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31 生卵かけご飯
ある朝、水萌里が台所でもらってきたきゅうりを浅漬にしていると、寝室から足音とともに調子外れの歌が聞こえてきた。
「でぇかいでぇかいマルゲンたぁまごっ。今日の友だちだれだろなぁ」
『一夏さんに聞かせてあげたいわ』
ため息を吐く水萌里の背中を抜けて真守が冷蔵庫から取り出した卵の大きさは優に通常卵の五割増しである。
『(有)マルゲン養鶏』は大正道路を北に進み干潟八万石のど真ん中にある養鶏場であり、養鶏場の隣に直売所を設けている。『マルゲンの米たまご』と名乗るブランドは農林水産大臣賞を受賞したことがあり、鶏の飼料には国産飼料米を二割もブレンドしていて、さらには酪酸菌やオリゴ糖も配合されている。海外からのとうもろこし輸入に左右されにくいことも良い点であるが、日本人の米離れによる田んぼの休眠荒廃を防ぐ役割をしており、国の政策に大いに貢献していた。オートメイション化を図りながらも鶏の体調管理は気を配り、夏は大きな扇風機をフル回転させている。ひよこから育てて鶏の定期的な世代交代をさせることで品質も安定している。
午前中には全農への納入を済ませ、全農から全国へ周るというのだから、日本中どこでも新鮮な卵が食べられることは間違いないが、養鶏場で買い、翌朝一番に食すことができるというのは優越感を刺激する。さらにこの大きさの卵を選んで購入してくるので、真守の満足感はマックスである。特大卵は少しお高いが、それを上回る価値を田中家では感じていた。味はお墨付きで、クセがなくお米の甘みや旨味を持った味わい深い卵だ。もちろん、お手頃価格の大玉も中玉も店頭に並んでいる。
「さて! 君の友達はあああ!」
冷蔵庫を大きく開け広げて嬉しそうにする真守には何度も注意したが、どうやらこの儀式が楽しいようなので水萌里は何も言わなくなった。
真守の言う『友達』とは生卵かけご飯に入れるもののことである。真守は数種類の食し方を持ち合わせている。
昆布(これだけでもしそ昆布をはじめ数種類)、キムチ、しらす(飯岡しらすは常備されている)、志ら魚、焼き魚、しいたけの煮物、海苔、岩のり、ごま、顆粒だし、シソ、もろみ(木だまりで購入)、刺し身、ツナ、チーズ、ハム、などなど。
コトンと何かがテーブルに置かれた音がして真守が振り返った。
「おおお! きゅうりの浅漬、シソバージョン!」
水萌里が朝作った浅漬、豆腐とネギの味噌汁、キンキンに冷えた麦茶が並べられている。
「なら、これだあ!」
真守が今日選んだのは白だしとごまであった。これには醤油はなし。大きめの茶碗に炊き立てのご飯をよそい、テーブルに座った。ご飯の真ん中を少し凹ませるとそこに卵を落とした。凹みは大きな黄身でいっぱいになり白身が脇に逃げる。箸で三回黄身を突くと、慎重に白だしをかけ、その上からごまをふる。卵を混ぜずに、ご飯の真ん中を箸ですくって黄身を通過するように持ち上げ口へ運ぶ。
「はふっ、ふおっ」
ニヤけて食べる真守は感想こそ言わないが旨さを楽しんでいることは誰にでもわかる。卵はどんどん崩れていき、最後には満遍なくかき混ぜる。
水萌里の用意した副菜も味わいながらなんとも気分よく朝食をしていた。
「あ! 忘れてたわ!」
水萌里が冷蔵庫から昨夜の残りの焼き鯖を出してきたため、真守が生卵かけご飯をおかわりすることが決定した。焼き鯖をほぐし身にして、醤油とともによぉく混ぜた生卵かけご飯にふりかけのようにかける。
しかし、数日後、いただきものだとおやつに食べた『Egg'S Baum』のバームクーヘンが、(有)マルゲン養鶏の娘たちが経営するお店であり、当然その卵が使われていることは知るよしもなかった。『マルゲンの米たまご』を使っているだけでなく、米粉までもが千葉県産というこだわりを見せていて、小麦粉ではなく米粉を使うことで、ふんわりしてしっとりしてもっちりした食感にしている。『Egg'S Baum』は干潟駅近くにある県立東総工業高校の南門を出た通りにある。
「すっごい卵色だな。うまそう!」
「このバームクーヘンのしっかりとした卵味が好みだ」
「私はこのフンワリ感がいいわ。バターの風味も利いているわね」
「なに?! 秋にはさつまいもバージョンも出るらしいぞ」
洋太が持つチラシを二人も覗き込む。
「おいもonぷりん、ですって。食べたぁい!」
「ということはプリンもあるってことなんじゃないか? オンラインショップもあるみたいだな」
「いやいや、それは店に行くべきでしょ」
「車で行けばすぐじゃないか。俺が自転車で行ってもいいぞ」
毎日パソコンに向かい画面で売り買いしているためオンラインショップに興味を持った真守は、水萌里と洋太から冷たい視線を受けて肩をすぼめて残りの一口を食べた。
「うまい!」
