8 / 32
僕が誰かを嫌いな理由(わけ)
007. ある事件のその後…
しおりを挟む
あの事件後…。
亜月は三ヶ月近く祖父・瀧野瀬壱星の家で過ごした。
最初は部屋の灯りを消して寝ることや一人で部屋に居ることさえも怯えてできなかった。
暫くの間、紫凰と一緒にいることで少しずつ慣れていった。
慣れすぎてしまって紫凰と離れられなくなり、三ヶ月近くもかかってしまった。
それでも亜月は明るさも取り戻して事件前と同じようにとはいかなかったが変わらない程度までにはなった。
けれど体調が戻れば戻る程、壱星や紫凰たちと離れたくない気持ちが強くなり亜月は沈んでいった。
あの家に戻らなければならないのか…。
そう考えただけで苦しい。僕は戻りたくないと思っていた。
だけどそれは口にしてはならないことだと思った。
母さんがいなくなった後の僕みたいに紫凰もお祖父様も皆、父さんとあの人たちに虐められるのかもしれないと思ったらそんなことは言えなかった。
事件後一週間は全く気持ちが落ち着かず、一人になったり暗い部屋に居るだけで怯えてしまうくらいに何もできなかった。お祖父様もそんな僕を心配そうに見つめ「無理はするな」と頭を撫でた。
やっとのことでお祖父様の家でも安心して過ごせる場所と僕は認識できた。
この頃になると何度か警察署に行き、事件の話を聞かれた。
毎回お祖父様が僕に付いて警察署に行くと小田切さんに駄々を捏ねていた。
紫凰のおじいちゃんの颯斗さんが宥め、弁護士の佐伯瑠維さんと颯斗さんの二人が付き添ってくれることでなんとか収まった。
お祖父様だって仕事があるのに最近ずっと僕のことばかり心配するのでお祖父様の仕事があまり進んでいないらしい。それらも含めて小田切さんに窘められていた。
こんな何気ない風景があの家に戻ると僕には手に入れられないものになってしまうのか思い、不安になってしまっていた。
僕の中でグルグル考えてしまっていた。マイナスな考えがさらにマイナス思考を呼び深い闇の中へとはまっていくような気がした。
けれど、今まで楽しいことがあったのはたぶん母さんが生きていた頃までだ。もう楽しいと思う気持ちは僕にはわからない。
僕のマイナスな感情だけが燻っていた。
紫凰には少しずつ戻ったはずの笑顔の中にどこか寂しさを感じる亜月の表情が気になった。
亜月は事件の後、瀧野瀬の家に居るが医師の診断で一か月は様子を見てからでないと学校に行く許可ができないと言われたため通っている学校には事情を話し休学している。
紫凰は普通に生活しているので平日は学校が終わってから亜月の元へ行く。週末になると朝から一緒に過ごす時間が増えたことでわかったことだった。
紫凰は亜月が心配になり紫凰の父親・煌に相談した。
「父さん…少し話してもいいかな?…亜月のこと…」
「…うん、どうした?」
「亜月の様子が少しおかしいんだ。…一緒に遊んでいても時間が経つと溜息吐いたり、泣きそうな顔してたり…」
「…そうか…」
「ねぇ、父さん…。俺、亜月ともっと一緒に居たいよ…」
「…そうだな…」
「……」
紫凰は俯いて父・煌に背を向けて歩き出した。
紫凰にとっても大事な親友で幼馴染みを失いたくないが、これ以上子どもの自分には何もできない悔しさで一言も言うことができなかった。
三日間、家を留守にした亜月の父親・禿河聖夜と清心と麗夏が帰って来ると…。
家の前に乗用車が一台停まっていたが、聖夜は気にせず玄関に鍵を差し込んだ。
鍵を回すが手応えはなかった。
「うん?清心…出かける時玄関の鍵、閉めたよな?」
「えっ?!どうしたの?」
「鍵が…開いている…」
「は?」
慌てて聖夜と清心は扉を開けて中に入ろうとした。
家の前に停められた乗用車から三人の男性と一人の女性が降りて聖夜たちに近づいた。
一人の男性が歩きながらスーツの内ポケットに手を入れて中から黒い手帳のような物を出してきた。その手帳を広げると男性は聖夜と清心に広げた部分を見せた。
「警察です。少しお話を聞きたいのでご同行願えますか?」
聖夜と清心は男性が何を言っているのか理解ができなかった。
「な、何よ、あなたたち。誰なのよ」
「警察です。お話を聞きたいので一緒に来てください」
警察官の男性は話の通じない聖夜と清心にイラッとしたが、顔には出さずに繰り返した。
「今家に帰ってきたばっかりで疲れてるんですけど?」
不機嫌な顔をして聖夜は答えた。
