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第二章 王子の葛藤
3 贅沢
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俺は昨夜湯浴みもせずに寝てしまったようだ。朝方軽く湯浴みをして朝食の席についた。
テーブルに座るのは俺だけだった。
運ばれてきた朝食はいつもの朝食と遜色ないもの。いつもの王宮での朝食…………。昨夜の夕食より贅沢な朝食。
遜色ないことに驚いた。
「ジェードは?」
壁に立つ執事に聞く。
「後ほど召し上がるそうです」
「いつもそうなのか?」
「はい。ジェード様は基本的には我々と食事をなさいます」
ジェードは伯爵家の者だ。使用人たちは、執事や高級メイドは下位貴族で下働きや下級メイドは平民だと聞いている。
それ以上は聞かずに出された物を食べた。
食後に部屋へ戻った。ジェードにガルジの店に行けと言われている時間まではまだ一時間ほどある。
少し時間を置いて、そっと部屋を出て台所脇の従業員食堂へ行った。声が漏れ出ている。何人かが食事をしていることがわかった。
ドアが開け放たれたままの食堂へ足を踏み入れた。そこに並ぶ料理は予想していたものだった。ガルジの店よりは豪華だが、俺がさっき食べたものとは比べ物にならないほどの質素な料理。
「あれは、俺のためだけに用意されたものなのだな?」
ジェードがびっくりした顔で首を横に向け入り口に立つ俺を見た。全員が慌てて立ち上がる。
「ジェード。市民の暮らしを俺に教えたくてガルジの店に行かせるのだろう?」
「そうです。王妃陛下にそのように指示されております」
「それならば、ここでもそのようにせよ。明日からはお前たちと同じものを食す。部屋は今朝のところでかまわん」
俺を見て立ち尽くす使用人たちの顔を見て、俺と一緒では飯は美味くなくなるだろうと思った。
「かしこまりました」
みな頭を下げる。
「食事の邪魔をして悪かったな」
ジェードがびっくりした顔で頭をあげた。俺の言葉はそんなにびっくりすることか?
びっくりされたことに驚愕だ。
踵を返して部屋に戻り、時間になるとガルジの店へと仕事に出かけた。
翌朝。同じテーブルにジェードもいた。ジェードは本当にここに出ているものがみなと同じ物であると示すために、俺と食事をともにするのだろう。
「昨日のお前たちの朝食より豪華すぎないか?」
「殿下のためにと、食材をご用意してしまったのです。しばらくは豪勢な朝食ですよ」
それでも、昨日よりは質素だ。俺一人のために使う予定だった食材をみなで使うことにしたのだと給仕をするメイドが説明した。
「いつもより美味しい朝食になりました」
年老いたメイドが可愛らしく笑った。
「店が休みの日の食事もお前たちと同じものにせよ」
ガルジの店が休みの日は、三食をこの管理人の屋敷で食べることになっている。
「たまには豪華なものを食べないと、城に帰った後に食べられなくなりますよ」
「それなら、パンだけ食べるから大丈夫だ。パンの味はどこもかわらんからな」
「なるほど。名案です。だけど、ガルジのところと城ではパンの味も違うでしょう?」
「美味いスープにつければ同じだろ?
野菜はクズの方がスープが美味いしな。今度は城の使用人食堂で食べてみようと思う」
「みなが驚くので、部屋に運ばせるだけにしてやってくださいね」
「驚かせたいのだがな。あはは」
「行かれるのなら、騎士団の食堂くらいにしてください」
「おお! それはいいことを聞いた」
「お仕事の方はどうですか?」
ジェードと食事を進めながらの話はなかなか楽しいものだった。男と二人きりの食事は初めてだったから新鮮だ。
「役に立たないながらにやっているよ。俺を使うガルジや世話係のアモの方が大変だろう」
「ガルジのことは気にしなくていいです。無賃の働き手が来て喜んでますよ」
「ならいいが。無賃か……。こちらが手間賃を払いたいくらいだ。
アモはあれでいくらもらえるのだ?」
「一日働いて銀二枚くらいでしょうね。でも、あそこは二食付きなので、アモはラッキーですよ。帰りにあまりのパンや肉も出してるようなので、実質三食付きです。
持って帰った物は弟に食わせているでしょうけどね」
「弟を養っているのか?」
「ええ。十歳の弟はまだガルジの店では働けませんので」
「え?! アモはいくつなんだ?」
「十五と聞いていますよ。あ、小さいなって思いました? 平民は子供の頃の栄養が少ないとあんなもんですよ」
「両親は?」
「三年前に流行病で亡くなりました。働き盛りがたくさん亡くなりましてね。孤児が増えて大変でした。アモの父親がガルジの店のコックだったんで、ガルジがアモに仕事を与えました」
「そうか……」
「あ! 施しとかダメですよっ! 際限なくなりますからねっ!」
「わかってるっ!」
俺たちはとうに食事を終わらせお茶をしている。そろそろ出勤時間だ。
「いってくる」
「はい。頑張ってください」
〰️
ガルジの店では二ヶ月働いた。アモにはどうしてもお礼をしたくて、ジェードに相談したらシャツならいいだろうということになり、平民がよく使うという店で色違いを二枚購入した。アモは照れていて口は悪かったが喜んでくれていたと思う。
〰️ 〰️ 〰️
翌週、さらにボロの服を着せられ、農家をしている家で仕事をすることになった。管理人の屋敷に毎日帰れる距離ではないので住み込みだ。そこでも無賃の働き手なので困らせてはいないようだ。
そこの食事はガルジの店よりひどかった。不味いわけではない。ただ野菜ばかりで単調である。
