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21 きっかけ

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 ローカルチャレンジャーが始まる。主催オープンロード合同会社の小川の挨拶とおひさまテラス館長永井大輔の挨拶。二人の言葉だけでもとてもポジティブな企画であることがうかがい知れ、水萌里は気合いを入れ直す。

『私は旭市を知り、友人を作りたくて参加したのだもの。皆さんのことを知っていこう』

 その後に行われた自己紹介は必死にメモをとりコミュニケーションの糧を拾っていく。
 経営者に限らず、お菓子屋、農家、プログラマー、飲食店など、業種が様々なメンバーが市内外問わずつどっている。

『すごいわ。私の普段の生活では知り合うことはない人たちばかりだわ』

 自己紹介が進むにつれワクワクした気持ちの方が高まってきた。そして、自分の番になり、緊張した面持ちで今の気持ちを伝えると、まだ何も見えていない水萌里であるが、暖かい拍手に包まれた。

 同テーブルのメンバーと話をしながら課題のワークシートを埋めていくとあっという間に昼休みの時間になった。

 木だまりのママたまきに誘われてそこからほど近いカフェへ赴く。旭中央病院の西側にあるそのお店『ひととひと』は外観からおしゃれだった。たまきに続いて入店するとそのお店の女性店員はたまきと知り合いらしく軽い挨拶を交わし、後ろから入店した水萌里に気がつく。

「こんにちは!」

 不思議な透明感のある雰囲気を出す女性に明るく声をかけられて戸惑ってしまった水萌里だが、女性は笑顔で席へと案内する。昼休みの時間は短いためすぐに注文をした。

「おしゃれなお店、なのに落ち着くってすごいわ」

「なぎさちゃんのセンスね」

「なぎささんって、さっきの方? このお店のオーナーさん?」

「そう。すっごく面白い人よ」

 確かにオーナーだというなぎさはスタイリッシュなおもむきと人懐っこい笑顔が混同した魅力的な女性で、この店の雰囲気そのものといえた。

 興味が尽きない水萌里であったが、時間もないので食事を終えるとすぐに席を立つ。水萌里の名残惜しさがたまきに伝わったようで、たまきの仲介によって水萌里はなぎさとの再会の約束をしてその場を後にした。

 午後からは講師小林めぐみの講義からスタートした。講師小林はミドルエイジの女性で、職業はキャリアコンサルタント、そしてCLUB HUBlic運営している。
 講師小林が赤裸々に自分の半生を語りながらビジネス経営について話す内容はビジネスだけにとどまらない話で、人との付き合い方や自分のあり方など、ビジネスを望んでいるわけではない水萌里にも感ずるもののある深い話であった。

「良くも悪くも起きたことを『転機』と捉える」

 水萌里はそのスクリーンに映しされたその言葉をジッと見た。

 この旭市に来たばかりで友人が少ないこと、洋太のサポートという真守と協同作業、洋太と出逢ったこと、洋太が最後の神様になること、自分にはまだやりたいことが見えていないこと。いろいろなことが現在の水萌里には起きている。

『そうか。私が変わるきっかけに過ぎないんだ』

 その言葉は水萌里の中にすとんと落ちた。そして、講師小林の言葉は続く。

「嫌だったら、合わなかったら『やめる』。
 私はこれが大事だと思っています。勇気のいる決断ではありますけど、私もあの事業を止めなかったらヒドいことになっていたというものもあります」

『やめていいの? 本当に? それなら私も何か形になるものをやってみたいわ』

 小さな小さな何かが芽生えた。
 講義の時間はあっという間に過ぎ、メンバーからの質疑応答にハキハキと答える講師小林の姿は輝きに溢れている。

『私と同世代なのにすごいなぁ』
 
 メンバーに新たな課題が出された。

「では、自分のアイディアをブラッシュアップしてみましょう」

 数分後の再発表では講師小林の講義の後であるため皆具体的な何かを掴みつつある内容になっていた。
 その中でも、子育てをしながらSNSのサポートを仕事にしているナオは最初とは全く異なる発表であり、周囲を驚かせる。

「自分が何が好きだったかを思い出しました。結婚前は洋品の仕事が楽しかったんですよ」

 方向を模索していてまだ何も決まっておらず、この会に来たときよりマイナス状態になったはずであるのに、ナオの口調は明らかに快活になっていた。
 その様子に、会を運営するオープンロード合同会社の小川も講師小林も破顔してエールを送った。

 こうして終えたローカルチャレンジャーの第一回目が終了した。

「どうだった?」

 家で仕事をする真守は開口一番水萌里に尋ねた。

「とっても有意義だったわ。知り合いが増えればいいなって気持ちだけだったけど、私に何かできないかなって考えてみたくなったの」

「へえ。すごいね。何でも応援するからさ。失敗を怖がらずにやってみたらいいよ」

「ねえ。もしそれが嫌になったらやめてもいい?」

「え? 嫌なこと続けるつもり?」

 目をパチクリとさせて当然のことのように答えた真守に心がポカポカとする。

「ふふふ。そうね」

 水萌里は鼻歌を歌いながらエプロンを付けた。 

 ☆☆☆
 ご協力
 オープンロード合同会社様
 CLUB HUBlic代表小林めぐみ様
 ひととひと様
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