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24 毒花のドレス
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あまりに手紙の返事がないので母上と相談をしてマクナイト伯爵邸へ行ってみようと思っていた翌日の夕方、マクナイト伯爵様が我が家にいらっしゃった。
応接室にお通した伯爵様は暗いお顔をしていた。
「最近忙しいそうじゃないか。だがクラリッサが寂しがっている。一度会いに来てやってくれないか?」
神妙な面持ちで僕に頼み事をする伯爵様。クララのことを心配するあまりであると信じることにした。どうやら僕がクララをギャレット公爵邸へ招待したことは知らないようだ。確かに僕は家庭教師も増やして忙しくはなった。だがそれだけの理由で何週間も婚約者と交流を持たないほど非常識ではない。
『生真面目なマクナイト伯爵様は僕が勉強を優先させることを当然とお考えになるかもしれないと母上が言っていたからそういうことなんだろう』
「わかりました。明日伺います」
僕はクララが手紙をくれない理由を知りたかったこともありマクナイト伯爵様の提案をのんだ。
その夜、僕はまた夢を見た。
『お義姉様もご覧になりましたでしょう。ボブバージル様ったら美しいわたくしに一目惚れをなさりましたのよ』
『お義姉様。ボブバージル様はわたくしと惹かれ合っているのです。そろそろ諦めてくださいませ』
『お義姉様は公爵家には嫁げないでしょう』
『ボブバージル様にはお義姉様は全く相応しくないの。相応しいのはわたくしのような美しい女なのよ』
『ジルはダリアナが好きなのでしょう? わたくしはダリアナには敵わないもの』
クララが泣いている。
天使を抱きしめる僕。
僕たちが見下ろすのは泣き濡れているクララ。
僕はクララを助けたいのに…………僕の体は動かない。
誰かっ! 誰か僕を起こしてくれ!
僕は……僕はクララを……
『クラリッサっ! 君はダリアナを虐めているそうだなっ! 婚約は破棄だ!』
僕の怒鳴り声で僕は目を覚ました。
僕はそんなこと言いたくないっ!
まだ真っ暗な時間に僕は一人ベッドの中で涙が止まらなくなった。
僕は昨日の夢のこともあるのでマクナイト伯爵邸への訪問は強い覚悟を持っていくことになった。
翌日、約束通りマクナイト伯爵邸へ赴く。
玄関に待っていた使用人に応接室に通されソファーへと案内され座る。目の前にはいつかの歪なスコーンがこれでもかと山盛りにされていて僕は悪い予感しかしなかった。
待っていれば現れたのは案の定ダリアナ嬢とマクナイト伯爵夫人だった。僕への挨拶もなしに二人とも気持ち悪いほどの笑顔でこちらへやってくる。本来なら僕から挨拶しても問題ない関係ではあるのだが僕は軽侮を表すためあえて立ち上がりもしないし僕から口を開くこともしない。それが通じるとは思っていないが何もせずにいられるほど僕は大人じゃない。
二人はこれから夜会にでも行きそうなドレスだがそれにしても品がない。マクナイト伯爵夫人のドレスはギリギリまで胸元が開いていてこれでもかと胸と腰をくねらせて歩いている。ダリアナ嬢は毒花を思わせる赤に銀色の装飾が腕やら腰やら裾やらにゴテゴテとついていて飛び跳ねているような歩き方で優雅さは欠片もない。二人でタッグを組んで優美な応接室の雰囲気をぶち壊している。
僕の隣にダリアナ嬢が座り正面にマクナイト伯爵夫人が座る。婚約者でもない男の隣になんの躊躇もなく座り膝を擦り寄せてくるなんて普通の母親なら叱りつけるところだろう。しかし、マクナイト伯爵夫人はさも嬉しそうにニコニコとそれを見ていた。
『以前にダリアナ嬢が七歳で侯爵家を出たと言っていたけどマクナイト伯爵夫人は侯爵家でメイドでもしていたのかな?
下位貴族のご令嬢にはよくあることだけど子供が七歳になるまで雇ってくれたってことは父親は侯爵家に関わる者か?
