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第一章 本編
23 王子妃候補者は……
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メーデルが指示された部屋の前に着くと扉の前で警護する衛兵が扉を開けた。
メーデルはニコニコと扉から室内に入った。が、一瞬で動きを止め、表情も固まった。
「………………。は? はは……うえ?」
室内に用意された長机には、王妃陛下と文官だけが座っていた。
「こちらにお掛けなさい」
王妃陛下は淡々とした口調で、自分と反対側の椅子を示した。
メーデルは『?』をたくさんつけながら、その椅子に腰を下ろした。そして、キョロキョロとした後、ハッと思いついたようだ。
「私は部屋を間違えたようですね。母上、ご令嬢たちが待っているので手短にお願いしますっ!」
メーデルがウキウキとして言った。王妃陛下は視線で文官を促す。
「メーデル王子殿下。この部屋で間違いはございません。ご令嬢の皆様は全員、殿下の婚約者候補をご辞退なされました」
「はぁ??」
メーデルは口をパカンと開けた。
「なっ! なっ! なぜ!? どうしてだっ!」
「ご辞退の理由は『ラビオナ様の素晴らしさを目の当たりにし、ラビオナ様がお辞めになられた職を自分ができるとは到底思えない』ということです」
「しょくぅ??」
「求人広告なのです。『職』と考えて当然です」
王妃陛下がピシリと言い放つ。
「ラビオナが入れ知恵したんですねっ! 俺にフラレたからってふざけたことをっ!」
「勘違い甚だしいわね。フラレたのは貴方ですよ。ラビオナに見限られたのです。どちらが婚約解消を申し出たのか覚えていないのですか?
つまり、ご令嬢たちの言葉の裏は、『人として素晴らしいラビオナでさえも我慢のできなかったバカな男と支え合えるわけがない』ということです」
メーデルは信じられない言葉を聞いて目をパチパチとさせた。
メーデルの呆け顔に王妃陛下は大きくため息をついた。
「ハア!! まったくっ!
貴方は妃候補者たちに気に入られる努力はしましたか?」
王妃陛下が珍しく声を荒らげた。とはいえ、怒鳴ったわけではなく、口調が少しばかり厳しめだというだけだが。
「え? だって、母上がするな、と……」
「もっと自分でお考えなさいっ!
わたくしは、個人だけにするなと申したのです。みなに施すのなら問題ありません」
「みなになんて無理ですよっ! 俺の体は一つなんですよっ!」
文官は王妃陛下に指示される前に頷いた。
「テレエル嬢は王妃陛下にテストだけを受ければよいと言われておりましたが、毎日のように王城へとおいでになり、ご令嬢様方のお勉強を見て差し上げておりました。優秀なご友人方もお連れになり、連日、ご令嬢方にご指導しておりました。
教師は各グループ一人ですので、みなを見ることはできません。その分テレエル嬢とご友人の皆様が、一人一人ご覧になってくださり、細かくご指導されておりました」
メーデルは自分のお茶会に参加していないラビオナが王城にいることなど知らなかった。
メーデルがご令嬢方の勉強部屋に入ったことは一度もない。
ラビオナの優秀なご友人方とは、もちろん、マリアナ、エダリィ、ユリティナ、ヘレナーシャのことである。四人は王妃陛下の勧めでテストを毎月受けた。そして当然のように『淑女の称号』をいただいている。
~閑話休題~
メーデルは理解ができなようで目をパチパチさせていた。王妃陛下は追い打ちをかける。
「それだけではありませんよ」
「はい。休日を返上し、学園の講堂を借りて補習もなさっていたそうです。テレエル公爵家の執事や勉学の得意なメイドを伴い、さらにはテレエル公爵にお頼みになり、数名の文官も赴いたそうです。ご友人方からお菓子やお茶のお差し入れもあり、和やかな勉強会だったと参加した文官から報告が入っております」
「そ、そんなこと気がつくわけないっ!」
「お茶会のお手伝いをした殿方たちはこぞって補習に付き合っているわ。『お勉強にお付き合いたしましょう』と声をかけたら『ラビオナとやるから大丈夫だ』と言われ、殿方たちの方からそちらへ参加するようになったそうよ。勉強の得意でない騎士たちは、護身術やダンスのお手伝いをしたり、自分も勉強したりしていたと聞いているわ」
その勉強会には、メーデルのお茶会に参加していない貴族令息や騎士もいた。婚姻していない文官はテレエル公爵に頭を下げてまで参加した。
「文官の中には平日の勉強会にも暇を見つけては補佐指導者として進んで参加していた者もいたそうよ」
それらの文官は自分が狙う女性のクラスに行くのだが、建前は『メーデルの婚約者候補』なので口説いたりはしないし、依怙贔屓もしない。かえってそれが好感に繋がり、女性が婚約者候補から落選した後カップルになっている。
こうして、実際に百組を超えるカップルが出来上がっていた。これも王妃陛下の狙いの一つだ。若者が婚姻し、子孫を残していくことが国の発展となるのだ。そして、その中の八割は昨日―最終試験日―より前に婚約届けが出されている。
●メーデル王太子殿下に選ばれなかった者には、王妃陛下より『選ばれし淑女の称号』が与えられ、また、婚約婚姻も王家が後押しする
求人広告に記載されていたこの部分を集団お見合いのような形で実現させた。
婚約者も恋人もいないまま学園を卒業すると出会いがパーティーの席でしかない。そんな若者たちにとってよい出会いの場であったし、家族たちも大変喜んでいた。
「初めは下位貴族のご令嬢だけでしたが、中級に入る頃にはほとんどのご令嬢が参加なさっていたそうです」
「貴方はご令嬢たちに『勉強を見てあげよう』という心配りはしましたか?
