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災難10 三男の暴言
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そして、その日がやってきた。
昼過ぎに『メーデル王太子殿下が王妃陛下の掲示した求人広告を破棄した』との連絡が騎士団の幹部部屋に入る。
メーデルは優秀なので、しっかりと『王妃陛下の掲示物』と把握していれば破棄などしないはずだ。それを破棄したとなるとそれを把握せず、だからこそ騒ぎを起こすだろうことは予想できた。そして、その傍らにシエラとウデルタとノエルダムもいるだろうことも。
メーデルの元婚約者ラビオナ、ウデルタの元婚約者ユリティナ、ノエルダムの元婚約者ヘレナーシャには、彼らが騒ぎを起こした時には現実を突き付けて良いと伝えてあった。
騎士団の幹部部屋にいたチハルタは、部下の一人に鍛錬場にいるギバルタを呼びに行かせ、自分は部下二人を連れて学園へ赴いた。
学園の生徒の中には代々騎士団へ貢献しており子息もそれを理解している家が数十家存在する。その子息たちは学園での情報収集係をしている者が多い。諜報部のように無理な場所にまで情報収集に行くことはないが、学園で見聞きした『危険』と思われる情報を親を通して騎士団へ流している。
メーデルとシエラのことももちろん騎士団に情報として入っていたが、メーデルにはラビオナとの婚約解消を求めている様子がなかったので、両陛下への報告だけで済ませていた。
そして、生徒たちの共通認識として『シエラはメーデルの仮恋人』となっていた。だから、ウデルタとノエルダムがシエラと夜を共にしているとは、生徒たちは知らないのである。夜を共にしているといっても性行為はないから、匂わせる雰囲気がなかったことも情報として上がらなかった理由であろう。
とはいえ、キスや添い寝が不貞でないとは言えない。
―閑話休題―
チハルタが学園の玄関に入ると男子生徒の数人が走ってきた。生徒たちの名乗った家名はそれぞれ騎士団員の家名だ。
その生徒たちから情報が入る。歩きながらそれを聞いたチハルタは眉を寄せた。
「は? ソチアンダ侯爵家だけでなく公爵家二家のにも喧嘩を売ったのかっ!?」
チハルタの怒気に生徒たちはたじろぐが、懸命にチハルタの歩みについていく。チハルタは上半身甲冑を着たままであるのに男子生徒たちは走らなければ追いつけないほど歩みが速い。
生徒たちの説明によると、学園の食堂という公の場で、ウデルタはユリティナに向かって暴言を吐いたのだという。
『ああ、ユリア。そこにいると思っていたよ。やはり心根の悪い者は心根の悪い者たちと一緒にいるんだねぇ』
『そこ』にいた『心根の悪い者たち』の中に、メヘンレンド侯爵家より高位貴族であるラビオナ・テレエル公爵令嬢もまたマリアナ・ネフライテ公爵令嬢もいた。
『シエラが泣かされた』という冤罪と『これまでシエラが女子生徒に蔑ろにされてきた』ということから出た言葉だろう。
シエラは男爵令嬢にも関わらず、公爵令嬢であるラビオナに許可も得ず話をしようとした。それを伯爵令嬢ヘレナーシャは注意した。
社交界の練習場である学園では、そういう注意をするのは当たり前である。
にも関わらず、シエラは泣き出し、それを庇うようにノエルダムがしゃしゃり出て、ウデルタはそれを止めながら女性たちに暴言を吐いた。
それにはこれまでシエラに『女性たちに無視されているの』と泣かれていたことが起因している。婚約者がいてさらに王子であるメーデルに擦り寄っている男爵令嬢シエラに優しくする女子生徒などいるわけがないことをメーデルとウデルタとノエルダムが鑑みることはなかった。
チハルタが持っていた槍のような長い棒の先と歩きながらも廊下の床をぶつけて『タンッ』と鳴らす。情報を齎した男子生徒たちがピタッと直立した。
それを感じたチハルタは歩みを止めず後ろを振り返った。
「すまんすまん。お前たちに対するものではない。これからも働きに期待する」
「「「はっ!」」」
男子生徒たちは歩き去るチハルタに頭を下げる。その脇をチハルタに付いていくはずの騎士二人が走らずに懸命にチハルタを追っていった。『長身で体幹も優れたチハルタに追いつくことは大変なこと』だと、チハルタに数メートルだけ走ってついて話をした男子生徒たちは騎士二人を心の中で労った。
チハルタが学園の食堂に到着する頃には、『王太子妃候補募集』の広告が食堂に改めて張り出されていた。
チハルタの入室に気がついたウデルタの顔が真っ青になった。
「あ、あ、あ、あに……う……え……」
「やってくれたなぁ、ウデルタ」
チハルタは目を細めてウデルタを見据える。