「調味料は高いんですよ。肉はもっと高い。腹八分目まで食えるだけマシです」
後でジェードに聞いた話だ。そこでは一ヶ月働いた。
テーブルに座るのは俺だけだった。
運ばれてきた朝食はいつもの朝食と遜色ないもの。いつもの王宮での朝食…………。昨夜の夕食より贅沢な朝食。
遜色ないことに驚いた。
「ジェードは?」
壁に立つ執事に聞く。
「後ほど召し上がるそうです」
「いつもそうなのか?」
「はい。ジェード様は基本的には我々と食事をなさいます」
ジェードは伯爵家の者だ。使用人たちは、執事や高級メイドは下位貴族で下働きや下級メイドは平民だと聞いている。
それ以上は聞かずに出された物を食べた。
食後に部屋へ戻った。ジェードにガルジの店に行けと言われている時間まではまだ一時間ほどある。
少し時間を置いて、そっと部屋を出て台所脇の従業員食堂へ行った。声が漏れ出ている。何人かが食事をしていることがわかった。
ドアが開け放たれたままの食堂へ足を踏み入れた。そこに並ぶ料理は予想していたものだった。ガルジの店よりは豪華だが、俺がさっき食べたものとは比べ物にならないほどの質素な料理。
「あれは、俺のためだけに用意されたものなのだな?」
ジェードがびっくりした顔で首を横に向け入り口に立つ俺を見た。全員が慌てて立ち上がる。
「ジェード。市民の暮らしを俺に教えたくてガルジの店に行かせるのだろう?」
「そうです。王妃陛下にそのように指示されております」
「それならば、ここでもそのようにせよ。明日からはお前たちと同じものを食す。部屋は今朝のところでかまわん」
俺を見て立ち尽くす使用人たちの顔を見て、俺と一緒では飯は美味くなくなるだろうと思った。
「かしこまりました」
みな頭を下げる。
「食事の邪魔をして悪かったな」
ジェードがびっくりした顔で頭をあげた。俺の言葉はそんなにびっくりすることか?
びっくりされたことに驚愕だ。
踵を返して部屋に戻り、時間になるとガルジの店へと仕事に出かけた。
翌朝。同じテーブルにジェードもいた。ジェードは本当にここに出ているものがみなと同じ物であると示すために、俺と食事をともにするのだろう。
「昨日のお前たちの朝食より豪華すぎないか?」
「殿下のためにと、食材をご用意してしまったのです。しばらくは豪勢な朝食ですよ」
それでも、昨日よりは質素だ。俺一人のために使う予定だった食材をみなで使うことにしたのだと給仕をするメイドが説明した。
「いつもより美味しい朝食になりました」
年老いたメイドが可愛らしく笑った。
「店が休みの日の食事もお前たちと同じものにせよ」
ガルジの店が休みの日は、三食をこの管理人の屋敷で食べることになっている。
「たまには豪華なものを食べないと、城に帰った後に食べられなくなりますよ」
「それなら、パンだけ食べるから大丈夫だ。パンの味はどこもかわらんからな」
「なるほど。名案です。だけど、ガルジのところと城ではパンの味も違うでしょう?」
「美味いスープにつければ同じだろ?
野菜はクズの方がスープが美味いしな。今度は城の使用人食堂で食べてみようと思う」
「みなが驚くので、部屋に運ばせるだけにしてやってくださいね」
「驚かせたいのだがな。あはは」
「行かれるのなら、騎士団の食堂くらいにしてください」
「おお! それはいいことを聞いた」
「お仕事の方はどうですか?」
ジェードと食事を進めながらの話はなかなか楽しいものだった。男と二人きりの食事は初めてだったから新鮮だ。
「役に立たないながらにやっているよ。俺を使うガルジや世話係のアモの方が大変だろう」
「ガルジのことは気にしなくていいです。無賃の働き手が来て喜んでますよ」
「ならいいが。無賃か……。こちらが手間賃を払いたいくらいだ。
アモはあれでいくらもらえるのだ?」
「一日働いて銀二枚くらいでしょうね。でも、あそこは二食付きなので、アモはラッキーですよ。帰りにあまりのパンや肉も出してるようなので、実質三食付きです。
持って帰った物は弟に食わせているでしょうけどね」
「弟を養っているのか?」
「ええ。十歳の弟はまだガルジの店では働けませんので」
「え?! アモはいくつなんだ?」
「十五と聞いていますよ。あ、小さいなって思いました? 平民は子供の頃の栄養が少ないとあんなもんですよ」
「両親は?」
「三年前に流行病で亡くなりました。働き盛りがたくさん亡くなりましてね。孤児が増えて大変でした。アモの父親がガルジの店のコックだったんで、ガルジがアモに仕事を与えました」
「そうか……」
「あ! 施しとかダメですよっ! 際限なくなりますからねっ!」
「わかってるっ!」
俺たちはとうに食事を終わらせお茶をしている。そろそろ出勤時間だ。
「いってくる」
「はい。頑張ってください」
〰️
ガルジの店では二ヶ月働いた。アモにはどうしてもお礼をしたくて、ジェードに相談したらシャツならいいだろうということになり、平民がよく使うという店で色違いを二枚購入した。アモは照れていて口は悪かったが喜んでくれていたと思う。
〰️ 〰️ 〰️
翌週、さらにボロの服を着せられ、農家をしている家で仕事をすることになった。管理人の屋敷に毎日帰れる距離ではないので住み込みだ。そこでも無賃の働き手なので困らせてはいないようだ。
そこの食事はガルジの店よりひどかった。不味いわけではない。ただ野菜ばかりで単調である。
「調味料は高いんですよ。肉はもっと高い。腹八分目まで食えるだけマシです」
後でジェードに聞いた話だ。そこでは一ヶ月働いた。
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