48 / 61
48 ギャレット公爵邸への帰還
しおりを挟む
私は悠々と立ち上がり会頭に背を向けた。
「あ! エイダ様にもう一つ」
仕方がないという顔で振り返る。会頭は私から奪ったイヤリングと指輪を入れた胸ポケットをポンポンと叩いた。
「これらは大変に良い石なのですがいかんせんデザインが古いです。お付き合いなさる商会は精査されるべきかと存じます」
「私は優美なアンティークが好みなのよっ!」
「左様でございましたか。失礼いたしました。しかしもしも今後ご入用でしたら私が商会をご紹介することも可能ですので是非お声掛けください」
私は返事をせずに踵を返して店を出た。
『あの商人めっ! 私が高位貴族の夫人たちとは社交しないからって古いものを売りつけたのね! 侯爵家に戻ったら潰してやるんだからっ!』
ゲラティル子爵邸に入るとすぐにお兄様に呼ばれた。ダリアナには聞かせられないからダリアナは別宅に行かせる。
「たった半年で戻ってきたのか?」
私を労うこともなく開口一番怒鳴りつけてきた。
「半年でこれなら文句ありませんでしょう?」
伯爵が出発の朝に渡してきたお金の半分をテーブルの上に投げてやる。
「なんだこれは? 金なのか? まさか里帰りではなく離縁ではあるまいなっ?」
オールポッド侯爵家を出たときよりは少ないがなかなかの量が入っている。私とダリアナにはマクナイト伯爵邸にいた頃に購入したドレスや貴金属があるからお兄様が納得するくらいのお金を入れてやった。
「まだはっきりはしてませんけどそうなるかもしれませんわね」
すぐさま袋を拾い上げ中身を確認する。
「それくらいの金が入っているじゃないかっ!」
「だからっ! 半年なのにそれだけあるのですから文句はありませんでしょう?」
「全くっ! せっかくの伯爵家なのに。もし離縁されたらまた見合いだぞ。それまでは大人しくしていろっ!」
『怒鳴るくらいならその金は私に返せばいいのに』
また乳母をさせられるかと思っていたから助かった。金を渡せば大人しくなるお兄様。反吐が出そうだわ。
〰 〰 〰
僕がマクナイト伯爵邸から戻るとなんと家で父上が仕事を休んでまで待っていてくれた。マクナイト伯爵家から先触れが来ていたらしい。
玄関で待っていてくれた父上と母上。僕は恥ずかしながら母上を前にして少し泣いてしまって母上はそっと僕を抱きしめてくれた。十三歳の僕より少しだけ背の低い母上の肩に顔を埋める。自分が考えていたよりも僕は緊張していたようだ。
父上と母上に左右を支えられるように応接室へ行くと母上は僕に寄り添うように隣に座ってくれて父上は威厳のある表情で僕の向かい側に座った。
昨日のことを父上に説明すると思いの外話を理解してくれていた。どうやら父上は母上からそれまでのクララとダリアナ嬢の話を聞いていたようだ。
「そうか。それは大変だったな。しかし、お前が婿入りする家だ。そしてお前が守るべき婚約者だ。よくやった」
父上の言葉と共に母上が僕を幼子のように頭を撫でる。それがとても心地良い。
「はい、父上。僕も今回はクララを守れて良かったです」
「ギャレット公爵家の名前を使うのも乱用しなければ構わないよ。お前はきちんとわかっていそうだな」
「はい」
『僕は父上と母上に守っていただいているんだ。僕もいつかクララを何からでも守ってあげられるようになりたい』
ギャレット公爵家の名前の力があるのも父上のお力のおかげだ。
「だがな、バージル。一人でクラリッサ嬢の部屋へ向かったのは愚策だぞ」
父上の厳しい顔に僕も気持ちを引き締めた。
「クラリッサ嬢の部屋へ行くのなら少なくとも護衛は連れて行くべきだった。クラリッサ嬢の部屋の警備がはじめから護衛であったならお前は監禁を確認できなかったかもしれん。そうなったら危ないのはクラリッサ嬢だ。わかるな?」
クララの危険までは考えていなかった僕の顔は青くなっていたかもしれない。
「はい。自分が非力であることを忘れていました。申し訳ありません」
「謝ることではないが反省をして次に繋げるべきことだ。覚えておきなさい」
「はい」
『護衛に抑えつけれらた瞬間は興奮していて気が付かなったが今思えば力の差が歴然であったということなのだ』
父上の言葉が思い当たり小さく震えた。
父上はふうっと息を一つ吐く。
「たまたま我が家を知る職業護衛だったから大きな怪我をせずに済んだがバージルの行為はその場で切られても文句は言えないものだぞ」
「え? 僕を知っていたのですか?」
「そうらしいな。今朝早くに職業ギルドのギルド長が謝罪に来た。若い護衛が確認をせずに先走ってしまったと、な」
『クララの部屋の前で『おいっ』と叫んだのは僕にではなく走ってきた護衛に向けたものだったのかもしれない。そういえばおじさんの方の護衛は僕に乱暴な言葉も行動もなかったな』
