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第一章 小麦姫と熊隊長の青春

19 大きな来訪者

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 サンドラたちが『ビアータの家』に来てから1週間後、アルフレードをさらに大きくしたような人が、馬車に乗ってやって来た。後ろに10台も馬車を連ねている。

 子供の一人がアルフレードを呼びに来てくれ、アルフレードは道に出て来訪者を見た。アルフレードは、まだ遠くの馬車の馭者台に座る者が誰だかすぐにわかった。

「とぉさぁぁーん!いらっしゃぁぁい!」

 アルフレードが大きな声で大きく手を振る。

「おお!アル!元気だったかぁ?」

 馭者台の大男も手を振り返す。アルフレードとそっくりな訳だ、デルフィーノ・ルケッティは、アルフレードの父親だ。去年、長男に子爵家の当主を譲り、引退するのではなく、1衛兵となって、北の国境警備をしている。

 デルフィーノの馬車がアルフレードの前まで来た。

「アル、挨拶は後だ。木材を運んじまうぞ。乗れ!」

 アルフレードは、デルフィーノの隣に乗り込み、道案内をした。その場に3台残してレリオのいるところへと向かう。新棟は、本館の前を通り抜け、小川から丸太橋を渡った南側に建築中だ。

 木材を運んだ先では、ビアータがレリオの手伝いをしていた。

「ビアータぁ!木材が届いたよぉ!」

 アルフレードが馭者台から立ち上がって、ビアータに手を振る。

「アル!危ないわ、座って!」

 ビアータは、慌てて『座れ座れ』とジェスチャーしている。その姿がかわいくて、アルフレードはついつい笑ってしまう。

「おお、あの子がビアータさんか。アル、ずいぶんとかわいい子じゃないか」

「だろう!僕の婚約者だよ」

 アルフレードは、自慢気だ。

「おお、よくやった!母さんも喜ぶぞ」

 デルフィーノが高らかに笑った。

「そっか、父さんと手紙、入れ違いになっちゃったみたいだな」

 手紙や荷物は州内でなければ、基本的には、王都を経由する。なので、国のほぼ反対にあるガレアッド男爵領とルケッティ子爵領では、約2週間かかる。個人で早馬を頼めば、7日ほどで届くが、配達料金はかなり高い。
 なので、1週間前にプロポーズをして、その内容をしたためた手紙は、まだ王都付近にあることだろう。
 王都を通らずに、ガレアッド男爵領からルケッティ子爵領へ行くと、10日ほどなので、手紙よりよほど早い。

 丸太橋を渡る時、馬車が大きく揺れた。アルフレードが少しだけよろめく。

「きゃー!!」

 ビアータが叫ぶが、アルフレードは平気そうだ。

 ビアータの前で馬車を止めた。アルフレードが飛び降りた。

『バシッ!』
 ビアータがアルフレードの腰を叩いた。心配してもらえてこの程度ならお安いものだ。

「ガッハッハッ」

 その様子を見たデルフィーノが大笑いしながら、飛び降りる。

「ビアータさん、アルフレードの親父だ。アルフレードをすごいことに引き入れてくれて、感謝しとる。ありがとうな!ガッハッハッ」

 デルフィーノは、ビアータにとって、理想の大人像のような人だった。アルフレードにそっくりなことに、嬉しくなる。

「ビアータ・ガレアッドです。こんなところでのご挨拶ですみません。あの、先日、………」

「おお、聞いた聞いた、婚約したそうだな。おめでとう!あとでまた話は聞かせてくれ。とりあえず、木材をどうにかしちまおう」

「はい、では、こちらにお願いします」

 木材を下ろすと、何人かはこの場に残ると言う。
 アルフレードたちは、家へと戻った。家の前には、たくさんの木箱が降ろされ始めていた。子供たちも手伝っている。
 一台の馬車には、子豚が3匹乗っていた。