☆☆☆
ご協力
(有)マルゲン養鶏様
Egg'S Baum様
「でぇかいでぇかいマルゲンたぁまごっ。今日の友だちだれだろなぁ」
『一夏さんに聞かせてあげたいわ』
ため息を吐く水萌里の背中を抜けて真守が冷蔵庫から取り出した卵の大きさは優に通常卵の五割増しである。
『(有)マルゲン養鶏』は大正道路を北に進み干潟八万石のど真ん中にある養鶏場であり、養鶏場の隣に直売所を設けている。『マルゲンの米たまご』と名乗るブランドは農林水産大臣賞を受賞したことがあり、鶏の飼料には国産飼料米を二割もブレンドしていて、さらには酪酸菌やオリゴ糖も配合されている。海外からのとうもろこし輸入に左右されにくいことも良い点であるが、日本人の米離れによる田んぼの休眠荒廃を防ぐ役割をしており、国の政策に大いに貢献していた。オートメイション化を図りながらも鶏の体調管理は気を配り、夏は大きな扇風機をフル回転させている。ひよこから育てて鶏の定期的な世代交代をさせることで品質も安定している。
午前中には全農への納入を済ませ、全農から全国へ周るというのだから、日本中どこでも新鮮な卵が食べられることは間違いないが、養鶏場で買い、翌朝一番に食すことができるというのは優越感を刺激する。さらにこの大きさの卵を選んで購入してくるので、真守の満足感はマックスである。特大卵は少しお高いが、それを上回る価値を田中家では感じていた。味はお墨付きで、クセがなくお米の甘みや旨味を持った味わい深い卵だ。もちろん、お手頃価格の大玉も中玉も店頭に並んでいる。
「さて! 君の友達はあああ!」
冷蔵庫を大きく開け広げて嬉しそうにする真守には何度も注意したが、どうやらこの儀式が楽しいようなので水萌里は何も言わなくなった。
真守の言う『友達』とは生卵かけご飯に入れるもののことである。真守は数種類の食し方を持ち合わせている。
昆布(これだけでもしそ昆布をはじめ数種類)、キムチ、しらす(飯岡しらすは常備されている)、志ら魚、焼き魚、しいたけの煮物、海苔、岩のり、ごま、顆粒だし、シソ、もろみ(木だまりで購入)、刺し身、ツナ、チーズ、ハム、などなど。
コトンと何かがテーブルに置かれた音がして真守が振り返った。
「おおお! きゅうりの浅漬、シソバージョン!」
水萌里が朝作った浅漬、豆腐とネギの味噌汁、キンキンに冷えた麦茶が並べられている。
「なら、これだあ!」
真守が今日選んだのは白だしとごまであった。これには醤油はなし。大きめの茶碗に炊き立てのご飯をよそい、テーブルに座った。ご飯の真ん中を少し凹ませるとそこに卵を落とした。凹みは大きな黄身でいっぱいになり白身が脇に逃げる。箸で三回黄身を突くと、慎重に白だしをかけ、その上からごまをふる。卵を混ぜずに、ご飯の真ん中を箸ですくって黄身を通過するように持ち上げ口へ運ぶ。
「はふっ、ふおっ」
ニヤけて食べる真守は感想こそ言わないが旨さを楽しんでいることは誰にでもわかる。卵はどんどん崩れていき、最後には満遍なくかき混ぜる。
水萌里の用意した副菜も味わいながらなんとも気分よく朝食をしていた。
「あ! 忘れてたわ!」
水萌里が冷蔵庫から昨夜の残りの焼き鯖を出してきたため、真守が生卵かけご飯をおかわりすることが決定した。焼き鯖をほぐし身にして、醤油とともによぉく混ぜた生卵かけご飯にふりかけのようにかける。
しかし、数日後、いただきものだとおやつに食べた『Egg'S Baum』のバームクーヘンが、(有)マルゲン養鶏の娘たちが経営するお店であり、当然その卵が使われていることは知るよしもなかった。『マルゲンの米たまご』を使っているだけでなく、米粉までもが千葉県産というこだわりを見せていて、小麦粉ではなく米粉を使うことで、ふんわりしてしっとりしてもっちりした食感にしている。『Egg'S Baum』は干潟駅近くにある県立東総工業高校の南門を出た通りにある。
「すっごい卵色だな。うまそう!」
「このバームクーヘンのしっかりとした卵味が好みだ」
「私はこのフンワリ感がいいわ。バターの風味も利いているわね」
「なに?! 秋にはさつまいもバージョンも出るらしいぞ」
洋太が持つチラシを二人も覗き込む。
「おいもonぷりん、ですって。食べたぁい!」
「ということはプリンもあるってことなんじゃないか? オンラインショップもあるみたいだな」
「いやいや、それは店に行くべきでしょ」
「車で行けばすぐじゃないか。俺が自転車で行ってもいいぞ」
毎日パソコンに向かい画面で売り買いしているためオンラインショップに興味を持った真守は、水萌里と洋太から冷たい視線を受けて肩をすぼめて残りの一口を食べた。
「うまい!」
☆☆☆
ご協力
(有)マルゲン養鶏様
Egg'S Baum様
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