あさひ市で暮らそう〜小さな神様はみんなの望みを知りたくて人間になってみた〜

宇水涼麻

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2 サーフィンと展望館

 洋太は海岸に沿って風を切って進む。家には二つのバイク用ヘルメットが用意されているのだが、洋太は肌で海の匂いと日差しの心地良さを気持ちよく受けることのできるハーフヘルメットを好んでいる。日に灼けることを好まない水萌里はフルヘルメットだ。

 いいおか潮騒ホテルの前にある駐車場にバイクを止めて防波壁へ登ると視界一杯に白い砂浜と真っ青な海が広がった。

「おっ、今日もやってるなぁ」

 キラキラとした波間に何人もの人影が見える。旭市の海岸線はサーフィンのメッカで毎日のように通うサーファーもいると聞いている。季節を通して穏やかな日が多く、初心者でも楽しめると評判のエリアだ。
 サーファーたちが波間に消えては現れている。

「楽しそうだなぁ。海の大神おおがみ様。ほどほどにしてやってくださいよ」

 洋太の呟きは風に流されていき、道行く人たちの耳には届かないが、洋太には波間の奥が一際キラリと輝きを増したように見えた。

「俺もいつかやりたいよなぁ」

 海岸に沿ってかなり南西までサーファーがつどっているというのだから、サーフィンという遊びはなかなかに面白いものなのだろうと、人間の世界をまだまだ知らない洋太にも想像できた。

「その時は俺と遊んでくださいね」

 返事をするかように大きめの波がたち、多くのサーファーが立ち上がるとそこここで歓声が上がり、その声を拾った洋太はにっこりと笑った。

 本当はすぐにでもサーフィンをやってみたい洋太であったが、まだまだ知らなければいけないことは多く、その時ではないことも理解していた。

 楽しそうな者たちに心で手を振り再びバイクにまたがる。海を右手に見ながら進み、先程ハルに乗せてきてもらった道へ出た。そこをさらに東へ行くと信号を右折して坂道となる。またすぐに信号を再び右折。坂道が急になり五十CCのバイクが少しばかり必死な音を出すがそれに構わずに走らせれば目的地に到着した。
 駐車場にキチンと止めてヘルメットをしまってから大きく息を吸うと、潮の匂いに誘われるように灯台へ向かう。

 小さな灯台の側には立派な展望館があり、三階建てのそれは「光と風」と名付けられた旭市飯岡刑部岬展望館で、屋上展望台からの景色は絶景である。
 右手になだらかな丘稜線が遥かまで広がる下総大地を見ると、その下に干潟八万石と名高い田園風景へ伸びる道がそこへ誘うように伸びている。
 そして左手には九十九里浜の海岸線が見事に長い長い弧を描く様子が見て取れた。
 天気が良い日には水平線に浮かぶように富士山までも望むことができ、誠に素晴らしい眺望である。 
 さらに眼下に目を落とせば、飯岡漁港があり、船釣り船がいだ海へと出ていったり入ってきたりと忙しなく行き来する姿があった。

 展望館には行かずに岬の縁にある柵に手をかけている洋太は、自分たちが朝方喧騒にまみれていた漁港を眺めていた。
 それから夏の霞がかる水平線に目を向けて、鼻で思いっきり息を吸うと、気持ちよさそうに顔を緩める。

 ここ飯岡灯台は、洋太が生まれ落ちた場所であり、洋太と真守、そして母親役である水萌里みもりが初対面した場所であった。

 広大な太平洋からゆっくりと登る朝日が神々しいこの場所は、元旦には初日の出を拝む多くの人々で賑わうのだが、平日の早朝ならほとんど来る人はいない。

 数ヶ月前のこと。
 もうすぐ太陽が顔を出そうかと空が白み始めた時間に、一台のブルー・パールの色の車が入ってきた。
 降り立った男女はそこにそぐわぬ黒のスーツ姿。男は髪を丁寧に後ろに撫でつけてあり、女は一本の乱れた髪も許さぬというようにきっちりと後ろでまとめられている。革靴の音とローヒールパンプスの音をさせながら灯台の下までやってきた。

洋神ひろしん様。お姿をお見せくださいませ」

 男が声を出し、二人で合唱拝礼する。
 すると灯台のライト部分の上に突如とつじょ何か水色のもやのようなものがあらわになった。その靄が空中をゆっくりと男女の前まで舞い降りてきた。

 地上に降り立つとさらに形を成し、身長一メートルほどの少年になった。少年の青藍せいらんの髪は風もないのにふわふわとなびき、薄浅葱色うすあさぎいろの瞳は大きくて不思議そうに男の顔を見上げている。

「お前。俺が見えるのか?」

「はい。我らは少しではありますが、神力しんりょくがございますので、洋神ひろしん様のお姿を拝見させていただけております」

「へぇ。俺は十回の夜を超えたけど、そんな人間は初めてだ」

「はい。我らは守り人もりびと氏子うじこと言われる者でございまして、神々様のお手伝いをさせていただいておる者でございますれば」

「へぇ。そうなんだ」

「洋神様におかれましては、まだお生まれになったばかりで人間界について知らぬことも多いかと存じます」

「まあな。とりあえず下界の者たちを観察しているけど、何をしてやればいいのかわからん」

 洋神は腕を前に組んで考えていた。


★★★★★★

表紙の後ろ姿の正体が判明!www

明日もお楽しみに!

ご感想等いただけますと嬉しいです。
感想 4

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