あさひ市で暮らそう〜小さな神様はみんなの望みを知りたくて人間になってみた〜

宇水涼麻

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16 心と体を作るもの

 和漢薬膳マイスターが作る手作りカレーというフレーズに惹かれて水萌里はその店を訪れた。
 国道から一本海寄りの道を西に向い新川を越えローソンを過ぎてしばらく走った右手側の水色の長屋テナントにそれはあった。手作りカレーののぼりと『木とフクロウをモチーフにした看板』が目印のお店だ。長屋テナントなので駐車場にゆとりがあり、運転にまだまだ慣れたとは言えない水萌里でも余裕を持って停めることができた。

 少し躊躇ちゅうちょしながら入ると、明るい店内の小さな店で、何でも受け入れてくれそうな雰囲気を放ち、入るなりリラックスしてしまう摩訶不思議な空気感を出していた。

「いらっしゃいませ」

 ハスキーな声音の女性の声がカウンター奥から聞こえた。『だまり』のママたまきが柔らかな笑顔で迎えてくれる。

 一人でやっているらしくメニューは少ないが、水萌里の目的は和漢漢方料理であるからかえって期待が高まる。

「季節のワンプレートをお願いします」

 おひやを持ってきたママたまきにいきなり注文してしまい、水萌里は慌てた。

「もしかしてインスタ見て来てくれたんですか? 嬉しいです。ワンプレートですね。わかりました。お待ちください」

 メニューも見ずに注文する暴挙にも笑ってゆるしてくれる暖かさにホッと胸を撫で下ろす。
 水萌里は水を一口飲むとやっと落ち着いた。東京ではチェーン店などに一人で行くことはあったが、こうした個人店でお一人様の食事をするのは初めてで自分が思うより緊張していたらしい。
 メニューを改めて開き、ドリンクを決める。

「シソ酢ジュースお願いします」

「ありがとうございます」

 料理をする合間にシソ酢ジュースを作ってくれたようで先に届いたそれは、キレイな赤紫にソーダのシュワシュワが弾けていてとても美味しそうだ。
  
『わぁ。爽やかぁ』

 折角、薬膳カレーを食べるのだからと、シソも酢も健康に良かろうと選んだ。ふわっと香るシソの香りは梅を思わせる赤紫蘇を使っているから味も色味もとても良かった。
 
 一息ついて店内を見回すとそこここに絵が飾られていてセンスの良さを感じさせた。イルカの涼し気な絵も可愛らしい妖精の絵もこの店の雰囲気に合っている。

「おまたせしましたぁ」

 可愛らしく盛り付けられたプレートが置かれた。黒ごまがかけられた紫色のご飯が目を引く。

「これは古代米を使っているんです」

 ママたまきは説明をするとカウンターの中へ行く。カレーだけでなくご飯にも和漢薬膳を意識したものであった。チーズがのった焼きカレー、人参のサラダ、春巻き。

「もろきゅう?」

 添えられた小鉢の中のきゅうりには茶色のもろみが乗っていた。

「そうです。そのもろみも手作りなんですよ」

 もろみまで手作りであることに驚いた水萌里はもろみだけを箸でつまむ。

「美味しい……」

 醤油の風味が食欲を刺激する。それから梅シソの春巻きまで黙々と食した。まだお腹に余裕があるなと感じた水萌里は飲み物を注文しようともう一度メニューを見る。

『え! スイーツあるの?』

 薬膳料理であるため期待していなかったのだが、まさかのスイーツメニューがあった。

「すみません。甘酒アイスをお願いします」

「はーい!」

 水萌里の前に出されたガラス皿は…………バニラアイスだった。どうみてもバニラアイスだ。
 恐る恐る食べてみる。

「あまーーい…………」

 なんと味もバニラアイスだった。ここまで薬膳を意識してきてのこの甘さに少し罪悪感を覚える。

「甘いですか? でも砂糖不使用なんですよ。本当に甘酒だけでできているんですよぉ」

 水萌里は驚きで顔を上げた。

 甘酒といえば近年美容効果があると言われる日本のスーパーフードである。血圧にもよく腸内環境にもよく疲労回復にもよい、さらにダイエットサポート効果まであると言われている。それがアイスで食べられるなんて! まさにスーパーフードを超えた超超超フードだ。罪悪感も背徳感も敗北感もなく満足感だけを享受できるアイス。この世にこんな素敵なものがあるなんて!
 
「はあ。美味しかった。ごちそうさまでした。いろいろと手作りされているのですね」

 ニッコリとしたママたまきが出てきて水を入れ、お皿を下げると戻ってきた。

「私、心と体は食べ物で作られるって思っているんですよねぇ。だからここに来たときには美味しくて体にいいもの食べて、お話とかして笑顔で帰ってもらいたいんですよぉ。
一度きりの人生じゃないですかぁ。誰もが最後には楽しかったって思える世界にしたいですよねぇ」

 ふと視線を移したたまきの視線の先には楽しさを表現している『しょ』が飾られていた。

『健康でありますように 笑楽しょうらくありがとう』

 その書を見たたまきの愛おしそうな微笑は慈愛が溢れていたが、少しだけ影も見えて水萌里はその書について何も聞かなかった。

 そして、同じ壁に貼ってあるポスターに目を向けた。

「また、お祭りがあるんですか?」

 水萌里の視線の先のポスターには『夏まつり』と書かれている。旭市の市民七夕まつりは毎年八月六日七日と決まっていて、すでに終わっていた。その頃は水萌里たちは引っ越してきたばかりで行けなかった。

「お祭りっていうより地域の縁日みたいなかんじですよ。私も春巻きのお店を出すんです」

「さっきの春巻きですか?」

「ええ。是非遊びに来てください。
 金曜日の夜だけここでバーをやっている『Bar TAKU』の夫婦がやるイベントです」

 だまりが金曜日の夜に姿を変えるということに驚きながらも水萌里は祭が開催される場所を聞いて店を後にした。

 ☆☆☆
 ご協力
 だまり――和漢漢方料理――様(インスタで♪)
 フライデーバー Bar TAKU様

感想 4

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