その心配りがないから、勉強会のことを知らないのでしょう?」
「そ、それは……」
メーデルは言い淀む。
メーデルはニコニコと扉から室内に入った。が、一瞬で動きを止め、表情も固まった。
「………………。は? はは……うえ?」
室内に用意された長机には、王妃陛下と文官だけが座っていた。
「こちらにお掛けなさい」
王妃陛下は淡々とした口調で、自分と反対側の椅子を示した。
メーデルは『?』をたくさんつけながら、その椅子に腰を下ろした。そして、キョロキョロとした後、ハッと思いついたようだ。
「私は部屋を間違えたようですね。母上、ご令嬢たちが待っているので手短にお願いしますっ!」
メーデルがウキウキとして言った。王妃陛下は視線で文官を促す。
「メーデル王子殿下。この部屋で間違いはございません。ご令嬢の皆様は全員、殿下の婚約者候補をご辞退なされました」
「はぁ??」
メーデルは口をパカンと開けた。
「なっ! なっ! なぜ!? どうしてだっ!」
「ご辞退の理由は『ラビオナ様の素晴らしさを目の当たりにし、ラビオナ様がお辞めになられた職を自分ができるとは到底思えない』ということです」
「しょくぅ??」
「求人広告なのです。『職』と考えて当然です」
王妃陛下がピシリと言い放つ。
「ラビオナが入れ知恵したんですねっ! 俺にフラレたからってふざけたことをっ!」
「勘違い甚だしいわね。フラレたのは貴方ですよ。ラビオナに見限られたのです。どちらが婚約解消を申し出たのか覚えていないのですか?
つまり、ご令嬢たちの言葉の裏は、『人として素晴らしいラビオナでさえも我慢のできなかったバカな男と支え合えるわけがない』ということです」
メーデルは信じられない言葉を聞いて目をパチパチとさせた。
メーデルの呆け顔に王妃陛下は大きくため息をついた。
「ハア!! まったくっ!
貴方は妃候補者たちに気に入られる努力はしましたか?」
王妃陛下が珍しく声を荒らげた。とはいえ、怒鳴ったわけではなく、口調が少しばかり厳しめだというだけだが。
「え? だって、母上がするな、と……」
「もっと自分でお考えなさいっ!
わたくしは、個人だけにするなと申したのです。みなに施すのなら問題ありません」
「みなになんて無理ですよっ! 俺の体は一つなんですよっ!」
文官は王妃陛下に指示される前に頷いた。
「テレエル嬢は王妃陛下にテストだけを受ければよいと言われておりましたが、毎日のように王城へとおいでになり、ご令嬢様方のお勉強を見て差し上げておりました。優秀なご友人方もお連れになり、連日、ご令嬢方にご指導しておりました。
教師は各グループ一人ですので、みなを見ることはできません。その分テレエル嬢とご友人の皆様が、一人一人ご覧になってくださり、細かくご指導されておりました」
メーデルは自分のお茶会に参加していないラビオナが王城にいることなど知らなかった。
メーデルがご令嬢方の勉強部屋に入ったことは一度もない。
ラビオナの優秀なご友人方とは、もちろん、マリアナ、エダリィ、ユリティナ、ヘレナーシャのことである。四人は王妃陛下の勧めでテストを毎月受けた。そして当然のように『淑女の称号』をいただいている。
~閑話休題~
メーデルは理解ができなようで目をパチパチさせていた。王妃陛下は追い打ちをかける。
「それだけではありませんよ」
「はい。休日を返上し、学園の講堂を借りて補習もなさっていたそうです。テレエル公爵家の執事や勉学の得意なメイドを伴い、さらにはテレエル公爵にお頼みになり、数名の文官も赴いたそうです。ご友人方からお菓子やお茶のお差し入れもあり、和やかな勉強会だったと参加した文官から報告が入っております」
「そ、そんなこと気がつくわけないっ!」
「お茶会のお手伝いをした殿方たちはこぞって補習に付き合っているわ。『お勉強にお付き合いたしましょう』と声をかけたら『ラビオナとやるから大丈夫だ』と言われ、殿方たちの方からそちらへ参加するようになったそうよ。勉強の得意でない騎士たちは、護身術やダンスのお手伝いをしたり、自分も勉強したりしていたと聞いているわ」
その勉強会には、メーデルのお茶会に参加していない貴族令息や騎士もいた。婚姻していない文官はテレエル公爵に頭を下げてまで参加した。
「文官の中には平日の勉強会にも暇を見つけては補佐指導者として進んで参加していた者もいたそうよ」
それらの文官は自分が狙う女性のクラスに行くのだが、建前は『メーデルの婚約者候補』なので口説いたりはしないし、依怙贔屓もしない。かえってそれが好感に繋がり、女性が婚約者候補から落選した後カップルになっている。
こうして、実際に百組を超えるカップルが出来上がっていた。これも王妃陛下の狙いの一つだ。若者が婚姻し、子孫を残していくことが国の発展となるのだ。そして、その中の八割は昨日―最終試験日―より前に婚約届けが出されている。
●メーデル王太子殿下に選ばれなかった者には、王妃陛下より『選ばれし淑女の称号』が与えられ、また、婚約婚姻も王家が後押しする
求人広告に記載されていたこの部分を集団お見合いのような形で実現させた。
婚約者も恋人もいないまま学園を卒業すると出会いがパーティーの席でしかない。そんな若者たちにとってよい出会いの場であったし、家族たちも大変喜んでいた。
「初めは下位貴族のご令嬢だけでしたが、中級に入る頃にはほとんどのご令嬢が参加なさっていたそうです」
「貴方はご令嬢たちに『勉強を見てあげよう』という心配りはしましたか?
その心配りがないから、勉強会のことを知らないのでしょう?」
「そ、それは……」
メーデルは言い淀む。
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