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けいりん

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遠い夏

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 青い空。ブラスバンド。場内放送。
 五年ぶりの出場。全校応援。
「お、次、前園じゃん」
 友人に言われて我に帰る。「前園巧」と書かれた画用紙を掲げた生徒が、すぐ横を通り過ぎて行く。
 スコアボードに目を移す。七回の裏。三対一のビハインド。ツーアウト一塁。
 バッターボックスに立つ同級生。もっとも顔が見分けられるわけではない。強烈な日差し越しに、グラウンドの風景は奇妙に均質に見える。選手たちさえも、同じ一人の人間が分裂したものなのではないか、そんな錯覚にとらわれる。
 第一球。ボール。
 第二球。見送ってストライク。
 第三球。振り抜いてファウル。
 第四球。空振り。
 第五球。大きく打ちげて……ピッチャーフライ。敢え無くアウト。
 広がる失望に、「大丈夫、まだ二回あるし!」という声が混じる。
 打ちたかったろうな、ぼんやりと考える。普段互いに馬鹿話をしている前園の姿と、うなだれる暇もなく守備に着こうと走るその姿。うまく重ならないそのギャップを埋めようとするように。
 そして気がつくと俺はまたぼんやりと遠くを眺めていて、ゲームは進行している。四対一。いつのまに点差が開いたのか、さっぱり記憶にない。
 応援していないのか、と言われると、頑張れとは思うし勝てばいいとも思う。甲子園出場を決めた時も嬉しかったし、今日も勝てれば嬉しいだろう。
 だが、どこか、他人事のようで。
 自分の願いや喜びすらも。
 この日差しや、応援団の熱気、響き渡るブラスバンドの音、額を流れる汗。圧倒的なリアリティを持つはずのそれらでさえも、実感、と呼べる手応えを持たず。
 わあっ、と歓声が上がりまた我にかえる。八回の裏、どうやら点が入ったようだ。悠々と走る選手。ホームランか。
「すげーな、おい!」
 そう語りかける友人に曖昧に調子を合わせながら、なお俺と現実を隔てる被膜は失われることなく。
 その裏側から、俺はただこの熱狂が通り過ぎるのを眺めている。
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