「その若い護衛もバージルを子供だと判断したから剣までは抜かなったのだろう」
「そうかもしれません。浅はかでした。ごめんなさい」
母上がギュッと手を握ってくれる。ギャレット公爵家の護衛も強い方が僕の側にいた。僕はそういう立場なのだ。
『僕が自分の身を大切にすることがみんなの危険を回避することになるのかもしれない』
「わかればいい」
僕は父上に力強く頷いた。
「あ! エイダ様にもう一つ」
仕方がないという顔で振り返る。会頭は私から奪ったイヤリングと指輪を入れた胸ポケットをポンポンと叩いた。
「これらは大変に良い石なのですがいかんせんデザインが古いです。お付き合いなさる商会は精査されるべきかと存じます」
「私は優美なアンティークが好みなのよっ!」
「左様でございましたか。失礼いたしました。しかしもしも今後ご入用でしたら私が商会をご紹介することも可能ですので是非お声掛けください」
私は返事をせずに踵を返して店を出た。
『あの商人めっ! 私が高位貴族の夫人たちとは社交しないからって古いものを売りつけたのね! 侯爵家に戻ったら潰してやるんだからっ!』
ゲラティル子爵邸に入るとすぐにお兄様に呼ばれた。ダリアナには聞かせられないからダリアナは別宅に行かせる。
「たった半年で戻ってきたのか?」
私を労うこともなく開口一番怒鳴りつけてきた。
「半年でこれなら文句ありませんでしょう?」
伯爵が出発の朝に渡してきたお金の半分をテーブルの上に投げてやる。
「なんだこれは? 金なのか? まさか里帰りではなく離縁ではあるまいなっ?」
オールポッド侯爵家を出たときよりは少ないがなかなかの量が入っている。私とダリアナにはマクナイト伯爵邸にいた頃に購入したドレスや貴金属があるからお兄様が納得するくらいのお金を入れてやった。
「まだはっきりはしてませんけどそうなるかもしれませんわね」
すぐさま袋を拾い上げ中身を確認する。
「それくらいの金が入っているじゃないかっ!」
「だからっ! 半年なのにそれだけあるのですから文句はありませんでしょう?」
「全くっ! せっかくの伯爵家なのに。もし離縁されたらまた見合いだぞ。それまでは大人しくしていろっ!」
『怒鳴るくらいならその金は私に返せばいいのに』
また乳母をさせられるかと思っていたから助かった。金を渡せば大人しくなるお兄様。反吐が出そうだわ。
〰 〰 〰
僕がマクナイト伯爵邸から戻るとなんと家で父上が仕事を休んでまで待っていてくれた。マクナイト伯爵家から先触れが来ていたらしい。
玄関で待っていてくれた父上と母上。僕は恥ずかしながら母上を前にして少し泣いてしまって母上はそっと僕を抱きしめてくれた。十三歳の僕より少しだけ背の低い母上の肩に顔を埋める。自分が考えていたよりも僕は緊張していたようだ。
父上と母上に左右を支えられるように応接室へ行くと母上は僕に寄り添うように隣に座ってくれて父上は威厳のある表情で僕の向かい側に座った。
昨日のことを父上に説明すると思いの外話を理解してくれていた。どうやら父上は母上からそれまでのクララとダリアナ嬢の話を聞いていたようだ。
「そうか。それは大変だったな。しかし、お前が婿入りする家だ。そしてお前が守るべき婚約者だ。よくやった」
父上の言葉と共に母上が僕を幼子のように頭を撫でる。それがとても心地良い。
「はい、父上。僕も今回はクララを守れて良かったです」
「ギャレット公爵家の名前を使うのも乱用しなければ構わないよ。お前はきちんとわかっていそうだな」
「はい」
『僕は父上と母上に守っていただいているんだ。僕もいつかクララを何からでも守ってあげられるようになりたい』
ギャレット公爵家の名前の力があるのも父上のお力のおかげだ。
「だがな、バージル。一人でクラリッサ嬢の部屋へ向かったのは愚策だぞ」
父上の厳しい顔に僕も気持ちを引き締めた。
「クラリッサ嬢の部屋へ行くのなら少なくとも護衛は連れて行くべきだった。クラリッサ嬢の部屋の警備がはじめから護衛であったならお前は監禁を確認できなかったかもしれん。そうなったら危ないのはクラリッサ嬢だ。わかるな?」
クララの危険までは考えていなかった僕の顔は青くなっていたかもしれない。
「はい。自分が非力であることを忘れていました。申し訳ありません」
「謝ることではないが反省をして次に繋げるべきことだ。覚えておきなさい」
「はい」
『護衛に抑えつけれらた瞬間は興奮していて気が付かなったが今思えば力の差が歴然であったということなのだ』
父上の言葉が思い当たり小さく震えた。
父上はふうっと息を一つ吐く。
「たまたま我が家を知る職業護衛だったから大きな怪我をせずに済んだがバージルの行為はその場で切られても文句は言えないものだぞ」