「まだチビだから、とりあえずは、こうやって、縄で管理できる」

 子豚の両前足に縄が通され、背中で結ばれて、そこから長くロープを伸ばし、子豚たちがある程度自由に動けるようになっている。

「あいつらは何でも食っちまうからな、畑には近寄らせるな。牧草地の端がいいだろう。これだけの子供らがいたら、野菜のクズもでてるだろうからな。しばらくは、それで十分だ。明日から小屋は作ってやる」

 デルフィーノは、子豚たちと楽しそうに遊ぶ子どもたちを嬉しそうに見ていた。

「え?父さん、しばらくいてくれるの?」

 何の前触れもなく現れたデルフィーノなので、アルフレードは滞在してくれることにびっくりした。

「当たり前だろう!お前がこんなおもしれぇことやってるなんてよぉ。嬉しいぞ、アル!俺ができることは、やってやる。連れてきた奴らは、半分が大工だ。あっちに残っていたろう。
 あとは、木こりが二人とレンガ職人が二人だ。子供ら5人も大工の弟子と木こりの弟子とレンガ職人の弟子だから、すぐに役に立つと思うぞ。5人とも14歳でそれぞれ2年ほど修行してるからな」

 アルフレードからの手紙で足りない職人を選んで連れて来てくれたようだ。

「ルケッティ子爵様、実は、寝床がこんなになくて…」

 ビアータは、いろいろと考えてみたが、どう考えてもベッドが足りない。

「ビアータ、もう親父でかまわねぇぞ。寝床なんざぁ、大丈夫だ。この季節なら廊下で十分だ。布団は持ってきた。帰るときは置いていくから、使ってくれ」

「!嬉しいよ!ありがとう、父さん!」

「お義父さん、ありがとうございます。職人さんも助かります」

「ようし!早速できることからやっていこうか!」

 デルフィーノは、来て早々元気いっぱいだ。

「じゃあ、職人さん連れて、森へ行こう」

 関所からの道は、しばらく進むと左右に分かれていて、西側になる右手と南になる正面には、『ビアータの家』の畑や建物が並ぶ。左手に、大きな森が見える。ビアータの家からだと、3キロほど東、馬車で30分ほどだ。

 『ビアータの家』から南に2キロほどで、小さな森があるのだが、そこは、本当に小さな森なので、小動物しかおらず、子供たちも安全にキノコや木の実をとりにいけるので、そこは手つかずにすることになった。

 その日のうちに、東の森の手前に、山小屋を作る場所とレンガ小屋を作る場所を決め、次の日には小屋作りが始まった。


〰️ 


 デルフィーノが連れてきた職人は、さすがであったし、連れてきた子供たちも弟子としてすでに2年だと言うだけあった。木こりとレンガ職人を希望する男の子が一人ずついたので、そちらを手伝わせることにした。

 『ビアータの家』がある場所は、そこそこ雨が降るため、日干しレンガより、焼成レンガがいいだろうということだ。しかし、窯をつくるにも、材料やら時間やらがかかるので、まずは日干しレンガをたくさん作ることにした。日干しレンガとて、5年や6年で壊れるわけではないのだ。現在の『ビアータの家』には、日干しレンガで充分だといえる。

 レンガが使えるとなったので、大工組は、設計を変え、2階建てにすることにした。レンガを入れる場所を木枠のように残しておく。真夏のこの時期、日干しレンガは3日で出来上がるので、並行してすすめることができた。

〰️ 〰️ 〰️

 酪農組は、新しい仲間、子豚に夢中だ。牛小屋の隣に豚小屋を建てた。小屋は、基本的には、真冬にしか使わないのだが、豚は、年に2度から3度子豚を産むので、そのための小屋だといえる。
 デルフィーノが言ったように、豚たちは何でも食べてしまうため、畑には行かないように、豚専用の丈夫な柵で囲み、そこへ放した。野菜クズなどは、ある程度場所を決めて、毎日与えるようにした。子豚は、野菜クズを必死で食べている姿が愛らしい。

 デルフィーノは、その子豚の姿を見た子供たちの家畜に対する可愛がり方に不安を覚えた。特に豚は、食べるために育てるのだ。
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