二人の騎士がやっと追いつきガチャガチャと言わせて息を切らせて入ってきた。
昼過ぎに『メーデル王太子殿下が王妃陛下の掲示した求人広告を破棄した』との連絡が騎士団の幹部部屋に入る。
メーデルは優秀なので、しっかりと『王妃陛下の掲示物』と把握していれば破棄などしないはずだ。それを破棄したとなるとそれを把握せず、だからこそ騒ぎを起こすだろうことは予想できた。そして、その傍らにシエラとウデルタとノエルダムもいるだろうことも。
メーデルの元婚約者ラビオナ、ウデルタの元婚約者ユリティナ、ノエルダムの元婚約者ヘレナーシャには、彼らが騒ぎを起こした時には現実を突き付けて良いと伝えてあった。
騎士団の幹部部屋にいたチハルタは、部下の一人に鍛錬場にいるギバルタを呼びに行かせ、自分は部下二人を連れて学園へ赴いた。
学園の生徒の中には代々騎士団へ貢献しており子息もそれを理解している家が数十家存在する。その子息たちは学園での情報収集係をしている者が多い。諜報部のように無理な場所にまで情報収集に行くことはないが、学園で見聞きした『危険』と思われる情報を親を通して騎士団へ流している。
メーデルとシエラのことももちろん騎士団に情報として入っていたが、メーデルにはラビオナとの婚約解消を求めている様子がなかったので、両陛下への報告だけで済ませていた。
そして、生徒たちの共通認識として『シエラはメーデルの仮恋人』となっていた。だから、ウデルタとノエルダムがシエラと夜を共にしているとは、生徒たちは知らないのである。夜を共にしているといっても性行為はないから、匂わせる雰囲気がなかったことも情報として上がらなかった理由であろう。
とはいえ、キスや添い寝が不貞でないとは言えない。
―閑話休題―
チハルタが学園の玄関に入ると男子生徒の数人が走ってきた。生徒たちの名乗った家名はそれぞれ騎士団員の家名だ。
その生徒たちから情報が入る。歩きながらそれを聞いたチハルタは眉を寄せた。
「は? ソチアンダ侯爵家だけでなく公爵家二家のにも喧嘩を売ったのかっ!?」
チハルタの怒気に生徒たちはたじろぐが、懸命にチハルタの歩みについていく。チハルタは上半身甲冑を着たままであるのに男子生徒たちは走らなければ追いつけないほど歩みが速い。
生徒たちの説明によると、学園の食堂という公の場で、ウデルタはユリティナに向かって暴言を吐いたのだという。
『ああ、ユリア。そこにいると思っていたよ。やはり心根の悪い者は心根の悪い者たちと一緒にいるんだねぇ』
『そこ』にいた『心根の悪い者たち』の中に、メヘンレンド侯爵家より高位貴族であるラビオナ・テレエル公爵令嬢もまたマリアナ・ネフライテ公爵令嬢もいた。
『シエラが泣かされた』という冤罪と『これまでシエラが女子生徒に蔑ろにされてきた』ということから出た言葉だろう。
シエラは男爵令嬢にも関わらず、公爵令嬢であるラビオナに許可も得ず話をしようとした。それを伯爵令嬢ヘレナーシャは注意した。
社交界の練習場である学園では、そういう注意をするのは当たり前である。
にも関わらず、シエラは泣き出し、それを庇うようにノエルダムがしゃしゃり出て、ウデルタはそれを止めながら女性たちに暴言を吐いた。
それにはこれまでシエラに『女性たちに無視されているの』と泣かれていたことが起因している。婚約者がいてさらに王子であるメーデルに擦り寄っている男爵令嬢シエラに優しくする女子生徒などいるわけがないことをメーデルとウデルタとノエルダムが鑑みることはなかった。
チハルタが持っていた槍のような長い棒の先と歩きながらも廊下の床をぶつけて『タンッ』と鳴らす。情報を齎した男子生徒たちがピタッと直立した。
それを感じたチハルタは歩みを止めず後ろを振り返った。
「すまんすまん。お前たちに対するものではない。これからも働きに期待する」
「「「はっ!」」」
男子生徒たちは歩き去るチハルタに頭を下げる。その脇をチハルタに付いていくはずの騎士二人が走らずに懸命にチハルタを追っていった。『長身で体幹も優れたチハルタに追いつくことは大変なこと』だと、チハルタに数メートルだけ走ってついて話をした男子生徒たちは騎士二人を心の中で労った。
チハルタが学園の食堂に到着する頃には、『王太子妃候補募集』の広告が食堂に改めて張り出されていた。
チハルタの入室に気がついたウデルタの顔が真っ青になった。
「あ、あ、あ、あに……う……え……」
「やってくれたなぁ、ウデルタ」
チハルタは目を細めてウデルタを見据える。
二人の騎士がやっと追いつきガチャガチャと言わせて息を切らせて入ってきた。
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