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54 おやだがのパッション
「まあ、今日の夕方から大雪に警戒ですって」
水萌里の言葉で真守もネットニュースを開く。
「本当だ。これから買い出しでもいくか」
「うーん。でも近所の人とかは心配いらないって言うのよね」
二月某日、全国的に冷え込みが強くなった日が続き雨が降り出すと大雪警戒ニュースがテレビでもインターネットでもそこかしこで流され注意を促していた。
「雪! 雪が見れるのか?!」
二人とは違う反応で洋太が声を上げた。
「天気予報ではそうなっているわね。今夜がピークかしら。でもみんなの話だとすぐに溶けてしまうらしいわ」
「オッケー! 早起きは得意だ!」
こうして買い物に行くことなく朝を迎えた田中家。まだ空が真っ暗な時間に洋太の叫び声で真守は目を覚ますことになった。
「雪なんて全くないじゃないかあ!!」
部屋のカーテンを期待を込めて全開にした洋太は膝から崩れ落ちた。雨が強めに窓ガラスを打ち付けているのでみぞれ混じりではあるようだ。
「うう寒……」
暖房もかけてない部屋で真守はもう一度布団にくるまった。
その日、高速道路は多くの場所で閉鎖になり、電車は遅延し、日本国民の足を鈍らせた。そんな天気でも旭市には雪は一ミリも降らなかった。
パンを切らせたことに気がついた水萌里はそそくさと支度をして朝の九時には『フランス屋』へ向かった。水萌里のお気に入りのクロワッサンは品切れになるのが早いのだ。
皆から得た知識で市内どこにも雪も氷もないはずだと安心して出かけた。
「雪を見たい洋太には申し訳ないけど、生活するには寒過ぎず暑すぎない場所って魅力的だわ」
運転が得意ではない水萌里だが鼻歌を歌いながら車を走らせている。
フランス屋に入るときくえが弾ける笑顔と元気な挨拶で迎え入れる。水萌里はパンを購入して用意してきた『あさひ冬のあったかグルメ&スイーツまつり』の応募券にはんこをもらいそこに設置されている応募BOXに入れた。観光物産協会主催のこの企画は水萌里の足をそれらの店に向かわせている。
「水萌里さんとこははまぐりは食べた?」
きくえは何気ない会話でそう聞いた。
「それがまだなんですよ。ふるさと納税返礼品で一位になったから『旭市のはまぐり』が食べたいなって思っているんですけど」
「えーー! もったいない!」
大きな声で驚嘆したのはフランス屋の会長である。
「いいお店を知っていますから、是非帰りにでも行ってみてください」
会長は丁寧に地図まで書いて教えた。
「水産会社って行っていいものなんですか?」
スーパーや魚屋ではないそこに一般人である水萌里が行っていいものか知らなかったのだ。
「もちろんですよぉ。ここは気の良いご夫婦がやってらっしゃる直売所なので行ってください」
「直売所……」
その言葉に期待をした水萌里はその足で『不動丸』へ向かった。『不動丸』は正月には大漁旗を勇壮に靡かせ飯岡漁港を彩る一つである。
旭市足川にある『不動丸』は飯岡漁港から船を出し刺し網漁をしている。設備を充実させ新鮮なものを家庭に届けるアイディアと努力を日々続けているのには親方であり社長である遠藤のパッションによるところだ。
はまぐりは『千葉ブランド水産物認定品』となっているものだけでなく、真空パックの凍結も扱っている。
「冷凍っていうとみんなB 級品を想像するけど、今、冷凍の技術って発達してんのよ。瞬間凍結だから生より美味い!」
熱く語る不動丸のおやがだ遠藤は様々な商品も開発している。自家工場を建設し調理済み商品も売り出している。『リキッド凍結』による美味しさを逃さない冷凍に留まらず、『酒蒸し調理済み』も発売。手軽に美味しくを食卓に届けたいと新商品へのアイディアは止まらない。
だが、遠藤もまっすぐにここへたどり着いたわけではない。高校を卒業する時には外での就職も模索したが、少々強引な父親の強い希望で結局は『不動丸』で父親と共に漁に出る道を決めた。
