告白

おーろら

文字の大きさ
13 / 32
僕が誰かを嫌いな理由(わけ)

012. 交響曲 第九番

しおりを挟む
 交響曲 第九番。

 所謂いわゆる『第九』、別名『喜びの歌』。
 今では『喜びの歌』とはあまり言わないみたいだけれど。

 今僕はお祖父じい様の家に居る。
 あの事件後から僕は長い休みになるとお祖父じい様の家に遊びに行くようになった。
 今回はお祖父じい様と瑠維るいさんに僕が授業中に“栄養失調”でぶっ倒れてしまったことを知られちゃったから、終業式が終わって家に帰ろうとしていた通学路で瑠維るいさんと会いお祖父じい様の家に連れてこられた。
 僕のことに関心がないくせに僕がお祖父じい様の行くとやたらと干渉してくる。
 なので瑠維さんは僕を『禿河とくがわの家』から連れ出した後に瀧野瀬グループの会社の一つで父さんと清心きよこが所属している建設会社に行って事後報告をする。

 「あー、禿河とくがわさんちょうどいいところに…。今日は亜月君を預かりましたのでそのまま冬休みは瀧野瀬家で過ごしますから」
 本当は態々、聖夜に連絡しに会社に行っている瑠維はしれっとした顔で伝えた。

 「何っ?!ふざけるな!それって“誘拐”ってことだろ?!」
 聖夜が瑠維を睨みつけながら怒鳴った。

 「お言葉を返すようですが“誘拐”というのは本人の意思とは無関係に無理やり連れ去ることを言います。僕は学校帰りの亜月君と会っただけ。明日から亜月君は冬休みだから瀧野瀬のお祖父様と一緒に過ごしたいと言われたので連れて行ったまでです」

 これ以上何を言っても瑠維は動じなかった。
 聖夜は苦虫をつぶしたような顔をして舌打ちをした。

 「それでは…冬休みを有意義にお過ごしください」
 少しばかり皮肉を込めて聖夜を一瞥し瑠維は立ち去った。

 そんなやり取りをした後仕事が終わって帰って来た瑠維は真っ先に亜月がいる部屋へと直行した。
 ちょうどこの日はクリスマスだった。
 今までなかなか会えなかった亜月が瀧野瀬家に遊びに来たのでクリスマスプレゼントを渡そうと思ったからだ。

 「亜月君、瑠維だよ。部屋に入ってもいいかな?」
 瑠維は扉の前で姿勢を正し、コホンと小さく咳ばらいをしてから問いかけた。

 「あっはい、どうぞ」
 部屋の中に入るとちょうど亜月は冬休みの課題をこなしていた。

 「ちょうどよかった…これは僕からのクリスマスプレゼント」
 携帯電話くらいの大きさより一回りか二回り大きい箱を手渡した。

 「受け取れないです、瑠維さん。僕、困ります」
 「いいから受け取って…このプレゼントはお祖父様も知っている。遠慮しないで」
 ニコニコ笑って瑠維さんはプレゼントを見ていた。

 「今の君には必要だし、これからとても役に立つ物をと思って…。開けてみてよ」
 「…はい」
 きれいにラッピングされた包装紙を剝がし箱を開けると電子辞書が入っていた。

 「こ…れ…」
 「うん、君は持っていなかったよね?だからプレゼント」
 瑠維さんと電子辞書を何度も見ながら嬉しさで顔が綻んだ。
 今までは紙の辞書をずっと使用していて言葉の意味を調べたり、英単語を調べたりするだけで時間がかかっていたのが捗る、捗る。
 課題が全て終わるまでもう少し時間がかかるかな?と思っていたけれど年末年始をゆったりと過ごせた。
 お祖父じい様と瑠維さんとリビングでのんびりテレビを見ていた。
 テレビといっても年末に放送される『第九』を聞いていた。

 僕はテレビ画面で男の人が歌っている歌詞を一緒になって口ずさんだ。

 「亜月君はドイツ語がわかるの?すごいな」
 僕は慌てて手を振りながら首を横に振った。

 「いいえ、違います。『第九』のこの部分は音楽の教科書に日本語で読み方が載っているんです。音楽の先生がこれを暗記してテストもしたんです。覚えたばかりだったからつい嬉しくて…」
 僕は授業で『第九』の歌詞を覚えた時のことを思い出していた。

 「へぇー、あれを覚えさせる音楽教師、まだいたんだぁー」
 「えっ?瑠維さんも『第九』の暗記やったの?」
 「うん、やったよぉー。僕は暗記するのが得意だったから暗記テストはすぐクリアできたけど美桜はねぇー…。歴史の年号も覚えるまで時間かかってたし、古文で百人一首も暗記するのに全然できなくて僕と一緒に勉強していても泣きながらやっていたよ」
 「ふーん、瑠維さんと母さんってどういう関係?!」
 「まぁ、幼馴染みのお隣さん…かな」
 「へぇー、幼馴染み…お隣り…」
 「そうそう美桜と僕と僕の双子の姉の琉奏るか。美桜と琉奏るかがすごく仲良くて僕はおまけ」
 「そうなんだ…」

 瑠維さんって…どんな人?!
 よく知らない、よく分からない。
 結局僕は瑠維さんが何者なのか気になって『第九』の鑑賞どころではなくなってしまった。
 でも少しだけ母さんのこと聞けて嬉しかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...