四十名であった。

 語学他国語中級のテストでは残念ながら不合格者が多かった。合格者は十人だ。
 その結果発表の席に、王妃陛下とお仕着せを着た壮年の女性とあの席にいた高官が現れた。

「みなさんはそのままでいいわ」

 王妃陛下が立ち上がって最礼しようとした淑女たち四十人を座らせたままにする。

 結果発表をした文官が三人に席を譲った。

「みなさん、ここまでご苦労さまでした。今回のテストは難しかったようね。語学は一朝一夕で身に付くものではありません。でも、他国への知識にはなったのではないのかしら?」

 王妃陛下の優しい微笑みに、不合格者たちは目尻にハンカチを当てながら何度も頷いていた。


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補足

 卒業式から入学式まで約一ヶ月ある学園です。
 約一ヶ月で一項目ですが、カリキュラムの都合で『十ヶ月が過ぎ、十一科目が終了した』ことは間違えではありません。

ご了承ください。
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