それにしてもマナーも常識もひどすぎる…』
いつものようにお菓子や果実水が並び夫人のための紅茶も出てきた。マクナイト伯爵夫人が一緒だからなのか例のメイドは若干口角を上げている。
「ボブバージル様! スコーンを食べてくださいな」
「昼をしっかりと食べてきたので無理ですね」
僕はあえてにこやかに答えた。これも嫌味を伝える手段の一つだということをダリアナ嬢が理解するとは思えないが僕が怒りを表すのはまだ早い。
「もう! お腹をすかせて来てって……。
なんでもありませんわ。それならしかたありませんね」
引きつった顔で了承したダリアナ嬢は先日僕が言ったことを理解せずとも僕が激怒したことは覚えたいたようだ。マクナイト伯爵夫人は首を傾げていたのだがあのことを夫人に報告していない執事とメイドは正気かと疑う。
『そのレベルだとは思ったがそれを雇用している伯爵家は本当に大丈夫なのだろうか?』
僕は遅くとも僕とクララが継承するときには一新が必要だと考えた。
『でもそれまであと十年くらい…。クララのことが心配だ』
応接室にお通した伯爵様は暗いお顔をしていた。
「最近忙しいそうじゃないか。だがクラリッサが寂しがっている。一度会いに来てやってくれないか?」
神妙な面持ちで僕に頼み事をする伯爵様。クララのことを心配するあまりであると信じることにした。どうやら僕がクララをギャレット公爵邸へ招待したことは知らないようだ。確かに僕は家庭教師も増やして忙しくはなった。だがそれだけの理由で何週間も婚約者と交流を持たないほど非常識ではない。
『生真面目なマクナイト伯爵様は僕が勉強を優先させることを当然とお考えになるかもしれないと母上が言っていたからそういうことなんだろう』
「わかりました。明日伺います」
僕はクララが手紙をくれない理由を知りたかったこともありマクナイト伯爵様の提案をのんだ。
その夜、僕はまた夢を見た。
『お義姉様もご覧になりましたでしょう。ボブバージル様ったら美しいわたくしに一目惚れをなさりましたのよ』
『お義姉様。ボブバージル様はわたくしと惹かれ合っているのです。そろそろ諦めてくださいませ』
『お義姉様は公爵家には嫁げないでしょう』
『ボブバージル様にはお義姉様は全く相応しくないの。相応しいのはわたくしのような美しい女なのよ』
『ジルはダリアナが好きなのでしょう? わたくしはダリアナには敵わないもの』
クララが泣いている。
天使を抱きしめる僕。
僕たちが見下ろすのは泣き濡れているクララ。
僕はクララを助けたいのに…………僕の体は動かない。
誰かっ! 誰か僕を起こしてくれ!
僕は……僕はクララを……
『クラリッサっ! 君はダリアナを虐めているそうだなっ! 婚約は破棄だ!』
僕の怒鳴り声で僕は目を覚ました。
僕はそんなこと言いたくないっ!
まだ真っ暗な時間に僕は一人ベッドの中で涙が止まらなくなった。
僕は昨日の夢のこともあるのでマクナイト伯爵邸への訪問は強い覚悟を持っていくことになった。
翌日、約束通りマクナイト伯爵邸へ赴く。
玄関に待っていた使用人に応接室に通されソファーへと案内され座る。目の前にはいつかの歪なスコーンがこれでもかと山盛りにされていて僕は悪い予感しかしなかった。
待っていれば現れたのは案の定ダリアナ嬢とマクナイト伯爵夫人だった。僕への挨拶もなしに二人とも気持ち悪いほどの笑顔でこちらへやってくる。本来なら僕から挨拶しても問題ない関係ではあるのだが僕は軽侮を表すためあえて立ち上がりもしないし僕から口を開くこともしない。それが通じるとは思っていないが何もせずにいられるほど僕は大人じゃない。
二人はこれから夜会にでも行きそうなドレスだがそれにしても品がない。マクナイト伯爵夫人のドレスはギリギリまで胸元が開いていてこれでもかと胸と腰をくねらせて歩いている。ダリアナ嬢は毒花を思わせる赤に銀色の装飾が腕やら腰やら裾やらにゴテゴテとついていて飛び跳ねているような歩き方で優雅さは欠片もない。二人でタッグを組んで優美な応接室の雰囲気をぶち壊している。
僕の隣にダリアナ嬢が座り正面にマクナイト伯爵夫人が座る。婚約者でもない男の隣になんの躊躇もなく座り膝を擦り寄せてくるなんて普通の母親なら叱りつけるところだろう。しかし、マクナイト伯爵夫人はさも嬉しそうにニコニコとそれを見ていた。
『以前にダリアナ嬢が七歳で侯爵家を出たと言っていたけどマクナイト伯爵夫人は侯爵家でメイドでもしていたのかな?
下位貴族のご令嬢にはよくあることだけど子供が七歳になるまで雇ってくれたってことは父親は侯爵家に関わる者か?
それにしてもマナーも常識もひどすぎる…』
いつものようにお菓子や果実水が並び夫人のための紅茶も出てきた。マクナイト伯爵夫人が一緒だからなのか例のメイドは若干口角を上げている。
「ボブバージル様! スコーンを食べてくださいな」
「昼をしっかりと食べてきたので無理ですね」
僕はあえてにこやかに答えた。これも嫌味を伝える手段の一つだということをダリアナ嬢が理解するとは思えないが僕が怒りを表すのはまだ早い。
「もう! お腹をすかせて来てって……。
なんでもありませんわ。それならしかたありませんね」
引きつった顔で了承したダリアナ嬢は先日僕が言ったことを理解せずとも僕が激怒したことは覚えたいたようだ。マクナイト伯爵夫人は首を傾げていたのだがあのことを夫人に報告していない執事とメイドは正気かと疑う。
『そのレベルだとは思ったがそれを雇用している伯爵家は本当に大丈夫なのだろうか?』
僕は遅くとも僕とクララが継承するときには一新が必要だと考えた。
『でもそれまであと十年くらい…。クララのことが心配だ』
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