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49 兄の説得

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 父上にマクナイト伯爵邸でのことを報告したがダリアナ嬢が兄上について変なことを言っていたことについてはまだ言わなかった。

 言えなかった…。僕の夢のことも言わなくちゃならなくなるかもしれないから…。

 僕は家族に頭がおかしいと思われたくない……。

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 ギャレット公爵と夫人は応接室を出ていくボブバージルの背中を愛情こもる目で見送った。

「バージルもいつの間にか男の顔をするようになったな」

「ふふふ、そうですわね。好きな女の子の前でそうできるなんて頼もしいわ。昔の貴方みたいですわね」

「私が十三歳のときは、もう少し子供だったよ。なにせ、君と出会ったのは学園なのだから」

「そうですわね。そう思うと、バージルの手が離れてしまうのは早すぎて寂しいですわ。アレクシスだって、いつも婚約者のキャサリンさんのことばかりですのよ」

「ハハハ、そういうな。兄上が息子たちに代を譲ったら、二人で領地でのんびりしよう。君が大好きな薔薇をたくさん育てよう」

「まあ! ステキ! 楽しみにしておりますわね。ふふふ」

 ボブバージルの帰還に安心した夫人の目には薄っすらと涙が浮かんでいた。

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 後日、クララの家も執事が戻り使用人たちも戻ってきて平穏な日常となった。なんと、出ていった使用人のほとんどが推薦状を持たせてもらえず職につけなかった者が多かった。今回はそれが功を奏しクララの家はすぐに元に戻ったが本来ならありえない話である。
 もちろん料理長も戻った。僕が婿入りするのを楽しみに待っていると言っていた。

 伯爵様が使用人たちに働いてなかった時の分の給料も払いそれを子爵家に請求して賠償してもらったという話は僕が大人になってから聞いた。これも、貴族の責任、貴族のシステムのようなものだそうだ。使用人は決して使い捨ての駒ではない。

 僕は数日ダリアナ嬢の言葉と僕の夢について考えてそれらを隠しながらアレクシス兄上に護衛について相談するべきだと考えた。

 僕が兄上の部屋を訪れると父上と同じ色の髪を持つ兄上が、僕より青みの強い紺色の目をこれでもかと細めて喜んで迎え入れてくれた。
 僕を招き入れて前を歩く姿は精悍で母上似の黄緑と金色を混ぜた艷やかなグリーンゴールドの髪のサイドは耳の下までの長さだが後ろ髪を伸ばし今日も丁寧に三つ編みがされていた。
 兄上と僕は顔立ちが似ていると言われるが三つ違いの年のせいかすごく大人に見える。

 しばらく歓談の後に僕は本題を切り出した。

「兄上。来週、お祖父様の所へ伺うのは中止にできませんか?」

「なんだ? 何かあったのか?」

 唐突な僕の話に兄上は目をキョトキョトさせて聞いてきた。

「いえ、そういう訳ではないのですが……」

 夢のこともダリアナ嬢のことも話したくないとなると説明がとても難しい。僕のわがままだと思ってほしいくらいだ。

「うーん、理由もなくは無理だな。ブランドンも一緒だからな。ブランドンが行くのは内密なのだがな」

「え!?」

 僕はびっくりしてカチャリとカップの音をたててしまった。
 ブランドンとはこの国の第一王子殿下のことだ。兄上とブランドン第一王子殿下は同い年で兄上は国王の側近という意味でも父上を継ぐ予定であのだ。

 お祖父様とは前国王陛下である。すでにお祖母様は亡くなっていて離宮でお一人で暮らしている。長男同士のブランドン王子殿下とアレク兄上はお祖父様に小さい頃から可愛がられていてお祖父様が離宮へ行ってしまってからは年に数回会いに行っている。僕や一つ下の妹ティナヴェイラも時々はご一緒する。
 今まではブランドン第一王子は一緒じゃなく兄上だけで行くことの方が多いのだと思っていたが実はそうではないのかもしれない。

「では、護衛の数を増やすことはできますか?」

「ブランドンが行くことが内密であるのだ。あまり大袈裟にはできないよ。それに王都からの街道は整備されているし然程遠くでもない。何度も行っているところだ心配はいらないよ」

 兄上は大丈夫だとばかりに僕の肩を叩いた。

 どうにか兄上に僕の心境をわかってもらうしかない僕は考えてきたことを言うことにした。僕にとっても決断のいることだ。

「兄上。もし、兄上が無事に戻ってきてくださったら兄上がほしがっていたあの辞書を差し上げます」

「え! 本当に?」

 兄上が目を見開いて反応した。その隣国の言葉辞書は僕の宝物だけど兄上の命には変えられない。

「はい。あれはクララのお父上が手配してくれたものです。次はいつ手に入れるチャンスがあるか予想もつかないほどです。それを差し上げます!」

「なんか普通は逆じゃないのか? まあ、いいや。お前の気持ちはわかったよ。護衛たちに人数を増やせるか聞いてみよう。
だが、私が帰ってきて取られるって泣いたりするなよ。ハハハ」

 兄上は茶目っ気たっぷりに僕にウインクまでしてみせたけど僕にはそれをうまく返せる余裕がなかった。

「兄上が無事に戻ってきてくだされば帰ってきてくれた嬉しさに本当に泣いてしまうかもしれませんね」

「大丈夫か、バージル? お前にそこまで心配されるのは初めてだぞ」

 兄上は首を傾げていた。
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