二十五になるころには舵取りの全権を任され、責任感とパッションで波を乗り越えてきた。
「おやじには褒められたことなんかいっぺんもねえよ」
漁師気質全開の父親が言葉足らずであったことは容易に想像がつく。父親は病の床でも『不動丸』を心に留め、最後も遠藤に頼んだのは『不動丸』であった。
遠藤はその意思をしっかりと受け止め、自分が進む道を『不動丸』と共にありきで決めてきた。
その一つがネット販売である。はまぐりだけでなく季節の新鮮な魚やイセエビ、ワタリガニなどを全国に送る事業を展開している。
魚商品には漁師の知識『神経絞め』と新技術『リキッド凍結』を組み合わせたものが人気である。さらにヒラメをはじめとした魚を捌き昆布締めや漬けにしたものは流水解凍で手軽に食べられるため魚を調理できない主婦に優しい。
「海も変わってきでっかんねぇ。昔獲れてた魚がいなんだ。それに合わせてこっちも変わっていがねぇと」
気候変動を肌で感じるおやがだはそれをも前向きに捉える。
遠藤の妻がおすすめするのは『リキッド凍結』イセエビだ。瞬間冷凍してあるので刺し身で食せるほど新鮮で、凍っている間は初心者でもハサミで捌けるという。
「おせちで人気だったので今は品薄で」
「確かにこれがあるだけでおせちの見栄えがランクアップしますね」
水萌里はそれを想像して今年の末には早々に買いに来ようと思った。
『昆布締めは真守さんのお酒のおつまみにいいわ。ひらめの漬けは洋太にどんぶりにしてあげよう。はまぐりの酒蒸し…………うふふ、私もビールが飲みたいわ。
ネット販売されているものが商品を見て買えるなんて直売所って最高ね』
帰り道を少し変えて自分用のお酒を購入するためスーパーへ向かうのだった。
☆☆☆
ご協力
フランス屋様
観光物産協会様
水産物直売所・不動丸様(季節によって取り扱いは異なります。詳しい商品につきましては不動丸様のHPをご確認ください)
水萌里の言葉で真守もネットニュースを開く。
「本当だ。これから買い出しでもいくか」
「うーん。でも近所の人とかは心配いらないって言うのよね」
二月某日、全国的に冷え込みが強くなった日が続き雨が降り出すと大雪警戒ニュースがテレビでもインターネットでもそこかしこで流され注意を促していた。
「雪! 雪が見れるのか?!」
二人とは違う反応で洋太が声を上げた。
「天気予報ではそうなっているわね。今夜がピークかしら。でもみんなの話だとすぐに溶けてしまうらしいわ」
「オッケー! 早起きは得意だ!」
こうして買い物に行くことなく朝を迎えた田中家。まだ空が真っ暗な時間に洋太の叫び声で真守は目を覚ますことになった。
「雪なんて全くないじゃないかあ!!」
部屋のカーテンを期待を込めて全開にした洋太は膝から崩れ落ちた。雨が強めに窓ガラスを打ち付けているのでみぞれ混じりではあるようだ。
「うう寒……」
暖房もかけてない部屋で真守はもう一度布団にくるまった。
その日、高速道路は多くの場所で閉鎖になり、電車は遅延し、日本国民の足を鈍らせた。そんな天気でも旭市には雪は一ミリも降らなかった。
パンを切らせたことに気がついた水萌里はそそくさと支度をして朝の九時には『フランス屋』へ向かった。水萌里のお気に入りのクロワッサンは品切れになるのが早いのだ。
皆から得た知識で市内どこにも雪も氷もないはずだと安心して出かけた。
「雪を見たい洋太には申し訳ないけど、生活するには寒過ぎず暑すぎない場所って魅力的だわ」
運転が得意ではない水萌里だが鼻歌を歌いながら車を走らせている。
フランス屋に入るときくえが弾ける笑顔と元気な挨拶で迎え入れる。水萌里はパンを購入して用意してきた『あさひ冬のあったかグルメ&スイーツまつり』の応募券にはんこをもらいそこに設置されている応募BOXに入れた。観光物産協会主催のこの企画は水萌里の足をそれらの店に向かわせている。