亜月は三ヶ月近く祖父・瀧野瀬壱星の家で過ごした。
最初は部屋の灯りを消して寝ることや一人で部屋に居ることさえも怯えてできなかった。
暫くの間、紫凰と一緒にいることで少しずつ慣れていった。
慣れすぎてしまって紫凰と離れられなくなり、三ヶ月近くもかかってしまった。
それでも亜月は明るさも取り戻して事件前と同じようにとはいかなかったが変わらない程度までにはなった。
けれど体調が戻れば戻る程、壱星や紫凰たちと離れたくない気持ちが強くなり亜月は沈んでいった。
あの家に戻らなければならないのか…。
そう考えただけで苦しい。僕は戻りたくないと思っていた。
だけどそれは口にしてはならないことだと思った。
母さんがいなくなった後の僕みたいに紫凰もお祖父様も皆、父さんとあの人たちに虐められるのかもしれないと思ったらそんなことは言えなかった。
事件後一週間は全く気持ちが落ち着かず、一人になったり暗い部屋に居るだけで怯えてしまうくらいに何もできなかった。お祖父様もそんな僕を心配そうに見つめ「無理はするな」と頭を撫でた。
やっとのことでお祖父様の家でも安心して過ごせる場所と僕は認識できた。
この頃になると何度か警察署に行き、事件の話を聞かれた。
毎回お祖父様が僕に付いて警察署に行くと小田切さんに駄々を捏ねていた。
紫凰のおじいちゃんの颯斗さんが宥め、弁護士の佐伯瑠維さんと颯斗さんの二人が付き添ってくれることでなんとか収まった。
お祖父様だって仕事があるのに最近ずっと僕のことばかり心配するのでお祖父様の仕事があまり進んでいないらしい。それらも含めて小田切さんに窘められていた。
こんな何気ない風景があの家に戻ると僕には手に入れられないものになってしまうのか思い、不安になってしまっていた。
僕の中でグルグル考えてしまっていた。マイナスな考えがさらにマイナス思考を呼び深い闇の中へとはまっていくような気がした。
けれど、今まで楽しいことがあったのはたぶん母さんが生きていた頃までだ。もう楽しいと思う気持ちは僕にはわからない。
僕のマイナスな感情だけが燻っていた。
紫凰には少しずつ戻ったはずの笑顔の中にどこか寂しさを感じる亜月の表情が気になった。
亜月は事件の後、瀧野瀬の家に居るが医師の診断で一か月は様子を見てからでないと学校に行く許可ができないと言われたため通っている学校には事情を話し休学している。
紫凰は普通に生活しているので平日は学校が終わってから亜月の元へ行く。週末になると朝から一緒に過ごす時間が増えたことでわかったことだった。
紫凰は亜月が心配になり紫凰の父親・煌に相談した。
「父さん…少し話してもいいかな?…亜月のこと…」
「…うん、どうした?」
「亜月の様子が少しおかしいんだ。…一緒に遊んでいても時間が経つと溜息吐いたり、泣きそうな顔してたり…」
「…そうか…」
「ねぇ、父さん…。俺、亜月ともっと一緒に居たいよ…」
「…そうだな…」
「……」
紫凰は俯いて父・煌に背を向けて歩き出した。
紫凰にとっても大事な親友で幼馴染みを失いたくないが、これ以上子どもの自分には何もできない悔しさで一言も言うことができなかった。
三日間、家を留守にした亜月の父親・禿河聖夜と清心と麗夏が帰って来ると…。
家の前に乗用車が一台停まっていたが、聖夜は気にせず玄関に鍵を差し込んだ。
鍵を回すが手応えはなかった。
「うん?清心…出かける時玄関の鍵、閉めたよな?」
「えっ?!どうしたの?」
「鍵が…開いている…」
「は?」
慌てて聖夜と清心は扉を開けて中に入ろうとした。
家の前に停められた乗用車から三人の男性と一人の女性が降りて聖夜たちに近づいた。
一人の男性が歩きながらスーツの内ポケットに手を入れて中から黒い手帳のような物を出してきた。その手帳を広げると男性は聖夜と清心に広げた部分を見せた。
「警察です。少しお話を聞きたいのでご同行願えますか?」
聖夜と清心は男性が何を言っているのか理解ができなかった。
「な、何よ、あなたたち。誰なのよ」
「警察です。お話を聞きたいので一緒に来てください」
警察官の男性は話の通じない聖夜と清心にイラッとしたが、顔には出さずに繰り返した。
「今家に帰ってきたばっかりで疲れてるんですけど?」
不機嫌な顔をして聖夜は答えた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる