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災難11 婚約破棄
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チハルタの睨みにウデルタはすでに涙目で、首を左右にプルプルと振りながら言い訳を口にした。
「ぼ、僕は何もしていません」
「はあ? 自覚がないのか? 俺のところには今日の愚行の報告も入っているぞ」
チハルタには先程男子生徒たちから聞いた情報が頭にある。
「婿入りの予定だったソチアンダ侯爵家―ユリティナの家―だけでなく、テレエル公爵家―ラビオナの家―にも喧嘩を売ったそうじゃないか?」
チハルタの眉間は紙が挟まりそうなほど寄せられている。
「あ、あれは……ユリアに言っただけで……」
「ユリティナ嬢だ。愛称呼びなど失礼だぞ」
入口から声をかけたのは薄手のシャツを腕まくりしたギバルタだ。
「兄さん……」
ギバルタはツカツカと近づいてくると、ウデルタを無視してユリティナの元へ行き跪いた。そして、ユリティナの手をとった。
「ユリティナ嬢。愚弟が申し訳ない。お心を乱されていらっしゃらないだろうか?」
「ギバルタ様。大丈夫ですわ。義弟になるのですもの。指導はしてまいりますが、立腹はいたしませんわ」
「貴女の大きなお心に感謝します」
ギバルタがユリティナの手に触れるか触れないかの口付けをした。野次馬の女子生徒から黄色い声がした。
「なっ! なっ! なんでっ?!!」
ウデルタがギバルタとユリティナを瞠目して震えていた。
ギバルタはユリティナの隣に立ち、ユリティナの腰を引き寄せてウデルタと対峙した。
チハルタもその脇に動き、ウデルタに説明を始めた。
「貴様がこの一年ほど、ユリティナ嬢との茶会もパーティーのエスコートもせぬから、ギバルタがいつも代行していたのだ。
それでも、ギバルタはユリティナ嬢への恋慕の気持ちを隠していた。
だが、一月半ほど前に、貴様とユリティナ嬢の婚約が破棄されたと同時にユリティナ嬢へプロポーズしたのだ。
貴様は週末だけでなく学園が休みでも邸に戻らぬから知らせもしなかったのだ」
「こんや……く……はき??」
ウデルタは三人の顔をキョロキョロと見ていくが、三人とも真顔で真実だと語っている。
実際は婚約白紙だが、ウデルタには婚約破棄と伝えてそれなりの罰を与えることは二家の話し合いですでに決められている。
「当然だっ! 貴様は我々が国境警備へ赴いている間に、そこの小娘を家に連れ込んだそうだな」
「そ、それは…… 言うなと……」
ウデルタはメイドたちにも家令たちにも口止めしたはずだった。
ウデルタは目を潤ませて下唇を噛んだ。
「貴様ごときの口止めが役に立つわけがないだろう? 雇っているのは貴様ではなく父上だ」
今更わかったのか、ウデルタは眉尻を情けないほど下げた。
「一度……一度だけです……。
そ、それに手は…… シエラに手は出していないっ!」
ウデルタは縋るように言葉を重ねる。
チハルタはあからさまに大きなため息をついた。
「はぁ! 何もわかっていないのか?
お前は婿入りの予定だったのだぞ? 婿の不貞など疑惑だけで充分だ。赦される訳があるまい?
さらに、父上と母上のご気性も考慮してみろ」
ウデルタの不貞かもしれないという疑惑を知りすぐさま行動に移す正義感溢れる夫妻であることは、ウデルタもよくわかっている。ウデルタは両親の顔を思い出して、ブルブルと震え、見るからに冷や汗をかき始めた。
「それだけではない。邸に連れ込んだのは一度でも、ここ―学園の寮―では一度ではないのだろう? だから、週末や長期休みに邸に戻らなかったのではないのか?」
男子寮は一応女子禁制にはなっていない。淑女として男子寮に入り込むような不埒者はいないという思い込みがあり、そのような規則が存在しないのだ。洗濯や掃除をするメイドが必要であることもその理由の一つだ。
執事からの報告によると、シエラは日曜の昼、ウデルタの部屋からメーデルの元へ向かうこともあったようだ。
女子生徒が男子生徒の部屋に出入りしている。そんな醜聞があれば、恐らくこれから女子禁制の規則が検討されるだろう。
チハルタの冷たい視線にウデルタは目を逸らした。実際、ウデルタとシエラは口付けと添い寝までだ。だが、それが赦されることだとは言い難い。
チハルタが持っていた長い棒の先と床をぶつけて『タンッ』と鳴らす。ウデルタはビクリとしておどおどして顔を上げた。
「さらには、ユリティナ嬢を蔑ろにする態度は数え切れぬではないか。ギバルタがフォローしていたからソチアンダ侯爵も許してくださっていただけのことだ。