「水萌里さんとこははまぐりは食べた?」
きくえは何気ない会話でそう聞いた。
「それがまだなんですよ。ふるさと納税返礼品で一位になったから『旭市のはまぐり』が食べたいなって思っているんですけど」
「えーー! もったいない!」
大きな声で驚嘆したのはフランス屋の会長である。
「いいお店を知っていますから、是非帰りにでも行ってみてください」
会長は丁寧に地図まで書いて教えた。
「水産会社って行っていいものなんですか?」
スーパーや魚屋ではないそこに一般人である水萌里が行っていいものか知らなかったのだ。
「もちろんですよぉ。ここは気の良いご夫婦がやってらっしゃる直売所なので行ってください」
「直売所……」
その言葉に期待をした水萌里はその足で『不動丸』へ向かった。『不動丸』は正月には大漁旗を勇壮に靡かせ飯岡漁港を彩る一つである。
旭市足川にある『不動丸』は飯岡漁港から船を出し刺し網漁をしている。設備を充実させ新鮮なものを家庭に届けるアイディアと努力を日々続けているのには親方であり社長である遠藤のパッションによるところだ。
はまぐりは『千葉ブランド水産物認定品』となっているものだけでなく、真空パックの凍結も扱っている。
「冷凍っていうとみんなB 級品を想像するけど、今、冷凍の技術って発達してんのよ。瞬間凍結だから生より美味い!」
熱く語る不動丸のおやがだ遠藤は様々な商品も開発している。自家工場を建設し調理済み商品も売り出している。『リキッド凍結』による美味しさを逃さない冷凍に留まらず、『酒蒸し調理済み』も発売。手軽に美味しくを食卓に届けたいと新商品へのアイディアは止まらない。
だが、遠藤もまっすぐにここへたどり着いたわけではない。高校を卒業する時には外での就職も模索したが、少々強引な父親の強い希望で結局は『不動丸』で父親と共に漁に出る道を決めた。
二十五になるころには舵取りの全権を任され、責任感とパッションで波を乗り越えてきた。
「おやじには褒められたことなんかいっぺんもねえよ」
漁師気質全開の父親が言葉足らずであったことは容易に想像がつく。父親は病の床でも『不動丸』を心に留め、最後も遠藤に頼んだのは『不動丸』であった。
遠藤はその意思をしっかりと受け止め、自分が進む道を『不動丸』と共にありきで決めてきた。
その一つがネット販売である。はまぐりだけでなく季節の新鮮な魚やイセエビ、ワタリガニなどを全国に送る事業を展開している。
魚商品には漁師の知識『神経絞め』と新技術『リキッド凍結』を組み合わせたものが人気である。さらにヒラメをはじめとした魚を捌き昆布締めや漬けにしたものは流水解凍で手軽に食べられるため魚を調理できない主婦に優しい。
「海も変わってきでっかんねぇ。昔獲れてた魚がいなんだ。それに合わせてこっちも変わっていがねぇと」
気候変動を肌で感じるおやがだはそれをも前向きに捉える。
遠藤の妻がおすすめするのは『リキッド凍結』イセエビだ。瞬間冷凍してあるので刺し身で食せるほど新鮮で、凍っている間は初心者でもハサミで捌けるという。
「おせちで人気だったので今は品薄で」
「確かにこれがあるだけでおせちの見栄えがランクアップしますね」
水萌里はそれを想像して今年の末には早々に買いに来ようと思った。
『昆布締めは真守さんのお酒のおつまみにいいわ。ひらめの漬けは洋太にどんぶりにしてあげよう。はまぐりの酒蒸し…………うふふ、私もビールが飲みたいわ。
ネット販売されているものが商品を見て買えるなんて直売所って最高ね』
帰り道を少し変えて自分用のお酒を購入するためスーパーへ向かうのだった。
☆☆☆
ご協力
フランス屋様
観光物産協会様
水産物直売所・不動丸様(季節によって取り扱いは異なります。詳しい商品につきましては不動丸様のHPをご確認ください)
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