告白

おーろら

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僕が誰かを嫌いな理由(わけ)

012. 交響曲 第九番

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 交響曲 第九番。

 所謂いわゆる『第九』、別名『喜びの歌』。
 今では『喜びの歌』とはあまり言わないみたいだけれど。

 今僕はお祖父じい様の家に居る。
 あの事件後から僕は長い休みになるとお祖父じい様の家に遊びに行くようになった。
 今回はお祖父じい様と瑠維るいさんに僕が授業中に“栄養失調”でぶっ倒れてしまったことを知られちゃったから、終業式が終わって家に帰ろうとしていた通学路で瑠維るいさんと会いお祖父じい様の家に連れてこられた。
 僕のことに関心がないくせに僕がお祖父じい様の行くとやたらと干渉してくる。
 なので瑠維さんは僕を『禿河とくがわの家』から連れ出した後に瀧野瀬グループの会社の一つで父さんと清心きよこが所属している建設会社に行って事後報告をする。

 「あー、禿河とくがわさんちょうどいいところに…。今日は亜月君を預かりましたのでそのまま冬休みは瀧野瀬家で過ごしますから」
 本当は態々、聖夜に連絡しに会社に行っている瑠維はしれっとした顔で伝えた。

 「何っ?!ふざけるな!それって“誘拐”ってことだろ?!」
 聖夜が瑠維を睨みつけながら怒鳴った。

 「お言葉を返すようですが“誘拐”というのは本人の意思とは無関係に無理やり連れ去ることを言います。僕は学校帰りの亜月君と会っただけ。明日から亜月君は冬休みだから瀧野瀬のお祖父様と一緒に過ごしたいと言われたので連れて行ったまでです」

 これ以上何を言っても瑠維は動じなかった。
 聖夜は苦虫をつぶしたような顔をして舌打ちをした。

 「それでは…冬休みを有意義にお過ごしください」
 少しばかり皮肉を込めて聖夜を一瞥し瑠維は立ち去った。

 そんなやり取りをした後仕事が終わって帰って来た瑠維は真っ先に亜月がいる部屋へと直行した。
 ちょうどこの日はクリスマスだった。
 今までなかなか会えなかった亜月が瀧野瀬家に遊びに来たのでクリスマスプレゼントを渡そうと思ったからだ。

 「亜月君、瑠維だよ。部屋に入ってもいいかな?」
 瑠維は扉の前で姿勢を正し、コホンと小さく咳ばらいをしてから問いかけた。

 「あっはい、どうぞ」
 部屋の中に入るとちょうど亜月は冬休みの課題をこなしていた。

 「ちょうどよかった…これは僕からのクリスマスプレゼント」
 携帯電話くらいの大きさより一回りか二回り大きい箱を手渡した。

 「受け取れないです、瑠維さん。僕、困ります」
 「いいから受け取って…このプレゼントはお祖父様も知っている。遠慮しないで」
 ニコニコ笑って瑠維さんはプレゼントを見ていた。

 「今の君には必要だし、これからとても役に立つ物をと思って…。開けてみてよ」
 「…はい」
 きれいにラッピングされた包装紙を剝がし箱を開けると電子辞書が入っていた。

 「こ…れ…」
 「うん、君は持っていなかったよね?だからプレゼント」
 瑠維さんと電子辞書を何度も見ながら嬉しさで顔が綻んだ。
 今までは紙の辞書をずっと使用していて言葉の意味を調べたり、英単語を調べたりするだけで時間がかかっていたのが捗る、捗る。
 課題が全て終わるまでもう少し時間がかかるかな?と思っていたけれど年末年始をゆったりと過ごせた。
 お祖父じい様と瑠維さんとリビングでのんびりテレビを見ていた。
 テレビといっても年末に放送される『第九』を聞いていた。

 僕はテレビ画面で男の人が歌っている歌詞を一緒になって口ずさんだ。

 「亜月君はドイツ語がわかるの?すごいな」
 僕は慌てて手を振りながら首を横に振った。

 「いいえ、違います。『第九』のこの部分は音楽の教科書に日本語で読み方が載っているんです。音楽の先生がこれを暗記してテストもしたんです。覚えたばかりだったからつい嬉しくて…」
 僕は授業で『第九』の歌詞を覚えた時のことを思い出していた。

 「へぇー、あれを覚えさせる音楽教師、まだいたんだぁー」
 「えっ?瑠維さんも『第九』の暗記やったの?」
 「うん、やったよぉー。僕は暗記するのが得意だったから暗記テストはすぐクリアできたけど美桜はねぇー…。歴史の年号も覚えるまで時間かかってたし、古文で百人一首も暗記するのに全然できなくて僕と一緒に勉強していても泣きながらやっていたよ」
 「ふーん、瑠維さんと母さんってどういう関係?!」
 「まぁ、幼馴染みのお隣さん…かな」
 「へぇー、幼馴染み…お隣り…」
 「そうそう美桜と僕と僕の双子の姉の琉奏るか。美桜と琉奏るかがすごく仲良くて僕はおまけ」
 「そうなんだ…」

 瑠維さんって…どんな人?!
 よく知らない、よく分からない。
 結局僕は瑠維さんが何者なのか気になって『第九』の鑑賞どころではなくなってしまった。
 でも少しだけ母さんのこと聞けて嬉しかった。
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