ユリティナ嬢との婚約は、貴様のその華奢な体を心配した父上が無理してやっと見つけてきた婿入り話だ。
だというのに…………な」
聞いたことのない話に、ウデルタは理解ができずなさけない顔でチハルタを見た。
「ぼ、僕は何もしていません」
「はあ? 自覚がないのか? 俺のところには今日の愚行の報告も入っているぞ」
チハルタには先程男子生徒たちから聞いた情報が頭にある。
「婿入りの予定だったソチアンダ侯爵家―ユリティナの家―だけでなく、テレエル公爵家―ラビオナの家―にも喧嘩を売ったそうじゃないか?」
チハルタの眉間は紙が挟まりそうなほど寄せられている。
「あ、あれは……ユリアに言っただけで……」
「ユリティナ嬢だ。愛称呼びなど失礼だぞ」
入口から声をかけたのは薄手のシャツを腕まくりしたギバルタだ。
「兄さん……」
ギバルタはツカツカと近づいてくると、ウデルタを無視してユリティナの元へ行き跪いた。そして、ユリティナの手をとった。
「ユリティナ嬢。愚弟が申し訳ない。お心を乱されていらっしゃらないだろうか?」
「ギバルタ様。大丈夫ですわ。義弟になるのですもの。指導はしてまいりますが、立腹はいたしませんわ」
「貴女の大きなお心に感謝します」
ギバルタがユリティナの手に触れるか触れないかの口付けをした。野次馬の女子生徒から黄色い声がした。
「なっ! なっ! なんでっ?!!」
ウデルタがギバルタとユリティナを瞠目して震えていた。
ギバルタはユリティナの隣に立ち、ユリティナの腰を引き寄せてウデルタと対峙した。
チハルタもその脇に動き、ウデルタに説明を始めた。
「貴様がこの一年ほど、ユリティナ嬢との茶会もパーティーのエスコートもせぬから、ギバルタがいつも代行していたのだ。
それでも、ギバルタはユリティナ嬢への恋慕の気持ちを隠していた。
だが、一月半ほど前に、貴様とユリティナ嬢の婚約が破棄されたと同時にユリティナ嬢へプロポーズしたのだ。
貴様は週末だけでなく学園が休みでも邸に戻らぬから知らせもしなかったのだ」
「こんや……く……はき??」
ウデルタは三人の顔をキョロキョロと見ていくが、三人とも真顔で真実だと語っている。
実際は婚約白紙だが、ウデルタには婚約破棄と伝えてそれなりの罰を与えることは二家の話し合いですでに決められている。
「当然だっ! 貴様は我々が国境警備へ赴いている間に、そこの小娘を家に連れ込んだそうだな」
「そ、それは…… 言うなと……」
ウデルタはメイドたちにも家令たちにも口止めしたはずだった。
ウデルタは目を潤ませて下唇を噛んだ。
「貴様ごときの口止めが役に立つわけがないだろう? 雇っているのは貴様ではなく父上だ」
今更わかったのか、ウデルタは眉尻を情けないほど下げた。
「一度……一度だけです……。
そ、それに手は…… シエラに手は出していないっ!」
ウデルタは縋るように言葉を重ねる。
チハルタはあからさまに大きなため息をついた。
「はぁ! 何もわかっていないのか?
お前は婿入りの予定だったのだぞ? 婿の不貞など疑惑だけで充分だ。赦される訳があるまい?
さらに、父上と母上のご気性も考慮してみろ」
ウデルタの不貞かもしれないという疑惑を知りすぐさま行動に移す正義感溢れる夫妻であることは、ウデルタもよくわかっている。ウデルタは両親の顔を思い出して、ブルブルと震え、見るからに冷や汗をかき始めた。
「それだけではない。邸に連れ込んだのは一度でも、ここ―学園の寮―では一度ではないのだろう? だから、週末や長期休みに邸に戻らなかったのではないのか?」
男子寮は一応女子禁制にはなっていない。淑女として男子寮に入り込むような不埒者はいないという思い込みがあり、そのような規則が存在しないのだ。洗濯や掃除をするメイドが必要であることもその理由の一つだ。
執事からの報告によると、シエラは日曜の昼、ウデルタの部屋からメーデルの元へ向かうこともあったようだ。
女子生徒が男子生徒の部屋に出入りしている。そんな醜聞があれば、恐らくこれから女子禁制の規則が検討されるだろう。
チハルタの冷たい視線にウデルタは目を逸らした。実際、ウデルタとシエラは口付けと添い寝までだ。だが、それが赦されることだとは言い難い。
チハルタが持っていた長い棒の先と床をぶつけて『タンッ』と鳴らす。ウデルタはビクリとしておどおどして顔を上げた。
「さらには、ユリティナ嬢を蔑ろにする態度は数え切れぬではないか。ギバルタがフォローしていたからソチアンダ侯爵も許してくださっていただけのことだ。
ユリティナ嬢との婚約は、貴様のその華奢な体を心配した父上が無理してやっと見つけてきた婿入り話だ。
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