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おーろら

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第一章:事件

004. 高校受験

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 中学三年生になると、少しずつ高校受験について教室内でクラスメイトたちが話すことを見かけることが増えた。
 どこの高校がいいとかここの高校の制服が可愛いなどの軽い会話から始まり、偏差値や高校の部活動や特色の違いの話をしていた。

 俺が現在住んでいる街には高校が三つある。
 公立高校が一校、私立高校が二校ある。
 その数が多いのか少ないのかはよくわからないが公立高校は一校しかないから隣の街の公立高校を選ぶ生徒も多い。
 夏休みを過ぎると自分がどこの高校を志望しているのか話をするようになっていた。

 俺にとって高校は何処でもよかった。
 葵と陸哉の二人から距離が置ければそれでよかった。

 俺の家族は姉ちゃんだけ、俺たちを引き取った武田の家の家族は俺たちのことには関心がない。しかも自分たち以外の人間にお金を使いたくないのか高校へ行かせたくないようでネチネチと小言を聞かされた。
 姉ちゃんが見ていない知らないところでずっと言われ続けていた所為せいで自信がなかったから姉ちゃんに質問してみた。

「姉ちゃん…」
「うん?どうしたの~?」
「あのさ…、高校って俺、行ってもいい、のかな?」
叶羽とわは高校に行きたくないの~?行きたいと思っている学校を選んでいいんだよ~」
「でも…俺みたいなのが高校に行っていいの?武田の家は『お前なんかがいける高校なんてないぞ?育ててやった怨はきっちり働いて返せよ』って言っていたし、高校の授業料はそんなこと言ってるんだから払ってくれないでしょ?だけど姉ちゃんに迷惑かけたくないから高校は無理だったら俺、働く…から」
 俺は話しながら俯いていたが心配になり姉ちゃんの顔を覗き込むように上目遣いで見た。

「心配しなくても大丈夫。だって叶羽にはすごいスポンサー…じゃなくて、後見人がいるからお金のことは叶羽が気にすることはない。高校は行きなさいね~」
 ニッコリ笑って姉ちゃんは俺の髪の毛をクシャクシャにしながら頭を撫でた。

「何処の高校でもいいよ。今の俺には行きたいと思っている高校はない」
「う~ん、そしたら~海外留学でもしちゃう~?」
 どうしてそんな考えが出てくるのか分からなかったが姉ちゃんは冗談でも話しているかのようにふんわりとした話し方だった。

「普通に考えて海外留学って選択肢にあるってことがおかしくない?」
「いや~、そんなことないと思うけど~?」
「だって…俺だけ楽して高校に行くとか海外留学とかまでしちゃうって話、本当にいいのかな?姉ちゃんばかりが大変だったり俺の所為せいで苦労ばかりあったんじゃないの?」
 ふぅーっと一息いて姉ちゃんは何かを決めた顔した。

「叶羽のことだから大学受験するときにもこの話になるだろうと思うから、面倒にならないように話すね~」
 何も解っていない俺の顔を見ながら姉ちゃんは満足気に微笑んでいた。

「さっきも簡単に話したけれど叶羽、あなたには後見人をしてくれている人がいるの。大学卒業までにかかる費用は全て負担してくれることになっているんだ。もし途中で叶羽が希望すれば海外留学だったり、もっと勉強したかったら大学院へ進むことも承知してくれているの。どれだけ費用がかかっても構わないと言ってたか、な?」
 俺の頭は姉ちゃんの言ってることが半分くらいしか理解できていなかった。

「ん?姉ちゃんが高校と大学の時の費用はどうしたの?」
 疑問に思った俺はボソリと呟いた。

「そっか~。叶羽も高校生になるし今まで軽く説明していたこともちゃんと理解できる年齢だろうし。話も長くなるから叶羽も座って~」
 姉ちゃんは電気ポットに水を足して電源を入れた。
 お茶の準備ができた姉ちゃんは俺の対面に座った。

「ふぅ…。それじゃぁ…父さんと母さんが交通事故で亡くなったのは私が十六歳、高校一年生で叶羽が一歳になった時だった。これは最初に話したよね?」
「うん、だから武田の父と母に引き取られたんだよね?」
 確認するように姉ちゃんに聞いた。

「父さんと母さんはあの日結婚記念日で珍しく二人とも仕事が休みだったからゆったり一日を楽しんで欲しかったから叶羽の面倒は見てるよって言って二人だけで出かけて行ってもらったの。父さんと母さんは楽しんでいたようで並んで腕を組んで歩いていたら後ろから飲酒運転の自動車に撥ねられた。父さんと母さん以外にも暴走した自動車に巻き込まれて多くの人が怪我したらしいよ。家で私は叶羽と遊んでいたら警察から連絡もらって急いで病院に向かった。でも父さんと母さんはもう…」
 悲し気な喪失感を見せた顔をした姉ちゃんがいた。
 いつも茶目っ気たっぷり見せた語尾を伸ばした話し方は見せなかった。

「私たちがすぐに頼れる人がいなくて母さんの兄である武田の家だけだった。私も十六歳で未成年だったから仕方なく武田の家に引き取られたの」
「それじゃ、武田の父と母が学費を出してるの?」
「ううん、全く。私の高校と大学の学費は父さん…この場合は松井の父さんと母さんね。ややこしいわ…じん父さんと美咲みさき母さんと呼ぶね。迅父さんと美咲母さんが交通事故に遭ったのが飲酒運転だったから危険運転致死傷罪って言う罪になったの。その時の損害賠償金と迅父さんと美咲母さんは堅実な人たちだったからコツコツ貯めていてくれていた遺産があったから私の時はそれを学費にした」
「そっかー。だから姉ちゃんは大学まで行ったんだ。それじゃぁ、俺の場合の後見人って?」
「It's a big secret. I'm sorry, I can't tell you…. A secret makes a woman woman…」
「てか、何勝手に漫画のセリフをパクってるんだよ?!」
 姉ちゃんは左手の人差し指を立て軽く唇の前に押し当ててニヤリと笑った。

「それよりも…叶羽!高校はどうするの?この近くだと公立が一つと私立が二つだね。隣の街だと公立高校が三つだったかな。どこの高校にするの?」
「今はまだ決められない…というかどこの高校でもいい」
「まぁ最終決定までに自分できっちり考えて決めなさいね」
「うん~、そうする」
「中学よりも高校の方が楽しめることたくさんあると思うからお金のことは気にしないで高校は選びなよ」
「うん、わかった」
 俺は姉ちゃんに返事しながら別のことを考えていた。
 姉ちゃんと俺は十五歳も離れている。
 だから姉ちゃんは三十歳だ。俺が姉ちゃんのことを見る限りでは男、恋人を見たことがない。
 高校・大学の頃は授業が終わる時間には家に帰ってきていたし、就職したら残業は一切せずに帰って来るようだ。
 いつ、どこで遊んでいるのだろう。
 俺にとっては謎過ぎる存在の姉ちゃん。

「姉ちゃんさ…」
「うん~?どうした~?」
「…やっぱり、いいや」
「変な叶羽~。聞きたいことがあるんだったら聞きなさい」
「うん、わかった」
 姉ちゃんとは高校受験の話をしたのはこの時が初めてだった。
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