「え? 僕を知っていたのですか?」
「そうらしいな。今朝早くに職業ギルドのギルド長が謝罪に来た。若い護衛が確認をせずに先走ってしまったと、な」
『クララの部屋の前で『おいっ』と叫んだのは僕にではなく走ってきた護衛に向けたものだったのかもしれない。そういえばおじさんの方の護衛は僕に乱暴な言葉も行動もなかったな』
「その若い護衛もバージルを子供だと判断したから剣までは抜かなったのだろう」
「そうかもしれません。浅はかでした。ごめんなさい」
母上がギュッと手を握ってくれる。ギャレット公爵家の護衛も強い方が僕の側にいた。僕はそういう立場なのだ。
『僕が自分の身を大切にすることがみんなの危険を回避することになるのかもしれない』
「わかればいい」
僕は父上に力強く頷いた。
4
あなたにおすすめの小説
【完結】私が誰だか、分かってますか?
美麗
恋愛
アスターテ皇国
時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった
出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。
皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。
そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。
以降の子は妾妃との娘のみであった。
表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。
ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。
残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。
また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。
そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか…
17話完結予定です。
完結まで書き終わっております。
よろしくお願いいたします。
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
3回目の人生は、悪役令嬢を辞めて引きこもります~一歩も出ずに国を救ったら、なぜか「聖女」として崇められ最強の男たちが部屋を包囲してくる件~
放浪人
恋愛
公爵令嬢エリザベートは、1度目は悪役令嬢として断罪され処刑、2度目は改心して聖女となり国に尽くしたが過労死……という悲惨な最期を遂げた。 記憶を持ったまま3度目の人生が始まった瞬間、彼女は固く決意する。 「もう絶対に働きません! 今世は部屋から一歩も出ず、睡眠と趣味に命をかけます!」
最強の拒絶結界『絶対領域』で部屋に籠城し、婚約破棄イベントも夜会も全て無視して惰眠を貪ろうとするエリザベート。 しかし、彼女の「働きたくない」一心からの行動――適当な農業アドバイスや、安眠妨害への容赦ない迎撃――が、周囲には「国を憂う深慮遠謀」「慈愛に満ちた奇跡」として超好意的に解釈されてしまう!?
ヤンデレ化した元婚約者の王太子、物理で愛を語る脳筋騎士団長、効率厨の隣国王子、さらには古代の引きこもり少年までをも巻き込み、事態は国家規模の大騒動へ。 部屋ごと空を飛んで戦場を浄化し、パジャマ姿で古代兵器を操り、地下牢をスイートルームに変えながら、エリザベートは究極の安眠を手に入れることができるのか? 塩対応すればするほど愛され、逃げれば逃げるほど伝説になる、最強引きこもり令嬢の勘違いドタバタ溺愛ファンタジー、ここに完結!
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜
織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。
侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。
学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。
妹なんだから助けて? お断りします
たくわん
恋愛
美しく聡明な令嬢エリーゼ。だが、母の死後に迎えられた継母マルグリットによって、彼女の人生は一変する。実母が残した財産は継母に奪われ、華やかなドレスは義姉たちに着られ、エリーゼ自身は使用人同然の扱いを受ける。そんなある日――。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる