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第一章 本編
24 メーデルの実力は……
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「それだけ、でも! ありませんよ」
言い淀むメーデルを王妃陛下が露骨に遮った。
「また、テレエル嬢は宿屋泊まりのご令嬢方を数名ずつ交代でお屋敷へお呼びになり、湯浴みとお食事を提供されたそうです」
宿屋には風呂は一つしかなく、夜まで勉強すると風呂には入れない。そこで、昼間に数名ずつ招待し、湯浴みとランチを振る舞ったのだ。ラビオナは学園があるのでお世話をしたのはメイドたちだが、ラビオナの采配であることは明白だった。
メーデルは目を泳がせて、この一年間の自分の行動を思い出していた。
『タンッ!』
王妃陛下が扇で軽く机を叩いた。メーデルがビクリと王妃陛下を下から見上げた。案の定、王妃陛下は見下す視線であった。
「貴方はご令嬢たちに、労いの言葉も励ましの言葉もかけていないのではなくて?」
男だから女性たちへの行動を自粛していたとしても、言葉くらいならかけることはできたはずだ。お茶会があったのだから、何も声をかけていないということはありえない。
だが、メーデルの言葉は酷いものだった。
『そなたは美しいな』
『そなたは笑顔がよいな』
『そこに立ってみろ。ほぉ素晴らしいスタイルだ』
『王宮の茶はうまかろう』
『この菓子はわざわざ取り寄せたのだ』
『俺なら簡単にできる』
『この程度なら勉強も必要あるまい』
容姿をほめるか、自慢するか、貶すか……。会話が弾むわけもない。
「婚約者がいなければ、王太子とはなれません。かと言って、いつまでも王太子を空席にはしておけません。すでに一年空席なのですから。
国王陛下があと一年だけ猶予をくださるそうよ。それまでに、高位貴族のご令嬢または能力が高いご令嬢と婚姻なさい」
「シ、シエラは……?」
メーデルは確実に婚約者になってくれそうな名前を出した。条件に合っているかいないかはこの際どうでもよかった。
それを聞いて文官は口を半開きにしてしまった。そして、慌てて閉じた。
王妃陛下は動揺もせず、さらに目を細めてメーデルを威嚇した。
「それはありえませんっ! 王子妃になるなら、あの小娘のようにどちらも持っていないなんてありえないということがわからないのですか?
それに、あの小娘は平民になったのですよ。平民が王族になれるわけがないでしょう?」
「え? いつ?」
「一度目のテストの直後です。知らなかったのですか? 情を交わした相手に対して随分と薄情ね。貴方が人の機微を見ない者だということがよくわかったわ」
メーデルは口を半開き目は虚ろ、完全に魂が抜けていた。
「一年後、貴方に婚約者がいなければ、テリダートを王太子にします。テリダートには婚約者がいますからね」
テリダートはまだ十歳の第二王子だ。婚約者も十歳であるので、妃教育には充分な時間がある。その婚約者もラビオナのように優秀なようだ。
「そ、そんな……。じゃあ……俺は……」
「臣下へ降らせますよ。王家領から分配して爵位を叙爵かしらね?」
「そのようになることが多いようです」
文官が王妃陛下の言葉に賛同した。爵位のランクについては王妃陛下はわざと言及しない。
「まあ、それでも婚姻相手の条件は同じよ。爵位の高い者か、能力の高い者であること。領民を飢えさせるわけにはいかないのだから。
特に王家直轄領地だったところということになるのだから尚更だわ。
でも、王太子でなくなれば、時期の制限はなくなるから、いつか婚姻をできるかもしれないわね。できなかったら、爵位を返上すればいいし」
「の、能力はわかりますっ! でもっ! なぜ爵位が高ければいいのですかっ!?」
メーデルは目尻を下げ情けない顔で何かに縋ろうと声に出した。
「もし失敗しても助けてもらえる可能性が高いからよ。能力のある管理者を回してもらうとか、融資をしてもらうとか。何かしらの対策をしてもらえるわ。
言ったでしょう。領民を飢えさせるわけにはいかないの」
「お、俺がやれればいいのですよね?」
メーデルは強気に出たが、王妃陛下はそれを冷たい目で見下した。
「まあ! 本当に自信過剰ね。いいわ。今回の中級テストを受けてみなさい。
用意をしてちょうだい」
出入り口にいた文官の一人がお辞儀をして外へ行った。
「貴方は王族の勉強をしているのですもの、簡単よね? ご令嬢たちにもそう言ったそうじゃないの?」
メーデルは顔を青くし始めた。
「終わったら採点をして、メーデルとともにわたくしの執務室へ来て」
「かしこまりました」
王妃陛下はテストが届くのを待たずに立ち上がった。
出入り口の扉を文官が開けた。出る直前に王妃陛下はメーデルに振り返った。
「ラビオナが満点であったテストです。貴方もそうあってくださいね」
メーデルはテーブルに頭が付きそうなほど項垂れていた。
王妃陛下は踵を返して部屋から出ていった。
結果、メーデルは各テスト80点ほどで合格ラインギリギリであった。
「知小謀大! なぜそんなに自信満々なのか理解に苦しむわっ!
これでは上級には進めないわね。これくらいのテストなら95点を取れるようになってからほざきなさい。
残った四十人は語学を除けば平均90点ですよ。つまり、誰が王子妃になってくれていたとしても貴方より上です!」
王妃陛下は盛大にため息をつく。
「何度も言いますが、ラビオナは満点です。ラビオナの足元にも及ばないことを自覚することねっ!
努力と忍耐が足りないにもほどがあるわっ」
王妃陛下は容赦がなかった。
言い淀むメーデルを王妃陛下が露骨に遮った。
「また、テレエル嬢は宿屋泊まりのご令嬢方を数名ずつ交代でお屋敷へお呼びになり、湯浴みとお食事を提供されたそうです」
宿屋には風呂は一つしかなく、夜まで勉強すると風呂には入れない。そこで、昼間に数名ずつ招待し、湯浴みとランチを振る舞ったのだ。ラビオナは学園があるのでお世話をしたのはメイドたちだが、ラビオナの采配であることは明白だった。
メーデルは目を泳がせて、この一年間の自分の行動を思い出していた。
『タンッ!』
王妃陛下が扇で軽く机を叩いた。メーデルがビクリと王妃陛下を下から見上げた。案の定、王妃陛下は見下す視線であった。
「貴方はご令嬢たちに、労いの言葉も励ましの言葉もかけていないのではなくて?」
男だから女性たちへの行動を自粛していたとしても、言葉くらいならかけることはできたはずだ。お茶会があったのだから、何も声をかけていないということはありえない。
だが、メーデルの言葉は酷いものだった。
『そなたは美しいな』
『そなたは笑顔がよいな』
『そこに立ってみろ。ほぉ素晴らしいスタイルだ』
『王宮の茶はうまかろう』
『この菓子はわざわざ取り寄せたのだ』
『俺なら簡単にできる』
『この程度なら勉強も必要あるまい』
容姿をほめるか、自慢するか、貶すか……。会話が弾むわけもない。
「婚約者がいなければ、王太子とはなれません。かと言って、いつまでも王太子を空席にはしておけません。すでに一年空席なのですから。
国王陛下があと一年だけ猶予をくださるそうよ。それまでに、高位貴族のご令嬢または能力が高いご令嬢と婚姻なさい」
「シ、シエラは……?」
メーデルは確実に婚約者になってくれそうな名前を出した。条件に合っているかいないかはこの際どうでもよかった。
それを聞いて文官は口を半開きにしてしまった。そして、慌てて閉じた。
王妃陛下は動揺もせず、さらに目を細めてメーデルを威嚇した。
「それはありえませんっ! 王子妃になるなら、あの小娘のようにどちらも持っていないなんてありえないということがわからないのですか?
それに、あの小娘は平民になったのですよ。平民が王族になれるわけがないでしょう?」
「え? いつ?」
「一度目のテストの直後です。知らなかったのですか? 情を交わした相手に対して随分と薄情ね。貴方が人の機微を見ない者だということがよくわかったわ」
メーデルは口を半開き目は虚ろ、完全に魂が抜けていた。
「一年後、貴方に婚約者がいなければ、テリダートを王太子にします。テリダートには婚約者がいますからね」
テリダートはまだ十歳の第二王子だ。婚約者も十歳であるので、妃教育には充分な時間がある。その婚約者もラビオナのように優秀なようだ。
「そ、そんな……。じゃあ……俺は……」
「臣下へ降らせますよ。王家領から分配して爵位を叙爵かしらね?」
「そのようになることが多いようです」
文官が王妃陛下の言葉に賛同した。爵位のランクについては王妃陛下はわざと言及しない。
「まあ、それでも婚姻相手の条件は同じよ。爵位の高い者か、能力の高い者であること。領民を飢えさせるわけにはいかないのだから。
特に王家直轄領地だったところということになるのだから尚更だわ。
でも、王太子でなくなれば、時期の制限はなくなるから、いつか婚姻をできるかもしれないわね。できなかったら、爵位を返上すればいいし」
「の、能力はわかりますっ! でもっ! なぜ爵位が高ければいいのですかっ!?」
メーデルは目尻を下げ情けない顔で何かに縋ろうと声に出した。
「もし失敗しても助けてもらえる可能性が高いからよ。能力のある管理者を回してもらうとか、融資をしてもらうとか。何かしらの対策をしてもらえるわ。
言ったでしょう。領民を飢えさせるわけにはいかないの」
「お、俺がやれればいいのですよね?」
メーデルは強気に出たが、王妃陛下はそれを冷たい目で見下した。
「まあ! 本当に自信過剰ね。いいわ。今回の中級テストを受けてみなさい。
用意をしてちょうだい」
出入り口にいた文官の一人がお辞儀をして外へ行った。
「貴方は王族の勉強をしているのですもの、簡単よね? ご令嬢たちにもそう言ったそうじゃないの?」
メーデルは顔を青くし始めた。
「終わったら採点をして、メーデルとともにわたくしの執務室へ来て」
「かしこまりました」
王妃陛下はテストが届くのを待たずに立ち上がった。
出入り口の扉を文官が開けた。出る直前に王妃陛下はメーデルに振り返った。
「ラビオナが満点であったテストです。貴方もそうあってくださいね」
メーデルはテーブルに頭が付きそうなほど項垂れていた。
王妃陛下は踵を返して部屋から出ていった。
結果、メーデルは各テスト80点ほどで合格ラインギリギリであった。
「知小謀大! なぜそんなに自信満々なのか理解に苦しむわっ!
これでは上級には進めないわね。これくらいのテストなら95点を取れるようになってからほざきなさい。
残った四十人は語学を除けば平均90点ですよ。つまり、誰が王子妃になってくれていたとしても貴方より上です!」
王妃陛下は盛大にため息をつく。
「何度も言いますが、ラビオナは満点です。ラビオナの足元にも及ばないことを自覚することねっ!
努力と忍耐が足りないにもほどがあるわっ」
王妃陛下は容赦がなかった。
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